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『スリー・キングダムス』日本初演を前に、新国立劇場がスペシャルトークショー開催 伊礼彼方「最後に全部、繋がる」

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『スリー・キングダムス Three Kingdoms』スペシャルトークショーより 左から)上村聡史、伊達暁、夏子、伊礼彼方、音月桂、浅野雅博 (撮影:宮川舞子)

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英国演劇界の奇才、サイモン・スティーヴンスの『スリー・キングダムス Three Kingdoms』が、2025年12月2日(火)より新国立劇場 中劇場にて上演される。イギリス、ドイツ、エストニアの3カ国の共同制作により誕生した本作。ロンドンで発生した猟奇殺人事件を捜査するふたりのイギリス人刑事が、ドイツのハンブルク、さらにはエストニアのタリンへと赴き真相を探っていくが、そこで浮かび上がってくるのはヨーロッパ全土に広がる犯罪組織。その深い闇、人間の暗部に迫る衝撃作だ。日本初演を演出するのは、上村聡史。初日を約3週間後に控えた11月8日、新国立劇場で大勢のオーディエンスを迎えて開催されたスペシャルトークイベントでは、上村とともに、出演の伊礼彼方、音月桂、夏子、伊達暁、浅野雅博が登場し、稽古場の楽しげな雰囲気を垣間見せながら、作品への取り組み、公演への思いを語った。

ヨーロッパの闇を取り上げ、社会的メッセージを発する舞台に

「サイモンさんはマンチェスターのストックポートという町の出身で、その作劇のテイストにはストックポートのローカルな視点から見た生活感がある。どこか日常に充足感を得ない、穴の空いたバケツに入れても入れても水がこぼれ落ちていくような喪失感を抱えた登場人物が多く、その感覚にとても共感します」と、口火を切ったのは上村。

上村聡史

「本作はもともと3カ国共同制作による作品で、その3カ国が物語にも入れ込まれている。ローカルな視点よりちょっとはみ出すところが多く、登場人物が喪失感を抱えながらグローバルに土地を巡り、レイモンド・チャンドラー風というか、捜査ミステリーものと同時進行で登場人物の心理も追っていく。加えて、いつもの作品以上に会話の軽妙さがある。ヨーロッパの闇と、皆さんが表現される面白い部分とのアンビバレントなバランスが、非常に面白い作品です」と、その魅力を説いた。

当初は、たとえば東京、釜山、ウラジオストクのように、私たちが犯罪の恐怖をより身近に感じる形で上演できないかと話をしていたそう。その後俳優たちとともに読書会を行った結果、あえて脚色しない上演を目指すことに。

「自分たちが生まれながらに持った罪、キリスト教的な原罪というものがベースにある。わかりやすいからといって場所を置き換えると、演じ方は変わってきてしまう。ヨーロッパで西から東にわたっていく設定はそのままに、先進国の影の部分を照射するなら、男性側の前時代的な発想、価値観を痛烈に批判しているところがしっかりと見えてくるのではないかと思いました」(上村)

以前、直接スティーヴンスに直接会って話したときのことを、「よく笑う人でした」と振り返る上村。『スリー・キングダムス』を演出したいと打ち明けると、「ああ、君、クレイジーだね」と返されたという。子どもが4人いて、一番下は女の子。人身売買のニュースが出るたびに、恐怖を覚えていたようだとも。

続いて、イグネイシアス役の伊礼が挨拶。

伊礼彼方

指名されるやいなや勢いよく起立、「楽しくいきましょう!!」と、バディを組むチャールズ役の浅野にも立ち上がってと促し、遠い後方席の人たちを気遣いながらふたりで熱いトークを展開した。「ミステリーとかサスペンスと謳いながらプレトークだなんて、意気込みしか言えないじゃないですか!」と笑いを誘った浅野は、「これを新国立劇場の中劇場でやるとは、上村さんはとても攻めていると感じる」と告白。

浅野雅博

伊礼も「本を読み、ものすごい闇がはびこっていると感じました。それを取り上げ、なおかつ社会的なメッセージを発しようとしている。それを新国立劇場で上演するなんて、大丈夫なのか!?と思いました」と打ち明けた。

音月も、先のふたりの熱をそのまま引き継ぎハイテンションで挨拶。彼女が演じるのはヘレ・カチョーノフ、シュテファニー・フリートマンに加え、もとの台本にはない新たな役で、「舞台と客席を繋ぐミステリアスな存在」の三役だ。

音月桂

「初めて本を読んだときはなかなか消化しきれず、どうなっていくのか予想がつかなかったのですが、稽古場で上村さんに演出をしていただき物語が立体的になってくると、どんどん作品の面白さがわかってきた。実際に人が演じることで、こんなにも世界が広がっていくのかと感じました」。音月は劇中で歌も披露することが明らかにされた。

