【稽古場コラム】#ケイコバカラ Vol.2:EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』~レポート&池谷のぶえ&小沢道成インタビュー~
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すべて見る舞台の幕が開くその日まで、キャストやスタッフはどんな時間を過ごしているのか。 公演の稽古場に足を運び、現場でしか見られない素顔や創作のプロセスをお届けするシリーズ、“#ケイコバカラ”。熱気あふれる稽古の様子や、インタビューで語られる想いから、作品が生まれる瞬間を一緒に体感していただくコラムです。
第2回は、失った大切な人を思う物語を、パペットと映像テクノロジーを重ね合わせた斬新な演出で表現したEPOCH MAN『我ら宇宙の塵』。2023年の初演が第31回読売演劇大賞の優秀作品賞、優秀演出家賞、最優秀女優賞を受賞。今年6月には現地キャストによるロンドン公演も果たしました。日本での再演を間近に控えた稽古場の様子と、脚本・演出・美術の小沢道成さん、オリジナルキャストとして今回も奮闘する池谷のぶえさんのインタビューをお届けします。
稽古場ミニレポート:紙1枚にも意味のある稽古場
稽古開始10分前。稽古場の片隅では衣装の西川千明が“ニュー星太郎”のフィッティングを行っていた。制作途中の星太郎のパペットに服を着せて確認している。そんな西川と相談していた小沢が池谷に声をかける。「のぶえさん、宇佐美さん(池谷が演じる星太郎の母親)は何色のカバンを買うと思いますか?」。そこからふたりで宇佐美が買うであろうカバンを話し合う。「抑え目な色ですよね」「10年、下手すると20年使っているくらいの」「くすんだ系のベージュやカーキかな」と宇佐美という人に合ったカバンが具現化されていく。

稽古がスタート。「セリフを整理します」と小沢。ちょっとした変更に渡邊りょうが「今朝同じことを思ってました」と嬉しそう。自分でも迷っているセリフの変更について「これ、決定ではないので一旦フリクションで書いてください」と言った小沢の「あ、この表現いいね。ちょっと試したい演技をやる時も『フリクションやっていい?』って聞こうかな」という発言にしばし盛り上がるキャストたち。池谷も「『フリクション』流行らせよう」とのっかる。
続いてステージングの確認。今作は音楽やセリフに合わせたキャストの動きも見どころのひとつだ。ステージ上に散らばる紙を2、3枚取り、「ここに置いてあるこの紙は、もし手に取ったとしてもここに戻してください。これがあるかないかで、のぶえさんの座る場所が決まります」と笑いを交えながら伝える。無造作に置かれたように見える紙であっても、1枚1枚に意味があり、ステージ上の隅々にまで小沢の思いが巡らされているらしい。「ここ、大事な話なのでボールペンで!」と、先ほどの「フリクション」の対となる表現をすかさず使ってみる小沢。

全員で立ち位置の検討を終え、序盤のシーンをやってみることに。誰も台本は手にしていない。台本に書き込みながら見守る小沢はぎたろーの演技に思わず笑い声をもらしたりも。スウィングキャストの谷恭輔に対し、「僕も見つけなきゃいけないんだけど」と前置きしつつ、「核となる部分を見つけられたらもっとよくなりそう」と伝える小沢。「星太郎がお父さんを探す理由として、悲しみや悔しさが滲み出てくるといい。正解がわからないからこそ、見つけたいという感情。その核が見つけられたら谷くんしかできない良さがもっと出てくるはず」と伝えた。「言葉のやり取りはできている、じゃあ心のやり取りは?」と投げかけると、他のキャストたちもセリフを反芻し、それぞれの「核」を探し始める。
異儀田夏葉、渡邊、ぎたろーが旅支度をさせ、星太郎パペットが歩き始める重要な場面。「僕やってみていいですか?」とパペットを操ってみせた小沢が、「何かが多いですか? どう?」とキャストやスタッフに投げかける。その中でふと試した動きが理想的なもので、「こっちだ! Beautiful!」と嬉しそう。
セリフに込めた思いを語る中で「役に(自分の感情を)持ち込んでもいいしそれが演劇の醍醐味でもあると思う」と小沢。「みんな考えてくれる人たちだから、お任せしますね」とつぶやく言葉からは、キャストへの信頼感が伝わってきた。
インタビュー:人を知ろうとする物語を、より多くの人に届けたい
──『我ら宇宙の塵』は初演と同じキャストでの2年ぶりの再演ですね。稽古が始まって1週間ほど経つかと思いますが、稽古場の様子はいかがですか。

