柚希礼音&愛希れいか、それぞれのマタ・ハリ像にアルマンが空への希望を歌う復活曲。進化を遂げた『マタ・ハリ』
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ミュージカル『マタ・ハリ』ゲネプロより、マタ・ハリ役を演じる柚希礼音 (撮影:岡千里)
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すべて見る韓国発の大ヒットミュージカル『マタ・ハリ』が、2018年の日本初演、2021年の再演に続き、10月1日、東京建物 Brillia HALLホールにて3度目となる初日の幕を開けた。タイトルロールのマタ・ハリ役は、前回に引き続き柚希礼音と愛希れいかがWキャストで務める。

第一次世界大戦下のパリ。市民の生活は日に日に過酷さを増す中、世界中にファンを持つダンサーのマタ・ハリは、煌びやかなステージの世界で一層の輝きを放っていた。しかしフランス諜報局のラドゥー大佐の登場により、彼女の日常は一変する。ラドゥーは敵国であるドイツにすら自由に行き来出来るマタ・ハリに目をつけ、フランスのスパイになるよう脅しをかけたのだ。そんな中、暴漢に襲われそうになったマタ・ハリは、戦闘機パイロットのアルマンに助けられる。お互いに通じるものを感じたふたり。あっという間に恋に落ちるも、戦時下においてふたりの幸せな時間は長くは続かず……。


今回で再々演となる演目だが、その人気の理由を改めて体感する3時間となった。やはりまずはマタ・ハリという女性の魅力が大きい。ジャワの妖艶な踊り手にして、スパイとして暗躍したと言われる実在の人物。その華やかさとは裏腹に、抱える闇の深さ。そしてそれゆえに強く愛を求めながらも、信じ切ることが出来ない悲しさ。そんな複雑な生きざまを、柚希は一見強く、だが実に繊細に、愛希は危ういようで、芯の太さを滲ませ体現する。同じマタ・ハリながら両極とも言えるふたりの演技に、それぞれ役者としての底力を見た。また続々と変わる絢爛豪華な衣裳も目を引く。


そんなマタ・ハリの人生を大きく変えることになるのが、ラドゥー大佐とアルマンというふたりの男。前者は力で、後者は愛で彼女と繋がろうとする。傷だらけのマタ・ハリが、純粋なアルマンに惹かれ、共に生きたいと願うのはある意味わかりやすい。しかし今回より興味を引かれたのは、いわばヒールとも言えるラドゥーの存在だ。大佐としてのプライド。部下である兵士が次々に死んでいく苦悩。マタ・ハリに対する愛憎とも言える執着。そんな彼女の愛を一身に受けるアルマンへの嫉妬。ラドゥーのドラマにフォーカスすることで、作品がまた違った見え方をしてくるのが面白い。

アルマンにも注目したい点がある。本作は韓国の再演版をもとに作られているが、韓国の初演版で歌われていた『From Way Up There』というアルマンがメインのナンバーを復活させているのだ。それは演出の石丸さち子が熱望したもので、特別に許可を得た上で初演版とは違うシーン、違う形でこのナンバーを取り入れている。本作の中では異色とも言える爽やかなナンバーで、戦闘機パイロットであるアルマンが、戦場ではない、平和の場所としての空への希望を歌い上げる一曲。このナンバーが加わることで、ラストシーンの見え方もまた変わってくるはずだ。

アルマンを演じたのは、近年『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』や『キンキーブーツ』など大作への出演が続く甲斐翔真。念願だったというアルマン役を、大きな愛と優しさ、抜群の歌唱力で体現する。また甲斐と同じく今回からの初参加となったのは、ラドゥー役の廣瀬友祐。上官として苦悩する姿には人間味が溢れ、これまでにない、また新たなラドゥー像を形成している。


そして柚希と同じく初演からの参加組である加藤和樹は、さすがのひと言。初演以来となったラドゥーとアルマンという真逆のふた役を、共に圧倒的な存在感で見事演じ分けている。


フランク・ワイルドホーンの楽曲らしい、壮大で圧巻のナンバーはどれも聴きごたえがあり、エンターテインメントとして非常に満足度が高い。と同時に、戦争の話題が悲しくも身近になってしまった現在、『マタ・ハリ』の世界は決して他人事とは思えない。劇中、特に胸に刺さったのは、戦場に向かった男たちの安否を案じる女たちや、死にゆく兵士たちに祈りをささげる尼たちのナンバー。市井の人々の想いをもとりこぼさない、そんなところにも本作が愛される理由があり、作品としての強さを感じる一因となっている。
取材・文:野上瑠美子 撮影:岡千里
★ミュージカル『マタ・ハリ』製作発表会見レポートはこちら
<公演情報>
ミュージカル『マタ・ハリ』
脚本:アイヴァン・メンチェル
作曲:フランク・ワイルドホーン
歌詞:ジャック・マーフィー
オリジナル編曲・オーケストレーション:ジェイソン・ホーランド
訳詞・翻訳・演出:石丸さち子
出演:
マタ・ハリ:柚希礼音 愛希れいか(Wキャスト)
ラドゥー/アルマン:加藤和樹(Wキャスト)
ラドゥー:廣瀬友祐 (Wキャスト)
アルマン:甲斐翔真 (Wキャスト)
ヴォン・ビッシング:神尾佑
アンナ:春風ひとみ
パンルヴェ:中山昇
ピエール:長江崚行
キャサリン:青山郁代
コリフェ(ファーストダンサー):三井聡
井口大地 / 石井雅登 / 尾川詩帆 / 尾関晃輔 / 伽藍琳 / 木暮真一郎 / 坂口杏奈 / 佐々木淳平 / 高倉理子 / 花陽みく / 晴音アキ / 福本鴻介 / 森山大輔 / 山田美貴
【東京公演】
2025年10月1日(水)〜10月14日(火)
会場:東京建物 Brillia HALL
【大阪公演】
2025年10月20日(月)〜10月26日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
2025年11月1日(土)〜11月3日(月・祝)
会場:博多座
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/matahari2025/
公式サイト:
https://www.umegei.com/matahari2025/
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