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佐々木蔵之介「この絆を、しっかりと保ち続けていきたい」 ルーマニアで取り組んだひとり芝居『ヨナ-Jonah』日本での上演に意欲

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佐々木蔵之介 (You Ishii)

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2025年秋、東京・東京芸術劇場シアターウエストをはじめ6都市で上演される『ヨナ-Jonah』は、ルーマニアの鬼才シルヴィウ・プルカレーテ演出、佐々木蔵之介出演によるひとり芝居。東京芸術劇場とルーマニア、シビウのラドゥ・スタンカ国立劇場との国際共同製作で実現し、東欧6都市で上演された。その最終公演の場となったルーマニアのシビウ国際演劇祭では、シビウ・ウォーク・オブ・フェイム※を授与され、自身の名が刻まれた「星」がシビウの歩道に残された佐々木。帰国して間もない彼に、東欧での貴重な体験、日本公演への思いを聞いた。

※シビウ・ウォーク・オブ・フェイム=シビウ国際演劇祭が、舞台芸術の分野に功績のあった人物を称える賞。過去に十八世中村勘三郎、串田和美、野田秀樹、笈田ヨシらも受賞している。

「とんでもないものが出てくる」プルカレーテ演出

今年4月、単身でルーマニアに渡った佐々木は、シビウでの約1カ月にわたる稽古を経ての初演、さらにはハンガリーのブダペスト、モルドバのキシナウ、ブルガリアのソフィアなどを巡るツアーにのぞんだ。

──まずはシビウでのリハーサルと世界初演、それに続く東欧ツアーを無事に終えられた感想をお聞かせください。

長いシビウでの生活とヨーロッパツアーの珍道中、そして最後に華やかなシビウの国際演劇祭、と本当に楽しい経験でしたが、最後は「終わっちゃったなー」と少し寂しくなりました。ですが、僕の帰国直後にシビウでルーマニア語のヴァージョンによる『ヨナ』が開幕し、秋には僕が日本公演にのぞみます。まだまだ繋がっているし、旅は続いていく、という感覚です。

──シビウ国際演劇祭での上演が、ツアーの最終公演でした。演劇祭の空気をたっぷり味わってこられたのではないでしょうか。

8年前、プルカレーテさん演出の『リチャード三世』に取り組んだ際も打ち合わせでシビウの演劇祭に行ったのですが、当時はまさか僕がこのフェスティバルに出演者として参加するなんて想像していませんでした。泊まっていたホテルの前のメインストリートにも大道芸や楽隊がひっきりなしにやってくるし、子どもたちも遊べるし、インドアのパフォーマンスでは演劇もあればシルク(サーカス)もダンスもある。10日間で840くらいのイベントがあり、それも英語圏、フランス語圏だけでなく世界中から来て、ボランティアシステムも素晴らしい。フェスティバルって面白い!って思いましたね。

──プルカレーテ作品は2017年の『リチャード三世』の後、『守銭奴』(2022年)も経験されています。プルカレーテの演出の魅力について教えてください。

8年前のシビウでの最初の打ち合わせで、彼は「リチャード三世は男前で、ハンサムでスマートな人間」だとおっしゃるんです。リチャード三世って、あの醜い容姿は?と思いましたが、「あれは演じているだけ」と! スタートから「いきなりこんなことに……」(笑)。どうしようかな、と思っているところでプルカレーテさんの『ファウスト』を観たら、ファイヤーもフライングも出てくるし血みどろだし、『メタモルフォーゼ』では水がバッシャバシャだし、この人と組むなら腹を決めなきゃいけないなと思いましたね。東京芸術劇場の稽古場では、魔法をかけられたような気持ちで過ごしましたし、「何かとんでもないものが出てくる」というものを観客の皆さんとも共有できたと思っています。

極限状態から抜け出そうとする、チャーミングな漁師

──旧約聖書に登場する預言者ヨナは、神の命に背いてクジラに飲み込まれ、三日三晩をその腹の中で過ごし脱出したという人物。多くの日本人にとって馴染みのない人物、物語に、どのようにアプローチされていったのでしょう。

まずは英語訳から日本語に訳された本と、ルーマニア語から直接日本語に訳された本というふたつの台本を読みましたが、実際、ルーマニア人が読んでも難しいのだそうです。もともとロジカルな作品ではないのです。でも直感で、プルカレーテさん、ヴァシル(・シリー)さん(音楽)、ドラゴッシュ(・ブハジャール)さん(舞台美術・照明・衣裳)の3人に委ねれば何かやってくれる、という気がしました。それでもやっぱり難しいのですが、ドリアン助川さんが翻訳・修辞を手がけられた本を読んで、できるかもしれないと思うように。逆境に打ち勝とうとヨナがもがき、力を振り絞るだけでなく、もっとチャーミングなキャラクターに作ることができる。もっと面白おかしく、極限状態から抜け出そうとする自分を見て笑ったりへこんだりというドラマだったらいけるかもしれない、と。そんなふうに自分の中で作ってルーマニアに向かいました。

──それに対して、プルカレーテさんからはどのようなアドバイスが?

