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ライムスター宇多丸らが分析! アリ・アスター監督最新作『エディントンへようこそ』が賛否を呼ぶ理由

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映画『エディントンへようこそ』アフター6 ジャンクション2 コラボ試写会より

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A24製作、アリ・アスター監督の最新作『エディントンへようこそ』の試写会が、12月5日にTBSラジオ『アフター6 ジャンクション2』とのコラボレーションで開催。上映後にはライムスター宇多丸、宇垣美里、そして映画ライターの村山章を迎えてのトークセッションが行われた。

物語の舞台は2020年、ニューメキシコ州の小さな町、エディントン。コロナ禍で町はロックダウンされ、息苦しい隔離生活の中、住民たちの不満と不安は爆発寸前に。保安官ジョー(ホアキン・フェニックス)は、IT企業誘致で町を“救おう”とする野心家の市長テッド(ペドロ・パスカル)と“マスクをするしない”の小競り合いから対立し「俺が市長になる!」と突如、市長選に立候補する。ジョーとテッドの諍いの火は周囲に広がっていき、SNSはフェイクニュースと憎悪で大炎上。同じ頃、ジョーの妻ルイーズ(エマ・ストーン)は、過激な動画配信者(オースティン・バトラー)の扇動動画に心を奪われ、陰謀論にハマっていく……。

街中を巻き込んでの市長選挙の中で、陰謀論やフェイクニュースが跋扈し、街が混乱に陥っていくさまを描く本作だが、予告編にもあるようにクライマックスでは激しい銃撃戦も展開する。宇垣は「アリ・アスターに対して、アクションシーンのイメージがなかったのでびっくりしましたし、面白かったです」とコメントし、村山も「そんなことができる監督だとは思っていなかった」と同意した。

宇多丸は「(アリ・アスターには)自分なりの現代版西部劇をやりたいという思いがかなり初期からあったようなので、こういう銃撃戦をやりたいというアイディアがあったのかも」と推察。また「コーエン兄弟っぽい」とも指摘し、「後半の稚拙な隠蔽工作(笑)が『ファーゴ』っぽいし、敵の姿が見えないからこそ圧がものすごい銃撃戦など『ノー・カントリー』にも近いものを感じた」とコメントした。村山も「コーエン兄弟っぽくもあり、もはやアクション演出や画面作りはスピルバーグっぽさすらも感じさせた」と演出を称えた。

今回、アスターは初めてセットを使わずに全編でロケーション撮影を行い、作り込み過ぎずに現場でカメラマンと相談しながらカット割を行うなど、これまでとは異なるアプローチによる映画作りを行った。最終的には神のような“上から”の視点に着地していく本作に対して、宇多丸は「結局やっぱりアリ・アスターはアリ・アスターというか、過去作とも完全に通じる終わり方ですよね。人類全てを突き放して見ているというか……それゆえに、全員に対して意地悪すぎるところはありますけど(笑)」とコメントした。

宇垣は、映画を見た体感として「全ての瞬間に不安の芽が埋まっているというか、全部が不安になって、ずっと地面に足が着いてない感じがする」と表現。村山は「“不安”というのがアリ・アスターの映画を支えている一番の要素。人間は防衛本能として最悪な事態を想定するものですが、それに取り憑かれるように映画を作っている」と指摘しつつ、「今回、初めて(個人的な不安ではなく)社会不安が前面に出ていると思う」と従来の作品との違いに言及した。

宇多丸は「結局、その空気感はいまの2025年と同じように感じる」と明かし、村山も「平たく言えば、インターネットとSNSへの怒りと不信がずっと続いている映画。過去の3作は主人公の感情についての映画だったけど、今回はいままでで一番理屈が通っていて、“社会派”と言っていい作品だと思います」と分析。宇多丸も「アリ・アスターが(観客に)“な? スマホの見過ぎなんだよ”って言っている映画(笑)。スマホを見ているうちにおかしくなった人たちの話」と同意し、宇垣も「“携帯を捨てて街に出よう!”ということ」とうなずいた。

村山は、アスターが従来のような超自然を描くような作品ではなく、現実の世相を反映した“社会派”の映画を撮らなくてはいけないという現実についても言及。「アリ・アスターにすら、こんなに世の中にコミットする映画を撮らせてしまう現実が本当にひどい!」と嘆き、宇多丸も「アリ・アスターの不安が、今までは抽象的、もっと実存的なものだったので、ホラーや超自然的なものを描いていればよかったけど、現実の社会が怖くて仕方がないという映画を撮らせてしまった……」と応えた。

村山は、今年公開されて話題を呼んだポール・トーマス・アンダーソン監督の『ワン・バトル・アフター・アナザー』にも同じことが言えると語り、宇多丸は本作と『ワン・バトル・アフター・アナザー』は“裏表”の関係にあるとも指摘。「ポール・トーマス・アンダーソンが、あんなわかりやすい“希望”を描くしかない時代になっている」と宇多丸がコメントすると、宇垣も「さすがに言わなきゃ……となっている」と現実の社会の問題の歪みに表情を曇らせていた。

本作は保守やリベラルといった垣根を超えて、「全方位的に茶化している映画」(村山)だからこそ、映画を見た人々からは、その描写に対し、怒りを感じる人も多く、賛否を呼んでいるという。例えば劇中で「Woke(※人種差別、性差別、LGBT差別などの社会的な不平等に対する気づきを意味する言葉)」を主張する若者たちを“イジる”ような表現も登場するが、宇多丸は「(アリ・アスターの考えとして)動機が間違っているとはもちろん思わないけど、その怒りの矛先がちょっと……というのがあるんじゃないか」と指摘。一方で村山は「映画を見て“だからWokeのやつらはバカだ!”と思ってしまう人もいるだろうし、(こうした描写が)リトマス試験紙的な役割になっている」とコメントした。

アスターがより社会や現実に向き合って作り上げたと言える本作だが、宇多丸は「アリ・アスターってA24があって本当によかったと思う(笑)。こんな映画、誰がこんな規模で作らせますか?」とA24というプロダクションの存在の大きさについてコメント。村山も「『ボーはおそれている』の後でこれを撮るって、普通の監督のキャリアではありえない(笑)」と語り、会場は笑いに包まれた。

<作品情報>
『エディントンへようこそ』

12月12日(金)公開

公式サイト:
https://a24jp.com/films/eddington/

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