「勘違いがエネルギーになる」北山宏光×渡辺大 “野心と挑戦“の哲学
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インタビュー
渡辺大、北山宏光 (撮影/梁瀬玉実)
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物語の舞台は、敗戦後の東京――。戦争で帰る場所を失った人々は荒れ果てた闇市で生き延びていた。混沌とした時代に生きる人間の葛藤を描いた「醉いどれ天使」が令和版として舞台でこの秋、蘇る。
過去には三船敏郎が演じた闇市を支配するヤクザを演じるのは、6年ぶりの主演舞台となる北山宏光。松永と対峙する酒好きで毒舌な医師・真田を演じるのは時代劇から現代劇まで幅広い役柄を表現してきた渡辺大。
”野心“を胸に不器用に生きるふたりの姿は、現代を生きる私たちにも重なる。挑み続ける力の源はどこにあるのか――その答えをふたりが語る。
松永と真田は兄弟みたいなところがある

――北山さんは敗戦後の東京の闇市を支配するヤクザ・松永役、渡辺さんは酒に溺れ、口が悪いが腕は一流の町医者・真田を演じますが、二人はどんなコンビになりそうですか。
北山宏光(以下、北山) 今作は、戦後の闇市の物語で松永は、戦場から逃げて家族を持たない男なんですよね。そんな松永が逃げ込んだ場所が真田の診療所だったんですが、そこでは様々な出自の人たちが一種の家族を形成していて。この舞台は、観る人によって視点は違うかもしれないけれど、僕は家族の形がテーマになっていると思いました。どこか一人で生きられない人たちの物語でもあるのかな。戦後を生き抜いてきた強さを持ちながらも、人間って、一人だと寂しかったり、弱い部分もあったりするから、一緒にいることで安心感を得て、どうにかこうにか生きていける……。そんな松永と真田は、兄弟みたいなところもあると思いましたね。
渡辺大(以下、渡辺) そうなんだよね。いろんな言い方があるけど、松永と真田は兄弟や家族みたいな関係性だと思います。松永は自分の弱さを見せられないまま生きている男で、僕が演じる真田は、その何層にもなっている松永のベールを脱がしてやろうとする。あの手この手で、こっち来いよって引きずり込んでいくような感じなのかなって(笑)。

――お互いの役、ここがご本人にハマっているなと思う点はありますか。
北山 これから稽古で役に深く入る部分もあるけど、僕はもう最初に大ちゃん(渡辺)を見た時から真田としてやってきたぞって思いましたね。
渡辺 気をつけなきゃ、だんだん口が悪くなってる気がする(笑)。真田は口が悪い医者なんで、「この野郎」みたいにケンカっ早い感じなんです。普段もあけすけもなく言ってしまうって怖さがある。
北山 僕は大ちゃんの役のイメージを引っ張ってきて現場に立ってなくて。大ちゃんと会った時に、「どんな声を出すのかな」ってお芝居で対峙してみたら、声も含めて骨太な感じだなと思いましたね。どこで声を出してもバンって届くし、動いていくとパワーがあるんですよね。それがまさに真田って感じがした。
渡辺 北山くんもいうまでもなく、もう松永のまんまじゃないですか。
北山 そう? 自分では分からないなぁ。
渡辺 松永と真田だけじゃなくて、他のキャストの方々も皆さん佇まいも役に似ているなと思いますね。真田が松永に日記を書くように勧めたことから、日記を綴るようになるから、文芸ヤクザなわけだけど。北山くんは?
北山 日記は書いたことないです! そこは違いますね(笑)。
北山くんはすごくいいバランス感覚を持った人

――お二人は、初共演ということで、改めてお互いの印象をお聞かせ下さい。
渡辺 皆、パブリックのイメージとプライベートのイメージは、絶対に違うと思うんですよね。北山くんに関しては、何のイメージも持たずに、何の先入観もなしに一緒にお芝居で向き合ったんですよ。役に入り込んでいるけど、時々、垣間見えるお茶目な部分っていうのがあって。家族みたいな関係性の芝居のやりとりの中で、すごく北山くんらしさが垣間見えたんですよね。いたずらをしたがるような、ちょっと可愛らしい一面が。でも、ちゃんと大人として振る舞っている部分もあって、すごくいいバランス感覚を持った人なんだろうなと思いましたね。
北山 お茶目ですか?(笑)。
渡辺 おせんべいをバリバリボリボリ食べている姿とか、お茶目で面白くて。しかも、このタイミングで食うのって思うようなタイミングで食べるよね。僕もそうだけど、二人とも本読みが始まると、じっとしてないの。二人で立ち上がって動いていたりするから、もう本読みじゃなくなっていたっていう……。自分以外にもこういうことする人いるんだなってちょっと面白かった(笑)。

