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こまつ座『きらめく星座』東京公演が開幕 平埜生成ら新キャストが加わり熱演

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こまつ座第155回公演『きらめく星座』より (撮影:山本聡子)

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『きらめく星座』は、井上ひさしによる「戦後庶民伝三部作」第一作として知られ、数々の井上作品の中でも上演頻度の高い人気作のひとつ。戦後80年の節目の年に相応しい井上作品は山ほどあるが、太平洋戦争開戦直前当時に人気を得た流行歌とともに語られるのは、厳しい時代の中だからこそ明るく、他人を思いやって生きる人たちの、可笑しくも重々しい物語だ。新キャストが加わっての今回のこまつ座公演は、2025年8月30日・31日に福岡・博多座にてスタート。9月7日には東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて東京公演が開幕、その前日に実施されたゲネプロを取材した。

1985年、井上自身の演出で初演、その後栗山民也が演出を引き継ぎ、上演を重ねている本作。昭和15年から16年にかけての東京・浅草のレコード店オデオン堂を舞台に描き出されるのは、そこで暮らす店主一家と居候の、歌と笑いにあふれる日常だ。

左から)松岡依都美 久保酎吉(撮影:山本聡子)

久保酎吉は、2009年以来6回目の店主・信吉役とあって、オデオン堂にいるのがあまりにも自然。次々と起こる想定外の出来事に大いに慌てながらも、頼れる父親像を表現、不穏な空気が忍び寄る中でも笑いに満ちた暮らしを続けるそのおおらかさは、偉大だ。

左から)瀬戸さおり、松岡依都美 久保酎吉(撮影:山本聡子)

松岡依都美にとって妻・ふじは、2021年に第55回紀伊國屋演劇賞を受賞した役柄。元歌手(芸名は、ミスクリスタル)で、年の差婚の美しい後妻を嫌味なく演じる。オデオン堂の危機に無茶な提案をし、「継母って残酷ね」と言い放つ姿にはユーモアと優しさがたっぷり。

左から)瀬戸さおり、久保酎吉、松岡依都美 大鷹明良 (撮影:山本聡子)

真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐな“軍国乙女”から、妻、そして母へと成長する長女・みさをを演じるのは瀬戸さおり。2020年のコロナ禍で一部が中止となった公演でこの役に取り組み、さらに2023年の上演を経ての再びのみさを役。年頃の女性たちが当時どんな思いで日々を過ごしたのだろう、と想像が膨らむ。ふじとみさをによるバケツ体操は、第1幕の可笑しくて楽しい見せ場のひとつだ。

左から 平埜生成、大鷹明良 奥)後藤浩明(撮影:山本聡子)

ことあるごとに夜空を見上げ、星座を眺めて時刻を照らし合わせるオデオン堂の居候・竹田慶介を演じるのは、大鷹明良。岩手で小学校の先生をしていたことがあるという竹田は、広告文案家、いまでいうコピーライター。彼の、宮沢賢治を思わせる純粋さ、何事にも真摯に向き合う姿が胸を打つ。住み込みのピアノ弾き、森本忠夫役の後藤浩明は6回目の出演。皆の歌唱をご機嫌なリズムでリードしたり、絶妙のタイミングで効果音を叩き出したりと、そのピアノは自由自在、オデオン堂に欠かせない存在だ。ごくたまにぽつりと発するセリフに人柄が滲み出る。

平埜生成(撮影:山本聡子)

物語を大きく動かすのは、脱走兵として追われる身となった長男の正一役の登場だ。演じるのは、こまつ座では『私はだれでしょう』、『日の浦姫物語』での好演が記憶に残る平埜生成。オデオン堂に現れるたびに、さまざまな土産物とともに、九州の炭坑の飯場、銚子の工場、上海定期航路で賄夫見習いとして働きながらの逃亡の日々の武勇伝を披露し、芸術家肌ながら生き延びる力に漲る若者を熱演する。

