ギレルモ・デル・トロ、新作『フランケンシュタイン』を大いに語る! 「“不死”が大嫌い。反対に“死”が大好きなんだ」
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ギレルモ・デル・トロ (撮影:源賀津己)
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すべて見る『ヘルボーイ』(04)、『パンズ・ラビリンス』(06)、『パシフィック・リム』(13)など映画ファンに絶大な人気を誇る作品を次々に生み出し、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)ではオスカーも手にしたギレルモ・デル・トロ。小説家メアリー・シェリーの原作を基に彼が監督・脚本を務めた最新作『フランケンシュタイン』が、11月7日(金)からのNetflix世界独占配信に先立ち、10月24日(金)より一部劇場にて先行公開されている。本作を引っ提げて来日したデル・トロ監督に話を聞いた。
※一部、物語終盤の展開や描写についてのネタバレを含みますので、ご注意ください。
Netflix映画『フランケンシュタイン』予告編
――『フランケンシュタイン』の大ファンだと聞いています。
ギレルモ・デル・トロ(以下デル・トロ) そう、本当に大好き。私としては今まで手掛けてきた映画のすべてが、この『フランケンシュタイン』に到達するまでの学びだったと言ってもいいくらいだ。『ブレイド2』(02)、『クリムゾン・ピーク』(15)、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』(22)……すべて『フランケンシュタイン』からの学びがある。いわば本作は、私にとっての“富士山”なんだよ(笑)。なぜそんなに入れ込むかと言えば、自分にとって自伝的な作品だから。私と父、そして私と子どもたちの物語だからだ。
――どういう部分が“自伝”なのでしょうか。
デル・トロ 子どもの頃の私は父とはまるで違う人間だった。もちろん、愛してはくれた。でも、理解はしてもらえなかったと思う。というのも、父が思い描く子どもというのは外でサッカーをして遊ぶような元気な子だったのに、私といえばいつも家にいて本を読みふけるばかり。いつも哀しい想いを抱いていたとはいえ、そういう私に父は手を差し伸べることができなかったんだ。
そんな経験があったことで、自分の子どもには同じ轍を踏まないように接していたつもりだったにもかかわらず、あるとき彼らに「おじいちゃんと同じじゃないか!」と言われてしまってね。そこでやっと気づき、子どもたちに許しを請い、自分を変えようと思ったんだ。そういう2代にわたる父と子の関係、そしてキリストと神の関係、それらをすべてこの作品に込めたんだよ。

――フランケンシュタイン博士の父親は本作ではとても厳しく描かれています。それはあなたの経験があったからですね。
デル・トロ そうなるよね。子どもの頃、メアリー・シェリーの原作を読んで映画を観たんだけれど、映画版と原作には大きな違いがあった。興味をもった私はシェリーの夫であるパーシー・シェリーやバイロン卿など、ロマン派の小説家の本を読み、シェリーが実父のウィリアム・ゴドウィンと悪い関係だったということを知ったんだ。彼女が書いた本に登場する父親はとても邪悪な男で、『マチルダ』では近親相関までやってしまう。
そこで私が考えたのは、シェリーはおそらく、自分の自伝として『フランケンシュタイン』を書いたのではないかということ。モンスターは彼女の魂のような存在なのではないか。ヴィクターが彼女の父親で、彼女自身が怪物に違いないと解釈した。だから本作は、メアリーと私の自伝として物語を伝えたいという思いがとても強かったんだ。

