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【稽古場コラム】#ケイコバカラ Vol.1:Shakespeare’s Wild Sisters Group × 庭劇団ペニノ『誠實浴池 せいじつよくじょう』

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インタビュー

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舞台の幕が開くその日まで、キャストやスタッフはどんな時間を過ごしているのか。 公演の稽古場に足を運び、現場でしか見られない素顔や創作のプロセスをお届けするシリーズ、“#ケイコバカラ”。熱気あふれる稽古の様子や、インタビューで語られる想いから、作品が生まれる瞬間を一緒に体感してください。

第1回は、タニノクロウさん率いる庭劇団ペニノと台北のカンパニー Shakespeare's Wild Sisters Groupの国際共同制作『誠實浴池 せいじつよくじょう』。公演直前の稽古の様子、タニノさんと、出演する片桐はいりさんとのインタビューをお届けします。

台湾×日本、言葉を超えて結束する座組

都内の稽古場で、『誠實浴池』のあるシーンの稽古が始まっていた。周囲に鋭く目を配りながら立つ片桐はいりを中央に、左右に散らばって椅子に座ったり、歩き回ったりする男性陣(Fa、ヤン・ジャエン、ツゥエ・タイハウ、金子清文)、そして背筋をピンと伸ばし、お腹の前に両手を美しく合わせて立ち、彼らを見つめる女性陣(チェン・イーエン、ホン・ペイユー、藤丸千)がいた。机と椅子以外に目立つ小道具はなく、俳優たちは皆ラフな稽古着……というか普段着そのままの装いだ。しかしタイトルが示すように、ここは銭湯なのだろう。チラシには「夜毎、大衆浴場に戦死した男たちがやってきて……」とあるからには、彼らはそうなのだろう。ただひとり衣裳らしい生成り地の前掛けをつけた片桐が、この銭湯の女主人だと分かる。どうやらクライマックスのシーンのようで、片桐の指示を受けた男性たちが、集まって語り合い、また探り合うようにして思い思いに動き始めた。

姿勢の良い女性たちに時折注意を受けながらも、彼らは次第に怪しい気配を漂わせてゆく。ひとりの背中を激しく打ったり、ナイフのようなもので相手や自らを斬る動きをしたり、シャワーホース?を首に巻き付ける身振りで、奇声を発したり……。苦しみながらも恍惚となる彼らを、聖母のように穏やかに見据える女性たち。いったい何が、何のために行われているのか。中国語と日本語のセリフが飛び交うなか、奇ッ怪な可笑しさが滲む光景を呆然と眺めた。そんな我々取材陣の横で、時にニヤリと笑いながら冷静な眼差しを向けていたその人が、王嘉明(ワン・チャミン)との共同で作・演出を担うタニノクロウだ。

「この台詞、もうちょっと圧があってもいいかな」
「これに対してちょっと欲情したり、ニヤけたりしてもいいね」

録画した稽古映像を見ながら、タニノは次々にノート(改善点)を繰り出していく。それを車座になって聞く俳優たち。その中には日本語を多少理解する台湾人俳優もいて、素早く仲間に通訳をし、それぞれに活発な意見を交わし合っていた。昨年すでに台湾での上演を経ている座組ゆえ、俳優たちは言葉の壁を楽々と飛び越えて談笑し合っている。結束の固さを感じる和やかな雰囲気が印象に残った。

稽古終わりに、今回の公演について片桐とタニノに話を聞いた。

地震の不安のなか乗り切った台湾初演から1年半、待望の日本公演

――本作は、川端康成の小説『眠れる美女』を下敷きに創られた日台共同戯曲・演出作品で、昨年台湾の国立劇場國家戯劇院で初演されました。そして今年、日本で初めてお披露目されます。今日は思い出し稽古みたいな感じなのかなと思っていたのですが、とても細かく新たなアイディアを加えていらっしゃいましたね。