北山 大ちゃんは、なんて言ったらいいんだろうなぁ。虚勢を張らないっていうか、虚勢を張るものがない。人によってさ、やっぱり、そうやって自分を保っている人もいるじゃない? そういうのが全然なくて。最初からお腹見せてくれるワンちゃんみたいに心を許してくれるみたいな。だから、自分も自然と「昨日、何してたの~?」みたいなラフなテンションでずっと話せるというか。
渡辺 それは北山くんもそうなんだよね。「普段、なんて呼ばれてます?」って舞台のチームの皆にも聞いていて。そういうコミュニケーションってすごい大事ですよね。ここから長い期間、一緒にね、同じ釜の飯を食うわけですから、やっぱり座長として盛り上げてくれているのを感じます。
北山 いやいや、なんもやってないですよ?
渡辺 北山くんの姿勢に皆ついて来ている感じがするな。だから、結構、無茶なことを吹っかけられているでしょ? 踊ってくれとか、ギター弾いてとか。色々台本にない演出がプラスαされていく。僕は「それは大変ですよ」って言うけど、北山くんは黙々と必死にやっていくから、その背中で語る姿でもう皆、ついて行こうと思うし、もう松永だなって思いますね。
ふたりの“野心”「その時代に合うように挑戦を重ねていきたい」

――演出家の深作健太さんが松永と真田のやりとりは、ちょっと『あぶない刑事』みたいなコンビ感があるっておっしゃっていたんですが、いかがですか?
北山 えーっ、「あぶ刑事」? 全然、そんなイメージ持ってなかった(笑)。
渡辺 というか、どっちが舘ひろしさんでどっちが柴田恭兵さんなんだろうね?(笑)。まぁ、そこまでのコンビ感、友情が芽生えるのは、松永と真田の場合は、すごく時間やプロセスが必要になってくるような気がしますね。この舞台での二人は、素直じゃないもどかしさがあると思います。ちょっと合理的な話をすれば済む問題なのに複雑になっていく……みたいな。でも、その不自由さにドラマがあると思いますね。何でも便利に都合よくいっちゃうと、そこにはドラマがなくなってしまうので。約2時間たっぷりと不自由さを描きながら生きていく二人に芽生える関係性を見届けていただきたいです。
北山 そうですね。戦後の混沌とした時代を生き抜いた松永と真田が血の繋がりこそないけれど、家族のような関係性をどう築いていくか、楽しみにして欲しいです。


――松永は、自分はこれからどんどん昇っていくんだという野心を持っていますが、お二人が今持っている野心とは? そんなに壮大な目標でなくてもいいですが……。
北山 いやいや野心っていうのは、壮大なものでしょ!?
渡辺 壮大だよね。でも、役者としての野心は、やっぱり舞台を観に来て下さったお客さんに感動してもらうことでしょう。どの作品でも「あの作品、良かったな」って思ってもらえるような置き土産を人生に何個も何個も置いていくことじゃないですかね。
北山 僕は、なんでしょう。役者としては感動を与えられるものを届けたいっていうのがもちろんありますけど。僕はその時代に合うように柔軟にいろんなことに挑戦していって、いろんな分野で楽しんでやっていくっていうことができたらいいなって思いますね。今までやってきたことを、1個ずつ削ってやるんじゃなくて、それぞれが1個1個エンタメとして、芸術として成立して、アーティストになっていく人生が楽しそうだなって。
渡辺 人生を楽しむ!
北山 そう。野心ではないけど、今年はブルガリア共和国の友好親善大使に就任して、ブルガリアに行ったんですよ。また近いうちにブルガリアに行きたい!という野望も……。まだまだ行ってない場所があるから。行ったことないところも含めてもっと知りたいですね。
野心を叶えるために大事にしていること

