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伊礼彼方×音月桂が語り合う、新国立劇場で上演の衝撃作サイモン・スティーヴンス『スリー・キングダムス』への挑戦

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左から)音月桂、伊礼彼方 (撮影:田中亜紀)

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新国立劇場が、英国演劇界の奇才、サイモン・スティーヴンスによる衝撃作『スリー・キングダムス Three Kingdoms』を日本初演する。イギリス、ドイツ、エストニアという3カ国にまたがって展開される壮大なサスペンス。浮かび上がってくるのは、国際的な人身売買組織の存在と、現代社会の深い闇だ。事件の真祖を探るイギリス人刑事イグネイシアスを演じる伊礼彼方と、彼がハンブルクで出会う女性、シュテファニーをはじめ重要な役柄を担う音月桂の対談が実現。この舞台が初顔合わせとなるふたりが、作品への取り組みや演劇への向き合い方について熱く語り合った。

新国立劇場の、あえて中劇場で上演する意味

──まずは戯曲を読まれての印象、この取り組みへの思いをお聞かせください。

伊礼 こうした作品を書くそのマインドに、僕は感動しました。結構踏み込んだ内容ですが、覚悟をもって書いていらっしゃると感じました。だから、「やりますっ!」と!!

伊礼彼方

音月 いま、伊礼さんの熱量を浴びてだいぶ沸騰してきました(笑)。サイモン・スティーヴンスの戯曲ですからワクワクされる方が多いと思いますし、新国立劇場に来られるお客さまはきっと大好き。私がプロデュースをする側だったとしたら、なかなか手をつけられない作品だとは思いますが。

伊礼 僕はもともと不条理な作品が好きで、ハロルド・ピンターの作品をプロデュースしたことがあるんです。そのきっかけをくださったのが(新国立劇場演劇芸術監督の)小川絵梨子さん。『今は亡きヘンリー・モス』(2010年上演)でご一緒させていただいたときは、演劇の面白さにどっぷり浸かってしまい、セリフの裏を考えることがすごく面白くなった。今回のこの作品を読んだら、もうドンピシャ。蓋を開けていくとどんどんいろんな闇が見えて、剥がれていって、気づいたら素っ裸にされている。でも、それに気づかないまま終わる、その面白さ!

音月 上村さんの描くビジョンに早く追いつきたいなと思います。上村さんとは『オレステイア』(新国立劇場、2019年)でご一緒させていただきましたが、自分の役どころをつかまえにいくのがとても難しかった。今回はいろいろとお話を聞きながら、座学を楽しみながらやっていきたいと思います。

──スティーヴンスは、この作品はデビッド・リンチの映画『インランド・エンパイア』に影響を受けたと明言されているそうですね。

伊礼 あのドロドロとした闇の世界は、デヴィッド・リンチの影響をすごく受けていると感じますね。

音月 実は私、デヴィッド・リンチの映画の世界観はあまり得意ではなかったのですが、こうして出会ったご縁にはきっと何か意味があると思いますし、小川さんと上村さんが、新国立劇場の、あえて中劇場で上演すると決められたことにも意味があると思うんです。

音月桂

──あえての中劇場での上演だとしたら、美術はよりスタイリッシュなものになる可能性もあるのではないでしょうか。

伊礼 ヨーロッパでの上演の批評を調べてみたら、オオカミの仮面をつけた人がいたり、ボクシンググローブをつけて誰かを殴っているシーンがあったりで、僕は食肉加工場のイメージを連想してしまった。もしそれを中劇場で、洗練された美術でやるのであれば、その内容とのギャップを楽しめる作品になるのではないかと思うんです。スマートにただただ事件を解決に導こうとしていくと、実はそこにはグロテスクな裏側がありました、というふうに。

音月 上村さんワールドですね。

日本で上演する翻訳劇の面白さ

──伊礼さんが演じられるイグネイシアスという男性はどのような人物なのでしょう。

伊礼 刑事という設定が、面白いですね。守る側の人間が、裏側のその闇に実は加担してしまっていたのかも?というアンバランス。この戯曲が扱っているのはすごく深い闇ですが、そこには僕らに通じるものもある。たとえば、若い頃の僕は結構やんちゃをしてきたけれど(笑)、家族ができたら「こうするとよくない」「これはダメだと」と言うほうになった。でもそれは全部、過去に自分がやってきた過ち。それと同じなんですよね。そこは、観客の皆さんと繋げていくことのできる部分ではないでしょうか。

僕はたいてい、ドラマを動かす側の人物を演じることが多いのですが、今回は自分が主軸で、ドラマを動かしてもらう側。自ら何か行動を起こすというより、影響されていきたい。だから、音月さんの役どころはすごく大事なんです。

音月 ハードルが上がった(笑)! 今日は取材といいながら勉強会に出ているような気持ちになっています。伊礼さんのお話、面白いなと思いましたが、男役の時にもっと知りたかったです! それがいいとか悪いとかではなく、男性から見るとこんなに作品の捉え方が違っているんだと感じました。この物語を女性の目線から見ると、「なんて愚かな!」と思うところがやっぱりある。女性たちがどういうふうに男性たちを翻弄していくのか──。今回のような出自をどうにでもできる役柄は怖く感じますし、理解力が試されますが、そこは楽しそうですし、やりがいのあると感じます。

