ミュージカル『四月は君の噓』待望の再演が上演中 岡宮来夢&加藤梨里香、東島京&宮本佳林のゲネプロ&Wキャスト勢ぞろいの会見レポート
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ミュージカル『四月は君の嘘』初日会見より、左から)島太星、吉原雅斗、宮本佳林、加藤梨里香、岡宮来夢、東島京、希水しお、山本咲希
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すべて見る人は、その人生のなかでどれだけの出会いと別れを経験するのだろう。そこからもたらされるさまざまな感情や思い出は、その人だけの宝物に違いない。そんな宝石のようなきらめきを感じさせてくれる作品『四月は君の嘘』。新川直司原作のコミックが、坂口理子の脚本、ブロードウェイの誇るヒットメーカーであるフランク・ワイルドホーンの作詞・作曲によってミュージカル化されたのは2020年のこと。コロナ禍で上演は叶わなかったが、翌2021年に上演を果たし、好評を得た。イギリス、韓国での現地プロダクションによる公演を経て今回、待望の日本再演の幕を開けた。青春ストーリーにぴったりのフレッシュなキャストが集結した本作の2日間に渡る公開ゲネプロと、初日開幕直前の囲み取材の模様をお届けする。
音楽と美術が織りなす鮮烈なステージで描く、甘く切ないストーリー


数々のコンクールで優勝、「神童」と呼ばれていた有馬公生(岡宮来夢/東島京)は母の死をきっかけにピアノの音が聴こえなくなり、弾くこともなくなってしまった。色を失いモノトーンの世界を生きていた公生の前に現れたのが、ヴァイオリニストの宮園かをり(加藤梨里香/宮本佳林)。彼女のパワーに振り回され、公生は否応なしにピアノに、自分の心の傷に向き合うことになる。公生の幼なじみ・澤部椿(希水しお/山本咲希)と友人・渡亮太(吉原雅斗/島太星)はにぎやかに、そして温かく、ふたりと共にあった。そんな彼らの高校3年の春から翌年の春までの1年の物語であり、そしてその後も色あせることなく胸の中に生き続けるに違いない、青春のメモリアル――。


劇場に入るとまず目に止まる、桜の切り絵を思わせる舞台美術(伊藤雅子)。それはどこか、アルバムを想起させる。立体的な光と色で時にはキャストと溶け合い、時にはキャストを浮かび上がらせ観客を惹きつける照明(関口大和)、そして数々のミュージカルで手腕を発揮しているワイルドホーンの、ポップなメロディラインに心奪われる楽曲、演出・訳詞も手がける上田一豪のセンスが加わり、グランドピアノや回り舞台と一体となったステージは、まさに青春そのものの輝きを放つ。「僕にピアノが聴こえないなら」で幕を開け、「One Note」「Perfect」「時間よ、とまれ」へ――。名曲の数々とともに、高校生活最後の1年の物語が鮮烈に駆け抜けていく。



キャスト陣は、数々のミュージカルでメインキャストを経験している岡宮と加藤を中心に、最年少16歳、平均年齢22.5歳というフレッシュなアンサンブルキャストを含む、グランドミュージカルとしては異例の若手主体。メインキャラクターの8人の他、公生をライバル視する相座武士役の内海大輔と井川絵見役の飯塚萌木、そしてアンサンブル、スウィング含め、歌・芝居ともに申し分なく、そんな今後の飛躍が期待される若手たちを、かをりの両親と審査員役のベテラン陣がしっかり脇で支えているのも心強い。
個性豊かな仲間たちが紡ぐ青春群像
ゲネプロ初日は岡宮・加藤・希水・吉原、翌日は東島・宮本・山本・島という組み合わせだった。囲み取材時にも語られていたが、ダブルキャストはいずれも「芯はあれどそれぞれの色がちゃんと出て」(岡宮)いて、「組み合わせをたくさん楽しんで」(東島)みたくなることは間違いない。

