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「“ひかり”とは他者のこと」眞栄田郷敦×藤井道人監督が突き詰めた“自己犠牲”の美学

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インタビュー

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(撮影/稲澤朝博)

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あなたは自分より大切な人がいますか――? 『港のひかり』は、自分のために生きてきた元ヤクザの男が、生涯を終える頃に他人のために自分を犠牲にしていく物語。“誰かのために生きる強さ”を主演の舘ひろしが体現し、その主人公との世代を超えた友情を心で演じたのが、眞栄田郷敦だ。メガホンをとったのは、『ヤクザと家族 The Family』、『ヴィレッジ』の藤井道人監督。今作で初めてタッグを組んだ眞栄田と藤井に撮影裏エピソードや自己犠牲の精神について語ってもらった。

20代の俳優では珍しいタイプなんじゃないかな

――まずは、今作でお二人が初めてタッグを組まれたご心境からお聞かせください。

眞栄田郷敦(以下、眞栄田) 『ヤクザと家族 The Family』を拝見して、いつか藤井監督と舘さんとご一緒したいと願っていました。今回、そのお二人と同時にご一緒できる機会をいただいて嬉しかったです。でも、撮影期間は、だいたい2週間くらいと、そんなに長くなかったんですよ。楽しかったので、もうちょっとやりたかったです。

藤井道人(以下、藤井) 郷敦くん主演の『ブルー・ピリオド』は、僕の大好きなチームでやっていてとても良かったので、一緒にできるのが楽しみだなと思っていたんですよ。若手の俳優がたくさんいる中でも感覚派のタイプかなと思っていたんですが、見せ方もそうですし、役との向き合い方みたいなことが洗練されている印象を受けましたね。

眞栄田 えっ、そうですか?

藤井 20代の俳優では珍しいタイプなんじゃないかな。初めてご一緒した今回の映画の時もすごく頼りにさせてもらって。「ご飯を食べに行こうよ」って食事をしながら、相談させてもらったんですけど、全然年齢差を感じないですし、すごく信頼できるなと思っていたので、一緒にできて、楽しかったですよ。

――お食事に行かれたのは、どんなタイミングだったんですか?

藤井 クランクイン前日だったよね。お寿司を食べに行きました。

眞栄田 イン前だったので、そこでは、あまり役のこととか話はしなかったと思います。衣装合わせの時に気になることとか、疑問に思っていることは、確認させてもらったんですけど、とりあえず、現場で一旦ぶつけてみようかなっていう気持ちだったので。ちなみに初対面は、大人がいっぱいいる中でしたよね(笑)。

藤井 そうだったね。そこでちょっと連絡先を早めに交換させてもらって。衣装合わせからいつもの打ち合わせよりも緊張感があったなぁ。俺の横にずっと木村大作さんが座っていたし。スタッフさんたちも50~60歳の人たちが多い中でしたからね。個人的なコミュニケーションでちょっと役の解像度を一緒に上げていきました。

郷敦くんは、余白の埋め方が非常に見事

――眞栄田さん、現場での藤井監督の印象はいかがでしたか。

眞栄田 こだわりが強い方という印象で。僕のわがままをすごく柔軟に聞いてくださる部分もあるんですけど、譲りたくない部分では絶対に譲らないというか(笑)。あと、お芝居をしていて、やっぱりリアルと表現のバランスを取っていかないといけない時がけっこうあって。やっぱり映画なんで、そこのバランスを絶妙に調整して下さいました。今回はモニターがなくて、木村さんのやり方でフィルムで撮影していたにも関わらず、安心感のある現場でした。

――眞栄田さんは、青年期の幸太を演じるにあたって大切にされたことはありますか。

眞栄田 まず幼少期の幸太の芝居を引き継ぎたいなって思いがすごくありました。少年期から12年後の幸太を演じるにあたって、その間の幸太は描かれていないので、そこでどんな生活をして、どんな人生を送ってきたのかをどう滲み出るように演じるかっていうのは、大切なところ。とくに子ども時代から、青年になって初めてのシーンはどういう登場をするか悩みました。笹野高史さん演じる荒川さんとシーンや、警察署で働く職場のシーンだったり、対面する相手との初めてのシーンが個人的には難しかったし、1番考えた部分です。それぞれの場面での登場部分がそれまでの12年間を作るのかなと思って演じました。

