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歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」開幕 三大名作通し上演の最後を飾る『義経千本桜』。世代を超えた豪華俳優陣の共演で上演中

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第三部『義経千本桜』「川連法眼館」 左より)静御前=坂東新悟、忠信実は源九郎狐=市川團子、源九郎判官義経=中村梅玉

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歌舞伎座10月公演「錦秋十月大歌舞伎」が10月1日に開幕した。松竹創業130周年を記念し、今年は30年ぶりに三大名作の通し上演を実施。3月『仮名手本忠臣蔵』、9月『菅原伝授手習鑑』に続き、最後を飾るのは『義経千本桜』だ。源義経の悲運と平家武将の生き残り伝説を軸に展開する壮大な物語。その初日の模様を、公式レポートからお届けする。

長年にわたり人々の心を捉え、愛されてきた作品を今回は、Aプロ・Bプロと2通りの配役で世代を超えた豪華競演で上演する。『鳥居前』の狐忠信をAプロでは市川團子、Bプロでは尾上右近、『渡海屋・大物浦』の碇知盛をAプロでは中村隼人、Bプロでは坂東巳之助の四人の花形俳優がそれぞれ初役で勤めることが話題だ。初日はAプロでの上演。

第一部は『鳥居前』と『渡海屋・大物浦』。『鳥居前』では、義経の忠臣・佐藤忠信の姿を借りた狐忠信が活躍し、『渡海屋・大物浦』では滅びたはずの平家の武将・知盛の壮絶な生き様をみせる。

第一部『義経千本桜』「鳥居前」 左より)佐藤忠信実は源九郎狐=市川團子、鵜の目鷹六=市川青虎

幕開きは、義経と愛妾・静御前の別れを哀感豊かに描き、狐忠信が活躍する名場面『鳥居前』から始まる。兄・源頼朝の疑念を受け、都を落ち延びる源義経(坂東巳之助)。その旅立ちを前に、伏見稲荷の鳥居前では、愛妾・静御前(市川笑也)が義経に同行を願い出るが、切なる願いも届かず……。梅の木に縛られた静の危機を、忠信実は源九郎狐(市川團子)が姿を現し救う。初役で狐忠信を勤める團子が花道から登場すると場内からは割れんばかりの拍手と「澤瀉屋!」の大向うが響く。祖父・三代目市川猿之助(二世猿翁)への憧れを常に口にする團子の狐忠信は、仁王襷を掛け、菱皮の鬘に火焔隈を引いた勇壮な姿で身体いっぱいの立廻りを見せ、観客の目を奪う迫力に満ちる。

第一部『義経千本桜』「鳥居前」 佐藤忠信実は源九郎狐=市川團子

三代目猿之助の狐忠信でも静を演じた“奇跡の66歳”笑也をはじめ、周囲も充実を見せ、幕切れの狐忠信の花道の引っ込みでは、歌舞伎ならではの妙技“狐六法”が披露され、場内を大きな感嘆で包んだ。

続いては、義経への復讐を図る知盛の壮絶な生き様を描く『渡海屋・大物浦』。都を落ち行く義経主従が立ち寄った大物浦の廻船問屋「渡海屋」の主人・渡海屋銀平は、実は滅びたはずの平家の武将・知盛で……。

第一部『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」 左より)お柳実は典侍の局=片岡孝太郎、入江丹蔵=尾上松緑、渡海屋銀平実は新中納言知盛=中村隼人、相模五郎=坂東亀蔵

『渡海屋』では、相模五郎(坂東亀蔵)と入江丹蔵(尾上松緑)が登場し、義経(坂東巳之助)を追うための船を用意するよう迫る。主人・銀平が留守のため、応じるのは女房のお柳(片岡孝太郎)。ふたりが詰め寄るその時、颯爽と船頭姿の銀平(中村隼人)が戻り、力強くふたりを退ける。初役で大役を勤める隼人の登場を客席は大きな拍手で包む。相模たちが繰り出す“魚尽くし”の台詞は、苦し紛れながらも洒落味に富み、場内を大きな笑いで包んだ。

船出を控える義経一行とお柳とのやり取りへ。お柳が世話女房らしい機知と人情を存分に示し、観客の心を引きつける。やがて義経主従が去ると、お柳は娘のお安(守田緒兜)を呼び寄せ、奥にいる銀平へ声を掛ける。巳之助長男の守田緒兜くんは本公演で初お目見得を果たした。やがて姿を現した銀平は一転して白糸縅の鎧姿となり、実は平知盛であることを明かす。お安が安徳帝、お柳がその乳母・典侍の局であることも同時に顕され、物語は大きな転換を迎える。

