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arko lemming『mouse trap vol.2』屈指のライブバンド・Khakiを迎えてライブの現在地を更新【ライブレポート】

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arko lemming『mouse trap vol.2』@下北沢SHELTER  Photo:タイコウクニヨシ

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Text:石角友香 Photo:タイコウクニヨシ

現在のバンドシーンやソロミュージシャンを支えるマルチプレーヤー、有島コレスケのソロ・プロジェクトarko lemmingが、6月に続き自主企画『mouse trap』を前回同様、下北沢SHELTERで開催した。2回目となる今回のゲストはKhaki。一見共通項がなさそうだが、オルタナティブなギターロックに端を発し、音楽性の枝葉を伸ばしているという意味では近いスタンスを持つ両者。現在、バキバキにオリジナリティの尖りを体現している若手バンドを対バンに迎えることで、自ら刺激に飛び込んでいくarko lemmingの意気込みを感じるツーマンでもあった。

カニエ・ウェストの「Bound2」を入場SEに現れたKhakiの5人は、黒のトップスとグレーのボトムスで揃えた出で立ちも含め、若き芸術集団の趣き。ただならぬムードで緊張感とヨレるビートを兼ね備えた「Hazuki」からスタート。続く「子宮」は平川直人(g/vo) と下河辺太一(b) が出すギターとベースのユニゾンなど重奏の旨味に意識が連れ去られる。さらに音の抜き差しもジャンルの混交も極まった最新作『Hakko』から、ジャズのインプロビゼーション的なイントロの「裸、道すがら」に突入すると、そのアバンギャルドなムードは中塩博斗(g/vo) のポエトリー・リーディングに近いボーカルが乗ることで、さらにミステリアスなムードに。リズムチェンジも激しいこの曲、エンディングの潔さも相まって変な声が出てしまった。

さらに橋本拓己(ds) と下河辺、黒羽広樹(key) のスリリングな攻防に中塩のトランペットも加わる「君のせい」の緊張感ったらない。演奏のスタイルやアレンジはジャズの影響下にあるのだろうが、どこか民話っぽい中塩の歌メロが乗ると、体験したことのない世界が広がる。続く「夢遊病」でも映画の世界に紛れ込んだような世界観が醸成され、圧巻は平川のフォーキーな語り口のボーカルで淡々と始まった「天使」。間奏で全員の出す音の層が厚くなり、怒涛のアンサンブルに巻き込まれた瞬間に曲の始まりからはるか遠い国にたどり着いた気分に陥った。全員が作詞作曲できる彼らの強みが最大限生かされた『Hakko』の手応えが現在のライブに結実しているのかもしれない。演奏に聴き入るうちに自然とフロアがうねり、エンディングとともに大きな拍手が起きた。

終盤はKhakiのメロディの良さを実感する「Kajiura」、「Overtone」と続け、中塩が鬼気迫る演奏中の表情とは打って変わって丁寧な謝辞を述べた。それでもほぼノーMC。演奏だけで「倒しに来た」自信が満ちている。ラストはラテンのメロディもサイケデリアもサンバのビートも変幻自在に顔を出す「文明児」に心地よく翻弄されてしまった。中塩のボーカル表現も相当な自在さを身に着けた現在、Khakiは屈指のライブバンドでもある。圧巻だった。

arko lemming

Khakiが作る物語の余韻の中、ホストバンドのarko lemmingが登場する。vol.1同様、自身もシンガーソングライターである中川昌利がベース&コーラスで、有島とはtoldでも馴染の盟友・赤羽進互(ds)の3ピースだ。今のarko lemmingとしてのスタイルの一貫性は入場SEが前回同様カーペンターズの「クロース・トゥ・ユー」のキム・サン・ヒーのカバーなことでもひとつの意思表示がなされた印象だ。

スターターは前回初披露された7年ぶりの新曲「swifter」。16ビートのファンク主体のナンバーだが、より引き締まったライブアレンジに練られてきた印象を受けた。そしてそこはやはり有島のバックボーンが窺えるオルタナティヴとフュージョンの交差を感じさせる。そして「stop!(primal)」はもはやこのトリオのグルーヴで完全にアップデートされていた。

有島コレスケ(g/vo)

最初のMCではあまりに素直にKhakiのライブに圧倒されたことを告白。そのあけすけかつ脱力した、決して言葉数の多くない有島と中川の会話は不思議と信用を生む。熱さや煽るような言葉はないものの、明らかに対バンに触発された彼らに対する信用なのだと思う。前回「1バンドでは心もとないので対バン」と話していたが、有島がオリジナルでステージに立つ上でダイレクトな刺激を求めているに違いない。

そして前作から短いスパンでリリースした新曲「薄明」のイントロが原曲より、メロウなブルースといった感のフレージングで始まる。中川のループするベース、サビの歌詞の“見てたい見てたい”“愛でたい愛でたい”など、細かい要素がキャッチーだ。有島の甘いけれど淡白な声がメッセージを軽快にしているフシはあるが、ラブソングのていで“君たちはまだいける、ほっとけばいいじゃない”“無関心はクールじゃない”と歌われると、どうしてもこのソロ・プロジェクトにかける熱量を思わずにいられない。さらにオルタナと洒脱なポップネスが合体したこのトリオでのアンサンブルが「mitsumete」や「日常」でも明らかになる。どこかDIY的だった原曲の音像がグッと豊かになった感じなのだ。

中川昌利(b/cho)

暗転からジャジーなギターフレーズのイントロ、そしてメロウネスをたたえた歌がスルッと入ってくる「日々の泡」は去年から再始動したライブの中でもより磨きがかかっており、せつないメロディのニュアンスが、中川のコーラスも相まってより染み渡る。暑すぎると景色が色をなくすような感触が、ハウリングを起こしそうなギターソロとシンクロして夏の終わりに刻まれた。現状、サブスクでこの曲が聴けないのは大いなる機会損失だと言いたい。

さらにもう1曲の新曲「炎天」につなげるのも心象の夏を色濃くする。スローテンポかつ音数も絞ったarko lemming流AORとでも言おうか。2曲のミディアム〜スローがセットリストの中で没入感の強い新たなセクションになっていて、とてもいいフックだと感じた。短いMCを挟んで、本編ラストも歌がよく聴こえる「恋する惑星」をセット。愛についての考察が甘いメロディに乗るのに、糖分過多どころかどこかビター。ギター&ボーカルとしての表現力を拡張する有島と、歌を支えることに長けた中川と赤羽とのアンサンブルが深まったのは間違いない。

赤羽進互(ds)

アンコールでは、待望のニュー・アルバムをこの冬にリリースすると発表し、ファンの歓喜の声が上がる。ただし、最近は5月ごろまで肌寒いし、日本の気候が四季じゃなく“二季”に近づいているからとエクスキューズも。大きな括りで冬のリリースに期待しよう。最後に思わずクラップが起こる踊れるナンバー「flashback」がドロップされ、次第にオープンになっていくarko lemmingのライブの現在地を更新したのだった。

arko lemming

<公演情報>
arko lemming『mouse trap vol.2』

2025年9月6日 東京・下北沢SHELTER

セットリスト

●Khaki
1.Hazuki
2.子宮
3.裸、道すがら
4.君のせい
5.夢遊病
6.天使
7.Kajiura
8.Overtone
9.文明児

●arko lemming
1.swifter
2.stop!(primal)
3.薄明
4.mitsumete
5.日常
6.日々の泡
7.炎天
8.恋する惑星

EN.flashback

関連リンク

●arko lemming X:https://x.com/arko_lemming
●Khaki 公式サイト:https://www.khaki-band.com/

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