新国立劇場『焼肉ドラゴン』制作発表会見 民謡「ニルリリヤ」のパフォーマンスで作品の世界をアピール
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新国立劇場『焼肉ドラゴン』制作発表会見より (撮影:阿部章仁)
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すべて見る新国立劇場が2008年に韓国の芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター)とのコラボレーションで制作した鄭義信の作・演出『焼肉ドラゴン』が、2011年の再演、2016年の再々演を経て、四度目の上演を果たす。2018年には鄭自身が監督を務め映画化、話題を振りまいた。高度経済成長と大阪万博の開催に沸く1970年代の関西で、焼肉屋を営む在日コリアンの家族を描き、多くの観客に笑いとをもたらした本作が、2025年10月の東京・新国立劇場 小劇場での公演を皮切りに、ソウル、福岡、富山を巡り、12月には新国立劇場 中劇場での凱旋公演へ。8月29日「焼肉の日」に、新国立劇場にて実施された制作発表会見の模様をレポートする。
オリジナルキャストを含む日韓の俳優が集結
多くの報道陣とともに、抽選で招かれた一般のオーディエンス約150名が見守る中、ステージに登場したのは作・演出の鄭と日韓両国から集った出演者たち。最初にマイクを握った鄭が、「四度目の公演が皆さんの後押しによって実現され、嬉しく思います。近所で犬の散歩をしているとき、全く知らないおじいさんに“『焼肉ドラゴン』はいつやるの?”と声をかけられていたのですが、会ったら“やります”と報告したい(笑)。日本、韓国の初演のメンバーで帰ってきてくれた人もいるので、もう一度初心に戻り、ゼロから新しい『焼肉ドラゴン』をつくりたい」と晴れやかな表情で挨拶した。

続いて、日本側のキャストが一言ずつコメント。初演、再演に哲男役で出演した千葉哲也は、「14年振りなので、いくつになった哲男なのかわかりませんが(笑)、皆さんの足を引っ張らないよう頑張りたい」。

次女の梨花を演じる村川絵梨は、「伝説の作品。2016年の舞台を観ていますが、その一員に入れていただけて本当に嬉しい。立ち稽古初日にセットがバーンと立っていて、震えました。とんでもない熱量ですが、負けずに挑んでいきたいと思っています」。

長女・静花役の智順も今回が初参加だが、「初めてお話をいただいたときは“絶対に嘘や”と思いました(笑)。 嬉しい気持ちを上回るくらい、“本当に?”と。稽古では皆さんのエネルギーが凄すぎ、とにかく一生懸命食らいついていこうという思いです」。

常連客の一人・呉信吉役の櫻井章喜は、2016年に続いての出演。「今回の皆さんも本当に魅力的。語り継がれる舞台になっていくと思います」。

アコーディオン奏者の阿部良樹を演じる朴勝哲は、初演、再演、再々演を経て四度目の出演。「映画を含めて皆勤賞ですが、記者会見は初めて(笑)。焼肉ドラゴンの中にずっといる常連客ですが、そこで見ることができる景色をすごく楽しみにしています」。

会見は欠席となったもう一人のミュージシャン、太鼓奏者の佐々木健二役を演じる崔在哲は今回が初参加。韓国の太鼓、チャングの躍動感あふれる演奏に期待を。
また、クラブの支配人・長谷川役を演じるのは、やはり初参加の石原由宇。「意気込みしかないくらい意気込んでいます。バリバリの東京人なので(笑)、千秋楽までに関西弁のアドリブができるよう頑張りたい」。

長男・時生役の北野秀気は、昨年10月に実施された公募オーディションでこの役を掴んだが、「受かったと連絡をいただいたのは、公園でボーッとしていたとき。滑り台を3回滑るくらい嬉しかったです! 最年少ですが誠心誠意、精一杯やらせていただきたいと思っています」。

最後は、高原美根子・高原寿美子の二役を演じる松永玲子。「初演はテレビの舞台中継で、再演と再々演は客席で拝見、雷に撃たれるような衝撃を受けました。このタイミングで、ええ感じのおばはんになれていた自分を褒めたい(笑)。誠心誠意、三代目のおばさんを頑張ります」。

