森山開次×和合由依×岡山天音 多彩なキャストが乗り込んだ舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』の冒険を語る
ステージ
インタビュー
左から)森山開次、和合由依、岡山天音 (撮影:藤田亜弓)
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すべて見る2025年11月26日(水)、東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて、森山開次振付・演出による舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』が開幕する。東京2020パラリンピック開会式のレガシーを受け継ぐ新作公演として注目され、「聴覚だけ」「視覚だけ」「視覚と聴覚両方でも」楽しめる舞台を目指す。さまざまな背景を持つ多彩な表現者たちを導く森山と、彼が演出・チーフ振付を手がけたパラリンピック開会式のパフォーマンスで主人公を務めた和合由依、森山とは今回が初顔合わせとなる俳優の岡山天音が、稽古場での取り組み、それぞれの役柄について語り合った。
その場で生まれてくるものを引き出して

──今回の舞台では、ろう者の俳優・ダンサー、義足のダンサー、一輪車パフォーマー、車椅子のパフォーマーなどを含む多彩なキャストが集い、森山さんとともに作品づくりを進められているそうですね。そのような場で、どんな思いで稽古に取り組んでいらっしゃいますか。
和合 パラリンピックの時にご一緒したメンバーもいるのですが、パラのときよりも緊張しています。あのときは演技のことは何も知らずに入った初めての現場だったので、自分がその場でどう対応できるかということしか考えていませんでした。そこで出演者や舞台裏の方々のことをよく知り、皆さんがプロだと学んだからこそ、緊張感はより高まっています。
森山 僕の頭の中には、まだ明確なストーリーやビジョンとして生まれていないものがたくさんあります。それを吐き出し、皆が手探りで作業する中で由依は、いま自分がどうあるべきかと考えながら、感じながら探っています。嬉しいですし、由依自身がプロだなって思います。
岡山 僕は、新しい世界に放り込まれた、みたいな感覚です。活動している場所がバラバラの人たちが集う場所という印象ですし、僕が普段、おもに頼りにしている表現ではないもの、いつもとは違う道具を使って、自分の内側にあるものを表現することを求められる場所だなと感じています。普段は交わらない場所で活動している人たちがひょんなことから出会った中で本当に右往左往していたのですが(笑)、皆さん違う色を持たれているので、ちょっとずついろんな色を分けてもらって、自分の元々ある色に混ぜて、自分でもまだ見たことのない色彩のようなものに出会うことを目指しています。知らないどこかに迷い込んでしまった感じは、僕が演じる「レン」の状況と近いかもしれません。

──レンという役は月に思いを馳せて詩を綴る詩人だそうですが、ご自身ではこの役柄をどのように捉えていらっしゃいますか。
岡山 お客さんに近いところにいる役割なのかな、と思います。この舞台を観る上での眼鏡みたいなもの──舞台と客席を橋渡しするだけでなく、すごくパーソナルなよじれや渦のようなものを抱えている人。受けに徹する訳ではなく、すごく個人的なものを背負っている役柄だと思います。でもまだ全部はわかっていなくて、雲の上にいるような感じも。いつか落ちるかもわからないし、その下に何があるかもわからない(笑)。
──そこは、森山さんが岡山さんの中からいろんなことを引き出されて形にされていくことになるのでしょうか。
森山 引き出せたらいいですね。僕が演出家としてやるべきことはふたつあると思っています。皆さんを導くためには、自分の中にあるいろんなイメージを出し、それを共有して稽古を進めるのですが、反対に、自分が想像したものだけではない、その場その場で生まれてくるものを引き出していく。その両方が必要かなと感じています。天音さんが演じるキャラクターは、お客さんの何かも乗せていける、想像する余白がある人物像にできたらと考えています。
──では、和合さんが演じられる役柄は?

和合 「蒸気機関車ムジカ」と「月の少女ミューズ」の二役です。ムジカは蒸気機関車の先頭で、いろんな人たちを巻き込み、蒸気機関車に乗せて旅をしていきます。レンくんも乗ります。ミューズは、月で踊る少女。二役それぞれを分けて演じるということではなくて、少し被る部分もあって、それが難しくて──。ミューズのシーンを練習していたとき、開次さんに「ここでのミューズはどんな心情で、どういう要素を持っているのか」ということを相談したら、「ここはミューズではなく、由依の要素をもって踊って」と言われて、「ワケがわからない!」(笑)って思いながらやっていました。
摩訶不思議な場所にさらわれるような体験を
──ムジカはラテン語で、「音楽」の語源、ミューズもギリシャ神話の芸術や学問を司る女神。その名を持つふたつの役柄を表現することは、とても難しい取り組みになるのではないでしょうか。

