神奈川フィルが2026-27シーズン・プロ発表 沼尻竜典音楽監督が会見
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すべて見る神奈川フィルハーモニー管弦楽団の2026~2027シーズンのプログラムが発表され、音楽監督5年目を迎える沼尻竜典らが出席して記者会見を開いた。
新シーズンも「みなとみらいシリーズ」「音楽堂シリーズ」「ミューザ川崎シリーズ」の三本柱が軸となる。横浜みなとみらいホールでの定期公演は、楽団の定期演奏会の歴史を継承するシリーズ。神奈川県立音楽堂での「音楽堂シリーズ」、そして神奈川県民ホール休館に伴い2025年から始まった「ミューザ川崎シリーズ」と、3つの拠点で活動する。「3つの本拠を持っているオーケストラは世界でも珍しい」と沼尻も胸を張った。
みなとみらいシリーズ定期演奏会(全9回)
沼尻音楽監督は4公演を指揮する。
4月は、就任以来手がけてきたショスタコーヴィチ。いよいよ満を持して、人気の交響曲第5番を振る。首席ソロ・コンサートマスター石田泰尚が独奏のヴァイオリン協奏曲第2番も注目だ。
「ショスタコーヴィチは、あえてあまり知られてない曲を取り上げてきましたが、そろそろ“王道”の5番を。やはり素晴らしい曲。体制に迎合して書いた作品だという解釈もありますが、彼の心の叫びが込められた作品だと思います」(沼尻=以下同)
7月はブルックナーの交響曲第7番。
「なんといっても、最後まで緊張感を保たなければならないのがブルックナー。年齢を重ねてからでないと、『精神性が……』などと批判されるので、あまり演奏してきませんでした(笑)」
近年積極的に取り組み始め、昨年の第5番、今年10月に予定されている第8番と、神奈川フィルとの全交響曲演奏を見据えている。
11月には今井信子を迎えてのベルリオーズ《イタリアのハロルド》。世界的ヴィオラ奏者との共演にはもちろん期待が高まるが、ラヴェル《ボレロ》にも注目してほしいという。沼尻が以前指揮した際は、冒頭4小節の小太鼓、チェロ、ヴィオラのリズムの刻みだけを20分かけて練習したという。慣れ親しんだ名曲に真摯に向き合う姿勢が垣間見える。
そしてシーズン最後の2027年3月にはマーラーの交響曲第3番。独唱にはヴァイマール国民劇場専属のメゾ・ソプラノ重島清香。
「日本ではまだほとんど知られていないと思いますが、ぜひ楽しみにしてください。今年3月に京都交響楽団でマーラー《大地の歌》を宮里直樹さんと歌っていただいた時も大好評で、『こんな人を、いきなりどこから連れてきたんだ!?』と何人もの人に言われました」
沼尻音楽監督以外にも日本人指揮者が並んだ。
・高関健:マーラー交響曲第1番《巨人》(2019年出版されたラインホルト・クービックによる校訂版)[5月]
・原田慶太楼:オール・アメリカン・プログラム。ジョン・ウィリアムズのテューバ協奏曲を神奈川フィルのテューバ奏者・宮西純が吹く。[9月]
・大植英次:ホルスト《惑星》[10月]
・小泉和裕:メンデルスゾーンの交響曲第3番《スコットランド》[2月]

音楽堂シリーズ(全4回)
わくわくする個性的なラインナップが並ぶのが「音楽堂シリーズ」だ。「Classic Modern」というシリーズ・テーマに象徴されるように、古典と現代とが、あるときは色濃く、あるときはさりげなく、濃淡を変えながら呼応する。
まず5月。濱田芳通が登場。古楽の鬼才がモダン・オケを振る。オペラ・アリアを含む華やかなバッハ&ヘンデル・プログラム。ジブリ作品などの映画音楽で活躍する野見祐二の新作初演も。
このシリーズで指揮者・作曲家として連続で共演を重ねているピアニストの阪田知樹は7月に登場。声楽を伴う管弦楽の新作を書き下ろす(ソプラノ:森谷真理)。もちろん協奏曲も披露。サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番を弾き振りする。
2027年1月は“組長”石田泰尚が現場を仕切る、指揮者なしの公演。たぶんいわゆる“弾き振り”とは異なるニュアンスになりそうだ。石田はシューマンの協奏曲を弾く。
3月は管楽器+打楽器メンバーのみの公演。沼尻音楽監督が「かんだまつり(管打祭)」というダジャレタイトルを主張したものの 、今のところ不採用とのこと。新鋭指揮者・喜古恵理香も出演する。
ミューザ川崎シリーズ(全3回)
2年目を迎える「ミューザ川崎シリーズ」は、ベートーヴェンの交響曲を軸にプログラムが組まれている。小泉和裕が振る交響曲第2&8番[6月]。今年1月に神奈川フィルで日本での指揮デビューを果たしたベルリン・フィルの元コンサートマスター、コリヤ・ブラッハーは交響曲第7番を指揮する。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はすでに前回弾いているので、今度はブラームスを独奏[11月]。2027年3月はベートーヴェンの没後200年(1827年3月27日没)。沼尻音楽監督が交響曲第3番《英雄》を振る。シュテファン・ヴラダーとのブラームスのピアノ協奏曲第1番も聴きもの。
さらに、神奈川県下を中心に各地を巡る「For Future 巡回公演シリーズ」の一環として、交響曲第9番《合唱》の公演がミューザ川崎シンフォニーホールでも開催される[2026年12月]。指揮は広上淳一。独唱陣に砂田愛梨(ソプラノ)、重島清香(メゾ・ソプラノ)、工藤和真(テノール)、栗原峻希(バリトン)と、フレッシュな実力派が揃う注目の「第九」だ。

上記の他では、2023年にスタートした演奏会形式によるオペラ公演「Dramatic Series」(ドラマティック・シリーズ)が興味深い。《サロメ》《夕鶴》《ラインの黄金》に続くのはプッチーニ《トスカ》[6月]。
「所属団体や師弟関係などの因習にとらわれず横断的なキャスティングできるのはオーケストラ主催のオペラならでは。歌手の育成、オペラ界の活性化につながるはず。そんなさまざまな思いが結実したシリーズであり、今後の日本のオペラがどうあるべきかまで考えている。演出が入らないことの利点もある。演奏会形式上演はけっして妥協の産物ではない」
日本屈指のオペラ指揮者でもある沼尻はそう力を込めた。
主役のトスカにはイタリア在住で海外を中心に活躍するソプラノ佐藤康子、カヴァラドッシに“パヴァロッティの再来”の呼び声も高いスター・テノールのシュテファン・ポップ、スカルピアのバリトン上江隼人など、沼尻が精選したキャストが揃う。群馬交響楽団ほかとの共同制作。
この日の会見には定期会員も招かれ、ラインナップ発表の様子を間近で見守った。挙手による質問の権利が報道陣と同じように与えられるなど、聴衆とオーケストラとの距離を縮める、印象的な機会だった。
取材・文:宮本明
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11010477
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