スティーヴンス作品に取り組んだ経験を持つ伊達は、先に触れられた読書会にも参加。今回はドイツで登場するシュテッフェンを演じる。

伊達暁

「僕はハンブルクでイギリス警察のおふたりを迎える立場。彼らにとってはある種の異物。カルチャーショックです。原作では各国の登場人物が英語、ドイツ語、エストニア語を喋りますが、今回はそれを全部日本語で喋ります。僕はドイツ語のセリフを日本語で喋る。たまに頑張って英語を日本語で喋る。日本語同士でも、通じたり通じなかったり。複雑で、観ている人はこんがらがっちゃうんですけれど(笑)、言葉が通じないとかいろんなカルチャーショックがある。原作のままヨーロッパを舞台にする選択をされたと聞いたときは、この役を演じるにあたってのヒントをもらえたように思います」という。

夏子

夏子が演じるキャロラインは、イギリスでずっと夫イグネイシアスの帰りを待つが、「私は、海外旅行に行くと、たとえばホテルに着いたとき、すごく遠いところに来ちゃったなと思う時間があります。ワクワクでもなく、ネガティブでもなく、ただ体感として、そう思うんです。今回の稽古を見ていると、最後の最後に『うわあ、すごく遠いところに来ちゃったな』ということが何度もあって、すごいお芝居だなと思いました」と、国境をまたいで展開するこの物語の魅力を表現した。

読み解くヒントは『ファウスト』にあり?

さまざまな話題が飛び交ったのち、「そろそろ真面目に話さなきゃ」と再び立ち上がった伊礼が述べたのは、作品を読み解く大きな手がかり。「上村さんから面白いヒントをいただきました。『ファウスト』です。悪魔と契約し、魂を売り渡した男の話ですが、その姿がイグネイシアスに被ると感じました。もうひとつは、イグネイシアスという名前──」。上村は、その由来はローマ帝国時代の聖人(アンティオキアの聖イグナチオ)ではないかと想像する。イグナチオは、罪を犯したわけではないのに、政権が変わると必要ないものとされ、獣に食い殺される刑で殉教した。スペイン語を解する伊礼は「イグネイシアスという名にはすごく情熱的な印象がある」というが、「翻訳劇にはどこか素直に受け入れられないものがありますが、今回上村さんからいろんな情報をいただき、すんなりと受け止めることができた。こうしたヒントをちょっと取り入れた状態で観てくださると、サイモンさんの思いがさらに深掘りできるんじゃないかなと思います」とも。

新国立劇場で手がけた作品の中で最も攻めた演出をしていると語る上村からは、さらに、チェーホフの『かもめ』が引用されること、またキリストの受難劇などの言葉も飛び出した。「知っておいていただいたらより面白いかなと思いますが、知らなくても面白く作っています」と自信をのぞかせる。「1分間に1回くらいは面白い見せ場が来るような作りですが、難しいなって思う部分は難しく感じてもらっていいんです。それが、アンビバレントな楽しさに」。

終始最大出力でオーディエンスを楽しませた伊礼だが、共演者たちそれぞれの役回りについてもしっかり言及。音月の「ミステリアスな存在」は、「香りとか風とか肌感とか、自然そのもののエネルギーの集約だと思っています。空気を変え、その瞬間、気づいたらロンドンからドイツ、エストニア、そこからまたどこかに連れていってくれる」。伊達が演じるシュテッフェンは「とにかくイグネイシアスの心をかき乱すかき乱す! めちゃめちゃやり甲斐のある役」。また「一番難解」と述べたのは、夏子演じるキャロラインだ。15歳という夫婦の年齢差は伊礼と夏子の実年齢とほぼ一緒。伊礼は「その年齢差にものすごくメッセージ性がある。ぜひ覚えておいていただければ。この夫婦は全く会話かみ合っていません。その空気感が何を物語っているのか、最後に全部、繋がるんじゃないかなと思います」とほのめかす。

終始陽気にトークをリードした伊礼について上村は、「今回この役をお願いしたのは、いままでの伊礼さんとは違う印象を、あえて見せたかったから。いままでと違う伊礼さんの質感を見ることができるのではないかと思うので、どうぞご期待いただければと」と締め括った。

新国立劇場の演劇『スリー・キングダムス Three Kingdoms』トレイラー


取材・文:加藤智子 撮影:宮川舞子


<公演情報>
『スリー・キングダムス Three Kingdoms』

作:サイモン・スティーヴンス
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史

キャスト:
伊礼彼方 音月桂 夏子
佐藤祐基 竪山隼太 坂本慶介 森川由樹 鈴木勝大 八頭司悠友 近藤隼
伊達暁 浅野雅博

【東京公演】
2025年12月2日(火) 〜14日(日)
会場:東京・新国立劇場 中劇場

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2562785

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/play/threekingdoms/