第一部『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」 渡海屋銀平実は新中納言知盛=中村隼人

続く『大物浦』では、典侍の局となったお柳が帝を守る乳母としての気品と覚悟を示す。そこへ再び相模・入江が登場し、今度は知盛の家臣として戦況を伝えることで、舞台は一層の緊張感に包まれる。満身創痍の知盛が壮絶な立廻りを繰り広げ、客席もヒートアップ。巳之助と長男・緒兜くんのふたりが顔を揃える親子共演を果たし、初お目見得の緒兜くんが歌舞伎座の隅々に届くハキハキとした声での台詞に客席は聞き入ると、温かい拍手に包まれた。大役を務めた隼人が大碇を担いで海へと沈む姿に観客は息を呑み、第一部は圧倒的な迫力のうちに幕を閉じた。

第一部『義経千本桜』「渡海屋・大物浦」 左より)銀平娘お安実は安徳帝=守田緒兜、源九郎判官義経=坂東巳之助

情愛が心に沁みる名作、『木の実・小金吾討死・すし屋』

運命に翻弄される庶民の哀切、親子の情と葛藤が胸に沁みる第二部『木の実・小金吾討死・すし屋』では、無頼漢ながら愛嬌を併せ持つ、ならず者のいがみの権太を中心に物語が繰り広げられる。いがみの権太狐をAプロでは尾上松緑、Bプロでは片岡仁左衛門が勤める。

幕開きは『木の実』から。大和国にある吉野下市村の茶店で、親切ごかしに若葉の内侍(中村魁春)と嫡子の六代君(中村種太郎)、家来の主馬小金吾(坂東新悟)に近づいた権太(尾上松緑)は、鮮やかに小悪党の本性をあらわし、金を巻き上げる。このように悪事を働く権太だが、女房の小せん(中村種之助)と息子の善太郎(中村秀乃介)に見せる姿は愛情に溢れる。

第二部『義経千本桜』「木の実・小金吾討死」 左より)権太女房小せん=中村種之助、善太郎=中村秀乃介、いがみの権太=尾上松緑

家庭の温かみをお客様に伝えることで、後の『すし屋』での別れのつらさをより感じ、この場面がのちに起きる悲劇の伏線となるところも見逃せない。

『小金吾討死』では、小金吾が大勢の捕手たちとの立廻りを勇ましく披露。

第二部『義経千本桜』「木の実・小金吾討死」 主馬小金吾=坂東新悟

そして舞台は、世事に翻弄される庶民の哀切が胸に響く名場面「すし屋」へと繋がる。

大和国下市村の釣瓶鮓屋を舞台にした『すし屋』は、奉公する弥助(中村萬壽)と弥左衛門(市村橘太郎)の娘のお里(尾上左近)が祝言を挙げることになった場面から始まる。お里は田舎娘の大胆さと可愛さを、弥助は典型的な「やつし」の役柄で和事の柔らかみを魅せる。ふたりの仲睦まじいやりとりに客席からは笑みがこぼれ、多幸感が歌舞伎座の空間を充たす。そんなところへ姿を現したのは、勘当の身である権太(尾上松緑)。

第二部『義経千本桜』「すし屋」 左より)弥助実は三位中将維盛=中村萬壽、いがみの権太=尾上松緑、娘お里=尾上左近

平成31(2019)年2月歌舞伎座での父・初世尾上辰之助三十三回忌追善で『すし屋』のいがみの権太を初めて勤め好評を博して以来の上演となる松緑、今回は妹・お里の役を長男の左近が勤める親子共演が話題だ。松緑と左近が初めて兄妹役を勤める舞台となった。権太が登場し、母おくら(市川齊入)から金をだまし取る、可笑しみあるやりとりで、“いがみ”と二つ名の付く悪党ながらも、ふとした仕草一つひとつには、ならず者でありながらどこか憎めない魅力が溢れ、観客の心を掴む。

第二部『義経千本桜』「すし屋」左より、いがみの権太=尾上松緑、梶原平三景時=中村又五郎
第二部『義経千本桜』「すし屋」 左より)鮓屋弥左衛門=市村橘太郎、娘お里=尾上左近、いがみの権太=尾上松緑、弥左衛門女房おくら=市川齊入

母に甘える姿には客席から笑みがこぼれる一方、ある決意をした権太がすし桶を抱えて花道を引っ込む場面は緊迫感が広がり、緩急ある展開で魅了。松緑は筋書のインタビューで「『義経千本桜』の主人公の中で、権太は自分のキャラクターに一番近いと思える愛着のある役」とコメントしている。家を勘当された権太が父弥左衛門に抱く本心が涙を誘い、家族の情愛が心に沁みる名作に、場内は鳴りやまない拍手に包まれた。

桜爛漫の吉野山から宙乗りの大団円へ

第三部『吉野山』『川連法眼館』では、義経の忠臣・佐藤忠信の姿を借りた狐忠信が活躍。Aプロでは市川團子、Bプロでは尾上右近が狐忠信を勤める。『吉野山』のAプロでは尾上右近が清元栄寿太夫として清元の立唄を勤める、役者と清元の二刀流も話題だ。