――大人になった幸太が舘さん演じる三浦こと“おじさん”と12年後に再会を果たします。目が見えなかった少年が視力を取り戻し、刑事として立派に働けるようになってから再会をして、心を通わせる姿に胸を打たれました。

眞栄田 再会のシーンは、おじさんと出会ったことで、「今幸せです」「今充実しています」っていうことが伝わればいいかなとは思いましたし、やっぱりおじさんの優しさや強さみたいな部分を12年間ずっと大切にしながら生きてきたんだなということが説得力があるように演じられたらいいかなと意識して演じていました。

――そのシーンでもやっぱり少年期の幸太を演じた尾上眞秀さんのお芝居から受け継ぐものは大きかったですか。

眞栄田 そうですね。ご本人にもお会いして、映像も観ました。本編でもわかる通り、おじさんと対峙している時の表情と家に叔母といるときの表情は、全然違うんですよ。本当におじさんに救われているんだなっていうのが伝わってきて。ベースをしっかり作ってもらったので、うまいこと引き継げて良かったです。

藤井 今、郷敦くんが言ってくれたように、やっぱり12年の間にどういう経緯でどういう青年になったのか引き継ぐ最初のシーンは、大切な部分でした。簡単なキャラクターシートは作りましたが、郷敦くんは、余白の埋め方が非常に見事で。郷敦くんのインは叔母さんとの場面だったんですよ。その時の諦めたような表情で、「うわ、すごい読解力だな」と思いました。大人になって刑事になっていて強くいなきゃいけないけど、やっぱり闇を抱えているという繊細さ、そこの絶妙なニュアンスを上手く体現してくれました。

終盤の銃撃シーンの迫力

――おじさんに「大きくなったな」って言われた時に幸太がポロッと涙を流すシーンがすごく印象的でしたが、再開をするシーンは、とくに大切に挑まれたのでしょうか。

眞栄田 舘さんがどんな表情や声のトーンで「大きくなったな」って言ってくださるのか、楽しみにしながら、それを素直に受け止めたいという気持ちで挑みました。もちろん大切な場面でしたが、そこは気持ちで演じられるので、幸太としてどう生きてきたかを表現する最初の場面が、演じるうえでは一番大事でした。舘さんとの再会以降は、もう気持ちでやるべきだと思っていたので、それよりは、ベースの部分をどれだけ自分の中に落とし込めるかが重要でした。

藤井 今回、ほぼ順撮りで撮っていましたが、その再会のシーンは、現場の終盤で。すごく緊張感を持ってやってくれてましたし、モニターで確認できなくてもいい表情が撮れている自信がありました。僕の場合、普段はテスト1回にしてすぐ本番で、本番では瞬き1個まで修正していき、トライアンドエラーを繰り返します。今回はリハーサルを何度もして、本番は1発しか撮らないという、いつもとは本当に真逆のスタイルでの撮影で。だから、めちゃくちゃプレッシャーでしたね(笑)。リハを何回もやっていると、それがフィルムの緊張感を生む要因なんだなと思いました。

眞栄田 もういつもと本当に真逆なんですね。

藤井 そう。大作さんのスタイルで、ライティングやロジックから自分とは違うやり方だったので。今回“光”がテーマで、光自体のアプローチも今まで自分がやってきたこととは真逆だったんですけど、先輩たちはこうやって光を作っていたんだと知れて、勉強になりました。

――終盤、三浦とヤクザの組長・石崎(椎名桔平)らとの銃撃戦シーンは度肝を抜かれました。ヤクザ映画を撮影してきた座組だからこその迫力でしたが、撮影はいかがでしたか。

藤井 郷敦くんは、車でヤクザのアジトに突っ込んでいくんだよね。

眞栄田 僕は普段からNGって出さないようにしてるんですけど、あのシーンは、めちゃくちゃNGを出しちゃって……。車で突っ込んでいく時タイヤの滑り具合が結構、毎回違って。停車すべき位置に止めるのが難しくて、大変でした(笑)。

藤井 そのシーンで舘さんが入れ墨を見せたいって言い始めたんですよ。それで、水をかぶって、入れ墨を見せたんですけど。真冬の富山での極寒ロケでただでさえ凍えそうな中、あのバトルシーンを最後まで撮るのは大丈夫なのか心配でしたね。寒さ対策も大変でしたけど、やっぱり入れ墨が見えて良かったなって思うカットになったと思います。

