東京国際映画祭で上映決定! PFFアワード2025準グランプリ『BRAND NEW LOVE』岩倉龍一監督インタビュー
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岩倉龍一監督
続きを読む10月27日(月)より開催される『第38回東京国際映画祭』の特別提携企画として、11月3日(月・祝)に、自主映画コンペティション「PFFアワード2025」の受賞作が上映される。
史上2番目となる応募作795本の中から、22本の入選作品が選ばれた「PFFアワード2025」。9月の『第47回ぴあフィルムフェスティバル2025』で上映され、審査員を務めた俳優の門脇麦、映画監督の山中瑶子らにより各賞が発表された。
このたび、東京国際映画祭での受賞作上映で、グランプリを受賞した『空回りする直美』(中里ふく監督)と、準グランプリ『BRAND NEW LOVE』の上映が決定。『BRAND NEW LOVE』の岩倉龍一監督のインタビューが到着した。
強固な信頼関係で結ばれた制作スタッフと共に、コーヒーカップが織りなす美しい恋愛模様を完成させた、岩倉監督に話を聞いた。
なお、「PFFアワード2025」の入選作品は、10月31日(金)までオンラインで配信中。11月13日(木)より開催の『京都ぴあフィルムフェスティバル2025』でも上映される。
──「PFFアワード2025」にて準グランプリを受賞された率直な感想を教えてください。
岩倉龍一(以下、岩倉) まず、素直に嬉しかったんですが、それよりもびっくりしたというのが正直なところです。『BRAND NEW LOVE』は映画が流れていくペースもスローですし、人によっては見づらく感じる人もいる作品だと思っていたので、そういう映画が準グランプリというところまでいけるんだなと、シンプルにすごく光栄に思いました。
事前に、身の回りで映画を撮っている方々に作品を観ていただいていたんですが、その時に高評価をいただいて、半ば信じられないような気持ちでいたんです。でも、作品を評価してくださる方がこんなにいるんだなと、PFFの会期中にずっと思っていました。お客さんからは「制作のメンバーがいい」と言っていただけることが多くて、特にそれが印象に残っています。例えば、撮影監督がいい、編集がいい、録音・整音がいいとか。共同作業としてちゃんと観ていただいている感じが、個人的には嬉しかったですね。
──表彰式のコメントでも制作スタッフの方に言及されていましたよね。「愛しているけれども、理解できない存在でもある」ともおっしゃっていました。
岩倉 「フラットな関係性の中でつくる」と言葉で言うことは、簡単だと思うんですけど、やはり限界があるというか、誰かが決定権を持って物事を進めていかなければいけない。制作スタッフのことを信頼して、一緒に仕事をしたいから呼んでいる中で、監督の仕事は「ただこういうことをしてね」と投げるんじゃなくて、「あなたちが何をしても、僕はそれを映画にしますよ」という責任を負うことなんだと思います。誰かと一緒にいたり、何かをするために、どういうお願いをしたらいいのか、どういう場をつくったらいいのか、ということが、『BRAND NEW LOVE』のシナリオにも反映されている気がします。
──『BRAND NEW LOVE』はどういったところから着想を得てつくり始めたのでしょうか。
岩倉 『BRAND NEW LOVE』の脚本では、もともと自転車屋の話を書いていたんです。でも、自転車屋を借りられなくて。撮影のスケジュールが迫る中で、どこか長期的に借りれる、お店のようなロケーションはないだろうかと考えていた時に、助監督の笹本くんのお父様がやられている古道具屋さんを貸していただけることになりました。ただ、自転車屋を古道具屋に変えようとすると、お話がまるっきり変わってしまう。どうしようと思っていた時に、ロベルト・ロッセリーニの『イタリア旅行』をたまたま観ていて、そのプロットに当てはめてみることを思いついたんです。僕は諏訪敦彦監督が好きで、『不完全なふたり』も『イタリア旅行』から着想を得ていると知っていたので。『イタリア旅行』のプロットを全部自分で起こして、今あるキャラクターだったり、古道具屋という設定だったりを、なんとかアジャストしていったらうまくいきそうな感じがして、そこからぐんと進みましたね。
──主人公の唯子と研一が訪れることになる古道具屋も印象的でしたが、『BRAND NEW LOVE』のロケーションはどのように決めていったんでしょうか?
岩倉 ロケーションに関しては、僕は受動的に決めることが多くて、 人通りが少ないとか、カメラを置けそうとか、気を配っていたのは本当に実務的なところくらいでした。冒頭、唯子と研一が歩いてくる道と、最後のロータリーのところは、本当に恥ずかしい話ですが、僕は撮影の当日に見たんです。ロケーションを探してきてくださったのは助監督の笹本くんで。どのメンバーもそうですが、彼は本当に深く作品を理解してくれていたので、「この場所だったら、この脚本に合う動きが取れるんじゃないか」と見つけてきてくれました。
そういうことができたのも、笹本くんに撮影前にずっと脚本の改稿を相談していたからです。あと、撮影に入る前に3日間、1日8時間ぶっ通しで、オールスタッフで改稿作業をする時間を設けていたんです。僕もしっかり脚本を書くようにしたので、脚本通り撮らないといけないというよりは、このシーンではどういうことが映っていればいいのかということを、少しずつ形は違うだろうけど、みんなそれぞれ理解をしていてくれていて。なので、僕が関わっていないところでも、彼らは彼らなりの読解をちゃんとしてくれていて、それにすごく助けられました。
──全員での脚本改稿というのは、具体的にどうやって進めていったんですか?
