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性別を変更したいと告げられた家族の物語――『ここが海』 橋本淳インタビュー

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橋本淳 (撮影/源 賀津己)

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ある日、パートナーから性別を変更したいと告げられたら──。セクシュアルマイノリティをテーマにした舞台に、橋本淳が出演する。企画から参加して作・演出の加藤拓也とタッグを組んだ作品に、どんな思いを込めるのか。

──『ここが海』の作・演出を手掛ける加藤拓也さんとは、前作の『もはやしずか』(22年)も今回も、企画の段階から一緒に進められているとお聞きしています。戯曲にはどのくらい関わっておられるのですか。

橋本 企画といっても、物語を一緒に作るということではないんです。脚本の打ち合わせには入りますし、加藤さんが書いたものを読んで求められれば意見も言いますけど、それが反映されるときもされないときもあるんです(笑)。でも、そうやって脚本の変遷を見ることで、出演者として加藤さんの意図を汲み取りやすくはなっているとは思います。

──『もはやしずか』は、出生前診断で障がいのあるこどもが生まれる可能性を知ったときにどうするか、というなかなか答えの出ない問題を描いた作品でした。そして今回描かれるのは、ある日パートナーから性別を変更したいと告げられることから始まる物語。まずその内容をどう受け止められましたか。

橋本 いろいろな価値観が変わり始めている過渡期にあって、このタイミングで性別を変更する、ということを真正面から描くのはとても大事なことだと思うので。僕自身も矜持を持って取り組まなければならないなと思いました。

──公演のサイトを拝見すると上演にあたっては、ジェンダー・セクシュアリティ制作協力として作品に参加している「認定特定非営利活動法人ReBit」の講習を、キャスト・スタッフが受けられたそうですね。

橋本 どんなお芝居でも勉強することは必要で、たとえばシェイクスピア劇でその時代背景や宗教を学ぶのと同じことです。とくに今回は、現在進行系で更新されている繊細な話ですから、僕らも知識を蓄えて、繊細に作っていかなければいけないなと思いました。それで、脚本づくりからジェンダー・セクシュアリティ制作協力の方に入っていただいて講習を受けたり、その方から紹介いただいた本や、トランスジェンダー当事者の方が経験やエピソードを語っているウエブサイトを読んだりして、臨みました。

──そこからどんなことを感じられましたか。

橋本 考えてみれば当たり前のことですが、経験してきたこと、考え方は人によって違っている。にもかかわらず、どこかひとかたまりの大きな課題として捉えていたんだなと思いました。細かく見えてくることによって、ちょっとずつ自分に寄せて考えられるようになっていった気がします。

──そういう過程を経て生まれた今回の戯曲。橋本さん演じるカミングアウトを受ける夫の岳人、黒木華さん演じる配偶者の友理、中田青渚さん演じる娘の真琴、という家族の話になりましたが、どんな印象ですか。

橋本 最初はカミングアウトにびっくりするんですけど、そこで大きく動く感情とは別に、家族の日常は流れていって。互いに気遣い合う時間と会話の中で、3人の関係が少しずつ変わっていく。そうして性別が変わってゆく家族を受け入れることができると証明する話になっているので、その家族の日常の中に大事なものがあると思っています。
しかも、加藤さんの書いた言葉をアウトプットするのはとても難しくて。たとえば怒りの感情だったとしてもその中身を、泣きや笑い、何層も作っておかないといけない。何気ないことを喋っているにもかかわらず、その中で感情も関係も変わっていく。だから日常にドラマが生まれてくると思っているんですけど、それをしっかり具現化できたらと思っています。

──友理役の黒木華さんとは『もはやしずか』でも夫婦役を演じられました。

橋本 共演が続くんですけど、僕は黒木さん以外考えられませんでした。というのも、『飛龍伝』(13年)で共演して以来よく存じ上げていて、まず、彼女なら準備段階から協力してくれるだろうと思ったんです。お芝居の面でも、これだけ活躍されているのに匿名性があって、何者にもなれる。一文のセリフの中で変わっていくいろいろな感情を出せる。役者同士でコンセンサスを取らずに、芝居をしながら相手の思っていることを察知しながら演じることを楽しんでいて、共闘していく仲間としてはとても心強いので。
トランスジェンダーの役だけれども、脚本制作やリハーサルの場から、トランスジェンダー当事者のパートナーたちに伴走してもらいながら制作していくこととか、いろいろ話をしました。そのうえで脚本を読んでもらって承諾いただいたんです。

──この社会的なテーマを持つ作品を届けるにあたって、どんな覚悟を持って臨みたいと思われますか。

橋本 演劇は、目の前で起きていることに人を巻き込み、テーマとして扱われる課題について考えさせたり、与える力が大きいものだと思っています。言ってみれば演劇は事件。観客は共犯者だと思うんです。だからまず、役者は演じることで人に影響を与える職業であるということを忘れず、そこから逃げずに届けていかなければならないと思っています。
わかりやすい答えを提示するわけではないんですが、人ってそもそもわかりにくいもので、自分のこともわからなかったりしますから。そのわからないことと向き合う時間や、考え悩む過程は決してなくしてはならないのではないかと僕は思っていて。この作品も様々な立場の人が多様な感想を持つ演劇になるのではと思っています。

取材・文/大内弓子
撮影/源 賀津己

<公演情報>
『ここが海』

日程:9月20日(土)~10月12日(日)
会場:シアタートラム

[作・演出] 加藤拓也
[出演] 橋本 淳 / 黒木 華 / 中田青渚

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kokogaumi/

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