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東京バレエ団『くるみ割り人形』王子役の大塚卓が舞台の魅力をアピール「お客様が物語にのめり込めるように」

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大塚卓 (photo:Koujiro Yoshikawa)

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今年もまた『くるみ割り人形』のシーズンが近づいてきた。東京バレエ団では、主人公のマーシャとくるみ割り王子がクリスマス・ツリーの中を旅するという独特の趣向による『くるみ割り人形』を上演、今年も5組の主演カップルが、クリスマスの夢の物語を届ける。そのうちのひとり、くるみ割り王子を踊るファースト・ソリストの大塚卓に、『くるみ割り人形』の魅力、東京バレエ団の舞台ならではの見どころを聞いた。

グラン・パ・ド・ドゥの、ほの暗い音楽がアクセントに

──バレエ少年だった頃から、『くるみ割り人形』にはいろんな思い出があるのではないでしょうか。

大塚 子どもの頃はあまりバレエを観る機会はなかったものの、どこからともなくチャイコフスキーの音楽が聞こえてくると、「クリスマスだな」という気分になりました。それがバレエ音楽だとわかっていたかどうか、いまとなってははっきりしませんが、コンクールなどで『くるみ割り人形』の王子のヴァリエーションを踊るようになって、より強く感じるようになりました。

(photo:Koujiro Yoshikawa)

──音楽の素晴らしさを実感するのはどんなところでしょうか。

大塚 たとえば後半に登場する各国の踊り。それぞれに独特の雰囲気がありますが全体的に明るく、楽しい音楽ですよね。でも、花のワルツを経て最後に踊られる金平糖の精──東京バレエ団では主人公のマーシャが大人の女性に変身して踊りますが、彼女と王子のグラン・パ・ド・ドゥに入ると、何かこう、少し暗い響きになるんです。金平糖のヴァリエーションはよくオルゴールにも使われていて馴染みのある人も多いと思いますが、やっぱりちょっと暗い。それが、「ああ、これは夢なんだな」という感覚に繋がるんですよね。

『くるみ割り人形』は数あるバレエ音楽の中でも群を抜いていると感じます。バレエのために作曲された音楽ですから、順々に、物語に沿って繋がっていくように構成されているし、1曲の中にも流れがある。それにしっかり乗って踊れば、感情の持っていき方も自然についてくるように思います。『くるみ』はずっとハッピーな物語ですが、クライマックスのグラン・パ・ド・ドゥのほの暗い音楽がアクセントになって深みが生まれる。とても魅力的に感じます。

──では、東京バレエ団の『くるみ割り人形』初めて取り組んだときには、どのような印象を持たれましたか。

大塚 東京バレエ団には2020年に入団したのですが、当初はあまりよくわかっていない状態だったように思います。ロシアのワイノーネン版の流れを汲む演出と聞いても、どういうことなのかよくわかっていませんでした。ドイツのハンブルク・バレエ学校で学び、その後はオーストラリアのクイーンズランド・バレエで踊っていたので、ロシアのバレエに直接触れる機会はほとんどなかったんです。それに、作品の本質を考える以前に、言われた通り踊り切ることでもう必死(笑)。クイーンズランドでは女性と組んで踊る経験をほとんど積んでいなかったので、『くるみ』で初めて主役を踊らせてもらったときは本当に大変でした。マーシャと王子のグラン・パ・ド・ドゥでは大胆なリフトも組み込まれていて、なるほど、ロシア・バレエだと感じましたが、パートナリングではたくさん課題が残りました。

──2021年のツアー公演で初めて王子役を務められて、これが古典全幕の主役デビューに。『くるみ』の王子はその後も毎年演じていますが、王子役をどのように捉えて取り組んでこられましたか。

大塚 『白鳥の湖』のジークフリート王子のように自分の将来について悩んだりしないし、『眠れる森の美女』のデジレ王子のような高貴で近寄りがたい雰囲気も必要ない。もっと親しみやすくて優しい、少女の夢の中の憧れの王子ですね。だから、ガチガチにすまして見せるのではなく、自然体。もちろん歩き方や佇まいなど、いろいろと気を遣うべきところはあります。とくに大切にしているのは、第1幕の“目覚めのシーン”と呼ばれる場面の表現。ねずみとの戦争でマーシャに助けられたくるみ割り人形が王子に姿を変えるこの場面は、(東京バレエ団団長の斎藤)友佳理さんがとくに大切にされているところでもあります。顔を覆っていた手をどう開くか、目線をどう持っていくか、どう立つか──演じるダンサーによっても違いますが、王子は簡単には顔を見せない(笑)。焦らして焦らして──。

──顔を見せた瞬間、客席から拍手が湧き起こります。

大塚 やっともうひとりの主役である王子が登場するわけですから。大事に表現したいですね。

photo:Shoko Matsuhashi

目覚めたらずっと、憧れの王子

──その後、女性群舞が美しい雪のシーンを経て、マーシャと王子がクリスマスツリーの中を旅していく。東京バレエ団ならではの演出ですが、その見どころ、魅力はどんなところにあると思いますか。

