『欲望という名の電車』4度目の上演へ――篠井英介が語るブランチへの想い
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篠井英介
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すべて見る現代演劇の女方として唯一無二の魅力を放ち、第一線で活躍し続ける俳優、篠井英介が、アメリカ現代演劇の傑作『欲望という名の電車』に再挑戦。19年ぶりに主人公ブランチ・デュボアとなって帰って来る。“世界初の女方ブランチ”と話題になった2001年の初演から2003年、2007年と上演を重ねて4度目となる今回は、翻訳・演出のG2を始め、スタンリー役の田中哲司、ステラ役の松岡依都美、ミッチ役の坂本慶介など新たな顔合わせが実現。「自身の代表作」と呼ぶ渾身の舞台に向けて、熱き思いを語った。

――19年ぶり、実に4度目のブランチ役への挑戦が始まりましたね。
篠井 初演は2001年で、その頃はまだ男が女役を演じる、女方として出ることに抵抗ある方がいらっしゃったと思うんです。なのでチャレンジという感覚があったんですが、今はもう、男が女役を、女が男役を演じることはそれほどビックリすることじゃなくなったので、その壁は取り払われた……と思ったら、今度は年齢的な問題が(笑)。杉村春子さんは確か80歳くらいまでブランチを演じていらして、それも凄いことですよね。
僕はとにかくこの作品が好きなので、この作品の世界に浸っていたいという思いがつねにあるんです。ただ前回やった時に、もうやらないだろうなと。それがここ2、3年で割とハードな演劇の舞台が続いて、何とか乗り切って頑張れちゃったので、もう一回ブランチやれるかな、また挑戦してみようかなと思ったんです。体力的なものは確実に衰えてはいますけど、この歳まで積み重ねてきたものの深みが自分の中にあるであろうと信じて、もう一回ブランチに取り組んでみたらどうなるんだろう!? と。ただ、僕の中のブランチ像というのは初演からずっと幹のようにありまして、それはきっとブレないだろうと思います。それを土台に、共演の方たちとの化学反応でどんなふうに自分に発見があるのか、楽しみにしています。
――この作品のどういった魅力に、そこまで強く惹かれていらっしゃるのでしょうか。
篠井 すごく俗っぽい言い方をしますと、ブランチが他人とは思えないんですね。この作品の世界観も、よそ事ではない感じがあって。ブランチの精神が崩壊していく、そういう物語の暗い側面を見るととても悲劇的に思えますが、ブランチ自身の内面について考えると、いつも何かに憧れを持っている夢見る少女のようで、それが元来の彼女の性質なのかもしれない。ですから、そちらの側面に焦点を当てていくと、とてもロマンチックな話であるとも言えるんです。そうした乙女チックな人たちが現実のさまざまなしがらみと対峙して、崩壊していく。
“滅びの美学”なんて、昔『欲望という名の電車』を評する時によく言われた言葉で、いわゆる南部の豪勢な名家が、厳しい現実に晒され時代の波とともに滅んでいく。ブランチはその一つの象徴であるというふうに社会的な意味で捉える見方もありますけど、いやいや、それでもブランチは幸せになったのかもしれない、とも思えるんです。
――痛みを伴う結末のように見られながらも、その中で篠井さんは希望のようなものを感じていらっしゃると……。
篠井 どうなんでしょう。いや、やっぱり自分と相入れないもの、妹ステラの夫である野卑なスタンリーと戦い、またスタンリーの同僚ミッチとの出会いでも傷つけられていくことはしんどいのだけど、それを含めてドラマですから。ブランチはこういう宿命にあったのであろう、こうならざるを得なかった、というところに僕は美しさを感じます。滅びることの美しさに共感、共鳴しますね。