タニノクロウ

タニノ そうですね。昨日はいりさんに言われて、ニュアンスをしっかり捉えることはやっぱり大事だなと思いまして。ニュアンスを見逃しているところが結構あるなと気づきました。

片桐 私、何か言いました!? そういうつもりで言ったわけじゃないけど。(一同笑)

タニノ やっぱり言葉が違うので、実際どういう状態で台詞を喋っているのか、昨年は詰めきれなかった部分があったなと。それに今、取り組んでいるところです。

片桐 台湾での初演から1年半も経ちますか? この作品、日本語、英語、中国語の字幕が出るんですけど、台湾の時は少し言い間違えても、まあお客さんにはわからないだろうと思っていたんですよ。でも後で上演映像を見たら、私たち日本人3人、ものすごく正確にちゃんとセリフを言っているんですよ! 凄いなこの人たち!と。(一同笑)地震(2024年4月3日に発生した台湾東部沖地震)があって大変で……。

タニノ そうそう、地震があったんですよね。

片桐 海外で、地震で夜中に叩き起こされるような日々の中、こんなに丁寧に台詞を覚えたんだ〜と、ちょっと泣きそうになったくらい(笑)。なので今回も、それを目指したいですね。今度の客席は日本語字幕を読めちゃう人が大半なので、間違えるとマズイなと。

片桐はいり

「何コレ!?」を味わって。日台がドッキングして生まれた御伽話のような舞台

――1年半ぶりに作品に向き合って、新たに気づいたことなどはいかがでしょうか。

タニノ 今回あらためて、シンプルに俳優って凄いな!と思いました。皆、言葉を使って何かを理解しようと努めているのはもちろん、言葉じゃない領域においても見事にコミュニケーションを取っているんですよ。それはもしかしたら僕には分からないことで、俳優同士だから分かることかもしれないなと。俳優って凄い、いい仕事をしているな!と感動しました。

片桐 私は、前回は台湾の巨大なホール、國家戯劇院という凄い劇場だったじゃないですか。それを今度は客席数がドッと少なくなる日本の劇場でやるとなると、どういうふうになるんだろうと。この得体の知れない抽象的な、分からないまま一生懸命にやった面白さを残したいし、でも日本の人にも受け入れてもらいたいし……という今、そのせめぎ合いですね。

――稽古場で小道具もなく、普段着の俳優さんたちが演じるシーンだけでも十分に惹きつけられました。台湾の上演写真にある舞台美術の中で、皆さんがどんな世界を見せてくれるだろうと思うとワクワクします。

『誠實浴池』2024年台湾公演よりphoto by Hsuan-Lang LIN, provided by National Theater & Concert Hall

タニノ 舞台美術はもちろんそのままです。今回は、国と国のあいだ、ファンタジーとリアルのあいだなど、いろんなものの境界線を行ったり来たりする、そんな感触の作品になるように作っていて、本当に得体の知れないものになっているんじゃないかなと。日本でもその雰囲気は十分に伝わるだろうと思います。

片桐 照明も音響も台湾のスタッフによるもので、凄く面白いし、凝っているな〜と感じますよね。日本ではあんまり見たことのない種類の芝居じゃないかなと。

タニノ そうですね。共同脚本、共同演出で、俳優たちも混ざり合っている。でもロジックで積み上げたというよりは、お互いに触れ合う中で、感覚的に作り上げていった部分は結構あると思います。だからどこに着地するのか、最初から最後まで分からなかった。こんな感じになったんだ!というのが自分でも驚きだし、その作業は今でも面白いです。

片桐 私はタニノさんと王さんのおふたりが、“芸術”をしようとしているんじゃなく、凄くバカバカしいことを楽しんでいるように感じて、そこが気に入っています。台湾の人が見たら大笑いするけど、日本人には何ですかコレ?といったことも含まれていて、ある種そういう違いがドッキングして出来上がっている作品なので、そのまま観てほしいですね。違和感を感じるとしたらそれはたぶん正しいと思うし、何コレ!?ってものを味わっていただけたらなと思います。

