「声優の朗読はこんなにすごい」小野大輔×斎藤栄作が明かす「Voice Box」シリーズの真髄と名作「グレート・ギャツビー」の魅力
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インタビュー

左から)斎藤栄作、小野大輔
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すべて見る声優の小野大輔が出演する朗読劇シリーズ「Voice Box」の第5弾となる「グレート・ギャツビー」~恋に落ちることは運命を変えてしまう…永遠に~が9月27日、28日に日本青年館にて開催される。男性声優陣が老若男女を問わず全ての役柄を演じ分け、しかも計3回の公演すべてで役の入れ替えを行なうのが特徴の「Voice Box」。実力派の声優陣がアメリカ文学を代表する名作をどう表現するのか? 小野大輔と脚本・演出の斎藤栄作が思いを語ってくれた。
――2019年に始まり、今回で5回目の公演となりますが「Voice Box」の魅力について教えてください。
小野 ずっと変わらずにお届けしてきた思いというのは、声優としてのスキル――「声優の朗読はこんなにすごいんだ!」ということをみなさんに最も端的に、そして効果的にお見せできるのがこのシリーズであるということです。それは、僕の声優としての矜持でもあります。朗読劇というのは、この舞台上で、舞台上だけの世界だけなく、声でいろんな像を見せることができるものであり、僕らの声によって、見てくださるみなさんの頭の中に無限大の景色が広がると考えています。見どころというか、“聴きどころ”になると思いますが、声だけでこれだけの役を演じられる、これだけの景色を見せられる――大げさじゃなく、今回は5人の声優で、無限大の広がりを見せる作品をお届けできるんじゃないかなと思っています。
斎藤 見どころと言えば、多彩な声優陣だと思います。今回の「グレート・ギャツビー」も、(登場人物に)男性も女性もたくさん出てくるんですけど、(性別を)飛び越えて、たった5人の男性の声優さんばかりで全てを演じ分けるっていうところがひとつの見どころだと思います。
――今回、「20世紀最高の小説」とも称されるアメリカ文学の傑作「グレート・ギャッツビー」を選んだ経緯を教えてください。
斎藤 そもそも「Voice Box」の方向性というのが、世界中の名作を朗読で表現していきましょうということで、1回目からイギリス、スイス、ロシア、日本という感じで流れてきて、そろそろアメリカ大陸に行こうかというのがシンプルな理由です。その中で「グレート・ギャツビー」を選んだのは、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の「狂乱の時代」とも言われる時代背景が、いまの時代と重なる部分があると感じたからです。
最近よく「いまを“戦前”にしちゃいけない」という言葉を耳にしますが、まさに第一次世界大戦と第二次世界大戦のはざまは、その「戦前」で、禁酒法という背景もあって混沌としていた時期です。そんな中にあって、唯一まっすぐなもの、純粋なものというのが、ギャツビーがデイジーへの愛のために突き進んだ――ある種の純愛であり、足を運んでくださるお客さんに突き刺さるんじゃないか? という思いからです。半分、願いですね。物語の中でニックがギャッツビーに「みんなクソみたいな中で、あなただけが美しい」ということを言うけど、いまの時代にそれがマッチして、観る人の心に響いたら嬉しいですね。
小野 その時代背景も含めて、良い意味でも悪い意味でも「アメリカだなぁ」って思うんですよね。勢いといいますか…。斎藤さんは「いまの時代に通じる」というお話をされましたけど、僕は読んだときに逆のことを感じたかもしれません。「こんな時代があったんだ…。うらやましいな」と思いました。良くも悪くも自由に、熱く生きていたんだなと思いますし、それぞれが人の目を気にしつつも、でも、いまほどは気にせずに、自分の欲望にまっすぐ純粋に生きていた時代なのではないかなと思います。正直、僕はこういうふうには生きられない(苦笑)。だからうらやましいですし、それを演じられるのが役者の醍醐味だと思っています。今回、役者は若手じゃなくて、僕と同じ世代か上の世代の人たちなので、うまくあの時代の熱さを表現してくれるんじゃないかなと楽しみでしかないですね。