大塚 東京バレエ団のダンサーたちの魅力は、その演技力だと僕は思っているんです。『くるみ』の踊りの見どころといえば、第2幕。マーシャと王子が訪れるお菓子の国で次々と披露される各国の踊り、そこからの花のワルツ、クライマックスの主役によるグラン・パ・ド・ドゥまで、見応えある踊りが続きます。もちろん、東京バレエ団ならではの踊りの技術で見せていきますが、そこに行き着くまでの第1幕もとても重要、お客さまをこの物語の世界を引き込んでいく説得力が求められると思います。シュタールバウム家のクリスマスパーティーでもいろんな踊りが披露されますが、東京バレエ団の舞台上では、周りで見ている人たちも、ただ見ているだけではなく、ちゃんとそこに生きていて、パーティーを心から楽しんでいる。そうしてお客さまを物語の世界へとぐいぐいと引き込んで、第2幕までいざなっていくんです。第2幕の踊りがどんなに充実していても、第1幕が退屈だったら、お客さまはきっと興味を失ってしまう。東京バレエ団のダンサーたちには、お客さまを第1幕から第2幕まで行き着かせる説得力、演技力がある。そこが、東京バレエ団の『くるみ』の魅力のひとつ。第2幕も、小品を次々と上演するだけのバレエ・コンサートではなく、物語の流れをお伝えする演技をしています。そうでないと、全幕バレエの楽しさが半減してしまいますよね。

(photo:Koujiro Yoshikawa)

──その行き着く先、終盤のグランパ・ド・ドゥが主役ふたりの踊りの大きな見せ場となりますね。ところでご自身ではどのような王子を目指していますか。

大塚 『くるみ』の場合はとくに、パートナーとなるマーシャ役のダンサー次第だと思っています。今回のパートナーは秋山瑛さん。『ロミオとジュリエット』や『眠れる森の美女』、また子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』でも共演していますが、『くるみ』では初めてなので、どうやって作っていこうかなと模索しているところです。でも、物語に沿って役作りを考察するという感じではなく、目覚めたらずっと、憧れの王子(笑)。『ロミジュリ』のような恋人同士とも、『眠り』のような結婚式の雰囲気とも違う、『くるみ』ならではのアプローチで深めていきたいなと思っています。フレッシュな顔合わせだからこその『くるみ割り人形』を、期待していただけたらなって思います。

──2021年以来、毎年主役を務めてきた作品だけに、ご自身の進化を感じたり、あらためて東京バレエ団らしさを感じたりすることもあったのではないでしょうか。

大塚 コール・ドやいろんなソリスト役を踊っていると、公演中は舞台に出ていることが多いので、バレエ団の公演を前から観るチャンスはなかなかないのですが、主役を踊らせてもらえるようになってからは、なるべく客席から公演を観る機会を持つようにしています。東京バレエ団の『くるみ』を初めて客席から観たときに感じたのは、「一個一個の積み重ね」ですね。

どの作品でもそうですが、先生方の指導はとても細かく、細部までいろんなこだわりがあって、「どうしてそこまでやらなければいけないの?」と感じることも。でも、そうした小さなこだわり、その積み重ねがあるからこそ、お客さまを現実からバレエの世界へと導いていくことができるんだとわかってきました。ほんの一瞬でもダンサーたちが隙を見せ、現実に戻ってしまったら、バレエはそこで途切れてしまう。

それを実感したのが、第1幕の戦争のシーン。先発の兵隊たちが劣勢になり、「もう負けそう!」というときに騎馬兵たちが颯爽と登場、「援軍が来たー!」とその場の空気を一変させますが、その堂々とした姿の説得力! それは、すごく細かいところを積み重ねてきたからこその表現。そうやって、お客さまが物語にのめり込めるような演技をも楽しんでいただけるのが、東京バレエ団の『くるみ割り人形』ではないかなと思います。

(photo:Koujiro Yoshikawa)

──2025年の最後の公演、これが今年の「踊り納め」ですね。

大塚 今年は終わりますが、あまり一年を振り返る感じにはならないんですよね(笑)。年が明ければまたすぐにリハーサルが始まりますし、僕らバレエダンサーの取り組みは一生、終わりません。

取材・文:加藤智子

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<公演情報>
東京バレエ団『くるみ割り人形』全2幕

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
台本:マリウス・プティパ(E.T.A.ホフマンの童話に基づく)
改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく)
舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ
装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ

【東京公演】
2025年12月11日(木)~14日(日)
会場:東京文化会館

2025年12月11日(木)19:00
マーシャ:沖 香菜子
くるみ割り王子:宮川 新大

2025年12月12日(金)12:30*
マーシャ:足立 真里亜
くるみ割り王子:二山 治雄

2025年12月12日(金)18:30
マーシャ:秋山 瑛
くるみ割り王子:大塚 卓

2025年12月13日(土)12:30
マーシャ:金子 仁美
くるみ割り王子:池本 祥真

2025年12月13日(土)17:30*
マーシャ:涌田 美紀
くるみ割り王子:生方 隆之介

2025年12月14日(日)14:00
マーシャ:沖 香菜子
くるみ割り王子:宮川 新大

※12/12(金)12:30公演、12/13(土)17:30公演は、学校団体が入ります。

指揮:フィリップ・エリス
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
児童合唱:NHK東京児童合唱団

【堺公演】
2025年12月24日(水)18:30
マーシャ:足立 真里亜
くるみ割り王子:二山 治雄

会場:フェニーチェ堺 大ホール

【西宮公演】
2025年12月26日(金)17:30
マーシャ:秋山 瑛
くるみ割り王子:大塚 卓

会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

指揮:井田 勝大
演奏:大阪フィルハーモニー交響楽団
(堺・西宮)

【松江公演】
2025年12月28日(日)15:00
マーシャ:金子 仁美
くるみ割り王子:池本 祥真

会場:島根県民会館 大ホール

※音楽は特別録音による音源を使用(松江)

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2562051

公式サイト:
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/nutcracker/

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