――先ほど幹があるとおっしゃった、ご自身の中にあるブランチ像について教えていただけますか?
篠井 今少し申し上げたように、ブランチには女性のたおやかさ、優しさといった品性が根っこにあることをいつも忘れないようにしています。時によっては、最初の登場からもう少し病んでいる、特殊な人のように演じる方もいらっしゃって、それに異論はないのですが、僕はまだその時は、ステラのもとに希望を抱いてやって来たと考えています。ただちょっと時代遅れな、日常とは違う感性の人であろうと。最初から病んでいるようにはしたくない、そこは僕の中ですごく大事なところですね。
また僕の場合、デコラティブに飾り立てて女の役を演じることはしません。女優さんに混じって女の役を担いたい、そうじゃないと職業俳優として意味がないと思っているんです。現代劇でも時代劇でも翻訳劇においても、「この女の役は篠井君がいいね」と思っていただくには、すっかり削ぎ落とした中にもちゃんと女が見える、女を演じられる俳優じゃないと通用しない。ずっとそうありたいと思っています。
G2演出、充実の共演陣へも高まる期待
――今回はG2さんが新たに演出を担い、翻訳も手掛けられますね。
篠井 G2さんに演出をお願いしたのは、新しい風を入れて気持ちを新たにしたかったという思いがありました。その時に「翻訳も僕がやるよ」とご自分からおっしゃってくださったんです。「名作と呼ばれるこの作品を翻訳してみて、あらためて非常に面白いと感じた」とおっしゃっていました。今回は僕たち日本人が話していて無理のない、自分たちの意識に沿った言葉遣いで挑戦したい、そうお互いに共鳴し合いました。だからといってとんでもなく現代風になっているわけでもなく、やはりニューオリンズという場所や時代の色みたいなものは押さえてあって、ノスタルジックな匂いはちゃんと醸し出されていると思います。とてもいい台本で、気に入っています。
――初演、再演でミッチ役を演じていらした田中哲司さんが、今回はスタンリー役に。そして妹ステラを演じる松岡依都美さんにも注目です。
篠井 楽しみですね! 以前に田中哲司さんが演じたミッチは、本当にチャーミングで素敵だったんです。ただ、ミッチの中にちょっとした凶暴性が……哲司さんが凶暴だというわけじゃないですけど(笑)、そういう荒々しさも彼の中にあることを知っていたので、今度はスタンリー役に挑むのはとてもいいなと思いました。これも解釈ですが、意外とブランチはスタンリーを嫌いじゃないんですよね。自分のことを傷つけなければ好きになっていると思います。そういう男の色気みたいなものを哲司君はお持ちじゃないかなと。きっと素敵だと思います。
松岡さんはとても女性らしいふくよかさと言いますか、女の色香みたいなものをお持ちの方なので、そういう女性と一緒に並ぶことは女方としては怖いんです。そこを頑張るのが僕の使命ですね。「ステラ〜!」って抱き合う冒頭のシーンで、「片方はオッサンじゃん」と思われたら終わりなので(笑)。本当にたおやかで女らしい、それでいて腹が据わったところが依都美さんにはあるので、それもこの作品においては大事なこと。ステラはお腹に子を宿している設定なので、母になろうとしている、円熟した女の肝を見せてくれるだろうなと期待しています。
女方としての代表作へ
――これまで3回ブランチを演じて来られて、ご自身としてはその変遷の手応えをどう感じていますか?
篠井 そうですね。「ブランチって演じ甲斐があるでしょ」と皆さん思われるでしょうが、僕としてはやる度に“演じない”方向に行きたいと考えていたんです。自然でありたい。翻訳物で1947年初演の作品ですから、その時代の外国人ブランチ・デュボアを演じなければいけないと思いがちだけれど、今ある自分という素材をもとに、それが自然にブランチ・デュボアになっている……というところに行けるといいですよね。いかに自然体でこの役を生きるか、がポイントかなと。
――最初のお話のように、今は宝塚歌劇や歌舞伎の舞台以外でも、女性が男役を、男性が女役を演じる作品も時折見受けられます。どのような思いで見ていらっしゃるのでしょうか。
篠井 最初は、こちらの専売特許なのに困っちゃったなと思ったけど(笑)、今となってはいいんじゃない? と思っていて。素敵な女方、素敵な男役さんがいっぱい舞台で見られるのは、豊かなことだと今は思っています。若い俳優さんが「今度、女の役をやることになったので教えてください」とか言って来ることもありますね。そんな一朝一夕に出来ることじゃない……けど、そうは言わずに「何着るの? ドレス? 着物?」って聞いて(笑)。
一番大事なのは、なよなよしないこと。大概初めて女の役をやる男の俳優さんは、なよなよしちゃう。普通の女の人はなよなよしていませんから。スッとしていますから。だから「変に作りすぎないようにしたほうがいいよ」と言うくらいですね。あとはもう教えられない。僕も、いろんな先生方がいらしたけれど直接指導されたわけではなく、見て勉強してきたわけなので、ご自分がキャッチしていかないと。
最近は歌舞伎の役者さんが現代劇にお出になることもありますが、ほとんどが男の役を演じていますよね。でもこれからは、歌舞伎の女方さんが現代劇の中で女の役をなさる可能性がなきにしもあらず、そこら辺がちょっと注目かもしれません。女方の素養がある方がやるとなると、どうなるか。で、そこで負けちゃいられないって思っちゃうわけです。
――闘志が湧く(笑)。素敵ですね。
篠井 そうなんですよ、その気持ちがあったから、ここまでやって来れたんですけどね(笑)。
今回の舞台は、ずっと女方をやって来ている人間が、これぞ自分の代表作だ! というものを本当に最後に手掛けようとしています。生意気なことを言えば「観ておかないと損じゃない!?」という気持ちですね(笑)。アメリカのリアリズム演劇の金字塔のような名作を、女方でこの歳で演じる。「面白いので観に来てください」というのも本心ではあるけれど、それよりも「観ておかないとヤバいんじゃない!? 見ものだと思うよ!」って感じです(笑)。

取材・文/上野紀子
撮影/石阪大輔
〈公演情報〉
吉住モータース presents
『欲望という名の電車』
〈東京公演〉
日程:2026年3月12日(木)~22日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
〈大阪公演〉
日程:2026年4月4日(土)・5日(日)
会場:近鉄アート館
[作] テネシー・ウィリアムズ
[翻訳・演出] G2
[出演] 篠井英介 田中哲司 松岡依都美 坂本慶介
宍戸美和公 森下 創 ぎたろー 平井珠生 松雪大知 吉田 能
チケットURL
https://w.pia.jp/t/yokubou2026/
公演オフィシャルサイト
https://yokubou2026.com/
公演公式X
@yokubou2026
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