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三谷幸喜が文楽愛を語る! 三谷文楽13年ぶりの新作『人形ぎらい』がついに開幕「知らないと本当に損」

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PARCO PRODUCE 2025三谷文楽『人形ぎらい』開幕前会見より、左から)三谷幸喜、吉田一輔、本作の主人公・陀羅助 (撮影:尾嶝太)

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2025年8月16日、東京・PARCO劇場にて三谷文楽『人形ぎらい』が開幕した。三谷幸喜作・演出で放つ13年ぶりの新作文楽として注目される舞台だ。初日前日に実施された開幕前会見では、三谷と、2012年の『其礼成心中』の仕掛け人で監修・出演(人形遣い)を勤める吉田一輔が登場、新作に込める思い、創作の舞台裏について明かした。続いて行われた公開ゲネプロの模様とともにレポートする。

冒頭の挨拶で、「ようやく、文楽の新作を作ることができました。文楽の世界に入ってあらためて思ったのは、めちゃくちゃ面白いんですよ。こんなに面白いものが世の中にあるんだ、と。演劇の面白さを十分に知っているつもりですが、それとは全然次元の違う、こんなに素敵でドリーミーな世界があったんだと改めて感じ、観たことのない人にはぜひ観てもらいたいし、文楽の世界を知ってほしいなと思います」と文楽の魅力を熱っぽく語る三谷。その言葉を受けて一輔が「そう言っていただけるのは、本当に伝統芸能の力だと思います。しかし、これだけ褒めていただくと、すごいプレッシャーを感じて──」と胸の内を明かすと、「本っ当に面白いんですよ! びっくりするぐらい面白い」と三谷が割り込む。「その期待に応えられるよう、頑張って勤めたいと思っています」(一輔)。

モリエールの『人間ぎらい』をモチーフに書かれたという新作『人形ぎらい』。舞台冒頭、前作でも登場した三谷くん人形が挨拶すると、劇中劇として、近松門左衛門による『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』より、作中の大きな見どころ聴きどころのひとつとなる「数寄屋の段」が上演される。人形と語り、三味線が三位一体となって描き出される物語。古典の力が、客席を一気に引き込んでゆく。

槍の名人で色男の権三と人妻おさゐの一場面、登場する人形は、権三役が二枚目専門の源太、おさゐは艶っぽい年増役を担う老女形、またふたりを陥れる仇役・川側伴之丞を演じるのが、この『人形ぎらい』の主人公、陀羅助(だらすけ)だ。万年憎まれ役の彼は、どんな演目でも演じるのは脇役ばかり、決して二枚目の主役になれない人形だが、彼自身は、その境遇に納得がいかない。現代の大阪の劇場の舞台裏、源太らに見下され、文楽人形としての格の違いを悔しがる彼の姿は、滑稽だけれど胸に刺さる。そんな陀羅助が『鑓の権三重帷子』の作者、近松のところに行き、話の筋を変えてもらうよう直談判する奇抜な展開は、三谷作品ならでは。現代の関西弁は親しみやすく、古典は字幕が頼りという人も、安心して人形たちの人間(?)ドラマに没入できる。

会見の場で、文楽は面白い!と連発する三谷。「人間のやるお芝居を見慣れている人間からすると、なんて小さい人たちが出てきたんだろうと思うし、その後ろにいる3人の黒い人たちは何なんだろう!?と思うけれど、その違和感は最初の30秒ぐらいでなくなって、あとはもう本当に引き込まれる」と言葉に熱を込める。「文楽人形が8メートルぐらいあったら、絶対この面白さは出ない。小さいながら必死に生きている人間、みたいなものを感じる。より凝縮された世界観の中に、僕らが普段感じている感情が全部織り込まれて、それがすごく丁寧に表現されている」と、文楽への愛を全力でアピール。

いっぽうの一輔は、「300年以上続いてきた人形浄瑠文楽というものを先に伝えていかないと、という責任を感じながら、普段、伝統芸能の世界でやっています。三谷さんとは15年ぐらい前に出会わせていただき、“爆笑文楽”を切り拓いていただきました。普段は作者と演出家が同じところに立ってお稽古をするということがないので、三谷さんとこうしてやらせていただくのは、すごく勉強になります」と笑顔、文楽にはあまり“笑い”はないのかという三谷の問いかけに、「だいたい悲しい芝居が多い。その中にちょっとチャリ場というものはありますが、全編笑いに包まれるというのはないんですね」と答える。三谷は、「文楽は、悲しい場面や、誰かが誰かを刺して殺すような怖い場面がすごい。その迫力には敵わないと思いますが、文楽の人形にはユーモアもすごく感じるので、そこはアピールしたいと思っています」。

人形が通天閣にのぼり、スケートボードにも乗る!

以前一輔が三谷に言ったという「人間にできることで、人形にできないことはない」という言葉は、本作で台詞に取り入れられた。三谷は「もう全然ネタバレで構わないんですけれど、通天閣にのぼって、スケートボードにも乗ります。無理だろうと思っていたら、全然、簡単に一発で乗っていましたよね!」と一輔ら人形遣いたちを称える。人形が通天閣に登るスペクタクルは桁外れのスケールだが、伝統的なアナログの技を最大限に活かした文楽らしい表現が力強い。スケートボードでの疾走も、人形遣いの技術あってのダイナミックな場面に。同時に、通常、観客には見えていない前提の人形遣いに光を当てるのも、三谷作品ならではの魅力だ。

初の文楽作品となった前作では、三谷も戸惑うことが多かったようで、10人の人物を登場させたら、各々に3人の人形遣いがつくため、舞台上はまるで満員電車。「今回は4人くらいの少なめでやっております。その分、それぞれの人間模様、気持ちみたいなところを細かく作ることができたので、そこもまた見どころになると思います」(三谷)。

三味線の鶴澤清介が作曲を手がけ、それを太夫、三味線弾きが演奏していったと稽古場の様子を語る一輔は、「こんなことはほとんどありえないことなのですが、『もうちょっと、こういうふうに語ってくれ』、『こういう三味線を弾いて』と全部三谷さんが演出されるので、非常に聴きやすくなっていますね」とも。三谷も「清介さんは、その、ちょっと見た目が怖く(笑)、すごく恐る恐るだったんですけれど、ものすごく精神、感性がお若い。何が面白いかということはすごく的確に把握されているので、すごくやりやすかったんです」と振り返る。三谷の要望に応じ、清介はすぐに作曲し直していたそうだが、「これはすごいな、と僕らも見ていました」(一輔)。

外来語混じりの台詞やスピード感あふれる展開の中に、古典へのリスペクトもしっかり込められた舞台。一輔は、「三谷文楽をきっかけにいつもの文楽を見ていただけると非常に嬉しい。精一杯頑張って、皆さんの目にとまるようなお芝居をしたいと思っていますので、楽しんでいただけたら」。三谷も「口を酸っぱくして言っていますが、文楽、本当に面白いです。知らないと本当に損だと思うので、まだ経験のない方はぜひ観ていただきたいし、入門編としてはベストだと思います。文楽を知っている方にもお勧めで、こういうやり方もあるんだとか、こんな表現もあるんだと知って、さらに文楽を好きになってもらえるような気もします。ぜひともご覧ください」と訴えた。

取材・文:加藤智子 撮影:尾嶝太


<公演情報>
PARCO PRODUCE 2025
三谷文楽『人形ぎらい』

作・演出:三谷幸喜
監修・出演:吉田一輔
作曲・出演:鶴澤清介
出演:竹本千歳太夫 他

2025年8月16日(土)〜8月28日(木)
会場:東京・PARCO劇場

公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/ningyogirai

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