――公演ごとに役替わりがありますが、大変なことや挑戦となることは?
小野 観ている方から「いろんな役を演じて大変ですね」、「難しそうですね」と言われるんですけど、僕らからすれば「いや、それが声優の仕事だよ!」と思います。そういう意味で、やりがいしかないですね。個人的な話をしますと、デビュー当時にやっていたお仕事で、“番組レギュラー”というものがありました。1クールで13本の作品があったとしたら、13本全部に出ているんですけど、いわゆる端役、モブと言われるような役ばかりで、毎回「村人A」「兵士B」といった異なる役柄をやるわけです。本当に千差万別、いろんな役を1クールを通じて演じていくっていう経験を若い時にずっとしていて、若手声優の登竜門というか、必ず通る道だと思うんですけど、僕自身、当時のその仕事がメチャクチャ楽しかったんですよね。声優をやってきた中での「青春時代」と言える時期で、たったひと言「ウゥッ…」とうめくだけだったとしても、それを発するだけで嬉しかったんですよ。「Voice Box」に参加すると、あの頃のことを思い出しますね。何をやっても楽しいです。斎藤さんは結構、ムチャをさせるんですけど…(苦笑)。
斎藤 すみません(笑)。
小野 「おいおい! この一瞬でこの演じ分けは無理だよ!」と思ったりもするんですけど、やってみたらできるんですよ(笑)。ちょっと無理であればあるほどやりがいはあるので、毎回、大変だったり、難しいと思うことはあるんですけど、それが楽しいですね。
斎藤 声優さんの役の演じ分けは腕の見せどころであると思いますし毎回、僕も驚かされます。これは裏話ですけど、楽屋で「お前、そうきたか!」「そうやるなら先に見せといてよ!」みたいなやりとりがあったりします(笑)。稽古はするんですけど、その時はみんな探り探りで、本番になってガツンと「お前がそう来るなら、俺はこう演じる!」みたいな感じで、声優さん同士の戦いなんですよね、後攻ががぜん有利な(笑)。見る側は毎回、新鮮に見ていただけると思うんですが、やる側は実はバチバチな戦いで面白いです。
小野 斎藤さんの演出の特色として、稽古の時にちゃんと子細な指示はあるんですよ。でも本番の幕が開けたら役者に委ねてくれるので、そこは本当にありがたいですね。演じ分けってその瞬間的なひらめきも多分にあるし、アドリブが入ったりもするので、「あ、こうやりたい!」と思った時に、ひとつの役だけで詰めていると、さすがに舞台上で変えるというのはできないんですけど、「Voice Box」はそれが頻繁に起こるんですね。
斎藤 そこはもう僕も信頼して稽古で役をお渡ししているところですね。

――今回も出演陣が非常に豪華ですが、楽しみにされている共演者の方はいらっしゃいますか?
小野 下野(紘)くんと羽多野(渉)くんは以前にも出演してもらっていて、感謝の念もあるんですよ。「支えてくれてありがとう」という。彼らと一緒に現場に入ると本当に楽しくて、どこか“戦友”感があるんですよね。僕よりも年齢は若いんですけど、さっき言ったような若手時代の修行している時期の青春を一緒に分かち合ったような感覚があって、彼らに関しては本当に信頼しかないです。楽しみというか。絶対に間違いないなと思ってます。
そして森久保(祥太郎)さんと岸尾(だいすけ)さんのお2人は初参加なんです。声優ファンの方にはおなじみだと思うんですけど、非常に個性が強いお2人で(笑)、そんなお2人が演じ分けをどうやるのか? というのを実は僕も知らないんですね。森久保さんがいろんな役をひとつの作品でやっているのは僕は聞いたことがないですし、それは岸尾さんもそう。演技が多彩なのは重々存じ上げていますが、ひとつの作品の中で複数の役をやるというのは聞いたことがなくて、僕よりもキャリアが上のお2人にこそ新しい可能性を感じていて…(笑)。もう「ベテラン」と言っていいお2人ですが、新しい扉を開いてくれるんじゃないかと思っていて、後輩なんですけども僭越ながら「お手並み拝見」という(笑)。すっごい楽しみにしてます!
斎藤 羽多野さんに関しては5回中、今回で4回目になるので、もう準レギュラーみたいな人で(笑)、下野さんは初回以来ですね。さっきも言われましたが、僕がちょっとムチャぶりをしてるいようなところがあって、物語の中でもポンポンといろんな役をやってもらうので、最初はみなさん、驚かれるんですけど、森久保さんと岸尾さんがそこでどんな顔をするのか楽しみではありますね。たぶん「えぇっ?」という顔を最初はされると思いますけど、でもやっていくうちに本当に声優さんってすごい力があるので、軽く越えていかれると思います。お2人がどのように新しい料理をされるのか? すごく楽しみです。