森山 僕も一緒に考えていきますが、由依がどうアプローチできるかが、これからの大きな課題。少し引いて見たとき、ふたつの役は同じ魂に見えてきたらいいなと思うんです。見え方が違っても、根本的なものはどこか一緒に見えてくる、その繋がりが、僕にとってはとても重要です。僕もダンサーとして踊るときは役を演じるけれど、動いているのは自分。だからときどき自分自身の感情でいい、ということもあり得るかなと感じていました。由依に関しては「導いてくれる存在」というイメージが強く、それで皆を導いていく蒸気機関車の先頭と、誰もが見上げる月に──僕が詩人だったらと想像したとき、芸術の光とか種みたいなものがあって、それをいろんな形、いろんな言葉、いろんな動きで表現しようとするだろうと思い、それが由依という存在で表現できたらいいな、と思ったんです。
和合 そんなふうに感じてくださっていたんだ……、と思って、いま、聞いていました。
森山 僕は昔、月をいろんなものに見立てるのが好きでした。車に乗っていると、どこに行っても月がある。小さい頃から旅というと月がセットになっている感覚でした。空に開いた穴のように見えたり、その向こう側にある世界に勝手に名前を付けて、その世界のことを詩にしてみたりして(笑)。目を細めて月を見ると、光のラインが見えてくるのも好きだった。それがまるで自分に降りてきたロードのように見えて、そこを辿る列車であの穴の向こうに行ってみようかと想像もして、自然と僕はその列車をムジカと呼んでいて。実は、僕が作る作品は95パーセントくらい、ほぼほぼ月が出てくるんです。
岡山 すごい……!
森山 自分でも不思議で、「また月か!」という感じですが、「もういいや、毎回出そう」と今回も(笑)。また全然違う月の描き方ができたらいいなと思います。昔の人は月を見上げて、いろんな想像をしていますね。能の『羽衣』では、黒の天人と白の天人とが順番に舞って月の満ち欠けを告げる。詩を詠むとき、月の存在はいろんな言い方ができて、今回もレンは月をみて、この蒸気機関車とともに物語を紡いでいくような詩を書いていく、ということがベースになったら、と考えました。
和合 いまの開次さんの言葉──たぶん公演が終わるまで、ずっと考え続けると思います。

岡山 すごく素敵だなと思うのは、今回は「コラボレーションする」ということがテーマとしてあって、開次さんも具体的で緻密な設計図をあえて持ち込みすぎないようにして、その時、その人、その瞬間でしか生まれない何かみたいなものを待っている。僕はそこにすごく共感します。演出家という立場としては、ある意味怖い運転の仕方だとも思うので、格好いいなと思います。“危ない大人”だなぁとも(笑)。勝手な推測ではあるけれど、キャリアを積まれてそういう場所にいても、「まだ何かある」と、さらに出会おうとされている。稽古場では僕も冒険中ですが、そういった現場に参加できて、すごく貴重な機会をいただけたんだなと日々感じています。
──ワクワクしますね。どんな舞台が誕生するのでしょう。
和合 自分の主観を伝えることには少し抵抗感があるんです。決めつけたり、押し付けたりするようなことはあまりしたくなくて、役に対しても、一旦主観を捨てて、吸収できるものを吸収したい。でも、こんなに多様な方々が集まる機会はなかなかないですし、車いすで生活していても障がいのある方々と関わる機会は意外と少ないので、「どういうことが起こるんだろう!?」ということを楽しみにしていきたいです。お客さんと一緒に、生で、その時間、空間を楽しむことができるのはすごく嬉しいので、その化学反応のようなものを、皆さんそれぞれに楽しんでいただけたらと思います。
森山 感じ方は、障がいの有無に限らず人それぞれ。いろんな想像の仕方、キャッチの仕方、感じ方、切り取り方のできる作品になりたいな、と挑戦しています。今回は旅の物語。一歩旅に出たら、ちょっと視点が変わる可能性もある、ということを届けられたらいいですね。
岡山 摩訶不思議な場所にさらわれて、幕が閉じる頃にはそこから現実の世界に戻ってくる、そんな時間、そんな体験になったらいいなと思っています。

取材・文:加藤智子 撮影:藤田亜弓
<公演情報>
TOKYO FORWARD 2025 文化プログラム
舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』
振付・演出:森山開次
音楽:蓮沼執太
テキスト:三浦直之(ロロ)
出演:
和合由依 岡山天音 坂本美雨 KAZUKI はるな愛 森山開次
/大前光市/浅沼圭 岡部莉奈 岡山ゆづか 小川香織 小川莉伯 梶田留以
梶本瑞希 篠塚俊介 Jane 田中結夏 水島晃太郎 南帆乃佳
演奏:
蓮沼執太 イトケン 三浦千明 宮坂遼太郎
スウィング:
鈴木彩葉 田村桃子 中村胡桃
アクセシビリティディレクター:栗栖良依
スペシャル・アンバサダー:ウォーリー木下
2025年11月26日(水)~30日(日)
会場:東京・東京芸術劇場 プレイハウス
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2561785
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