2年前の川崎CLUB CITTA'35周年を機に再集結したレピッシュはそれから毎年一回東名阪ツアーを行っている(余談だがCITTA'とレピッシュの縁は深い。当初CITTA'は現在とは違う場所にあったが、レピッシュのライブ時の振動で近所の雀荘の麻雀パイが倒れてしまうという苦情が相次ぎ、CITTA'は移転を余儀なくされた)。今年の9月21日で満38周年を迎え、39周年に突入した。MAGUMI(vo / tp)と杉本恭一(g / vo)は還暦を越え、デビュー当時は大学生だったtatsu(b)は58歳。それだけの年月が流れた。
9月28日17時。定刻に登場SEとしておなじみの「KARAKURI」が始まる。音が流れると言うよりぶわっと一気に吹き出して来る。途中からメンバーが現れ、生音が重なる。バックを固めるサポート・ミュージシャンは6人目のレピッシュでもあるトロンボーンの増井朗人、18年前から加わったドラマー矢野一成、上田現逝去の穴を埋める重圧を背負うキーボード&サックスの奥野真哉。オリジナルメンバーを欠いて再始動するバンドの中でも最強の布陣ではないか。
古くからのファンが驚くのは、tatsuがコーラスを担当することかもしれない。昔はMAGUMIにMCを振られても無視するためマイクスタンドも置かれていなかった。「tatsuが喋った!」「tatsuが笑った!」はファンにとって大事件だったのである。対して「美代ちゃんの×××」でのMAGUMIと恭一のクロスジャンプは昔となんら変わらない。「来るぞ来るぞ」のお約束感が絶妙だ。
「ハロー! 歌舞伎町!」
ソールドアウトのZepp Shinjukuは上から見て立錐の余地もない。男性の姿(頭部)が目立つ。名古屋、大阪も男性客が3割もいたらしい。90年代はどこに隠れていたのだろう。
年に一度のライブとなればセットリストが定番曲で占められがちだが、レピッシュは持ち札が多い。いつもなら「柘榴」が入りそうな位置に「夕陽ヶ丘」がある。あの「パヤパヤ」よりも「MAD GILRS」のイントロのほうが歓声が大きい。フロアで踊る誰ひとりとして曲の構成を間違えない。手を挙げるタイミング、ジャンプする場所、すべてを細胞が覚えている。理由などわからない。忘れようとしても忘れられないのだ。
バックの映像(VJ)がまた見事だ。曲に合わせてカラフルに変わる。特に「Party」での降るような星空と観覧車と木立には泣かされた。スタッフの愛情をひしひしと感じる。「ハーメルン」ではリリース当時に作られたPVの映像が切り取られて映り、この曲の特別さが際立った。
「旭タクシー」のイントロのベースの一音で空気がガラッと変わる。レピッシュはこういう場面転換が本当に上手い。ぞくっとするようなタフネス。メンバーは口々に「レピッシュを演るのは大変だ」と言う。いつもは使わない筋肉や神経や脳みそをフルで動かさないと楽曲に太刀打ちできない。そして積み重ねた若気の至りを素知らぬ顔で突き崩して撒き散らし、悔いもせず恥じもせず、ただただ豪快に笑う。
「LOVE SONGS」がいつからMAGUMIのクラウドサーフ曲になったのか誰も覚えていない。フロアに飛び込み、たくさんの人の手で最後尾まで送られ、また戻ってくる。そして間髪を入れず「マージッブルーケイッ」。実はライブ2日前にぎっくり腰になったらしい。途中のMCで「そんなもの微塵も見せない。アドレナリン舐めんな」「みんなが60代になるのが楽しみになるようがんばっています」などと言っていたが、お祭り男の面目躍如。飛んでくる声にナチュラルに「うるさい」と言えるボーカリストはあまりいない。
アンコール。「リックサック」のサビでは一面に手の華が咲く。この曲を初めて聴いたときの高揚感は忘れられない。恭一の20代での入院体験から生まれた「カ・ラ・ダ」が身に染みる年齢に誰もがなった。
曲が呼び込む忘れられない景色は人の数だけある。私が「プレゼント」で思い出すのは2008年10月の中野サンプラザ。上田現追悼ライブでの、ステージ上手から恭一がこのイントロを弾きながら現れたシーン。そして2012年6月の渋谷AX、25周年記念ライブでゲストの奥田民生が地声で歌い切ったとき。アルバム『ポルノポルノ』制作中に聴かせてもらったときは鳥肌がたったことを覚えている。夭折した鬼才。タイガースの好調を喜んでいる顔が浮かぶ。
大ラスの「KUMAMOTO」はまさしくカオス。標準語で歌ったら放送禁止間違いなしの歌詞で熊本のアーケード街の名前を覚えた人も多いだろう。不世出のバンドであることをまた確認する。
来年の約束もしてくれた。毎日に力が湧く。音楽にひたすら夢を見るようなことはもうない。でもかつて、確かにそんな日々があったというだけで充分ではないか。ここに来れば必ず笑顔になれる場を持てるだけで、充分ではないだろうか。
Text:佐々木美夏 Photo:緒車寿一
<公演情報>
『LÄ-PPISCH Live Tour 2025 〜覚醒〜』
2025年9月28日 東京・Zepp Shinjuku
セットリスト
01 KARAKURI SE〜
02 Control
03 VIRUS PANIC
04 美代ちゃんの×××
05 おやすみ
06 楽園
07 夕陽ヶ丘
08 パヤパヤ
09 MAD GIRLS
10 Good Dog
11 room
12 Party
13 歌姫
14 miracle
15 混沌とした時代
16 水溶性
17 ドライブ
18 ハーメルン
19 旭タクシー
20 LOVE SONGS
21 Magic Blue Case
EN1 リックサック
EN2 カ・ラ・ダ
EN3 ANIMAL BEAT
EN4 プレゼント
EN5 KU・MA・MO・TO
<アーカイブ配信中>
チケット販売期間:10月4日(土) 21:00まで
視聴可能期間:10月4日(土) 23:59まで
視聴チケット料金:3,500円(税込)
配信プラットフォーム:Streaming+
<ぴあメモリアルカードサービス申込受付中>
受付期間:10月28日(火)まで
詳細:https://memorial.pia.jp/shop/pages/2025la-ppisch.aspx
■LÄ-PPISCH Live Tour 2025 〜覚醒〜 特設サイト
https://www.cittaworks.com/event/la-ppisch-2025/