岡宮の公生は強いまなざしと凛とした声に“痛み”を抱えた少年像がにじみ出る。メガネで幾分やわらいではいるものの、そのまなざしはとても強い。まっすぐ立っている時に際立つ佇まいも、客席にまっすぐ届く声も、凛としているのだ。だからこそ、傷ついた公生は自分自身のもつ刃で己を切り裂いてきたかのような痛々しさがあり、かをりと出会いそこから立ち上がる姿に胸が熱くなった。

一方、東島京は柔らかさと温かさを備え、どこか“哀しみ”を漂わせる。伸びやかで温かみのある声に宿る戸惑いや苦しみは、なんだかいつも瞳が潤んでいるかのようですらある。そのためか、“憂い”とも感じられるのだ。そんな彼の時間が再び動き出した時、少し上、宙を見ているかのような目線が印象的だった。まるで空の彼方、亡き母に届けようとしているかのように。
かをり役のふたりは、加藤は多面体かつその時々によってさまざまな色合いを見せる“プリズム”、宮本は透明度が刻々と変わっていく“クリスタル”のように感じた。


共にメロディーにのせる想いも、表情に現れる感情も絶妙で、公生でなくとも彼女から目を離すことはできないだろう。そんな彼女が第2幕で見せていく変化には、若い観客は等身大の気持ちで、大人世代は親目線で、たまらない気持ちにさせられるのではないだろうか。否応なしに観客を惹き込むパワーが、彼女たちにはある。

公生の幼なじみ、椿役のふたりは、歌声も芝居もまさに両極端な個性が興味深い。希水は“お姉ちゃん”な目線で公生に接しているかのよう。セリフにもあるように「ダメダメな弟」の面倒を見ながらも、繊細な心の揺れが見え隠れするところがたまらない。山本はボーイッシュな、いかにも体育会系女子という風情で、むしろ“アネキ”。その中に、ちらちらと女の子っぽさがのぞいている。制服のポケットに手を突っ込んでいる立ち姿が、よく似合って素敵。

サッカー部の部長で女子にもてる渡役のふたりは、吉原は男っぽさ際立つ“兄貴”といったところ。負けてしまった試合の後の、自分を責めているかのような表情がドキッとする魅力を放っていた。島は明るさでみんなを魅了する“お兄ちゃん”な感じ。チャラい感じもご愛敬、だが第2幕で公生に見せた表情は、男の純情と友情にあふれていたように思う。


さらに、公生にライバル心を燃やす相座役の内海、井川役の飯塚の存在感も光っていた。ふたりの公生への複雑な感情に説得力があるからこそ、第2幕での公生とふたりの場面も素晴らしく印象的だ。

そしてなんといっても本作は、それぞれの場面が楽曲と密に溶け合い、次々に鮮烈な印象を与えていく。「僕にピアノが聴こえないなら」でのショッキングな幕開け、公生とかをりの出会いを経てコンクールで何度もリプライズする「One Note~この一音に賭けて~」。かをりの真骨頂「Perfect」。渡の「The Beutiful Game」、椿の「月光」など各キャラクターに光を当てる楽曲も印象的。学園祭の「最後の夜」から「時間よ、とまれ」へと続く場面は特に胸を締めつけ、切なさと希望を同時に感じさせる幕切れとなった。




笑顔あふれる和気あいあいなカンパニー。一言で表すなら・・・?

2回のゲネプロを終え、初日直前にメインキャスト8人が揃っての囲み取材となった。心境と意気込みを聞かれ、「本当にみんな素敵なので、早く届けたいという気持ちでいっぱい」(岡宮)、「とにかくエネルギーがめちゃくちゃにあふれてます」(東島)、「繊細な場面もたくさんあるので、エネルギーを大切にしながら紡いでいきたい」(加藤)、「みんなそれぞれのいろいろな気持ちが届くといいなと思っております」(宮本)などと各々が率直な思いを口にしていた。

公生のふたりはピアノの演奏シーンも多いが、未経験の岡宮はピアノ経験者の東島に教えてもらいながら臨んでいたそうで、岡宮に「先生ですから」と言われ、照れ笑いを浮かべた東島だった。かをり役のふたりも、ヴァイオリンとピアニカの演奏シーンがある。本作ではオーケストラが舞台袖の幕の中で演奏しているが、ヴァイオリニストの演奏をさまざまな角度から撮影し、それを見て動きを身につけていったという。「指が追いつかない(ので大変)。頑張って指をマッサージして臨みます」(加藤)、「筋トレして頑張ります」(宮本)とそれぞれに気合を入れていた。