――近年、朗読劇が非常に大きな盛り上がりを見せていますが、朗読劇ならではの魅力、楽しさを感じる部分はどんなところですか?
小野 やっぱり観てくださる、聴いてくださる人の脳内に無限の像を結べるのが朗読劇だと思います。本当に何だって表現できるんです。宇宙にだって行けるし、時代だって遡れるし、未来にだって行けるし、可能性しかないところが朗読の魅力だと思います。だからこそ、広すぎてわからなくなってしまうこともあるんですね(苦笑)。「朗読とはなんぞや?」と…。でも「Voice Box」をやることによって、その都度、原点に戻っているような気もしています。どうしても、声以外のことを足して、動きや表情で表現していくとずれていくんですよ。余分なものを削ぎ落して、言葉だけで勝負するみたいなところがあって、朗読劇って言葉だけで何でも可能にしてしまえる、ちょっと魔法みたいなところがあると思います。自分もその魔法を使いたいし、一緒に演じてくれる人たちも、ものすごい魔法を見せてくれるので、こっちも魔法のかけがいがあります。
斎藤 不思議な感覚ですけど聴覚――耳で聴いているはずなのに、視覚も刺激されて、見えてくるし、匂いも感じるし、味覚も感じるし、痛みさえも感じたりするんですよね。声だけなのに、他の感覚が触発される、いろんなものを削ぎ落したエンタメであるというのは、朗読の大きな魅力なんじゃないかなと思います。お客さんの想像力に可能な限り委ねるというところに魅力を感じますし、たぶんお客さんも気合を入れて見に来てくれているんじゃないかと感じます。
――今後、「Voice Box」で挑戦したい作品はありますか?
小野 「王子と乞食」で始まって「フランケンシュタイン」、「かもめ」に「山椒大夫」とやってきて、今回の「グレート・ギャッツビー」に関してもそうですが、いずれも「題名は知っているけど中身はどんなだったっけ…? 昔、触れてはいるはずなんだけど…」という、ちょっと忘れていたり、記憶の彼方にあったりする作品なんですよね。でもそこに狙いがあって、そういう作品に僕らが新しい解釈を加えつつ「でもやっぱり名作は名作、マスターピースなんだな」と思ってもらえるようにと仕掛けております。そういう意味では「挑戦したい」と言われると…いつも斎藤さんやプロデューサーが「知ってるけど、どんなだっけ?」という絶妙なところを選んでくれるので、僕のほうであんまり言わないほうが良い気がしますね(笑)。でも、ここまでちょっと大人っぽい作品が多くて、風刺が効いていたりするので、逆に童話とかいいんじゃないかな?と思っています。
斎藤 それは僕も思っていました。僕は普段、演劇畑で脚本や演出をしている人間で、選んでいる基準としては、世界中の名作をと思って考えつつ、演劇でやるのは大変なやつを選んでいるつもりです。「王子と乞食」なら似ている子を連れてこなきゃいけないし、「フランケンシュタイン」はとてつもない巨人が必要だし、「かもめ」は演劇の脚本でしたけど、それを声優さんがどう演じるのか? というところが挑戦で、どこかで演劇ではなかなか難しいと考えるようなものをあえて選びたいなと思っています。そういう意味で、おっしゃる通り、童話やファンタジーの方が面白いんじゃないかなと思いますね。いま思っているのは「アリババと40人の盗賊」とかですね。
小野 (40パターンの盗賊も)全然いけますよ! 戦争映画で、やられる何人もの兵士を5~6人の若手声優でやってましたから(笑)。

<公演情報>
Voice Box 2025 朗読「グレート・ギャツビー」〜恋に落ちることは運命を変えてしまう…永遠に〜

原作:F・スコット・フィッツジェラルド
脚本・演出:斎藤栄作
出演:小野大輔 下野紘 羽多野渉 森久保祥太郎 岸尾だいすけ
公演日程:
2025年9月27日(土)=18時開演
2025年9月28日(日)=12時30分開演 / 17時開演
会場:日本青年館
※開場は開演の30分前
※各公演ごとに役替わりがございます
料金:全席指定8,800円(税込)
※未就学児入場不可
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/the-great-gatsby/
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