文学座とキャラメルボックスが異例の初タッグ!“真逆なのに、補い合える” 西本由香×石橋徹郎×多田直人が語る『賢治島探検記 2026』
ステージ
インタビュー
左から)文学座の石橋徹郎、西本由香(演出)、キャラメルボックスの多田直人 (撮影:星野洋介)
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すべて見る2002年の初演以来、再演を重ねている演劇集団キャラメルボックスの『賢治島探検記』。それが今回、なんと初となる文学座とのコラボレーションで上演される。真逆のイメージをもつふたつの劇団がぶつかり合って何が生まれるのか。演出を務める文学座の西本由香、キャストの石橋徹郎(文学座)、多田直人(キャラメルボックス)に話を聞いた。
“反対色”が混ざり合って、どんな色が生まれるか
──まずは、この異例のコラボが実現した経緯を教えてください。
西本 『賢治島探検記』は震災を背景に、「いつでも、どこでもエンタテインメントを提供できる芝居」としてキャラメルボックスさんが作られたものです。そこに共感したプロデューサーの木村さんが「この輪をさらに広げていきたい」と我々文学座にお声がけくださいました。普段混じり合わない集団が遭遇する面白さに期待されたわけですね。文学座の芝居にはある種の閉じたエネルギーがあって、それは密度の濃いものができる源でもあるんですが、一方で凝り固まってしまう面もある。今回はそれを突き破れるような出会いになるんじゃないかと思います。
多田 僕は最初、ピンとこなくて。というのも、石橋さんがキャラメルボックスに出入りされている方なので、文学座さんを近くに感じていたつもりだったんです。でもどうやら、この石橋徹郎という人は文学座の中でかなり異端な存在らしくて(笑)。だから今回、ようやく本当の文学座さんの空気を感じられるんだなと、今メキメキと楽しみになっているところです。
石橋 僕はたまたま、成井さんの演出作に6回参加させていただいて、すごく仲良く楽しくやらせていただいています。でもやっぱりキャラメルボックスと文学座って、印象としては反対色のようでしょう? ただ、反対色って補色になりうるわけで、うまくいけば面白い色合いになるんだろうなと。根や幹を現場で掘り下げていけば、どんな枝ぶりになっても、どんな花が咲いても、とても面白い色彩の木になるんじゃないかと思います。
──お互いの印象は?
多田 石橋さんと初めて共演したのは、キャラメルボックスの『無伴奏ソナタ』という作品です。以来再演のたび、石橋さんと共演できる機会をいただいていて。先輩とも師匠とも違うけれど、とても大きな存在です。石橋さんは、ライブ感のあるお芝居をされる方なんですよ。舞台の上でしっかり生きて存在している。全ての俳優が目指すその境地に達している一人ではないかと。
石橋 達してない達してない!
多田 あ、じゃあ訂正で(笑)。でも僕は、目指すべき先輩俳優のひとりだなと思っております。
石橋 多田くんは優しい人ですからね(笑)。すごくかわいらしい人ですし、きれいな人だな、と思うことがある。これは、成井さんを含むキャラメルボックス全体に対しての印象でもあるかな。普通歳を重ねれば僕のようにスレちゃったり邪なことばかり考えたり言ったりするものだけど、問題に対する扱い方や感覚がきれいだな、と。それがそのまま舞台に出ていると思います。

西本 私は今回初めてご一緒しますが、文学座の同期から「多田さんはすごいよ」と聞かされていて。すごく集中力がある俳優さんだと。観客としては純度高く相手に向かわれる方だなという印象があって、今回ご一緒できるのはワクワクしています。石橋さんは、ロマンチスト。
石橋 恥ずかしいじゃん(笑)。
西本 石橋さんとは、現場でスタッフとしてさんざんお会いしていますが、演出家と俳優としてご一緒するのは実は初めてで、それも楽しみです。
開いているキャラメルボックス、閉じている文学座
──それぞれ、ご自身の劇団の特色をどう認識していますか?
石橋 文学座は、語り合う劇団です。役者が稽古初日に演出家に「あなたの演出プランをまず聞かせてもらえるかな?」というところから始まったりする(笑)。そうやって長年、文学座という場所を大勢の人が通って、叡智……喜びや苦労を語り合った、伝えてきた。それはいいところだと思いますね。西本さんとも実は昨日電話で1時間くらい話して、その内容を今ここでしゃべっているんだけど(笑)。
多田 キャラメルボックスは、みんなケレン味を持って、ホスピタリティとサービス精神で演技しているなと思います。とにかくお客さんを楽しませよう、分からせよう……、すごくおこがましいですが、感動させてやる。そんな強い気持ちでみんなやっています。芸術性よりエンタテインメント。芸術って観る人によって見方、感じ方が変わるものだと思いますが、キャラメルボックスはもう「ここは泣け」「ここは笑え」と引っ張っていく。それが特徴だと思いますね。
西本 さっき文学座はどちらかというと閉じていると言いましたが、それに対してキャラメルボックスはお客さんに対して開いている感じがします。文学座で芝居を作っている中でも、観客に対して劇世界を維持したまま「いま私たちが演じていて、あなたたちが観ていますよね」という瞬間を生み出したい時があって。今回はそういう「開いた芝居/閉じた芝居」を作るという対照的な部分が刺激になりうるのではないかと期待しています。
多田 おっしゃる通り、「開く」と「閉じる」のバランスが大事ですね。僕らも年齢を重ねて、開きっぱなしの「みんな楽しんでね」というお芝居が、少しずつ恥ずかしくなってきつつあって。開くところと閉じるところがあって、お客さんがそれを覗きにきて感動してくれる芝居に憧れます。文学座さんとのコラボでそれができるんじゃないかなと。
石橋 僕は成井さんの演出を6度受けて、成井さん自身も、直人をはじめ役者たちもどんどん変わっている気がする。最初は成井さん、少しでも間が入ると指摘していたんですよ。それが最近は「なんで間を入れないんだ!」と言っているから(笑)。
──今回上演される『賢治島探検記』はどんな作品だと思われますか?
西本 登場人物たちはどうしてこんな必死に「賢治島」を探すのか。そこで物語を語るのか。震災を背景に描かれたこともあって、これは希望を見つけないとやっていられない状況、何もない中で物語だけがある状況、そういうものがベースになっている作品だなと思ったんです。宮沢賢治の作品には、人間のいやらしさとか怖さがちゃんと書かれているんですよね。そこから希望を語り出したいというのがこの作品であって、そこの怖さと、それを俯瞰している賢治の視点を両立できたら面白い。今回のタッグはそれが実現できる組み合わせなんじゃないか、と思っています。
石橋 何もなくなった時、大切なものを失った時に気づける何か。それは非常に残酷でグロテスクなんだけれども、自分の命の嬉しさとか、今一緒に生きている仲間がいること、そういうものにつながったらいいなと思いますね……僕はロマンチストなので(笑)。そんな台本だと思います。

