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「フォージャー家に会える幸せ」愛と笑いと音楽で描く『SPY×FAMILY』再演観劇レポート

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ミュージカル『SPY×FAMILY』より、左から)森崎ウィン、泉谷星奈、和希そら 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社

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ミュージカル『SPY×FAMILY』が開幕した。

原作は、遠藤達哉による同名コミック。より良き世界のために諜報活動を行う凄腕スパイが、新たな任務を遂行するべく《仮初めの家族》をつくり、名門イーデン校への入学を目指す姿を描いたスパイアクション&ホームコメディだ。

2023年に初演。ファンからの熱い支持を受け、2年ぶりの再演となった本作では、主人公、ロイド・フォージャー役を森崎ウィンと木内健人、妻のヨル・フォージャー役を唯月ふうかと和希そら、娘のアーニャ・フォージャー役を泉谷星奈、月野未羚、西山瑞桜、村方乃々佳、ヨルの弟であるユーリ・ブライア役を瀧澤翼と吉高志音が演じる。

本レポートは9月21日上演回のものであり、ロイド役を森崎ウィン、ヨル役を和希そら、アーニャ役を泉谷星奈、ユーリ役を吉高志音が務めた。

漫画から飛び出してきたフォージャー家は、舞台の上でどんな活躍を見せてくれるだろうか。

ミュージカルだから伝えられる《仮初めの家族》の愛

ミュージカル『SPY×FAMILY』より 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社

原作物を舞台にするときに大事なことは、なぜ舞台にする必要があるのか。ミュージカルならば、なぜミュージカルなのかということがちゃんと感じられることだと思う。結論から言うと、ミュージカル『SPY×FAMILY』はミュージカルだから描ける『SPY×FAMILY』が舞台上にあった。だから、強く胸を打つ。

暗転になった客席に、爆撃音が遠く響く。舞台上にいるのは、幼い少年。それをロイドが背後から見つめている。戦争により大切なものを奪われた、戦災孤児としての自分。これは、人知れず深い傷跡を抱えた男が、子どもが泣かない世界をつくるために奔走する物語なのだということを、オープニングでしっかりと印象づける。

そして同時にそれは、他人の力など当てにせず、<影なき英雄>として生きてきた者たちの物語なのだということも、ストーリーが進むにつれてわかってくる。

ミュージカル『SPY×FAMILY』より 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社

孤児院からアーニャを引き取り、ブティックで知り合ったヨルと偽装結婚を果たしたロイド。ミッションが終われば、家族は解散。代わりなんて他にいくらでもいる、任務遂行のための道具に過ぎないはずだった…。

原作の持つギャグ、アクション、ホームドラマという3つの軸の中の、特にドラマの部分が音楽によって強調されることで、じんわりと心が温かくなる。

中でも、面接対策のために外出した3人がひったくり犯を捕まえるシーンは、ミュージカルとなることで感動が増幅。「すてきな家族ね」の台詞に、3人の歩んできた孤独の道がひとつに重なり合った奇跡を思わず一緒に喜びたくなる。いつ導火線に火がつくかわからない爆薬を抱えた情勢下ではあるが、タッチはあくまで日常ほのぼの系。登場人物もみなクセは強いものの、根底には愛がある。愛すべき人たちしかいないこの優しい世界にふれていくうちに、気づけば笑顔になっている作品だ。

私たちが会いたかったフォージャー家が、そこにいる

ロイド役の森崎ウィンは初演からの続投。ロイドらしいスマートな立ち居振る舞いがすっかり板についており、地声より低めのジェントルボイスが耳に心地いい。が、ヨルとアーニャと馴染んでいくうちに、いつの間にか、ふたりの素っ頓狂な行動をキレよくさばく名ツッコミに。特にちょっと脱力したツッコミ加減が絶妙で、冷静沈着なスパイから家族に翻弄される“ちち”の顔まで巧みに演じ分けていた。

ミュージカル『SPY×FAMILY』より 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社

ヨル役の和希そらは本作より新たに登板。透き通った歌声がピュアなヨルのキャラクターにマッチする。<いばら姫>のドレスもさすがの着こなしで、ヨルの特徴である蹴り技も見事な切れ味。初めてロイドと出会ったときの心の声など、的確な台詞の緩急で笑いを誘い、ロイド、ヨル、アーニャの3人が揃ったことで、ぴたりと歯車が合ったように芝居のリズムがまわりはじめたのが印象的だった。