その一方で、とても楽しい稽古場だったとも語る。「Wキャストなのが信じられないぐらい違いすぎ」(山本)という椿役のふたりは、稽古場でも互いの芝居を見て「比較するとかではなく『そうやってやるんだ』『それ、めっちゃ好き』って」(希水)と刺激を与え合っていたようだ。

渡役のふたりは役柄同様にムードメーカーだったようで、8人の距離がぐっと近くなったきっかけは稽古帰りにみんなで線香花火をしたことだそう。「ご飯を食べに行った後、まだ早い時間で誰も帰らなかったら雅斗くんが『花火する?』と言い出して」(岡宮)、「冗談で言ったつもりだったんですけど、(本当に)『行こうよ!』ってなって」(吉原)

一方で、その天然っぷりでみんなを和ませているらしいのが島。この日も「キャストの皆さん、目がすごく輝いていて。私、普段死んだ目をしているので」「ChatGPTで検索して出てきたあだ名『タイガー星人』を(吉原に)あげました」などと、島ワールド全開なトークで笑いを誘っていた。
「このカンパニーを一言で表すと」という問いに対しては、岡宮発案でみんな同じ答えになるだろうからと一斉に答えたものの、見事に「青春」「花火」「笑顔」とバラバラな答えに。思わず苦笑する一幕もあった。とはいえ最後はしっかりと「本当にたくさんの方々に観ていただきたい作品。みんなに平等にある“今” という瞬間がどれだけ光り輝いているかを感じていただける作品だと思ってますので、ぜひ大切な人と劇場に足をお運びいただけると嬉しい」(東島)、「観終わった後に大切な人に何かを伝えたくなる、つらい経験を乗り越えていく時に支えてくれる仲間のありがたさを感じる、そういう “今” にすごく心を動かされて突き進んでいく。そんな青春を生きるみんなが本当にキラキラ輝いているので、それを劇場で体感してもらいたい」(岡宮)と締めくくり、笑顔で初日を迎えていた。
東京公演は9月5日(金)まで昭和女子大学人見記念講堂にて。その後愛知・大阪・富山・神奈川と公演は10月まで続く。上演を重ねどれだけ作品と彼ら自身が進化していくのか。一つひとつの公演の“今”に、期待せずにはいられない。
取材・文・撮影:金井まゆみ
<公演情報>
ミュージカル『四月は君の嘘』
原作:新川直司(講談社「月刊少年マガジン」)
脚本:坂口理子
作詞・作曲:フランク・ワイルドホーン
作詞:トレイシー・ミラー/カーリー・ロビン・グリーン
編曲:ジェイソン・ハウランド
訳詞・演出:上田一豪
出演:
岡宮来夢/東島京 加藤梨里香/宮本佳林 希水しお/山本咲希 吉原雅斗/島太星
原慎一郎 鈴木結加里 武内耕 三木麻衣子 内海大輔 飯塚萌木
池田航汰 大森未来衣 相樂和希 桜井咲希 佐藤志有 新條月渚 須田拓未
千歳ふみ 千葉海音 鳥居留圭 中野太一 東倫太朗 深澤悠斗 町田むつき
松村桜李 吉岡花絵 渡辺七海
小金輝久 椿ナタニエル 中西縁 深澤統
月山鈴音(スウィング)
【東京公演】
日程:2025年8月23日(土)~9月5日(金)
会場:昭和女子大学人見記念講堂
【愛知公演】
日程:2025年9月12日(金)~9月14日(日)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
【大阪公演】
日程:2025年9月19日(金)・9月20日(土)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【富山公演】
日程:2025年10月4日(土)・10月5日(日)
会場:オーバード・ホール 大ホール
【神奈川公演】
日程:2025年10月12日(日)・10月13日(月・祝)
会場:厚木市文化会館 大ホール
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