松村北斗がハマリ役! 『秒速5センチメートル』──新海誠の伝説のアニメを実写映画化【おとなの映画ガイド】
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『秒速5センチメートル』 (C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会
続きを読む新海誠が2007年に発表した伝説の初期作品『秒速5センチメートル』が、実写版となっていよいよ10月10日(金)に全国公開される。小学校で出会い、惹かれ合ったふたりの、18年間にわたる巡り合わせを描いた物語。松村北斗が主演、ヒロインを高畑充希が演じる。監督は、CM、MVでも活躍するクリエイターの奥山由之。昨年公開し話題となった『アット・ザ・ベンチ』につづき、長編映画は2作目。監督の繊細な感性と、俳優の熱演があいまって、原作へのリスペクト以上のものが伝わってくる、もうひとつの「秒速」の誕生だ。
『秒速5センチメートル』
予告編はふたつある。米津玄師の書き下ろした主題歌「1991」が流れるバージョン、それから、原作の主題歌である山崎まさよし「One more time, One more chance」の、リマスター版が流れるバージョン。

「1991」は、主人公の遠野貴樹が、篠原明里と出会った年をタイトルにしている。当時ふたりは小学生。そこからいくつもの季節が訪れ、お互いが30歳を迎えるまでを描いた原作に新たな解釈を加えた実写版ならではの主題歌。
山崎の楽曲のほうは、本作のためにリマスター版としてアップミックスされたもの。劇中にも流れるが、原作のファンに向けて、心を込めたご挨拶ともとれる。

原作は、3話の構成でつくられている。親の仕事の都合で転校が多い貴樹と明里が、東京の小学校で出会う第1話「桜花抄」。ふたりは心を通わせていくが、中学進学の直前に、明里が栃木県へ引越してしまう……。第2話の「コスモナウト」では、種子島に移り、高校に通う貴樹が描かれる。そして、社会人になった貴樹が東京で働いている第3話「秒速5センチメートル」。
実写版は、ほぼ年代を追って展開していくが、章立てにはなっていない。

満開の桜の季節、踏切の向こう側で、明里が「貴樹クン、来年もまた、一緒に桜を見れるといいね」という印象的なシーンをはじめ、「ねえ、秒速五センチなんだって……桜の花びらの落ちるスピード」と話すくだり、しんしんと降る雪の日に貴樹が東京から電車で明里に会いに行くエピソードは、まさに原作のまま。全編にわたって新海アニメの、風景描写の細やかさ、美しさが見事に実写化されている。

『すずめの戸締まり』で声の出演をしたこともある松村北斗が、社会人になってからの貴樹を演じる。どこか孤高で、グループにいても積極的に群れたがらない印象が魅力の彼は、まさにハマリ役。幼少期を上田悠斗、高校生を青木柚が好演している。明里役は高畑充希、その幼少期は東宝シンデレラの白山乃愛がつとめる。さらに、高校時代、貴樹に思いを寄せる花苗役に『天気の子』のヒロインの声、森七菜。その姉で高校教師、のちに“巡り合わせ”のちょとしたキーパーソンになる女性を宮﨑あおいが演じる。

原作発表後に、新海誠監督が自ら繊細な筆致で書いた『小説 秒速5センチメートル』では、貴樹たちが大人になってからの設定やストーリーが加えられていたが、実写版はさらに、システムエンジニアとして東京で働く貴樹や新宿の紀伊国屋書店に勤務する明里の、人物像、暮らしぶりが、いくつかのサイドストーリーを組み入れて重層化されている。脚本を担当したのは『愛に乱暴』の鈴木史子。
先日、映画の完成披露試写会にサプライズで現れた新海監督は、「松村くんと高畑さん、奥山監督に貴樹と明里はこういう人ですと教えてもらいました」と語っていたが、まさに、そのあたりが実写版の見どころだ。

新たに加わったキャラクターもいて、それぞれ、物語への絡み方が絶妙だ。貴樹の会社の同僚役・木竜麻生、転職のきっかけを作る先輩役・岡部たかし。そして、転職先で、重要な舞台となる科学館館長役・吉岡秀隆。明里が勤める書店の店長役・又吉直樹もなかなか興味深い登場の仕方をする。

奥山由之監督は東京を独特の感性でとらえる写真家であり、米津玄師のMVなどを手がけるビジュアリストでもある。この才能と、新海誠の世界を結びつけたことに、なんか、感謝したい。雨や雪や桜の花びらが舞うくすんだ色の都会、細部まで描きこまれた交通機関の美しさ、広大な宇宙に馳せる思い……そして、観終わったあとの多幸感まで。もうひとつの、心にのこる「秒速」が誕生した。

9月26日(金)、10月3日(金)、10月10日(金)の3週にわたって、各日18時より主演の松村北斗、監督の奥山由之、原作の新海誠によるスペシャル鼎談が公開される。こちらも楽しみ。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会