【レポート】舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』製作発表会見に藤原竜也ほかキャスト陣が集結「ちょっとでも心が動けば」
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Sky presents 舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』製作発表会見より、前列左から)博士/大佐役:池田成志、司書/彼女役:森田望智、私役:藤原竜也、演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ 後列左から)僕役:島村龍乃介、ピンクの女役:富田望生、影役:宮尾俊太郎、僕役:駒木根葵汰 (撮影:山本春花)
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すべて見る村上春樹が1985年に発表した長編小説、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が、フランスを代表するアーティスト、フィリップ・ドゥクフレの演出・振付、藤原竜也の主演で、2026年1月に世界初の舞台化を果たす。2025年11月25日、都内のフランス大使公邸にて、Sky presents 舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』製作発表会見が行われ、現在稽古中だというドゥクフレと藤原、主要キャストたちが舞台への意気込みを語った。
冒頭の挨拶で、今回の舞台化は、国内での上演だけなく、2026年4月から10月にかけてシンガポール、上海、ロンドン、パリと世界をめぐる大プロジェクトであると述べたのは、ジェレミー・フォラ=ジェム フランス公使。公使はさらに、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が世界中の読者を魅了することについて、「アイデンティティと記憶につながるテーマを扱いながら、現実とファンタジーの境を行き来する物語というだけでなく、詩的で哲学的な息吹も要因のひとつ」と讃え、これは「日仏の芸術的な協力、またダンスと文学の対話によって、象徴的な作品を新たに創造するプロジェクトでもある」と強調した。
“ハードボイルド・ワンダーランド”では、計算士として“組織”に雇われる“私”が、自らに仕掛けられた思考回路の謎を探るべく地下世界からの脱出を目指し、“世界の終り”では、一角獣が住む高い壁に囲まれた街にやってきた “僕”が、街の正体を探る。二つの世界を同時進行で描くという独特の構造を持つ物語──。クリエーションをリードするドゥクフレは、一体どんな世界を舞台上に出現させるのだろう。
ドゥクフレとホリプロとのプロジェクトは、1996年の『DORA〜100万回生きたねこ~』、2016年の『わたしは真悟』に続いて今回が3回目。独特の世界観を持つ村上作品にどうアプローチするのかと問われると、「異なった二つの世界に、700ページもの非常に豊かな世界。これは無理ではないかと思いましたが、だからこそ興奮を感じたのかもしれません」と明かす。サーカスの技法や映像トリックを自在に繰り出し、数々の場で独創的な舞台を創り上げてきた彼だが、「演劇でもバレエでもミュージカルでもなく、でもそれらが同時にあるような作品にできたらと思います」という。
お客さんを、また舞台に引き寄せる作品にできたら
続いてマイクを渡されたのは、主演の藤原。 演じるのは、“ハードボイルド・ワンダーランド”の“私”だ。「村上作品は初めてですが、何とも言えない、この世界観──。何とかフィリップさんの期待に応えて、いいものを作り上げていこうと思います」と意気込む。本作のロンドン公演が行われるバービカン・センターは、15歳の藤原が蜷川幸雄演出による『身毒丸』でデビューしたまさにその場所だが、かつて藤原に村上作品を読むようすすめたのは、ほかならぬ蜷川だった。

次にコメントしたのは、藤原演じる“私”が心惹かれる司書役、また“世界の終り”の彼女役と、二つの世界それぞれに登場する女性を演じる森田望智。今回が初舞台だというが、稽古場での日々を「すごく刺激的な毎日を送っています」と目を輝かせる。演じる二つの役柄については、「いろんな捉え方があると思いますが、私としては、彼女は私が失ったものを体現している存在。司書のほうは、それを彷彿とさせる現実世界に生きている女性だなと考えています。 “私”と“僕”が惹かれ合う一人の女性でもあるので、共通の繋がりを持ちつつも、同じ人なのか違う人なのか、捉えどころのない、観た方に余白の残る人物になったらと思いながら、でも私自身もまだ模索している状態です」と役柄への思いを語った。

