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『血は立ったまま眠っている』稽古場レポート

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良役の押田岳(左)と灰男役の武子直輝

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2025年10月5日の開幕まであと2日となった赤坂芸術祭2025「血は立ったまま眠っている」。
開幕を目前にした通し稽古のレポートが到着!
演出・中屋敷法仁のコメントとともにお届けする。

寺山修司×中屋敷法仁×紫テント=?

本作は赤坂サカス広場に期間中のみに出現する紫テントで上演される。この作品で初めてテントで芝居を観るという人は少なくないだろう。どんなのものか、と聞かれれば「とにかく一度行ってみて」としか言いようがない。テント芝居は、「観劇」そのものが「体験」だからだ。

屋外に設置されたテントの中では、雨が降れば雨音がし、風が吹けば幕が揺れる。ビニールの幕ひとつで日常から隔てられた空間に、決して広くはない舞台がある。その日によって環境は変わるし、芝居の見え方も変化するだろう。さらに最前列は桟敷席で、椅子席であろうとも舞台との距離はかなり近い。観客は演技をする俳優と同じ空気を吸いながら、手を伸ばせば届きそうな距離にいる物語の登場人物の感情の揺れ動きを感じることになる。観劇をしているというよりは、物語に遭遇し、巻き込まれたような感覚だ。この臨場感、没入感はテント芝居ならではで、劇場での演劇とは別格のものだ。

赤坂サカス広場の紫テント
桟敷席と舞台との距離感(スタッフが撮影)

そんな特別な環境で今回上演される演目「血は立ったまま眠っている」は、昭和の歌人・劇作家、評論家であり、1960~70年代に前衛(アングラ)演劇で時代を席巻した寺山修司が、自身で詠んだ一遍の詩から着想を得て、23歳の時に書き上げたものである。のちに「言葉の錬金術師」「昭和の啄木」とも称される寺山修司が若かりし頃に世に放った言葉たちは、あまりにも切れ味が鋭く、人生を変える衝撃の出会いと感じる人もいれば、切られたことに気づかず、あるいは何も刺さらない人もいるだろう。

だが、このタイトルに初めて触れる人であるならば、本作は「戦後の焼け跡の若者たちの反抗を描く青春ドラマ」である、とだけ知っていただければいい。

何より、演劇界の巨人である寺山修司の戯曲に挑む同郷の青森県出身の中屋敷法仁は、この戯曲を愛し、寺山の生んだ言葉たちを愛して、普段の劇団の公演とも、原作のある2.5次元舞台とも違う種類の思い入れと意志を持って演目に挑んでいることを、まず認識しておきたい。

情報解禁時に発表されたコメント

同時進行するふたつの物語

開幕まであと5日。その日の稽古は、シーンごとの確認をしてから2時間後に「通し」を行うとのこと。

まずは一幕の一場から、短く区切られたシーンごとに、俳優たちが自身の動きや台詞を確認をしながら演じ、中屋敷がその動きやミザンス(立ち位置)、タイミングなどを微調整してゆく。
「よくもこんなに早足で誰にもぶつからずに歩けるものだ」と思うほど、俳優たちは前後左右にすさまじいスピードで空間に登場し、緻密に交差してすれ違い、あらゆる情景を肉体で表現していく。

こうした高速の集団演技と身体表現を中心としたステージングは、中屋敷が得意とするものだが、さらに今回は「街の人たち」役を演じるのが、自身が主宰する劇団「柿喰う客」のメンバーたちが務めているためか、中屋敷の意図をかなり高いレベルで実現しているのだろうと思えた。

おさらい稽古の後、休憩を挟んで通し稽古が始まった。
開演の合図が中屋敷から出ると、この戯曲の元になった寺山の詩が群衆による唄となり、物悲しいメロディとなって、物語の幕開けを告げる。

『血は立ったまま眠っている』はふたつの集団による2本のストーリーが同時に進行していく戯曲である。

ひとつは倉庫に住みつく2人の男と、少女の物語。
17歳の自動車修理工で自由と祖国を愛する良(押田岳)は、テロリストの灰男(武子直輝)に憧れ、弟のように付き従っている。ふたりは港町の倉庫で、自衛隊から備品を盗んでは破壊して革命を目論んでいる。そこに良の姉・夏美(川崎愛香里)が現れることで、彼らの関係に歪みが入ってゆく。

