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シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』 坂東玉三郎が19歳の“光源氏”染五郎に与えた自由と責任

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『源氏物語 六条御息所の巻』より

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「源氏物語」の光源氏、その妻・葵の上、愛人の六条御息所の三者の恋愛模様を描き、昨年の10月に歌舞伎座にて上演された『源氏物語 六条御息所の巻』がシネマ歌舞伎として9月26日(金)より上映される。坂東玉三郎が光源氏の妻・葵の上への嫉妬心より平常心を失い、生霊となって葵の上を苦しめる六条御息所を熱演! 貴公子・光源氏を当時19歳の市川染五郎が演じたことも大きな話題を呼んだ。8月下旬、舞台の監修も務め、シネマ歌舞伎の制作にも参加している玉三郎の取材会が行われた。

“嫉妬心”を描くことで、観る人が浄化される

シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』ポスター

前東宮妃という高貴な身分であり、美貌と教養を兼ね備えた六条御息所。希代の貴公子・光源氏に心奪われるも、光源氏のほうが年下ということもあり素直になれず、やがて平常心を失っていく。思いが募る中、妊娠中の葵の上への嫉妬心により知らず知らずのうちに生霊となって葵の上を苦しめることに……。玉三郎は「『源氏物語』を舞台にするのは非常に難しい」と語るが、その中にあって、人間誰しもが持つ“嫉妬心”という普遍的な感情をテーマに据えた本作は「芝居になりやすい」と指摘する。

『源氏物語 六条御息所の巻』より

「以前、(「源氏物語」の現代訳で知られる作家の)円地文子先生とお話しした時、嫉妬心をテーマにした『六条御息所の巻』は一番物語になりやすいとおっしゃっていたんですね。(「源氏物語」には)紫の上とか明石とかいろんな女性が出てきますけど、それは非常に淡くて美しい恋物語になる。でも嫉妬心というのは、人間であれば必ず隠していても根源的にあるもので、それが『六条御息所の巻』では代表的な形で出てくるので、芝居になりやすいんです。『道成寺』が歌舞伎や能になるのも、(人間にとって普遍的な)恨みの心を描いているからだし、『四谷怪談』も伊右衛門とお岩様の気持ちというのは、あんなにひどく表現されているけど、どこか人間の琴線に触れる部分があるから、あれだけ長く上演されているのだと思います。そういった増幅された感情に、観る人が『あぁ、そうなんだな』とどこか浄化されて(劇場から)帰っていく。本作も、六条御息所が嫉妬することで、お客様が浄化されるところがあるんじゃないかと思います」と語った。

“歌舞伎界のプリンス”として注目を集める染五郎(19歳※当時)と現代の歌舞伎女方最高峰の玉三郎による究極の恋物語として話題を呼んだが、染五郎との共演について、玉三郎は「何か早く(共演を)一緒にしなければ」という思いを抱いていたと明かし、いくつか以前から用意されていた新作の戯曲の中から染五郎との共演に適した作品として本作を選んだと説明。

共演に際しては「孫みたいな年齢ですからね」と笑いつつ「『幕が開いたら先輩とか後輩とか年齢のことは考えないでね』と言いましたが、(実際に)考えないでいてくれました」と大先輩に向き合い、堂々たる演技を見せてくれたと称える。

取材会より

稽古では、自身の考えを押しつけるのではなく、染五郎に意見を求め、「納得できないことがあったら言って」と伝えて、作っていったという。当初は、口数の少なかった染五郎だったが、徐々に自分の意見を口にするようになり、最終的に「ハッキリと言うようになりました」とその成長に目を細める。本作後の共演作『火の鳥』では、脚本家や演出家を交えながら作品について話し合うことも多々あったそう。玉三郎は「つくることに参加することが、彼らにとってすごく良いことだと思うんです。意見を言って、それが通ったら(実行する)責任があるんだから、それが大事だと思います。あまりしゃべらない染五郎くんですが(笑)、私のいないところではスタッフと結構お話しして、『火の鳥』が終わってからもいろんなことをハッキリ言うようになったみたいです」と嬉しそうに語っていた。