第三部『義経千本桜』「吉野山」 左より)逸見藤太=市川猿弥、忠信実は源九郎狐=市川團子、静御前=坂東新悟

舞台は桜が咲き誇る吉野山。静御前(坂東新悟)が供をする佐藤忠信(市川團子)とともに恋人の義経の許へ向かう様子を舞踊にしたものだ。姿が見えない忠信を呼ぼうと初音の鼓を打つと、どこからともなく忠信が姿を現す。ゆかりの鼓と鎧を見ては義経を思い、忠信の兄継信が義経の盾となって討死した様子を忠信が物語ると涙に暮れるふたり。やがて静御前と忠信は、義経が居るという川連法眼の館を目指し再び歩み始めるのだった。

第三部『義経千本桜』「吉野山」 左より)忠信実は源九郎狐=市川團子、静御前=坂東新悟

舞台中央の浅葱幕が振り落とされると美しい舞台が広がり、劇場は一瞬にして満開の桜に。

旅支度の静御前が桜を眺めながら美しく舞うと途端に歌舞伎座が吉野山に。まるで春の風の香りを感じるようだ。市川團子演じる佐藤忠信が舞台に登場するとみどころとなる源平合戦の様子を踊りで表現する“軍物語(いくさものがたり)”が始まる。竹本と清元の掛け合いでその様子を勇壮に見せるのが、大きな見どころのひとつだ。

『川連法眼館』は、全五段の『義経千本桜』の四段目の切として知られ、「四の切(しのきり)」の通称で親しまれる人気作だ。

舞台は、都を落ち延びた源義経(中村梅玉)が匿われる吉野山の川連法眼館。

第三部『義経千本桜』「川連法眼館」 左より)亀井六郎=市川青虎、佐藤忠信=市川團子、駿河次郎=市川右近、源九郎判官義経=中村梅玉

幕が開くと、川連法眼(市川寿猿)と妻の飛鳥(中村東蔵)が義経への想いを話している。96歳“現役最年長”の寿猿と、87歳“人間国宝”の東蔵が演じる夫婦の登場に場内が沸く。そこへ義経の忠臣・佐藤忠信(市川團子)が現れるので、義経は伏見稲荷に預けた静御前(坂東新悟)の安否を尋ねる。しかし覚えがないという忠信を不審に思った義経はその詮議を求める。実は静に同道してきた忠信には、別の正体が隠されていた……。

後半の最大の見どころは、初音の鼓をめぐる場面だ。忠信の姿に化けていた源九郎狐(市川團子/二役)がその正体を現し、これまでの経緯を語る。狐の神秘性を描く独特な“狐詞”や、早替りの「毛縫い」と呼ばれる衣裳替えなど、次々と押し寄せる見せ場に観客は息を呑んだ。

その中で、親狐への孝行を果たせなかった子狐の悲しみと哀れさは義経の心を打ち、最終的に初音の鼓は狐忠信に与えられる。鼓を携えて宙を舞う狐忠信の姿に、客席からは割れんばかりの大きな拍手が送られた。

「三代猿之助四十八撰の内」として上演されるAプロでは、祖父・三代目市川猿之助(二世猿翁)の代表作ともいえる「四の切」狐忠信を初めて勤める團子の活躍に客席もヒートアップ。團子は筋書のインタビューで「祖父が創り上げた『川連法眼館』の真髄はケレンと心理の両立で、究極目指すところはそこにあります。自分の中から込み上げるものがなければお客様に伝わらないと思いますので、狐が親を慕う思いを舞台上で感じられるように作り込んでいきたい」とコメント。クライマックスの宙乗りでは、歌舞伎座の空間を満たす喝采の中を、花道から三階席まで天翔けた。

第三部『義経千本桜』「川連法眼館」 忠信実は源九郎狐=市川團子

「錦秋十月大歌舞伎」Aプロでの上演は10月11日(土)第二部まで。その後21日(火)までBプロにて東京・歌舞伎座で上演される。


<公演情報>
松竹創業百三十周年
「錦秋十月大歌舞伎」

【第一部】11:00〜
通し狂言 義経千本桜
 鳥居前
 渡海屋・大物浦

【第二部】15:00〜
通し狂言 義経千本桜
 木の実・小金吾討死
 すし屋

【第三部】18:30〜
通し狂言 義経千本桜
 吉野山
 川連法眼館

2025年10月1日(水)~21日(火)
会場:東京・歌舞伎座

【休演】10日(金)

※下記日程は学校団体来観
第一部:1日(水)、3日(金)、7日(火)、9日(木)、17日(金)、19日(日)、20日(月)、21日(火)
第二部:15日(水)、20日(月)

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2531934

公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/938


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