岩倉 ワンシーンごとに、ト書きも含めて僕が全部読んで、情報としてまずこういうことがわかっている必要があるシーンだということを伝えるんです。例えば「金沢はまた今度行こうよ」というセリフを入れることで、何かをキャンセルしてきたふたりなんだという情報を伝えるとか。その後に、ディテールの部分とか「ひょっとしたらこの情報ってここでわからなくてもいいのかな?」といったことを皆に聞いていく。そうしたら、「じゃあ、ここをこうしていくか」みたいな話が、同時多発的に起こるんです。
唯子や研一といった登場人物たちの人物像も、この改稿作業の中である程度固まっていきました。最終的にはリハの時間に詰めていくんですが。話し合う中で、スタッフ各々の研一像や唯子像が出てくるんですよね。ある人に対して、私はこう思うけど、他の人はまた違う印象を持つというのは、現実においてもそうなので、人物像をひとつに絞る必要はないような気もしていました。「研一はどういう人なんだろう」とか、出てくる登場人物はどういう人なのかを考える時間は必要だけど、でも、それはスタッフや俳優の間で合意を取るための時間じゃなくて、その人自身のことを考えるための時間だったんです。
──『BRAND NEW LOVE』では、俳優どうしの位置関係がまさに、人と人との間にある緊張感や距離感を現していたように思います。
岩倉 どんな場所でも、人間関係が必ずアクションに現れると思うんですよ。例えば古道具屋の中でも、相手がここに座ったんだったら、仲が悪い状態だとこの椅子には座れないから、ここに座った方がいいんじゃないかとか。そういったことが、あらゆる場所に言えると思っていて、ファーストショットや最後のロータリーのシーンにかかわらず、現場で常に皆で話していました。 誰かが近く/遠くに行くとか、移動するということは、ふたりの関係性が変わっていくことの始まりでもあるし、そういった変化や越境が一番捉えられるところにカメラを置いていました。
──人物が会話をする時に、発話者の顔はあまり映らず、会話の受け手の顔が映ることが多いですよね。これには何か意図があったんでしょうか?
岩倉 その人が話していないからといって、何も映らないわけじゃないって思うんですよ。顔だったり声だったり、分かりやすい情報としてその人を映さずとも、もっと言葉になる前の「様子」としか言えないようなものがカメラにはしっかり映るんじゃないかと。顔が紡いできた映画史も確かにあるから、それがまるっきりよくないとは思わないですけどね。
でも、方法論から出発しているわけじゃなくて、それはむしろ現場で見つけていったことです。実際に芝居をしている時に「話を聞いている人の方が迫るものがあるよね」みたいなことは、撮影監督の遠藤さんや、編集の鈴木と話していて。すべてにおいて、「そういうものだからやる」ということを限りなく無くしていきました。

──物語の軸のひとつとしてあるのが、ふたりが古道具屋で出会うカップですよね。なぜこのアイデアを取り入れたのでしょうか?
岩倉 脚本の執筆時点に話を戻すと、『イタリア旅行』のプロットを書き出したとはいえ、それを完コピしたいわけではなくて、骨組みを借りながらも、自分は自分で物語を書く必要がある。でも、『イタリア旅行』も『不完全なふたり』も、個人的にめちゃくちゃ不思議な映画だと思っていて。どちらの映画も、もう世界がそうさせているとしか言えないような終わり方で、人と人がもう一度巡り合うんです。論理とかではなく、でも一緒にいるんだなとわかるような、強烈なものがラストに必要だなと思った時にそれが本当に思いつかなかった。 でも、ふたりの関係性とは別に、何かしらもう1本の軸が通っていた方がいいラストになるような気はしていて。それで試しに、誕生日でカップを渡して、それが割れちゃって最後に直るというのを書いてみたら、うまくハマった感じがあったんです。なので、カップの構想自体は元の脚本の段階からすでにありました。
──今後、どういう映画を撮りたいかなど、構想があればぜひ教えてください。
岩倉 どういう話をつくりたいとかはまだないんですが、もっと出てくる人物が多い映画を撮ってみたいなと思いますね。それを『BRAND NEW LOVE』を作った時のような、周囲とコミュニケーションを取りながら形を削り出していくような姿勢でつくれたらいいなと思います。人が増えるというのは、制作体制として俳優が増えるということでもあるし、映画に出てくるキャラクターが増えると、もっとうまくいかない世界みたいなものがより強く映るような気もします。でも、もっと色々な人と話したり、もっとたくさんよくわからないなと思いながらつくりたいという気持ちが強いです。
取材・文:浅井美咲
「第38回東京国際映画祭」特別提携企画
ぴあフィルムフェスティバル(PFF)「PFFアワード2025」グランプリ受賞作品上映
『空回りする直美』/『BRAND NEW LOVE』
11月3日(月・祝)11:15~
会場:角川シネマ有楽町
詳細はこちら:
https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38030PFF01
『空回りする直美』予告編
『BRAND NEW LOVE』予告編
■「PFFアワード2025」オンライン配信
PFF公式オンライン配信/U-NEXTにて、10月31日(金)まで配信中
https://pff.jp/47th/online/
■「京都ぴあフィルムフェスティバル 2025」
日程:11月13日(木)~16日(日)
会場:京都文化博物館 フィルムシアター
https://pff.jp/47th/kyoto/