森田剛「本当に愛おしい時間でした」パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』開幕前会見&ゲネプロレポート
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パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』ゲネプロより (撮影:細野晋司)
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すべて見る2025年 9月23日(火・祝)、東京芸術劇場 プレイハウスにて、パルコ・プロデュース2025『ヴォイツェック』が開幕する。初日直前の9月21日、主演の森田剛をはじめ、伊原六花、伊勢佳世、浜田信也、冨家ノリマサ、栗原英雄らが開幕前会見に登場、続く公開ゲネプロにのぞんだ。ゲオルク・ビューヒナー(1813~1837)の未完の戯曲を、英国の劇作家ジャック・ソーンが現代的な解釈をもって翻案した話題作、その日本初演を演出するのは、小川絵梨子。会見およびゲネプロのレポートとともに、開幕直前に寄せられた小川のコメントをお届けする。
「ものすごいスピードで、生きている」
会見の冒頭、開幕を直前に控えたいまの思いをたずねられ、「あっという間の約1カ月の稽古でしたが、いまワクワクしています」と答えた森田。稽古中は演出の小川からたくさんの言葉をかけられ、「素敵だなと思ったのは、一緒にやっている仲間を信じる、ということ。自分は何もしないで、相手に委ねる──。だから、100%信じ、自分も信じてもらって、そこで役として生きられたらいいなと思います」。稽古を重ねる中で、役柄の印象は大きく変わっていったというが、「ものすごいスピードで、生きている感じがします。日々の稽古の中で毎日発見があり、いまも発見は続いています。日々進化していくのかなと思います」とも。
ヒロインのマリーを演じる伊原は、「まずは、必死に生きようと思います」と、目を輝かせる。小川との稽古を振り返り、「印象的だったのは、いただいた言葉をずっとぐるぐると考えていたとき、小川さんが、『出てしまえば、もう私が言ったことなんか、“うるせー、バーカ!”でいいから』とおっしゃったこと。一気に力みが抜けました。その場で起こることを、もう少しビビッドに感じて楽しめたらいいなと思えるようになりました」と、晴れやかな笑顔を見せた。
ヴォイツェックの母親およびマギーの二役を演じるのは、伊勢佳世。「母親役は台本にあまりセリフが書かれていないので、森田さん演じるヴォイツェックを見ながら、母親ってこうなんじゃないか、ああなんじゃないかといっぱい想像させてもらいました」。マギー役に関しては、「上流階級の人なので、私自身とはかけ離れていますが、嫌な女にも見える。よりよく生きたいという欲望、強いものを持っていると、弱い人をいじめたいという気持ちが生まれるんだなと感じました。私は六花ちゃんをいじめますが、それがちょっと楽しかったり、自分にもそういうところがあるんだなって感じたりしています(笑)」と言い放ち、周囲を笑顔に。


ヴォイツェックの同僚、アンドリュース役の浜田信也は、稽古の進展とともに自身の役柄の印象ががらりと変わったそう。「180度変わったといってもいい。森田さんと一緒のシーンが多いのですが、だんだん仲良くなっていく過程、役柄としてはもちろん、コミュニケーションを通してお互いに少しずつ知っていく過程がリンクしていきました」とコメント。「この役には、自分の弱いところ、人に見せたくない弱み、コンプレックスから目を背けて楽しく生きていこう、というところがある。それは多分、誰もが多少無意識に持っているところだと思いますし、自分でも共感できる部分」と分析した。

大尉役の冨家ノリマサは、「稽古場での休憩時間は、皆さんすごく仲がよくて、癒やしの時間に(笑)」とおどけるが、当初、この難解な台本に「なんだ、これ!」と不安を感じていた模様。「稽古が始まってくると、皆さんがどんどんいろんなものを立ち上げ、そこに小川さんの演出が加わったことで、自分のポジションや、歯車としてどう動けばいいのかが見えてきました」と回顧した。

「最初に台本を読んだときは、脳で考えて悩んでいました」と振り返るのは、医師役の栗原英雄。「時間が経つにつれて、感覚的にわかってきて、交わって──ああ、こういう物語が流れていくんだなということがわかってきました」と、充実の稽古を想像させた。

「人間に生まれたら、愛したいし、愛されたい」
冷戦下の1981年、西ベルリンを舞台に、政治的緊張感と心理的・感情的な深みを強調したドラマを展開する本作。ここでのヴォイツェックは、ベルリンに駐留する英国兵士で、幼少期のトラウマとPTSD、そして貧困の記憶に苛まれながら生きている。森田は、真っ直ぐすぎるほど真っ直ぐで、内縁の妻・マリーと、彼女との間に誕生した幼子を愛おしみ、友人や上司との関係でもひたむきであろうとする青年を体現。会見では、「人間に生まれたら、愛したいし、愛されたいし、認められたい、自分の居場所を探したい──そういう彼の強い気持ちに、共感し、憧れます」と発言。愛する人への執着と嫉妬に苛まれ、さまざまな綻びが生じていく中でもひたすらに愛そうとするその姿は、独特の輝きを放つ。

伊原演じるマリーは、しっかりと現実に目を向けながら、ヴォイツェックのことを思い続ける。その一途な姿が、尊い。伊原は、「とにかく必死に生きているところに、すごく共感する。喧嘩するときは喧嘩する、泣く時は泣いて、ちゃんと生きている。私もそうして生きていきたいなと思います」と言葉に熱を込めた。

そんなふうに愛してやまないものはあるか、という話題になると、森田は「植物──と言っても、なかなか伝わりませんね(笑)。でも、あります。こういう暗い話ですから、朝起きたら、空を見ます。皆さんとの稽古も含め、本当に愛おしい時間でした。本当に、僕にとって宝物です。皆さんとのこの時間を、本当に愛情をこめて、全力で最後まで駆け抜けたいなと思います」。
会見の最後、「とにかくやるだけ、という感じです。本気でやります、だから、観に来てください。そこで起こっていることを素直に感じてもらったらいいなと思います。楽しみにしていてください」とアピールした森田。一筋縄ではいかない戯曲だが、そこに生きる人々の存在感、生きようとする力が、多くの人の心に響くだろう。
■小川絵梨子(演出)コメント
無事初日を迎えられることを大変にありがたく幸せに感じております。
素敵なスタッフ・キャストの方々と作り上げてきた、この『ヴォイツェック』の世界を、ぜひお客さまに楽しんでいただけましたら大変に幸いです。
取材・文:加藤智子 撮影:細野晋司
<公演情報>
パルコ・プロデュース 2025
『ヴォイツェック』
原作:ゲオルク・ビューヒナー
翻案:ジャック・ソーン
翻訳:髙田曜子
上演台本・演出:小川絵梨子
出演:森田剛 伊原六花 伊勢佳世 浜田信也/中上サツキ 須藤瑞己 石井舜 片岡蒼哉/冨家ノリマサ 栗原英雄
【東京公演】
2025年9月23日(火・祝)~9月28日(日)
2025年11月7日(金)~11月16日(日) ※リターン公演
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
【岡山公演】
2025年10月3日(金)~5日(日)
会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
【広島公演】
2025年10月8日(水)・9日(木)
会場:広島JMSアステールプラザ 大ホール
【福岡公演】
2025年10月18日(土)・19日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【兵庫公演】
2025年10月23日(木)〜26日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【愛知公演】
2025年10月31日(金)〜11月2日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/woyzeck/
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