池谷 再演というよりも、再構築に近い感じです。がむしゃらに走ってた初演をふと立ち止まって振り返り、「ここが気になる」「ここがもっと好きになれそう」という部分を、みんなで作っている感覚です。そこにはもちろん、小沢さんがロンドンで感じてきたことも入ってきて。
小沢 初演、ロンドン公演と、その時々に見つけた面白さの選択肢が多くて、新作を作るより難しいなと思うくらい。ひとつを変えると、連動してどんどん変わっていく感じもあって……。なぜこんな大変な道を選んでしまったんだろう、とみんなに申し訳ない気持ちもありながら稽古をしています。
池谷 大変だけど楽しいですよね。
小沢 ね。今の僕は、より多くの方に劇場に来てほしくて。だから「僕が作りたいものはこれだ!」だけでなく、稽古場のみんなの意見も取り入れて、より多くの人に共感したり楽しんだりしてもらえるものを目指しているんです。
──久しぶりの再会はどうでしたか?
池谷 なんだかこの座組がまたちょっと不思議な座組で、何かしらみんなを祝福することが好きな人たちなんです。この作品が賞をいただいたこともあって、公演後も数ヶ月に一回は会っていました。
小沢 「祝部(いわいぶ)」というLINEグループがあってね。誰かにいいことがあったらすぐ集まって「おめでとう!」って。
池谷 だからあんまり久しぶり感はないんです。逆に飲み友達の期間が長かったから、ちゃんと演技している姿を見せるのは最初ちょっと気恥ずかしくて。
小沢 ほんと? その感じは全然気づかなかった(笑)。

──コメディエンヌの印象の強い池谷さんですが、今作ではかなりシリアスな役を演じています。この役についてはどう捉えていますか?
池谷 初演の時、小沢さんに「ぜひのぶえさんに演じてもらいたい役」と言われて脚本を読んだんですけど、ピンと来なくて(笑)。小沢さんは一体どんな私を観たいの? と、実は正直まだわかっていない、旅の途中なんです。だからこそ、発掘のしがいがあると思います。私が演じる宇佐美という役はあまり愛されない役だなと感じていて……。
小沢 この作品を「桃太郎」の物語とした場合、宇佐美が鬼の役割なのかなと。でも鬼にも抱えている気持ちがあって、それを希望にもつなげられる役柄にしたいと思った時、池谷さんの姿が浮かびました。池谷さんがこういう役も演じるんだという印象と、この役の人物像がマッチしたらひとつの希望や力強さが生まれるんじゃないかと思ったんですよね。
──池谷さん曰く「愛されない」、最初はなかなか共感しづらい役が中心にいながらも、初演よりもさらに共感を得る、幅広く観てもらうという命題にトライしているわけですね。
小沢 例えば宇佐美に対して「なぜこんなことをするんだろう」とちょっとネガティブな感情を抱いたとしても、もしかしたら自分もそういう面を抱えているけど受け入れたくないという感覚もあるのかなと思うんです。それも共感のひとつかもしれない。もしそうだとしたら、90分間宇佐美という人を見ているうちに、自分が救われていくような感覚にできたらいいのかなとも思っています。彼女の息子である星太郎も、あまりしゃべらないから何を考えているのかわからない。この作品は、人を知ろうとする物語でもあるのかなと。
──最後に、興味を持った皆さんに一言お願いします。