夏美役の川崎愛香里(中央)

もうひとつは、同じ港町の床屋にたむろするずべ公、ジャンキー、前科者といったチンピラたちの物語。世間のはみだし者たちが集まり、退屈を持て余す中でリンゴの闇取引計画が持ち上がるのだが、事態は思わぬ方向に進んでいく。

港町のチンピラたち

良を演じる押田は純粋でナイーブがゆえに危うさを内包する若者を好演。
武子が演じる灰男は、ハンサムで頭が良く、勇敢で、強い信念を持っている…と、良だけに信じられているテロリスト。高らかに理想を語る灰男に、良は心酔していく。ふたりで「革命のための破壊」を計画をする時間は、まるで蜜月だ。
彼らの信じる自由とは、革命とは? と考える間もなく、場面は街のチンピラたちの馬鹿げた会話に転換する。
この何度もある場面転換のシーンが実に巧妙で、境界があいまいなのに、常に観客を飽きさせない仕掛けもあり、2つの物語が決して混ざりあわないよう作られている。
また、登場人物たちの丁々発止の会話は、畳みかけるようなハイスピードの掛け合いで、台詞を聞いているというよりは、音を聞き、言葉という旋律を浴びているかのようだ。

重なることのない2つの物語を夢中で追いかけていると、ふいに現れた雑誌社の男(大村わたる)により、革命前夜の蜜月は崩壊し、はみだし者たちの饗宴も狂気に向かって疾走していく──

寺山さんの言葉が俳優たちの心や体を
自由に解き放ってくれた

稽古を終えた中屋敷は「俳優たちのグルーヴ感が日に日に高まっているのを感じます」と手ごたえを語る。
「寺山さんの言葉が俳優たちの心や体を自由に解き放ってくれている気がしていて、言葉の持つ創造性を頼りにいろんな世界を広げられたらと思っています」
3人の俳優たちの仕上がりについても、作品のテーマに反して開放感のある芝居が出来上がりつつあるという。
「特に僕らが『倉庫組』と呼ぶ物語を担う主人公たちは、閉塞感を打ち破るエネルギーを出し合って、火花を散らしている状況ですね。押田くんは、17歳という自身のエネルギーが制御しきれない若者の揺らぎがすごく見えているし、(武子)直輝くんは男の強さと儚さがあって、今回の作品にマッチしています。川崎さんも夏美という役を単純なヒロインにせず、物語の全体を覆いつくすような深いお芝居をしてくれています。街の人たち(柿喰う客メンバー)は、言葉を自分たちの中に閉じ込めず、むしろ糧にいろんな可能性を探してくれていますね」

中屋敷の挑戦は初日まで終わらない。
最後まで寺山修司の言葉に、可能性を探し続けながら本番を迎えたい、と語る。
「寺山さんの言葉を理解しようとするのではなく、言葉に最後まで疑問を持ち続けていたいと思っています。つい結論を出したくなっちゃうんですが、問い続けていくこと自体が作品の完成に近づけるような気がしています。観てくださるお客様がいろんなものを受け取って帰ってもらえる作品になるといいなと思います」

赤坂芸術祭2025「血は立ったまま眠っている」は、10月5日より開幕する。上演時間は90分。
紫色のテントの幕の中で、作品の完成を見届けたい。

<公演情報>
赤坂芸術祭2025「血は立ったまま眠っている」

作:寺山修司
演出:中屋敷法仁

2025年10月5日(日)~10月16日(木)
会場:赤坂サカス広場 特設紫テント

【出演】
良:押田 岳
灰男:武子直輝
夏美:川崎愛香里
大村わたる 原田理央 長尾友里花 福井 夏 蓮井佑麻
中嶋海央 佐々木穂高 田中 廉 山中啓伍 浦谷賢充

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/akasakageijutsusai-chinemu/

公式サイト:
https://www.gorch-brothers.jp/chi_nemu2025

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