十周年を迎える“超歌舞伎”をはじめ、年の瀬を華やかに飾るラインナップ。歌舞伎座「十二月大歌舞伎」開幕
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第一部 超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』 上)源朝臣頼光=中村獅童、 下)左より、卜部季武=中村種之助、山姥茨木婆=中村蝶紫、碓井貞景丸=中村陽喜、坂田公平丸=中村夏樹、蜘雲阿闍梨=市川猿弥、平井保昌=澤村精四郎 (©松竹/超歌舞伎 Powered by IOWN『世界花結詞』©︎ CFM)
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すべて見る2025年12月4日、歌舞伎座12月公演、松竹創業百三十周年「十二月大歌舞伎」が初日の幕を開けた。その初日の模様を、公式レポートからお届けする。
第一部は、超歌舞伎Powered by IOWN『世界花結詞(せかいのはなむすぶことのは)』。

平成28(2016)年に開催されたニコニコ超会議で誕生した“超歌舞伎”が十周年を迎える。この度は、これまでに各地で上演されてきた5作品の趣向やみどころを盛り込んだ“超大作”。初演時より超歌舞伎の歴史を紡いできた中村獅童、初音ミクをはじめ、今回が超歌舞伎初出演となる市川門之助、中村時蔵、中村歌昇、尾上左近らも加わり華やかな顔合わせで、十周年を記念する舞台が幕を開ける。
幕が開き、低音響く太鼓と雷鳴とともに登場するのは市原野の鬼童丸(中村歌昇)。豪快な音楽とともに俳優陣一同が顔を揃える豪華なだんまりとなった後、舞台に残る袴垂保輔(中村獅童)は秘術の書を手に、花道を駆け抜ける。

場面が変わって、神泉苑の宴席。すだれの中から登場した舞姫(初音ミク)は艶やかな踊りを披露。その見事な踊りに感嘆し、心奪われる源頼光(獅童/二役)だが、舞姫は実は絵姿であったことが明かされて……。

本作の見どころである舞姫が絵姿へ戻る演出や分身の演出など、NTT の技術を始めとした最新のテクノロジーと、衣裳の引き抜きや迫力溢れる立廻りなど、歌舞伎ならではの趣向を取り込んだ舞台に、観客は感嘆の息をもらす。劇中、獅童勤める頼光が「芝居賑おう木挽町、見事な眺めじゃのう」と言い花道を歩くと、観客も輝くペンライトを振り、歌舞伎座にまるで色とりどりの花が咲き乱れるよう。
初音ミク勤める七綾太夫が変幻し、赤い眼で睨みまわす場面は、そのおどろおどろしい姿に息を呑む。碓井貞景丸(小川陽喜)と坂田公平丸(小川夏幹)のふたりがすっぽんより登場する場面では、溌剌とした台詞回しと息の合った立廻りを披露し、観客を魅了した。


「十は千になり、千は縁になる。数多の人の言の葉と白き灯火を」と呼びかけると、客席は白いペンライトの色で埋め尽くされる。クライマックスでは、初音ミクの『ロミオとシンデレラ』『Tell Your World』『千本桜』の曲とともに、超歌舞伎が生み出す舞台と客席の一体感が劇場を包み込み、無数のペンライトが輝く中、オールスタンディング状態に。獅童は「これが超歌舞伎!また会いましょう!ありがとう!」と熱いメッセージを送り、割れんばかりの拍手と熱狂に包まれる中、幕を閉じた。


第二部は大酒呑みが主人公の2本を
第二部は、幕府転覆を狙う浪人を描いた『丸橋忠弥』で幕開き。由井正雪による実際の事件「慶安の変」を題材とした河竹黙阿弥の名作を、この度は西森英行の演出にて上演する。

江戸城外濠端にある茶屋では、大酒呑みの槍の名手丸橋忠弥(尾上松緑)がすっかり酔っぱらった様子。観客は、黙阿弥らしい七五調の流れるような松緑の台詞回しに聞き入る。実は、幕府転覆の企みに加担している忠弥。酔っているはずの忠弥の目は時折鋭く光り、隙を窺っては濠に石を投げ込み水深を計る。通りかかった老中松平伊豆守(市川中車)はそんな忠弥の様子をしっかりと見届けている。忠弥が横目で伊豆守を捉えると、一瞬にしてふたりの間に緊張感のある空気が漂う。忠弥は元の酔態に戻るが、伊豆守は納得のいかない様子。

二幕めは、女房おせつ(中村雀右衛門)のいる忠弥の住まい。劇中、忠弥の密事を知った母おさが(市川齊入)が宿願成就のために自害をする場面では、悲痛な展開に胸が締め付けられる。それと同時に押し寄せてくる大勢の捕手。戸板や縄などを使い、次々と展開する大立廻りに観客は目が離せない。奮闘する忠弥だったがついには捕らえられ、松緑の圧巻の迫力に観客からは大きな拍手が送られた。

続く『芝浜革財布』は、夫婦の心温まる世話物。三遊亭圓朝の人情噺をもとに、大正11(1922)年の六世菊五郎の初演が評判を呼び、以降世話狂言の人気作としてお馴染みの演目だ。