こうした制作のスタンスについて、玉三郎は自身の若い頃をふり返りつつ「私たちの時代は高度成長期ですごく良かったですよね。俳優座や劇団四季から舞台監督、演出助手、美術家が来て、俳優さんも文学座、俳優座とかいろんなところから集まって様々な作品が幕を開けていました。新派にも行かせていただいて、そこでも良い先輩がたくさんいて、すれ違いざまに注意していただいたり、水谷八重子先生が直接教えてくださって、すごく幸せでしたし、それが年齢が上がってからも芝居作りの礎になっているのだと思います。想像なんですが、いま、演劇のスタッフワークやジャンルが多くなったわりに縦割りになってしまい、横の流れがない時代なんじゃないかと思います。だから、垣根なしでスタッフや私と自由に話をして、責任のある発言、責任のある行動として『幕が開いたら、あなたが言ったことなんだから、ちゃんとやりなさい』と思います」と思いを語った。

公演と別撮りで撮影したシーンも。シネマ歌舞伎だからこそのこだわり

シネマ歌舞伎としてスクリーンを通して観客に届けるにあたっては、歌舞伎座での舞台とはまた異なる照明や音響の効果を加え、より臨場感を高め、観客が物語に没入できるようにとさまざまな工夫を凝らしている。

「六条御息所が生霊となって出てくるところは、舞台だとセンタースポット(ライト)がガンっとあたっちゃって、生霊の味がしないんです。舞台ではお客様の想像力で見てもらえるんですけど。そこは別撮りにして、合成しています。源氏が出てくるところも別撮りで、『勧進帳』や『暫』なら、桟敷席をなめて出てきても大歌舞伎らしくて良いのですが、光源氏が(客席で)マスクをしているお客様の前を歩いて出てきたら、(映画館で)観ているお客様は(興醒めしてしまう)。だからここだけは別撮りにしてほしくて、終演後に撮りました」。

『源氏物語 六条御息所の巻』より
『源氏物語 六条御息所の巻』より

シネマ歌舞伎は、劇場に足を運ぶことができなかった観客に、貴重な観劇の機会となっているが、一方でライトな層に劇場に足を運んでもらうために、シネマ歌舞伎を通じて歌舞伎を“わかりやすく”伝えるということに関しては「基本的に、この作品だからわかりやすいでしょ? という意識は私にはないです。わからなかったらいいし、嫌いだったとしても仕方がないですから。ただ、みなさんにたくさん来ていただくために良いものをつくろうという意識だけはあります」と矜持を口にする。

本作、そして今年の『火の鳥』と新作歌舞伎の上演が続くが、新作を発想する上でのインスピレーションについて尋ねると「お客様の気持ちに『あ、そうだったのか』という思いが残るか残らないかだと思います。ただ華やかならいいとか、残酷ならいいというのではなく……私は、若い時からお芝居を観てきて例えば『花岡青洲の妻』を観て『あぁ、人間ってこういうものなんだ……』と思ったり、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を観て、有吉(佐和子)さんって、根本的なところを琴線として描いているけど、表側はこんなふうなんだな……と思ったり、そういうことを考えてきました。そんなに深いものは書けないし、いまはなかなか(新作の)芝居もできないけど、(お客様の心に触れる)そういうものがどこか一点でもあるものにしたいという思いはあります」と衰えることのない創作への思いを語ってくれた。

取材・文:黒豆直樹 撮影:岡本隆史


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<公演情報>
シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』

2025年9月26日(金) 公開
(2024(令和6)年10月歌舞伎座公演)

シネマ歌舞伎『源氏物語 六条御息所の巻』本予告

脚本:竹柴潤一
監修:坂東玉三郎
演出:今井豊茂

配役:
六条御息所:坂東玉三郎
光源氏:市川染五郎
葵の上:中村時蔵
左大臣家の女房衛門:中村歌女之丞
比叡山の座主:中村亀鶴
左大臣:坂東彌十郎
北の方:中村萬壽

上映時間:87分

公式サイト:
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/2803/