眞栄田 僕はあの場面で銃を構えるシーンもありますが、新人警察ならではの緊張感と恐怖感を強く意識しました。怖いけれど、ヤクザたちに立ち向かわないといけないという覚悟を持って乗り込んでいく臨場感たっぷりのシーンになったと思います。

“ひかり”とは他者のこと

――タイトルは『港のひかり』です。おじさんと幸太は、お互いにとって生きる希望に感じられましたが、今作にはどんな想いが込められていますか。

藤井 この映画で描かれる“ひかり”は、他者なんですよね。幸太にとっては三浦が、三浦にとっては幸太がひかりのような存在として描かれます。お互いに心の支えにして生きてきたという相互作用がしっかり届けばいいですね。この映画では三浦が幸太のために生きようと思ったように「自己犠牲」がひとつのテーマになっていて。今作の河村プロデューサーが「自己犠牲」をテーマに映画を作りたいという話に木村さんも皆でのっかって。大人の方々が持っている哲学を受け継いだ作品になりました。

眞栄田 自己犠牲というと、人のために生きるっていうことだと思うんですけど。その人のために生きたいと思える人がいるっていうこと自体が、そもそもすごく美しいこと。そういう出会いだったり、“ひかり”だと思える事柄があるっていうことがもう美しいですよね。僕は昨日、もう一回、この作品を見直したんですが、改めて自分の周りの大事な人の顔が浮かぶような作品になったなと思いました。どんなメッセージを感じるのかは、人それぞれでいいと思うんですけど、僕はそう感じて、大切な人たちを大事にしていきたいし、恩返ししていきたいなと思いました。

――自分のためではなく、誰かのために生きるという、そういう自己犠牲的な生き方に憧れはありますか。

藤井 映画を作るということ自体が観客の皆さんのためにっていう想いはありますけどね。そもそもお客様に見てもらうために映画は存在しているものなので。自己犠牲ではないんですけど、観客の皆様に楽しんでもらいたいという根幹的な欲求と願いがあります。あと、現場で郷敦くんと何度もディスカッションするのもエゴじゃないというか。やっぱり俳優をよりよく見せたい、この俳優の芝居を知って欲しいんだという思いは、自分さえよければいいという想いとは、多分逆行しているような気がしています。映画作りっていいなっていつも思いますね。

眞栄田 僕は作品作りを何のために頑張れるかっていうと、自分はもちろんそうなんですけど、一緒に作るチームの皆のためですね。一人一人の頑張りの力で報われるじゃないですか。やっぱり結果的にいい作品ができて、いろんな人に観てもらって評価を得るために少しでも自分の力が助けになるのであれば、全力でやりたいなと思いますね。

――今後、お二人がタッグを組むなら、どんな作品がやってみたいですか?

眞栄田 僕は、闇を抱えてる役がやりたいです。もうちょっと年を重ねてからでいいですが、ヤクザ役もやってみたいです。

藤井 なるほど。僕は、男の子が出てきて、暗いのがベースの作品が多いので、そういうの得意だし、好きですけどね。でも、郷敦くんとの記憶を掘り返してみたら、道でバッタリ会ったんですよね。その時、郷敦くんが動画を観ていて。「何を観てるの?」って聞いたら、僕がちょっと前にお勧めしたAmazon primeのドラマ『ザ・ボーイズ』っていうスーパーヒーローものを観てくれていたんだよね。

眞栄田 そうでした!

藤井 僕の中で、それがすごく記憶に残っているから、「ザ・ボーイズ」みたいな作品をやりたいな、と(笑)。ちょっとグロくて、若干コメディなんですけど、そっち系も一緒にやったら面白いだろうなって。

眞栄田 それ、いいですね。あの時は、『ザ・ボーイズ』を観てって言われたのを思い出して、ずっと観てました(笑)。

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<作品情報>
『港のひかり』

全国公開中

■監督・脚本:藤井道人
■企画:河村光庸
■撮影:木村大作 ■美術:原田満生 ■音楽:岩代太郎
■出演:舘ひろし 眞栄田郷敦 尾上眞秀 黑島結菜 斎藤工 ピエール瀧 一ノ瀬ワタル MEGUMI 赤堀雅
秋 市村正親 宇崎⻯童 笹野高史 椎名桔平
■配給:東映 スターサンズ

©2025『港のひかり』製作委員会


撮影/稲澤朝博、取材・文/福田恵子

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