「劇団普通」石黒麻衣インタビュー　新作公演『季節』、12月シアタートラムにて上演

――前々作の『病室』、前作の『秘密』と再演が続きました。その手応えのほどは？

石黒　前回からどんな変化ができるのか、いい意味でプレッシャーを感じる、本当に楽しい作業でした。特に『秘密』は劇場が三鷹市芸術文化センター 星のホールに変わったことで、空間の広がりがまったく違って。より俯瞰した形で空間を使えた、三鷹にフィットした新しい作品として上演できたことは良かったなと思います。

――その『秘密』が、第33回読売演劇大賞中間選考会で演出家賞ベスト5に選出されました。

石黒　素直に嬉しいですね。劇団普通の作品は、わかりやすい大きな演出というよりかは、細部をじっと虫眼鏡で見るような演出が多いですから。やはり劇場が広くなるにつれ、細部にこだわって届けることが難しくはなってくるのですが、こうして評価いただけたことでひとつ大きな自信になりました。

――次回作『季節』は、新たな才能を劇場がサポートする「世田谷パブリックシアター フィーチャード・シアター」に選ばれ、初のシアタートラムでの上演となります。

石黒　シアタートラムも大好きな劇場のひとつで、周囲の方からも「トラムでやっているところを見てみたい」とおっしゃっていただく機会が多かったので、実現できてとても嬉しいです。芸術監督の白井晃さんからは、「上演までの劇団普通の成長を期待しています」と声をかけていただいて。この目標に向かって、なんとかステップアップできるよう準備に励んできました。

――本作もここ数年の作品同様、茨城弁による家族劇になると伺っています。公演を重ねる中での気づきとは？

石黒　茨城弁の作品を作り始めたころは、とにかく頭の中にあるものを吐き出したいという気持ちがあるだけで、世界との関わりというものにまで意識が及んでいませんでした。ただ徐々に劇団普通で描いているものの中には、全体的な価値観の流れとはまた違う、古い価値観が存在することを自覚させられて。それまで私は、古い考えと新しい考えがグラデーションのように緩やかに存在していると思っていたんですね。でも実はその境界線は非常にはっきりしていて、水面に浮かべた油のように、ポツポツと大小の点が存在している。つまり古い考えと新しい考えが共存している状態だとわかってきたんです。

――さらにそこから新作の執筆にあたっては、現在どのようなことを思い描きながら書き進められているのでしょうか？

石黒　家族とその周辺が群像として存在する作品を作ってきましたが、今回は中でも男性の話を書きたいなと思っています。これは都会と地方にもよると思うのですが、家族の中での男性の位置って、置かれている立場や役割によってだいぶ変わってくるんですよね。先ほどの水と油の話で言えば、自分の点と周りの点は決して混じることがなくて。そこにきっと孤独が生まれているんじゃないかと思ったんです。

――キャスト陣には初参加となる野間口徹さんのほか、常連の用松亮さんや安川まりさんなど、今回も魅力的な顔ぶれがそろいました。

石黒　すでに何回かプレ稽古をさせていただいたのですが、野間口さんはひと言で言うと本当にうまい方で……。茨城弁という言葉と、ストレートに表現しない感情との結びつきをすでに理解してくださっている。本当に心強いなと思います。他にも初参加の方はたくさんいらっしゃいますが、毎回新鮮な反応が得られたり、お互いの価値観をミックスしていく過程がとても刺激的で。そういった新しい部分と、これまでもご一緒している方々との熟成させていく部分。その両方を感じながら稽古を進められることが、今から本当に楽しみです。

――劇団普通の中でこの『季節』が、どういった位置づけとなる作品になればいいなと思いますか？

石黒　最初に茨城弁の作品を作った『病室』の初演からもう6年になります。その過程で学ぶこと、得るものはもちろん、空間やお客さま、キャストの方々などさまざま変化がありました。その変化のひとつ集大成のようなものが、この『季節』でできればと思っています。

取材・文／野上瑠美子
撮影／石阪大輔

＜公演情報＞
世田谷パブリックシアター フィーチャード・シアター
劇団普通『季節』

日程：2025年12月5日（金）〜14日（日）
会場：シアタートラム

［作・演出］ 石黒麻衣
［出演］野間口 徹 / 川島潤哉 / 中島亜梨沙 / 金谷真由美
岩瀬 亮 / 細井じゅん / 安川まり / 用松 亮

チケット情報：
https://w.pia.jp/t/gekidanfutsu/