『伊藤彦造展』弥生美術館で 美剣士を描いた濃密なペン画で人気を博した挿絵画家の画業を展観
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《阿修羅天狗》『冒険活劇文庫』 昭和25~26年(1950~1951)挿絵原画 伊藤彦造/画 個人蔵
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すべて見る2025年9月20日(土)より、東京都文京区の弥生美術館では、『伊藤彦造展〜美剣士の血とエロティシズム〜』を開催する。大正末期から昭和40年代にかけて活躍した挿絵画家・伊藤彦造(1904~2004)の生誕120周年を記念して開催される展覧会だ。
昭和初期の『少年倶楽部』をはじめ、雑誌を舞台に絶大な人気を誇った伊藤彦造は、剣戟シーンの殺気や、美剣士の魅力をペン画によって濃密に描きあらわした。とくに死に面した少年や青年の極限状態の描写は官能的で、「希死欲求」という死への渇望を目覚めさせるような、悪魔的な魅力や凄みが漂っている。剣豪伊藤一刀斎の末裔として生まれ、幼い時から剣の修行に励んでいた伊藤彦造だからこそ描けた表現と言えるだろう。

大正14年(1925)、大阪朝日新聞「黎明」の挿絵でデビューした伊藤彦造の描く美剣士たちは、幕末・明治の浮世絵師、月岡芳年が描いた血まみれの作品「無惨絵」の登場人物を彷彿とさせる。事実、彼らの妖しくも魅力的な姿は、同時代だけでなく、後世の漫画家たちにも多大な影響を及ぼした。彦造は、大正・昭和の出版文化の中にあって、浮世絵と現代の漫画やアニメを中継した、要のような存在と言えるだろう。
そういったことを意識しながら、彼の描く作品の構図や滅びの美学、また戦う武士だけでなく妖艶な女性の姿などを見ていくと、江戸時代以降、脈々と受け継がれてきた日本人ならではの美意識や精神文化を発見することができるかもしれない。

同展では彦造に心酔していた漫画家の花輪和一が、同じく漫画家・藤尾毅のアシスタント時代に藤尾から譲られたという貴重な原画や、彦造が戦犯として座間キャンプに収容されていた時に、マッカーサーに見せるために描いた、美術史家・山下裕二所蔵の作品《達磨》なども初公開される。
伊藤彦造の耽美な作品とともに、大正から昭和初期の、自由で活発な出版文化にも興味を惹かれることだろう。
<開催情報>
『伊藤彦造展~美剣士の血とエロティシズム~』
会期:2025年9月20日(土)~12月21日(日)
会場:弥生美術館
時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(10月13日、11月3日、11月24日は開館)、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
料金:一般1,200円、大高1,000円、中小500円
公式サイト:https://www.yayoi-yumeji-museum.jp
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