多田 『賢治島探検記』という作品が非常に秀逸だなと思う点は、そのまま宮沢賢治を上演するんじゃなくて、「今から宮沢賢治さんの作品を上演します」と劇中で宣言するんですよね。だからお客さんも僕らも、劇中劇のような感覚で観る、演じることができる。「これって演劇なんで」という世界観をお客さんに伝えることで、なんでもありになるんですよ。俳優がどう演じるかどんな演出になるか、すごく自由度が高い。これは震災を背景に生まれた作品ですが、何か苦しいことがあったときにできることって、僕たちにとってはお芝居しかなくて……それはお祭りだったりしきたりだったり、願いや祈りだったりするんですよね。あの頃僕たちが感じていた思いが今につながっていく。今、この作品をやる意味がここにあるんじゃないかと思います。
文学座とキャラメルボックスのコラボを見届けて
──多田さんがおっしゃったように、「賢治島」は「登場人物たちが賢治島を探しにいく」という枠組みの中で、劇中劇で演じられる賢治作品を自由に入れ替えられる演劇でもあります。今回、セレクトは西本さんが?
西本 はい。よく知られているもので、それぞれの作品の上演順によって広がりが生まれるように考えました。いま考えると、人間の弱さやいやらしさが描かれている作品を選んだんだな、と思います。
多田 西本さんのセレクトで今までとはまた違ったものになるでしょうし、楽しみですね。
石橋 これ、「どんぐりと山猫」が最初にあるのがすごくいいと思う。キャラメルボックスと文学座の連中がお互いに「自分たちの方が面白いんだ」と競おうとするのを、「いやいや、どんぐりの背くらべで、結局同じようなもんだろう」と思わせる作品にも見えて。抽象的な作品から「銀河鉄道の夜」のような具体的なものへと進んでいくのもいいよね。
──自由度の高いこの作品を上演するにあたり、今回はどんな演出を考えていますか?
西本 上演する初台という街と地続きになっていつつも、どうもそこは暮らしやすい世界ではないらしいというところをスタート地点に描いていこうと。過去に『賢治島』を観た人たちにとっても、「あの頃探していた賢治島を彼らはまだ探しているんだ」と思えるような、2、30年後も探しているんだろうなという奥行きが感じられる作品にできればと思います。
石橋 観た人にとって「賢治島」になりうる場所が見つかればいいなと思うんです。例えば引きこもりがちな人にとって、自分がひとりでいる四畳半の部屋だって、仕事の合間の逃げ場になっているトイレの個室にだって、小さな賢治島があるんだと感じられる作品に。演劇がより生活に入り込むような、実際的なものになりえたらいいなと思います。
──最後に、お客様へのメッセージを。
西本 小学校で宮沢賢治作品に出会った時、実は嫌いだったんです。よくわからない怖さがあって。大人になって出会い直した時、その怖さは先ほど言ったような世界の残酷さや汚い部分も描いているからだと思ったんです。懐の大きな作家なんですよね。それを広い視点で提示できるのは、演劇と彼の作品との相性のいい部分だと思います。厳しい世界の中でちょっとでも存在していることが嬉しくなるような瞬間に劇場で出会っていただけたらなと思っております。
多田 コラボはやってみないとわからないから、ぜひそこに立ち会って、良かったかどうか判断してください。その反響によっては、またこういう企画が続くかもしれませんし。
石橋 僕は、きっとうまくいくと思っています。大人になって体験する宮沢賢治の世界と、賢治を愛してやまない成井さんの言葉がすごくきれいに親和して、まっすぐな感動を得られる作品になると思うので、ぜひ劇場に観にいらしてください。

取材・文:青島せとか 撮影:星野洋介
<公演情報>
文学座×キャラメルボックス『賢治島探検記 2026』
原作:宮沢賢治
構成:成井豊(演劇集団キャラメルボックス)
演出:西本由香(文学座)
出演:
栗田桃子 石橋徹郎 萩原亮介 宝意紗友莉 渡邊真砂珠 山下瑛司(以上、文学座)
畑中智行 筒井俊作 多田直人 原田樹里 木村玲衣 石森美咲(以上、演劇集団キャラメルボックス)
2026年1月7日(水)~18日(日)
会場:東京・新国立劇場 小劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kenji2026/
公式サイト:
https://www.kenji2026.com/
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