Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ぴあ映画 > 竹野内豊が“一生ものの体験”で学んだもの「国籍やキャリアが違っても、作品づくりに取り組む姿勢は変わらない」

竹野内豊が“一生ものの体験”で学んだもの「国籍やキャリアが違っても、作品づくりに取り組む姿勢は変わらない」

映画

インタビュー

ぴあ

竹野内豊 (撮影:川野結李歌)

続きを読む

シンガポールのエリック・クー監督の最新作『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』に竹野内豊が出演している。本作で竹野内は、映画界の至宝カトリーヌ・ドヌーヴと、日本が誇る大スターの堺正章と共演しており「一生ものの体験になった」と笑顔を見せる。

映画『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』予告編

本作で竹野内演じるハヤトは、父ユウゾウ(堺正章)の死をきっかけに群馬県高崎を訪れ、父の部屋で世界的な歌手クレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)のコンサートのチケットを見つけて足を運ぶ。その夜、クレアは異国の地でこの世を去り、死後の世界で彷徨いながら、ユウゾウに出会う。生きている人間には“見えない存在”のクレアとユウゾウは、ハヤトを見守り、それぞれが自身の人生、そしてこれからを見つけていく。

ハヤトは東京で映像制作をしている男性だが、映画の冒頭ではどんな境遇なのか不明で、物語が進んでいく中で彼の素性や人となり、彼の抱えている苦悩が少しずつ見えてくる。

「ハヤトはこれまでにどのような人生をたどってきたのか? その過去を想像すると、おそらくいろいろな出来事があったと思うんです。その結果、心にポッカリと穴が空いてしまって、いつの間にか自分の感情をうまく表現することができなくなってしまった。ある意味では、自分自身が何者なのかさえも、よく分からなくなってしまった。そんな人物なのでは?と捉えるところから始まりました」

ハヤトは、映画の冒頭から明確なキャラクターづけがあるわけではない。刑事やシェフのような“職業”で規定されている人物でもない。しかし、竹野内の繊細な演技は観る者の想像力をかき立て、それぞれのハヤト像が出来上がっていく。

「セリフがとても少ないので、ハヤトの感情の変化や、その背景にあるもの、物語にはハッキリと提示されていないものを観てくださる方が想像できるように演じたいと思いましたし、映画を観ていく中で観客がハヤトの過去を想像できるように演じたい、と最初に脚本を読んだときから感じていました」

竹野内は作品によって異なる顔を見せることで知られており、凛とした佇まいが印象的な作品もあれば、相手を煙に巻く油断できない役柄をコミカルに演じることもできる。本作で彼が演じたハヤトは不安を抱えて、どこか所在がなさそうに見える。迷い、後ろめたさ、自暴自棄の感覚……そのすべてがセリフを使わず竹野内の全身から伝わってくるのだ。

「ハヤトは格好の良い人物ではないです(笑)。その点は撮影前からエリック監督ともたくさん打ち合わせをしましたし、メイクさんやスタイリストさんとも相談させていただいて、ハヤトの人物像を構築していきました」

カトリーヌ・ドヌーヴに突然後ろから抱きしめられて……

そんなハヤトを、死後の世界にいる父ユウゾウと歌手のクレアが見守る。演じるのは、竹野内にとっては大先輩の堺正章とカトリーヌ・ドヌーヴだ。

「本作はスタッフとキャストが本当に和気あいあいとした現場で、それぞれが立場を超えて、友だち同士というか、非常にフラットなムードで撮影が進んでいきました。堺さんもカトリーヌさんも大ベテランの俳優さんですから、演技について多くを語ることなく、それぞれが楽しみながら撮影が進んでいった印象です。だから私も事前にガチガチに準備をして演技を考えて……というよりは、エリック監督とも話をしながら、堺さんやカトリーヌさんから出てきたものや、その現場にあるものを受け取って、自分の中から湧き上がってくるものを役に落とし込んでいきました」

以前より竹野内は筆者のインタビューで「相手役が変われば自身の演技も変わる。予定調和にならないように演じたい」と発言してきた。

「やはり、その場で表現することが、この仕事をする上で一番の醍醐味だと思っています。エリック監督はスタッフのことを本当に信頼していて、撮影中もスタッフのアイデアに耳を傾けますし、良いアイデアがあれば、その場で取り入れていくんです。それは演じる側からすると、想定していない状況が出てきたりするわけですが、そうやって演技が変わっていくことも楽しむことができたと思います」

竹野内は、堺正章、カトリーヌ・ドヌーヴとの共演を「一生ものの体験」と語る。

「子どもの頃からずっと『西遊記』を観ていましたから、堺さんと共演できると聞いたときは本当にうれしかったですし、カトリーヌさんと共演できる、それも日本で撮影できる。こんなチャンスはもう二度とないと思いました。撮影現場ではおふたりと演技について話すということはなかったのですが、あれだけの偉大な役者さんが実際に演じている姿を見られるというのは、本当に一生もの体験になりました」

カメラが回れば、竹野内の生きる世界と、堺とドヌーヴの生きる世界は異なるため、両者は触れ合ったり、言葉を交わすことはない。しかし、ふたつの世界は同じフレームの中に共存し、確かに存在している。ここでは生者と死者がゆるやかに繋がり、共存する。本作は、エリック・クー監督の死生観を垣間見ることのできる作品でもある。

「ある場面で、カトリーヌさんが私を後から抱きしめる場面があるのですが、実はこの場面は脚本にはない動きでした。おそらくですが、カトリーヌさんは気持ちで演じられていて、その中で自然と私を抱きしめることになったと思います。設定としてはカトリーヌさんは幽霊のようなものですから、私には見えていないですし、触れられない。だから私は何が起こっても、身体が動いてはいけないんです(笑)。ですから完成したシーンではハヤトは何事もない感じで座ってますが、実際の私は体幹にグッと力を入れて、とにかく動かないようにしていました(笑)。

とは言え、カトリーヌさんのような偉大な俳優さんの気持ちが動いて、後ろから抱きしめられるなんて、本当に素晴らしいと思いました。堺さんもカトリーヌさんも演技に対して非常にフラットでありながら、しっかりと厳しさも持っていらっしゃっる。ご一緒できたことで、すごく勉強になりました」

多国籍の映画人が集い、ひとつの作品をつくる経験は、竹野内の今後のキャリアにも大きな影響を与えることになるだろう。彼の繊細なタッチの演技が海を越えて海外の観客からどう評価されるのかも気になるところ。本作の存在が、俳優・竹野内豊のさらなる飛躍につながることを期待したい。

「本作に出たことで、国籍やキャリアは違ったとしても、作品づくりに取り組む姿勢は変わらない、と確認できました。本当に貴重な経験になったと思っています」

取材・文:中谷祐介(ぴあ編集部)
撮影:川野結李歌
ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト:下田梨来

<作品情報>
『SPIRIT WORLD -スピリットワールド-』

公開中

公式サイト:
https://spiritworld.jp/

(C)L. Champoussin /M.I. Movies /(C)2024「SPIRIT WORLD」製作委員会