その後、韓国側のキャストたちが挨拶。焼肉ドラゴンの店主・金龍吉役のイ・ヨンソクは今回が初参加だが、演劇を学ぶために日本に留学していた経験を持つ。
「出演が決まり、演劇関係の友人たちにとても羨ましがられました。それほどに韓国でも伝説的な作品。舞台では韓国語と日本語が入り混じっていますが、そこに意味がある。どういった心持ちでこの父親を表現していくか、しっかりと探り、作品に貢献していきたい」。
その妻・高英順役のコ・スヒは初演、再演に参加したオリジナルキャストで、本作で読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。
「ようやく、コ・スヒが高英順を演じる『焼肉ドラゴン』です。そのオープンをきっと皆さん待ち望んでくださっていたと思います。期待に応えられるだけの努力を積み重ねていきたい」とコメント。
長女・静花の婚約者・尹大樹役のパク・スヨンも初演キャストの一人だが、千葉演じる哲男とのマッコリの飲み比べシーンで話題に。
「初演は30代、再演は40代、今回は50代でのぞみます。マッコリは年々飲む量が減っているので、しっかり飲めるよう練習しています」と真顔で皆を笑わせる。
信吉の親戚の呉日白を演じるキム・ムンシクもオリジナルキャストで、「再び参加することができ、そのドキドキワクワクをしっかり伝えられるような舞台を作り上げてきたい」。
最後は三女の美花を演じる、初参加のチョン・スヨン。
「美花は最善を尽くす人で、夢見る人。キラキラしている彼女をつくり出せるよう頑張りたい」。
いま、あらためて『焼肉ドラゴン』を上演する意義
その後、一般オーディエンスから寄せられた質問に登壇者たちが回答。脚本や演出に変化はないかという問いに、鄭は「基本的には変えていませんが、キャストが違うので、全く違う印象を与えると思います」と述べるとともに、初演の落語のシーンが、その後“かっぽれ”に変更になったことに触れ、「今回も石原くんに無理を言って踊ってもらっていまして(笑)、奮闘中です。伝統芸能の楽しい踊りですので、ぜひ、かっぽれってこういうものか、と観ていただけたら」。
14年の時を経ての参加について、「この作品のことは身体が覚えているような気がしています。私自身、年を重ねてきましたので、より深みある母親を演じられるのではないか」と意欲を見せるコ・スヒ。


千葉は初演時の稽古を振り返り、「日本語をまるごと覚えなければならない韓国人キャストの方たちに敬意を表します。台本に全然ないことも、稽古場で鄭さんのアイデアでどんどん膨らんでいきましたが、再演、再々演で形が出来てきたので、あとは年齢だけですね(笑)」とニヤリ。
日本に長期滞在する中で、行きたいこと、やりたいことは?と質問を受けた韓国側のキャストたちは、「宿に帰っておにぎりを食べるかラーメンを食べるかくらいで、全力で作品のことだけを考えていきたい」(イ・ヨンソク)、「初演以来17年間、毎年のように日本に来ているので、特別なことはないけれど、唯一行ってみたいところは麻布台ヒルズ(笑)」(コ・スヒ)、「毎晩マッコリを飲む練習に専念」(パク・スヨン)、「稽古と公演に専念することが一番大事。当初は苦手だったラーメンですが、いまでは週に3回くらい食べるので、ぜひいいお店にいきたい」と、俳優としての姿勢を見せつつ、それぞれ個性も全開。


父親が焼肉店を営んでいるというチョン・スヨンも、日本の焼肉店に行ってみたいと明かすが、「昨日鄭さんから、2曲追加で歌ってくれと相談をいただいたので、その練習をしなければ」と、チャーミングな笑顔を見せた。

その後彼女は、朴勝哲のアコーディオンとともに韓国の民謡「ニルリリヤ」を披露。その伸びやかで力強くて明るい歌声と、登壇者たちの気取らない手拍子に心を奪われる。追加されるという2曲にも大いに期待。

会見の最後は、報道陣からの質問。鄭作品の魅力について尋ねられたイ・ヨンソクは、「鄭義信さんの作品は、観客が劇場に入った瞬間から、観客に夢を見せてくれる、そんなファンタジー性があります。『焼肉ドラゴン』では、人間の、家族にまつわる葛藤が描かれています。家族というものは、一番近くにいても、よくわかっていないことがある。そうした家族に関する探求が、たくさん含まれていると感じます」。韓国でも高い評価を得ている本作だが、コ・スヒは、「『焼肉ドラゴン』は演劇の教科書に載っていて、演劇学校でたくさん上演されています。若いときにこの作品に携わった人たちが、今回、本公演でこの作品に触れることができることに期待しています」。
最後に鄭は、日韓国交正常化60周年の節目の年、あらためて『焼肉ドラゴン』に取り組む意義について、こう述べた。
「世界中で、戦争によって国を離れざるを得ない人々がいる中で、この『焼肉ドラゴン』という作品を観て、それでもやっぱり人は生きていかなくちゃならないんだというメッセージ、希望を感じてもらえれば、本当にありがたいです」 。
8月に「これがラストステージ」とコメントを発表していた鄭。それだけの思いをもって取り組む上演となるが、新国立劇場 小劇場での開幕から同中劇場での凱旋公演に至る約2カ月半の間に、日韓両国の多くのさまざまな世界の人々に、感動を届ける。
取材・文:加藤智子
<公演情報>
新国立劇場『焼肉ドラゴン』
作・演出:鄭 義信
キャスト:
千葉哲也 村川絵梨 智順 櫻井章喜 朴勝哲 崔在哲 石原由宇 北野秀気 松永玲子
イ・ヨンソク コ・スヒ パク・スヨン キム・ムンシク チョン・スヨン
2025年10月7日(火)~27日(月)
会場:東京・新国立劇場 小劇場
<凱旋公演>
2025年12月19日(金)~21日(日)
会場:東京・新国立劇場 中劇場
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2561099
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