大酒呑みで怠け者の魚屋政五郎(中村獅童)は、ある朝大金の入った革財布を浜で拾い、すっかり上機嫌。酒屋小僧(中村夏幹)が酒を届けに来たのを皮切りに、大工勘太郎(市川中車)、錺屋金太(梶原善)、左官梅吉(市川猿弥)、桶屋吉五郎(澤村精四郎)といった仲間たちが政五郎に呼ばれて集まる。
この酒盛りは見どころのひとつ。酒を飲んで息巻く5人の、小気味良いリズムで展開される会話には、客席のあちこちから笑いが溢れる。政五郎女房おたつ(寺島しのぶ)は呆れて一計を案じ、革財布を拾ったのは夢だと嘘をつく。

自分の身を売って生計を立てようと泣きながら切り出すおたつ。そんなおたつの献身的な姿に改心を心に誓う政五郎。お互いを思い合う夫婦の様子に心が掴まれる。場面変わって三年後。政五郎は改心し、立派な政五郎宅の前では丁稚長吉(中村陽喜)が水を撒いている。

明るく話す政五郎とおたつ。三味線の旋律にのせて、おたつの三年越しの告白が始まる。真実を聞いて政五郎は怒り出す……かと思いきや、ふたりは朗らかに笑い合い、これには観客も思わず笑みがこぼれる。息のあった俳優陣たちによる江戸の粋な人情噺に、客席が温かく包まれた。


12月3日には獅童、寺島しのぶ、梶原善、中車、猿弥、精四郎の6人が勢ぞろいし、始和気藹々とした賑やかな囲み取材が行われた。獅童は「我々の普段の仲の良い雰囲気が、芝居の“におい”となって反映できたらいい」と今回のメンバーならではの見どころを語り、しのぶも「楽しいメンバーと、毎日生のセッションを客席にお届けできたら」とこのメンバーで迎える舞台への期待を込めた。
坂東玉三郎、原純による話題作が早くも再演
第三部は『与話情浮名横櫛』より源氏店で幕開き。互いに死んだと思っていた男女の不思議な巡り合いを描き、「切られ与三」などの通称で親しまれる名作。

鎌倉雪の下の源氏店。和泉屋多左衛門(河原崎権十郎)の妾宅に住むお富(坂東玉三郎)のもとへ、小悪党・蝙蝠の安五郎(松本幸蔵)が相棒を連れて金をたかりに訪れる。「切られ与三」と異名を取り、体中に傷跡のあるその連れは、なんとかつて愛した男、与三郎(市川染五郎)。「しがねえ恋の情けが仇」で始まる、心地よい七五調の長台詞は聴きどころ。

お富の事情を知らない与三郎は、軽妙ながらもやや恨みを込めた調子でお富に語りかける。湯上りの艶やかな色気を漂わせる玉三郎のお富は稀代の美しさ。傷だらけの姿で現れる染五郎の与三郎も、零落しながら若旦那であった品の良さがどこか漂う。ふたりの際立つ存在感に、観客は思わず見入る。男女の運命の再会も、最後はかつての懐かしい関係に。玉三郎と染五郎の息の合ったやり取りが会場を魅了し、割れんばかりの拍手が響き渡った。

続いては、『火の鳥』。永遠の生命を授けるという「火の鳥」の伝説をもとにした新作歌舞伎として、今年八月歌舞伎座にて初演。坂東玉三郎が演出・補綴、オペラ演出などで活躍する原純が初めて歌舞伎を手掛け、演出・補綴・美術原案をつとめた話題作が早くも再演を迎えた。

病に伏せった大王(市川中車)は、国土のさらなる拡大、その治世を望み、永遠の力を持つという火の鳥の捕縛を息子のヤマヒコ(市川染五郎)とウミヒコ(尾上左近)に命じる。ふたりの王子は、火の鳥を求める道中の大河、山、砂漠を越える過酷な旅の中で互いの絆を深めていく。


たどり着いた遠国の庭で、イワガネ(坂東新悟)と名乗る人物に出会うふたり。イワガネの言葉に従うふたりの目前に、火の鳥(坂東玉三郎)が現れると……。

幕が開くと、衣裳や鬘、照明、舞台装置、音楽など、『火の鳥』ならではの世界観が表れる空間に、客席からは感嘆のため息が漏れる。王子たちの旅路の場面では、舞台上の出演者の動きに、映像と舞台装置が融合。火の鳥が登場する場面では、舞踊家・森川次朗の振付のもと男性ダンサーが舞台を舞い、火の鳥の纏う異世界的な雰囲気を増幅させる。

また作曲家・吉松隆の荘厳な音楽は、全編を通して幻想的な世界を醸し出す。“永遠とは何か”を説く火の鳥の出現によって、人間たちは自身の行動を振り返り、心のうちを改める。玉三郎が演じる火の鳥が歌舞伎座の空間に舞い上がるクライマックスでは、場内からは溢れるばかりの拍手が送られた。
「十二月大歌舞伎」の上演は12月26日(金)まで、東京・歌舞伎座にて。
<公演情報>
松竹創業百三十周年
「十二月大歌舞伎」
【第一部】11:00〜
超歌舞伎Powered by IOWN『世界花結詞』
【第二部】14:45〜
一、丸橋忠弥
二、芝浜革財布
【第三部】18:10〜
一、与話情浮名横櫛 源氏店
二、火の鳥
※第一部『世界花結詞』は開演に先立ち、10時50分頃より特別映像の上映あり。
2025年12月4日(木)~26日(金)
会場:東京・歌舞伎座
【休演】10日(水)、18日(木)
【貸切】第一部:15日(月)、17日(水)、20日(土)
※下記日程は学校団体来観
第一部:11日(木)
第二部:5日(金)、17日(水)
※無断転載禁止
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