──イグネイシアスの相棒、チャーリー・リー警部役は浅野雅博さんが演じられます。

音月 ふたりの掛け合いが楽しみですね。

伊礼 でもそれが、まあ薄っぺらい(笑)。

音月 7年もバディを組んできたのに。

伊礼 チャーリーの言葉は全部、イグネイシアスの頭の中で別の意味に変換されて聞こえているんじゃないかと、勝手に考えていたりもします。また、イグネイシアスは大学で植物学を修めたはずなのに、ある花の名前がわからない。それってどういうことなんだろう。早く疑問を解消したいですね。演出家の方と会う前にこうして考えを巡らせるのはとても楽しい。あとで答え合わせして、全然合っていないじゃないか!と反省するのも(笑)。

──ヨーロッパの舞台では3カ国語による上演で、字幕が用いられたそうですね。今回はすべて日本語での上演。どのような表現が求められるとお考えですか。

伊礼 一番気になるところです。日本ならではのやり方になるんだと思いますが、僕はちょっとした言葉遣い、表現方法を変えてみたい。最初はすごくスマートな刑事だけれど、次第にスマートを演じなきゃいけなくなっていく、その姿をお見せできたら。ただ、1回観ただけでそれとわかるような演技は、やりすぎのように感じます。2回目を観て、そこで気づいていただけるようなお芝居ができたら。僕にはアルゼンチンのDNAが入っていますが、日本語で喋るときとスペイン語で喋るときとでは、一瞬、違う音色が出る。響きが変わるんです。その響きを日本語だけで表現するのは非常に難しいけれど、これから編み出しますね。

音月 せっかくお客様と一緒に3カ国を旅するなら、ガラッと匂いさえも変わるところをお見せしたいですね。最後は、海外旅行を終えた達成感でお腹いっぱいになっていただけたら。恥ずかしながらエストニアに関してはよくわかっていないことが多いですし、物語の中では国同士の力関係も描かれていく。そこは勉強しなければ。

伊礼 日本では基本的に全員日本人で翻訳劇に取り組むので、色が一辺倒になってしまう。でもそこで工夫を施すのが日本人の素晴らしいところで、観客の皆さんも、それをちゃんと変換して受け止めてくれる。日本の演劇の面白さを感じます。

追求したい表現と、作品、役柄との出会い

──音月さんはシュテファニーのほか、“観客と舞台をつなぐミステリアスな存在”を演じられるそうですが、これはどのようなキャラクターなのでしょうか。

音月 台本には一切出てこないので、私もまだちゃんと咀嚼しきれていないんです。舞台は、お客さまの想像力が最終的な味付け。私たちは一生懸命取り組むけれど、それをどう解釈して、どう受け取って持って帰っていただくかはお客さまに委ねたいと思っています。

伊礼 今回の演出のオリジナルの役、ということでしょうか。

音月 いえ、海外では男性が演じられたと聞いています。舞台となる3カ国を橋渡しして、狂言回し的な役割も担うそうで、歌も歌います。お受けしておきながら自分のやることが全然わかっていないというのも面白いですね。上村さんからは「桂ちゃんのその“陽”の感じで」と(笑)。中性的な役柄とも聞いていますので、また新しい自分を発見できるのではないかと期待しています。

──宝塚、またミュージカルの華やかな舞台で活躍されたおふたりですが、あらためて、このような刺激的な戯曲に真正面から取り組まれる思いをお聞かせください。

音月 ある時、宝塚で歌も踊りもない時代劇のようなお芝居に先輩方と少人数で取り組んだことがあり、そこで初めてお芝居というものに真っ向から向き合いました。すごく楽しかったですし、芝居心がつくと歌にも踊りにも影響する。ただ楽しく歌って踊っていたものが、しっかりと濃くなっていったんです。ミュージカルの舞台も好きですが、もっと繊細な、目の動きだけで表現する映像やストレートプレイでの表現を追求していきたいと、ちょうど思っていたところなんです。

伊礼 僕は一時期、ミュージカルから離れ、3年ほど芝居の世界で活動していました。その後再びミュージカルの舞台に戻ったら、表現がすごく豊かになったと言われました。お芝居、言葉を伝える力が強くなったんだと思います。思った通りでした。ならば、言葉を武器に戦っているプロの人たちと一緒に、この世界でやっていきたいと思うように。僕はいま、ちょうど、変革の時期を迎えているんだと思います。

音月 演劇との出会い、役との出会いにはきっと何かありますし、そのときの自分が抱えている問題と何かリンクすることが多いと感じます。今回の出会いも、きっと何か意味があるんですよね。

伊礼 そう思っている役者は多いでしょう。舞台ではたくさん人を殺し、不倫もしてきましたが、現実の世界でそれをしない理由を、演劇は明確に教えてくれます。僕らには演じることによって得られるものがあり、お客さまにとっても、それを浴びることで得られるものがあるはずです。

取材・文:加藤智子 撮影:田中亜紀


<公演情報>
『スリー・キングダムス Three Kingdoms』

作:サイモン・スティーヴンス
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史

キャスト:
伊礼彼方 音月桂 夏子
佐藤祐基 竪山隼太 坂本慶介 森川由樹 鈴木勝大 八頭司悠友 近藤隼
伊達暁 浅野雅博

【東京公演】
2025年12月2日(火) 〜14日(日)
会場:新国立劇場 中劇場

チケット情報

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/play/threekingdoms/

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