小沢 美術展や映画を観に行く人、あるいはスポーツ観戦に行く人にも楽しんでいただける可能性のある作品だと思っています。目の前で起こる人間の凄さやエネルギーを存分に感じていただける90分になれば。初演の様子はSNSにもあるので、興味を持たれたらぜひフラッと飲みに行く感覚で劇場に来てほしいです。
池谷 生で観る面白さってありますからね。私たちとお客様との時間の共有によって生まれる何かは、劇場でしか体験できないと思います。あと、この作品は普遍的なものだから今後も上演されると思いますが、このキャストでやるのはきっと最後です。なのでぜひ見届けていただいて「『我ら宇宙の塵』のオリジナルを見たよ」といつか言っていただけたら。
小沢 このメンバーで続けていくこともできるんですが、今後新しいものを生み出すためにも、オリジナルキャスト版は今回が集大成ということで、みんなで散ろうかと思っています。
池谷 星屑になるんですね。
小沢 あっははは! その言葉、記事の最後の文章になりそう(笑)
TOPICS:稽古場でのルーティンは・・・
小沢 朝は喫茶店、終わったら缶ビール。それがお決まりです。
池谷 稽古期間中は食べるものが朝昼晩ともだいたい毎日同じになります。考えるエネルギーを全部稽古に費やしちゃうのかな。前は大きめのおにぎりを握ってたんですけど、今は分割して持ってくるという地味な流行りです(笑)。すると、2回楽しめるわけですよ。
小沢 なんか、真面目におにぎりの話をしてるの面白いですね(笑)。
取材・文:青島せとか 撮影:一色健人
プロフィール
小沢道成(おざわ・みちなり)
演出家・脚本家・俳優。自身が主宰する「EPOCH MAN」では出演のほか脚本・演出・美術・企画制作なども手がける。『オーレリアンの兄妹』(21)が第66回岸田國士戯曲賞最終候補作品に選出。『我ら宇宙の塵』(23)が第31回読売演劇大賞「優秀作品賞」「優秀演出家賞」を受賞。2025年はロンドン公演『Our Cosmic Dust』(脚本・演出・美術)のほか、『しばしとてこそ』(演出・美術)、東洋空想世界『blue egoist』(脚本)、『Bug Parade』(脚本・演出・美術)を手掛けている。
池谷のぶえ(いけたに・のぶえ)
1994年劇団「猫ニャー」(後「演劇弁当猫ニャー」)の旗揚げから解散まで参加。近年の主な出演作に、舞台『ライバルは自分自身ANNEX』(作・演出:ブルー&スカイ)、『鎌塚氏、震えあがる』(作・演出:倉持裕)、『桜の園』(作:アントン・チェーホフ/上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)、『正三角関係』(作・演出:野田秀樹)、TVアニメ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(Eテレ)、TVドラマ連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK)、『LIFE!』(NHK)、『19番目のカルテ』(TBS)、『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS)、『スロウトレイン』(TBS)、『ザ・トラベルナース』(EX)、映画『52ヘルツのクジラたち』、『浅田家!』、『モリのいる場所』など。2020年上演『獣道一直線!!!』(作:宮藤官九郎/演出:河原雅彦)にて、第28 回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。2023年上演の本作初演『我ら宇宙の塵』(脚本・演出・美術:小沢道成)と、『無駄な抵抗』(作・演出:前川知大)にて、第31回同賞最優秀女優賞受賞。
<公演情報>
EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』
「我ら宇宙の塵」2025 Tour ティザー映像
<あらすじ>
少年は、父の行方を探しに家を出た。
その少年を探しに、母も家を出た。
長い長い旅の途中、出会った街の人に聞いてみた。
どこに行けばいいのか、と。
―――遺された者達が辿る、宇宙と、この地球の物語。
脚本・演出・美術:小沢道成
出演:池谷のぶえ 渡邊りょう 異儀田夏葉 ぎたろー 小沢道成 / 谷恭輔(スウィ ングキャスト)
【東京公演】
2025年10月19日(日)~11月3日(月・祝)
会場:新宿シアタートップス
【大阪公演】
2025年11月6日(木)~11月10日(月)
会場:扇町ミュージアムキューブ CUBE01
【北九州公演】
2025年11月14日(金)~16日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 小劇場
【金沢公演】
2025年11月21日(金)~24日(月・祝)
会場:金沢21世紀美術館 シアター21
公式サイト
https://epochman.com/wuc2025
チケット情報
https://w.pia.jp/t/epochman/
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