アーニャ役の泉谷星奈も本作からの新キャストだ。昨年、ドラマ『海のはじまり』で視聴者を泣かせた名子役にとって、本作は初舞台。だが、そんなことをまるで感じせない愛らしくも堂々とした存在感で、観客を味方に。のびのびとした歌声も微笑ましく、アーニャがいるだけで幸せな気持ちにさせてくれた。

ユーリ役の吉高志音も本作から初参加。見せ場は何と言っても2幕のフォージャー家を訪れるシーン。重度のシスコンがゆえの偏執的な行動の数々をチャーミングに演じて、笑いを生む。歌声も確かなものがあり、今後ますますの飛躍が期待される逸材だ。

ミュージカル『SPY×FAMILY』より、吉高志音(左) 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社

鉄面皮の下に切なさを忍ばせたフィオナ・フロスト役の山口乃々華、のけぞるような立ち方とガニ股風の歩き方でキャラクターらしさを表現したフランキー・フランクリン役の鈴木勝吾、重厚な歌声がエレガンスなヘンリー・ヘンダーソン役の鈴木壮麻、2幕冒頭のパフォーマンスとうっとりするような脚線美で観客を虜にしたシルヴィア・シャーウッド役の朝夏まなとと、キャスト陣は充実。

ミュージカル『SPY×FAMILY』より、山口乃々華(左) 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社
ミュージカル『SPY×FAMILY』より、鈴木勝吾(左) 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社
ミュージカル『SPY×FAMILY』より、朝夏まなと(中央) 製作:東宝 (C)遠藤達哉/集英社

何より印象的だったのは、幕間の休憩だ。ホワイエには「ロイドがカッコいい!」「ヨルさんがヨルさんすぎる!」「アーニャ可愛い!」と頬を赤く染める観客で溢れていた。この幸せな空間こそが、演劇の醍醐味だろう。会いたかったフォージャー家が、そこにいる。その満ち足りた恍惚が、全身をとろけるように包み込んでいた。

ミュージカル『SPY×FAMILY』は、埼玉・ウェスタ川越 大ホールでのプレビュー公演を終え、10月7日(火)から28日(火)まで東京・日生劇場にて本公演を上演する。ぜひフォージャー家に会いに劇場へ足を運んでみてほしい。きっとあなたの見たかった『SPY×FAMILY』が、そこにあるはずだ。

ミュージカル『SPY×FAMILY』プロモーションビデオ

取材・文:横川良明

<公演情報>
ミュージカル『SPY×FAMILY』

原作:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載)
脚本・作詞・演出:G2
作曲・編曲・音楽監督:かみむら周平

出演:
森崎ウィン/木内健人 唯月ふうか/和希そら 泉谷星奈/月野未羚/西山瑞桜/村方乃々佳
瀧澤翼/吉高志音 山口乃々華 鈴木勝吾 鈴木壮麻 朝夏まなと
加賀谷真聡 依里
荒川湧太 岩﨑巧馬 大津裕哉 大場陽介 小熊綸 小倉優佳 鎌田誠樹 木村朱李 栗山絵美 桑原柊 島田彩 髙島洋樹 丹宗立峰 堤梨菜 早川一矢 深堀景介 本間健太 湊陽奈 宮野怜雄奈 森田茉希
多胡奏汰/土岐田凌 大久保壮駿/釼持康心

【プレビュー公演】
2025年9月20日(土)~28日(日)※公演終了
会場:埼玉・ウェスタ川越 大ホール(ウェスタ川越10周年記念事業)

【東京公演】
2025年10月7日(火)~28日(火)
会場:日生劇場

【大阪公演】
2025年11月5日(水)~10日(月)
会場:梅田芸術劇場 メインホール

【福岡公演】
2025年11月17日(月)~30日(日)
会場:博多座

【山形公演】
2025年12月12日(金)~14日(日)
会場:やまぎん県民ホール

【静岡公演】
2025年12月20日(土)・21日(日)
会場:静岡市清水文化会館マリナート

【愛知公演】
2025年12月26日(金)~30日(火)
会場:御園座

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/spy-family/

公式サイト:
https://www.tohostage.com/spy-family/