タニノ タイトルを見て、難しいお話なのかな?といった印象があるかもしれませんが、全然そんなことはなくて。王さんと、「おとぎ話みたいなものを一緒に作ろう」というところから始まったので、本当に色鮮やかでいろいろな音楽が聴こえてくるなかに、さまざまな人物が出てきます。確かに戦死した人たちのことを描いてはいるんですけど、悲しみのあるものではなく、「これまでと違う戦争の捉え方で、描いてみよう」という思いもお互いに大切にして作りました。絵本をめくっているような感覚で、懐かしさも感じながら観ていただけるのではないかなと思っています。

TOPICS:稽古場でのルーティンは・・・

片桐さん

稽古場に来たら必ず運動靴とトレパンを履きたい、それが私のこだわりです。前の作品の稽古場で「若い劇団に出るし、格好悪いからもうやめよう」と思ったんですが、やっぱり無理!と着替えちゃいました。演劇を部活とかスポーツとして捉えたいんですよね。

タニノさん

「稽古場の」じゃないけど、家から稽古場に直接行くことはほぼなくて、だいたい喫茶店にまず寄ってから稽古場に行きます。何ででしょうね。演劇だけやっているって思いたくないんじゃないですかね。

取材・文:上野紀子 撮影:藤田亜弓

プロフィール


片桐はいり
1963年、東京都生まれ。大学在学中に銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)でのもぎりのアルバイトと並行して俳優活動を始め、1982年『電気果実物語』で初舞台。テレビ「ふぞろいの林檎たちⅡ」、映画「コミック雑誌なんかいらない!」で注目を集める。現在も俳優業のかたわら、「映画への恩返し」として地元映画館で“もぎりさん”活動を続けている。 著書に「わたしのマトカ」「グアテマラの弟」「もぎりよ今夜も有難う」がある。

タニノクロウ
1976年富山県生まれ。自宅マンションを改造した劇場スペース「はこぶね」や、野外での上演など、空間そのものへの鋭いこだわりを特徴とし、緻密に作り込まれた美術とともに独自の世界観を提示してきた劇団「庭劇団ペニノ」の主宰、座付き劇作・演出家。医学部在学中に旗揚げし、2016年『地獄谷温泉 無明ノ宿』で第60回岸田國士戯曲賞を受賞。そのほか北日本新聞芸術選奨、文化庁芸術祭優秀賞、とやま賞などを受賞。2022年よりフランス国立ジュヌビリエ劇場アソシエイトアーティストを務め、2025年5月から富山市政策アドバイザーに就任。

■公演情報
舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」
Shakespeare's Wild Sisters Group × 庭劇団ペニノ
『誠實浴池 せいじつよくじょう』

Shakespeare's Wild Sisters Group × 庭劇団ペニノ『誠實浴池 せいじつよくじょう』トレーラー

<あらすじ>

海辺に佇む廃業した銭湯。かつては賑わっていたこの場所も、今ではひび割れたタイルや水草が生い茂る、時間に取り残された空間となっている。そこに住み着いた数人の女性たちもとに夜ごと男たちが訪れる。彼らはそれぞれ、心に深い傷や欲望を抱えており、この場所で何かを求めている。やがて、彼らの内面に潜む「誠実な欲望」が露わになり、観客はその複雑な感情の渦に引き込まれていく……。

作・演出:王嘉明(ワン・チャミン)、タニノクロウ

出演:Fa(ファ)、楊迦恩(ヤン・ジャエン)、崔台鎬(ツゥエ・タイハウ)、陳以恩(チェン・イー エン)、洪佩瑜(ホン・ペイユー)(以上、台湾)
片桐はいり、金子清文、藤丸千(以上、日本)

2025年10月3日(金)~5日(日)
会場:東京・東京芸術劇場 プレイハウス

公式サイト
https://autumnmeteorite.jp/ja/2025/program/bathhouse

チケット情報
https://autumnmeteorite.jp/ja/2025/program/bathhouse