――ちなみに野心を叶えようとしている時に一番大事にされてることって何かありますか。
渡辺 絶対的に自信を持つ。やるしかないっていう信念で立ち向かう。とにかく疑わずに進むには、絶対的な自信を持っていないとって思いますね。
北山 俺は勘違い! 子供の頃とか、一番最初に「自分が何になりたいか」って考えた時って、根拠がなくても、「なりたい! なれる!」って思うじゃないですか。テレビで歌番組を観て、「じゃあ、私も歌手になる」って思っても手元にキャリアも何もないわけで。そこからのスタートなんだから、勘違いしていていいんです。そこから謎のエネルギーが生まれて、謎の探求心が生まれて、一生懸命にやっていたら、気づいたら夢が叶っている。そのためには壮大な勘違いをすることが大事だと思う。
――それが大人になるとだんだんできなくなりますよね。
北山 そうそう。大人になったらできないから、手放しながらもいける人と、守る人と、それはもう人生の自分の選択で。何かを理由にして突き進めるのが大人だと思うんだけど。ちゃんとやっぱ、やるときやんないとね(笑)。
渡辺 おそらく、そぎ落とすとそうなっちゃうんですよ。大人になって色々なことが分かってくると、自分にとって要るもの、要らないものがどんどんシンプルになって、そぎ落とされていくからイコールやるしかないって感じなのかな。僕は年齢を重ねていった方がシンプルになって進みやすくはなったかなって、自分の中ではそう思いますね。
――最後に舞台を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
渡辺 深作さんはお客様の心にナイフを突きつけるような作品とおっしゃっていましたが、刺激を与えられるような物語になっていますし、僕らの熱を感じていただけたらなと思っています。僕たちもお客さんとの勝負だと思って頑張っていきますので、ぜひぜひ劇場に足を運んで下さい。
北山 いい作品を観た後って、帰りの電車で、ため息出るじゃないですか。僕は、「醉いどれ天使」がそんな作品になるなって思う予感と、そうなってほしいなって希望があって。作品が持つメッセージというか、考えに触れて、余韻に浸って欲しいですね。深作さんが仰っていた通り、ナイフのように尖っている作品でもあるので、舞台の世界観からなかなか抜けだせないですし。この体験を咀嚼してもらって、きっとこういうメッセージを言いたかったんだろうなあっていうのを、もう1回楽しんでもらいたいです。決して正解はないと思うので、観に来た皆さんがそれぞれの答えを出していくっていう形でいいんじゃないかな。
―演出家の深作健太が語る北山宏光と渡辺大が演じる『醉いどれ天使』の魅力―
今作は2025年版の『醉いどれ天使』です。黒澤明さんと三船敏郎さんが初めてタッグを組んだ映画の舞台化で、北山さんが演じるヤクザの松永は過去に三船さんが演じた役どころ。北山さんと渡辺大ちゃんの役が反対の方が御本人にハマると思うんですが、キャスティングをはあえて真逆にしているのが面白いと思います。北山さんが演じるのは、型通りのヤクザではなく、日記をつけていて、母親に手紙を綴ろうとするような、まるで繊細な文芸ヤクザ。今までになかった新しいヤクザ像を演じていただけそうです。
戦後、死人のように心を失くした松永は、家族をもたず、故郷から逃げて真田のところに飛び込みます。戦後の焼野原を自分の居場所と定めているのが医者の真田で。周りの同級生の医者は出世していくけど、自分は上手くやれない。天使になりたいけどなれない醉いどれ医師が松永ら血のつながりのない者を家族のように居場所を作っていくんですね。松永は真田のもとで家族の温かさを知りもう一回人生に立ち向かってゆく話になります。松永と真田を演じるお二人は、年も近いので、まるで「あぶない刑事(デカ)」のバディものを観ているような明るいやりとりも面白いので、その辺りも楽しんでいただければ。
北山さんは先日ライブを拝見したんですが、アーティストとして鋭い目を持っていて、松永を演じるのにぴったりだと確信しました。どこか野良犬みたいな鋭い眼差しを持っているんですよね。渡辺さんは、ご一緒するのは2回目ですが、すごく楽しそうに稽古場を引っ張って、どんどん役者として登っています。誰よりも一番早く台詞を覚えていて、頼もしいですね。陽気でしっかりものの大ちゃんとギラギラした目を持ちながらもスイートな魅力も持つ北山さんがもつれ合いながら、太い縄を創り上げていっているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。



<作品概要>
『醉いどれ天使』
原作:黒澤明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:深作健太
出演:北山宏光
渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美 / 佐藤仁美 大鶴義丹 ほか
2025年11月7日(金)~23日(日) 明治座
2025年11月28日(金)~30日(日) 御園座
2025年12月5日(金)~14日(日) 新歌舞伎座
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2561783
公式サイト:
https://www.yoidoretenshi-stage.jp/
撮影/梁瀬玉実、取材・文/福田恵子
(北山さん)
スタイリスト/柴田 圭
ヘアメイク/大島 智恵美
(渡辺さん)
スタイリスト/久保コウヘイ(QUILT)
ヘアメイク/大塚貴之(Rouxda)
スーツ/103,400(ボブ/タキヒヨー☎︎03-5829-5671)
その他スタイリスト私物
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