ほら、最後に怪物が、北極の氷にとらえられて身動きできなかった船を押して解放するエピソードがあるだろ? このシーン、船は憎悪や憎しみ、人生において盲目であるということの象徴で、それを押すことで自分自身を解放するという意味になっている。怪物は父親であるヴィクターと向かい合い、彼の赦しを受け入れたことで自分も解放されるんだよ。
それまでの怪物は、憎しみや暴力に対して反応し、エリザベスの愛に対して反応している。憎悪を与えられたら憎悪を返し、愛を受ければ愛を返すだけで、自分自身の意志では反応していない。最後に船を押すことで、初めて自分の意志を通すことができる。それは、憎悪を受けても愛することができるという意味。深い意味での解放を表現しているんだ。
子どもの頃からずっと“死”について考えてきた
――あなたのフランケンシュタインの怪物は、不死であることにとても苦悩します。前作『ピノッキオ』では、不死のピノッキオに対し精霊が「人生に意味をもたせる唯一のものははかなさ」だと語っていました。不死についてはどういう考えをもっているのでしょうか。
デル・トロ 大嫌いなんだ、“不死”が。反対に、“死”が大好きなんだよ(笑)。“死”が待っていることをとても幸せに思っているのが私と言ってもいい。だから、自分の寿命より長く生きるというのはとても傲慢だと思っている。最初の長編映画だった『クロノス』(93)も不死はよくないというテーマだった。
私は“死”は恵みであると考えている。子どもの頃からずっと死のことを考えていて、当時は恐れていたんだけれど、60歳になった今はとてもハッピー。たとえ明日、死んだとしても私は幸せなんだ。これでもう悩むこともないんだとほっとすると思うよ(笑)。ロマン派の流れを代表する音楽家、ショパンの言葉を引用すると「私たち(人間)のもっとも大きな罪は、この世に生まれたことである」。もう大賛成だよ(笑)。

――ヴィクターは非情な創造主ですが、何かを生み出すクリエーターでもあります。映画監督のあなたは共感するところがあったのではないでしょうか。
デル・トロ 私はモンスターでありヴィクターでありエリザベスである、ということになる。私は自分が手掛けたキャラクターを全員愛している。ただし、それは『シェイプ・オブ・ウォーター』以降なんだ。それまでは徹底してモンスターが善、人間は悪として描いてきたから。やはり歳をとったせいか、みんな同じようなものではないのか。人間は誰しも同じようにいい部分と悪い部分をもっていると考えるようになったし、私たちが生きて行くなかで起きる問題は、誰かが引き起こすばかりではなく、自分自身によっても生じるんだということに気づいたんだ。
『ナイトメア・アリー』(21)、『ピノッキオ』そして本作と、善と悪は同時に存在していて、ヴィクターはそれを体現していると言ってもいい。人間はそういうものであり、そういう自分の不完全さを許すということが大切ということだよ。
――ヴィクターの弟であるウィリアムの婚約者、ミア・ゴスが演じているエリザベスは原作と大きく違い、とても面白いキャラクターになってますね。

デル・トロ 彼女がとてもユニークなのは、怪物の美しさと脆さを認識しているところ。そしてもうひとつ、自分自身が奇妙な生き物であるということも分かっている。彼女は自分自身を昆虫に重ねている。チョウが美しいけれど奇妙な生き物であるようにね! 愛の神髄というのは、同じものを美しいと感じたり、同じような価値観をもつことなのかもしれないが、このふたり、モンスターとエリザベスの場合は、同じ痛みを認識するような関係性なんだよ。エリザベスが怪物に抱きかかえられ階段を降りていくシーンのコスチュームは『フランケンシュタインの花嫁』(35)を意識しているんだ。
本作以外に好きな“フランケンシュタイン”映画は?
――シェリーの『フランケンシュタイン』をベースにした映画は、最初のユニバーサルホラー『フランケンシュタイン』(31)から数えきれないほど作られています。好きな作品を教えてください!
デル・トロ いっぱいあるよ(笑)。最初の3部作、『フランケンシュタイン』(31)、『フランケンシュタインの花嫁』、『フランケンシュタインの復活』(39)はもちろん、ハマーフィルムの『フランケンシュタインの逆襲』(57)、メル・ブルックスのパロディ『ヤング・フランケンシュタイン』(74)に、日本のカイジュー映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』(65)、アンディ・ウォーホルの『悪魔のはらわた』(73)も好きだし、2部構成になっているTVドラマ『真説フランケンシュタイン』(73)もよかった。アンドロイドをあつかった『ブレードランナー』(82)も入れたいし、本当にたくさんあって選べないくらいだ。
――あなたは『ピノッキオ』、そしてこの『フランケンシュタイン』と、古典を独自の解釈で現代に甦らせています。他にそういう作品があれば教えてください。
デル・トロ そう、『モンテ・クリスト伯』かな。アレクサンドル・デュマのこの古典をウェスタンとして描こうと思い脚本も書いたんだけど、誰も興味を示してくれなかったよ(笑)。
取材・文:渡辺麻紀
撮影:源賀津己
<作品情報>
Netflix映画『フランケンシュタイン』
一部劇場にて10月24日(金)より公開
11月7日(金)より世界独占配信
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