【レポート】柚香光、異界へ降り立つ。壮大なスケールで描かれるミュージカル『十二国記』、世界初演がついに開幕
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ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』ゲネプロより (撮影:岩村美佳)
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すべて見る日本を代表するファンタジー小説のひとつで、累計1300 万部を突破している (2025年1月現在)『十二国記』。シリーズ本編の第1作にあたる『月の影 影の海』をミュージカル化した舞台『十二国記 -月の影 影の海-』の世界初演が、12月9日、東京・日生劇場で幕を開けた(演出・山田和也)。異界に連れ去られた後に厳しい経験を経て成長していく“ヨウコ”に、元宝塚歌劇団トップスターで血肉の通った芝居と抜群の身体能力に定評のある柚香 光。連れ去られる前の平凡な女子高生・中嶋陽子には豊かな歌唱力でミュージカル作品に多数出演する加藤梨里香が扮し、ヨウコ(陽子)の内面を“ふたり1役”で表現する。稽古中は、「原作者である小野不由美先生とも意見交換をする機会をいただいて」(山田)作り上げたという本作。初日に先立ち、12月8日に行われたゲネプロの様子をお届けする。

生まれつき赤味を帯びた髪を持つ女子高生・中嶋陽子(加藤)は、学級委員長を務めるほどの真面目な性格。だが、クラスのいじめ問題にはハッキリと口を出せず、両親からの押し付けるような言葉にも鬱屈を抱えていた。そんなある日、陽子は謎の男・景麒(けいき/相葉裕樹)と出会い、突然異界へと連れ去られてしまう。


異界では顔かたちも変わったことに驚くヨウコ(柚香)だったが、戸惑う間もなく過酷な試練が次々と訪れる。生き延びるために、そして元いた場所に帰るために、ヨウコは手にした水寓刀(すいぐうとう)で必死に妖魔を倒し、海客(日本から十二国へと流れついた者)に理解があるという雁国(えんこく)へと向かうが……。

柚香は序盤、“ひとりの女子高生”として揺れ動く内面を繊細に表現。そこから何度も裏切りにあい、もがき苦しみながらも、次第にたくましく成長していくさまを丁寧に演じてゆく。孤独と絶望のはざまで、かつての自分を振り返るヨウコの表情が印象的だ。




その後の、ある決断をしてからのヨウコは、美しい佇まいが魅力の柚香の真骨頂。無国籍テイストの衣裳もピタリとはまり、小説から抜け出してきたような圧倒的な存在感を放つ。



加藤は陽子が異界に去った後も、ヨウコ(柚香)の内面を表す存在として、ある時は対峙するように、ある時は自問自答するように舞台上に存在。さまざまに色を変える歌声は、加藤ならではだ。柚香とふたりで歌うシーンも多く、異なる声音が重なることでヨウコの想いを重層的に描く演出となっていた。


ヨウコの旅を手助けする半獣・楽俊(らくしゅん)役は、太田基裕と牧島 輝(Wキャスト)。ゲネプロでは太田が演じたが、文楽の人形遣いのようにパペットを細やかに動かしつつ、演者自身の芝居もきちんと見せる演出(演者だけで登場するシーンもあり)。楽俊の温かい魅力が二重になって伝わり、客席からも笑いが起きる。一方の牧島も丁寧な役作りに定評がある俳優。太田とはまた違ったニュアンスでどう表現するのか、楽しみになった。


その他、蒼猿(あおざる)役の玉城裕規、舒栄(じょえい)役の原田真絢、延王(えんおう)役の章平と、脇を固める布陣も実力派揃い。景麒役・相葉の漂わせる品格が、舞台を引き締めているのも印象的だ。




舞台はセットと大がかりなパペット、さらに映像を組み合わせて壮大なスケールで展開。ホリゾントいっぱいに広がるストリングカーテンは、異界と現実を隔てる薄膜のような境界を示したり、映像を映すスクリーンになったりと大活躍。大陸を思わせる力強い楽曲(音楽・深澤恵梨香)も多く、生演奏で舞台を盛り上げる。


「原作者も感動している」という嬉しいメッセージも

ゲネプロの前には、柚香と加藤、演出の山田が囲み会見に応じた。柚香は「いよいよ始まるんだなという緊張と、女性の役でミュージカルに挑むのが初めてなので、少しでも“もっと先”までたどり着きたいという想いとがあります」と率直な心境を吐露。加藤も「私もとても緊張しています」とうなずきながら、「今までで一番歌う曲が多い公演。セットや映像が合わさったところをお客様に観ていただいて、どんな反応をいただけるのかなという楽しみな気持ちもあります」と笑顔を浮かべる。
山田は「まず原作が素晴らしいので、その素晴らしさをミュージカルの方法でお客様に届けるというのが一番。原作がヨウコの一人称で進んでいくので、そこをお客様にも感じていただきたいというのは意識しました」と演出のポイントを明かす。作者の小野とは「台本を書く段階でアドバイスをいただきましたし、稽古中も意見交換をする機会をいただきました」という山田。稽古終盤では、稽古の映像を観た小野から「原作者も感動していると(演者に)伝えてほしい」というメッセージが届いたとのこと。その内容は、ぜひ劇場で目撃してほしい。
取材・文:藤野さくら
<公演情報>
ミュージカル『十二国記 -月の影 影の海-』
原作:小野不由美『月の影 影の海 十二国記』(新潮文庫刊)
脚本・歌詞:元吉庸泰
音楽:深澤恵梨香
演出:山田和也
【キャスト】
ヨウコ(中嶋陽子):柚香 光
陽子(中嶋陽子):加藤梨里香
楽俊:太田基裕・牧島 輝(Wキャスト)
蒼猿:玉城裕規
舒栄:原田真絢
延王:章平
景麒:相葉裕樹
【東京公演】
2025年12月9日(火)~29日(月)
会場:日生劇場
【福岡公演】
2026年1月6日(火)~11日(日)
会場:博多座
【大阪公演】
2026年1月17日(土)~20日(火)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
【愛知公演】
2026年1月28日(水)~2月1日(日)
会場:御園座
関連リンク
公式サイト:
https://www.tohostage.com/12kokuki/
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