左から)松岡依都美、大鷹明良、粟野史浩、瀬戸さおり、木村靖司、久保酎吉(撮影:山本聡子)

いつもパワー全開、上海帰りに立ち寄った際、華やかに歌い踊る「チャイナタウン」が見事。かと思えば、木村靖司演じるいかめしい憲兵伍長・権藤の追跡から逃げる姿にくすりとさせられ、正一を逃そうと一家が総力をあげて奔走するドタバタ感もまた楽しい。白衣の勇士のもとへ嫁ぎたいという願いを抱くみさをの夫となったのは、戦場で右手を失った源次郎。演じる粟野史浩は、いかにも帝国陸軍軍人そのもの。その頑なな態度で皆を振り回すも、献身的なみさをはじめとするオデオン堂の人々と暮らす中で、その態度を和らげてゆく。防共護國団団員などを演じるのは、宮津侑生、神野幹暁。

左から)瀬戸さおり、粟野史浩、久保酎吉、平埜生成、松岡依都美、宮津侑生、神野幹暁、後藤浩明、大鷹明良(撮影:山本聡子)

タイトルに使われた「燦く星座」をはじめ、「一杯のコーヒーから」、「小さい喫茶店(きっちゃてん)」、「青空」など次々と登場する流行歌は、どれも名曲ばかり。若い世代にとっては、より新鮮に聴こえるかもしれないが、これらが当時の人々の心をどれだけ和ませたのか、また、現実の世界ではすでにほぼ姿を消してしまった町のレコード店が、人々にとってどんな場所であったのかと、当時の浅草に思いを馳せる。祝言の席でモンペ姿に黒紋付きを羽織ったり、銭湯に窃盗防止の紐をつけた石鹸を持っていったり、鮭の皮でできた靴が壊れて苦情を言ったりと、あの頃の日常生活を想像させる要素が散りばめられ、いろんな発見も。

左から粟野史浩、 瀬戸さおり、宮津侑生、久保酎吉、平埜生成、神野幹暁、後藤浩明、松岡依都美、大鷹明良(撮影:山本聡子)

ただし、居間のカレンダーが示す日付は、少しずつ、太平洋戦争の始まりの日へと近づいてゆく。そんな中で竹田が放つ「人間」という商品の広告文は、作中で最も心に強く響くセリフのひとつ。人間として存在していることの奇跡に、あらためて思いを巡らせるとともに、人々の温かさ、強さが、無性に愛おしく感じられる。未来に向けて上演し続けてもらいたい作品のひとつでもあり、戦後80年のいまだからこそ、あらためて体験したい舞台だ。

取材・文:加藤智子


<公演情報>
こまつ座『きらめく星座』

作:井上ひさし
演出:栗山民也

出演:松岡依都美 / 久保酎吉 / 平埜生成 / 粟野史浩 / 瀬戸さおり / 後藤浩明 / 宮津侑生 / 神野幹暁 / 木村靖司 / 大鷹明良

【東京公演スペシャルトークショー】
9月12日(金)13:00公演終了後 平埜生成、粟野史浩、宮津侑生、神野幹暁登壇予定
9月15日(月・祝)13:00公演終了後 松岡依都美、久保酎吉、平埜生成、木村靖司登壇予定
9月19日(金)13:00公演終了後 粟野史浩さん、瀬戸さおり、後藤浩明、大鷹明良登壇予定 
司会:こまつ座 井上麻矢

※スペシャルトークショーは、開催日以外の『きらめく星座』のチケットをお持ちの方も入場可。
※満席の場合、入場できない可能性あり。

【福岡公演】
8月30日(土)・31日(日)※公演終了
会場:博多座

【東京公演】
9月7日(日)~22日(月)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2516303

【千葉公演】
11月8日(土)
会場:行徳文化ホールI&I

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2523521

こまつ座公式サイト
https://www.komatsuza.co.jp/index.html

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