「それはヨナじゃない」って言われる可能性も無きにしもあらず(笑)。でも、何も言われませんでした。「一漁師が魚に飲み込まれ、そこから出ようとする話として読みました」と申し上げたところ、「それでいい。十分だ」と。だから旧約聖書の預言者のヨナということは意識していませんでした。

──シビウでのお稽古で印象的だったことを教えてください。

1日の稽古はたったの3時間ですが、通訳の時間を考えると正味1時間半。それだけなんです。その合間に、「はい、じゃあ手術だ」と。“手術”って何なのかというと、本当に戯曲をバサーッと切って、ページを移動させたり、3分割して入れ替えたりする。戯曲本来のテイストを保ちつつ、彼なりの見方、切り取り方、表現の仕方をしているんですね。その大胆さに僕たちも驚くし、観客も多分驚いたと思います。

──ずっとお稽古を重ねてこられた劇場での初演は、想像以上に緊張されなかったそうですね。手応えはいかがでしたか。

マリン・ソレスクの作品は、ルーマニアでは皆さん教科書で読んでご存じなので、それがこんなことになるのかと驚かれていました。ワールドプレミアでお客様がスタディングオベーションをしてくださったときは、すごく嬉しかったですね。逆の立場で考えると、たとえば、日本にルーマニア人が単身で乗り込んで、宮沢賢治の作品をモノローグで80分やってくれたら、それはやっぱりありがたいし、労いたい。たぶん、「異国の人が自分たちの国の作品をこんなふうにやってくれた!」という思いがあったのではないかと思いますし、本当に受け入れてくださったんだな、と感じています。
その後ツアーで行ったブダペスト、ソフィアなどに関してはまた違うのですが、もっとダイレクトに物語を見てくださったという感覚があり、「あ、ここで笑うんだ」という場面も。よりビビッドな反応がありましたね。

東欧の肌触り、手触りを感じて

──日本の観客がどのように受け止めるか、楽しみにされているのではないでしょうか。

ルーマニアで作ったからこそのテイストだと思います。プルカレーテさんたちに日本に来ていただいて作っていたら、いくらルーマニアの戯曲でもこの『ヨナ』は作れなかった。それって何なのか……たとえば、ルーマニアでタクシーに乗ってドアをバンッと閉めたら、「そんなに強く閉めるなんて、トヨタ、ホンダじゃないんだから」って言われる(笑)。滞在していたホテルでも、クローゼットもテレビの下の扉も、まず立て付けが悪い。舞台で椅子がガクガクしていても、言わないと直してくれない。日本がきっちりし過ぎなのかもしれませんが、ルーマニアはいい意味での手作り感があり、とてもいいなあと感じました。舞台はもちろん、全体的にアートですが、東欧の肌触り、手触りみたいなものがあると思っています。

──ルーマニアの方々と全く違う感覚を持ちながらも、どこかで繋がっているという実感はありましたか。

ありますね。レストランで料理が出てきたら、「想像していたのと違う」とか、「サイズが大きすぎる!!」と、いろいろ思います(笑)。そのときは戸惑いますが、後で笑い話になる。ああ、日本の常識に囚われてはいけないんだ、凝り固まっていたんだなと思います。お互いに敬意を払いながら取り組むことができました。

──作中で、日本的なものを感じられたところはありますか。

稽古場での彼は、「ここをこうしてくれ」というより、その場の状況をポンと投げかけてきます。それに対する僕のアプローチを、「日本的」と感じていらっしゃるんだと思います。その後ラドゥ・スタンカ劇場で上演したルーマニアの俳優さんによる『ヨナ』でも、劇中で女優のヴェロニカさんが歌うのは、日本語版のまま、日本語だそうです。日本とルーマニアの共同製作ということに敬意を払ってくださったんですね。

──『ヨナ』への挑戦を、ご自身はどのように受け止めていらっしゃいますか。

海外で1カ月かけて舞台を作るなんて、そう経験できることではありません。皆が支えてくれて、助けてくれたからできたことですが、本当に楽しい挑戦でした。シビウでは僕の「星」を残していただきましたが、それまでの日本との関係、ラドゥ・スタンカ国立劇場と東京芸術劇場の関係があったからこそで、僕はその通過点。ちゃんと次に繋いでいけるようにしたいと思っています。できることなら今後もこのレパートリーをやり続けたいと思いますし、この絆を、しっかりと保ち続けていきたいなと思える経験になりました。

──日本での上演に期待が高まります。

向こうの劇場で驚いたのは、老若男女、全然関係ないんです。僕は客入れの段階からずっと客席を見ていましたが、「こんな子どもまで!」と思うことも。特別高尚なものではないですし、ぜひ気楽に観ていただきたいなと思っています。

取材・文:加藤智子 撮影:You Ishii
ヘアメイク:晋一朗(IKEDAYA TOKYO)
スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc.)


<公演情報>
舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」芸劇オータムセレクション
佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』

原作:マリン・ソレスク
翻訳・修辞:ドリアン助川
演出:シルヴィウ・プルカレーテ
舞台美術・照明・衣裳:ドラゴッシュ・ブハジャール
音楽:ヴァシル・シリー
出演:佐々木蔵之介

【東京公演】
2025年10月1日(水) プレビュー公演/10月2日(木)~13日(月・祝)
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト

【金沢(石川)公演】
2025年10月18日(土)
会場:北國新聞赤羽ホール

【松本(長野)公演】
2025年10月25日(土)・26日(日)
会場:まつもと市民芸術館 小ホール

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560286

【水戸(茨城)公演】
2025年11月1日(土)・2日(日)
会場:水戸芸術館ACM劇場

【山口公演】
2025年11月8日(土)・9日(日)
会場:山口情報芸術センタースタジオA

【大阪公演】
2025年11月22日(土)~24日(月・休)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

公演詳細はこちら:
https://www.geigeki.jp/performance/theater377/

佐々木蔵之介ファンサイト「TRANSIT」
https://sasaki-kuranosuke.com

フォトブック「光へと向かう道〜『ヨナ』が教えてくれたルーマニア〜」
9月14日 ANCHOR SHOP・各公演劇場にて発売予定
https://shop.anchor-mg.com

佐々木蔵之介フォトブック刊行記念イベント『ますだささきの夜な夜な話』開催
https://l-tike.com/yonayona/

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