自身が演じる“ハードボイルド・ワンダーランド”の博士、“世界の終り”の大佐の存在について、「非常に微妙に繊細」と述べたのは、池田成志。「普段、非常に雑で大ざっぱ、いい加減な芝居をやっているので(笑)、その繊細さをどうすればいいんだろうと、もがいて苦しんでいます」と、ユーモアを交えて自身の取り組みを表現。また、バレエダンサーとしての輝かしいキャリアを誇る宮尾俊太郎が担うのは、“世界の終り”の影という、“僕”の分身ともいえる役柄。「自己との対話というところでは言語を使い、よりひとりの内側に向いた精神性、本能的な部分というのは舞踊で表現できるのかなと、模索しているところです」と発言するとともに、かつてディアギレフ率いる伝説的なバレエ団、バレエ・リュスが公演を行ったパリ・シャトレ劇場での上演が実現することに、「感慨深いものがある」とも。 “ハードボイルド・ワンダーランド”に登場するピンクの女を演じる富田望生は、「いまは、いろんな角度から、スパイスや潤いを与えていただいている時間になっているなと思っています」とキュートな笑顔を見せた。

また、“世界の終り”の“僕”は、駒木根葵汰と島村龍乃介のWキャスト。「初めての舞台になります。稽古場で自分が出ていないパートを見ているとき、ああ、こんなに美しいものができるんだな、と──。完成が楽しみです」(駒木根)、「初めての海外公演に緊張しています。舞台の物語を届ける力は世界共通と思うので、言葉だけなく仕草や振りで、皆さんにこの素敵な物語をお届けできたら」(島村)と抱負を述べた。
続く質疑応答の場で、いまこの時代に、あらためてこの作品を上演する意味について質問が寄せられると、藤原はじっくりと言葉を探りながら、こう答えた。「村上作品は、シェイクスピアとも三島由紀夫とも違う。我々の細胞の何かを揺るがせ、蘇らせ、目覚めさせてくれる文体が確かにあって、常にドキドキさせてくれます。この作品を、言葉を、皆さんに届けたいという思いでは、あります。──あんまり難しいことは、僕は言わないんです。演劇なんてちっぽけなものですから。そう、観ても観なくてもいい。でも観て、ちょっとでも心が動けばそれでいいと思うんです」。いっぽうドゥクフレは、「私たちが現在生きている世界は、いろんなものが失われつつある世界だと思います。この作品はハイブリッドにいろんなものが組み合わさっていますが、それはまさに現代の世界にかなったもの。一角獣を踊らせたり、失われた愛を求めていったりするストーリーは、かなり普遍的なお話ではないかと思います。個人的には、私の娘は一角獣が大好きなので、それだけでも、この作品に取り組むことは素敵なことなんです(笑)」と微笑んだ。
会見の終盤、「期待をしている点といえば、あまり劇場に向かわなくなってきているお客さんを、また舞台に引き寄せる、また戻ってきてもらえるような作品にできたらと思っています」と述べたドゥクフレ。藤原も、「精一杯、一生懸命、頑張って稽古して、素晴らしい作品を届けたいと思います」と、あらためて意欲を示した。
取材・文:加藤智子 撮影(会見写真):山本春花
<公演情報>
舞台『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
原作:村上春樹
演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ
脚本:高橋亜子
出演:
藤原竜也
森田望智
宮尾俊太郎
富田望生
駒木根葵汰/島村龍乃介(Wキャスト)
藤田ハル
松田慎也
池田成志
上松萌子、岡本優香、冨岡瑞希、浜田純平、原衣梨佳、古澤美樹、堀川七菜、山田怜央、吉崎裕哉、Rikubouz(50音順)
【東京公演】
2026年1月10日(土)~2月1日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
【宮城公演】
2026年2月6日(金)~8日(日)
会場:仙台銀行ホール イズミティ21
【愛知公演】
2026年2月13日(金)~15日(日)
会場:名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール
【兵庫公演】
2026年2月19日(木)~23日(月・祝)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
【福岡公演】
2026年2月28日(土)・3月1日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール
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チケット情報:
https://w.pia.jp/t/sohw2026/
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