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尾上右近「新年をエネルギッシュに」 歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』8役早替りに意気込み

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1月歌舞伎座『蜘蛛絲梓弦』取材会より、尾上右近 ©松竹

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2026年1月2日(金) に開幕する令和8年1月歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」昼の部『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』に出演、全八役を早替りで勤める尾上右近が、取材会で初役への意欲を語った。源頼光が家臣の四天王と共に土蜘蛛を退治したという“土蜘蛛退治”の説話をもとに作られた舞踊劇だが、頼光のもとに次から次へ姿を現す女童、薬売り、番頭新造、太鼓持、座頭を演じたのち、大詰めでは女郎蜘蛛の精として本性を現し、さらには女郎蜘蛛の精を成敗する平井保昌まで演じるという画期的な取り組みだ。取材会が実施された12月10日は、来年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』への出演の発表も重なり、2026年もより一層の活躍が期待される。

歌舞伎座を縦横無尽に駆け回れる幸せ

©松竹

会場に笑顔で登場し、「2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』で足利義昭役を演じさせていただきます。青春群像劇ですので、しっかりと、人間らしい義昭を演じたいと思っております」とすまし顔で挨拶、場の空気を和らげた右近。「──もありますが、「壽 初春大歌舞伎」では、『蜘蛛絲梓弦』で、いまこそ皆さんに楽しんでいただける“やりたい放題の出しゃばり右近くん炸裂”の舞台をお届けし、新年のエネルギッシュなひと時を過ごしていただきたいなと思っている次第でございます」と冒頭から舞台を猛烈アピールした。

「源頼光を悩ませる蜘蛛の精が、いろんな人間に化けて翻弄するというシンプルなお話です。何と言ってもテンポがよく、1時間という尺の中でひとりの役者が何役も演じ分けるというエンタメ性のある、現代のお客さまに確実に楽しんでいただける作品だと感じながら拝見していました」

市川猿之助の『蜘蛛絲梓弦』が大好きで、いつか演じてみたいと思いを募らせていたというが、押し戻し(蜘蛛の精を討つ役)の平井保昌までの8役をひとりで、というのは大きなチャレンジだ。「ここまできたら末広がりの“八”で縁起がいいね、というところで落ち着きました」という一方で、「1時間という尺は決まっているので、役が増えれば増えるほど、一つひとつの役の踊りを削っていく作業も必要に。長唄と常磐津の掛け合いですので、長唄と常磐津の舞踊の雰囲気の違いもしっかり出せるような工夫をしなければ。石川耕士先生(補綴)のお力をお借りしながら、古典作品と新作のちょうど中間をいくような感覚で、僕らしく、僕なりの『蜘蛛絲』を作らせていただきたいと思っています」。

歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」『蜘蛛絲梓弦』特別ビジュアル

本作品の特別ビジュアルには、色とりどりの扮装の右近がずらりと8人。スチール撮影は4時間ほどかかったというが、「スチールだけでも相当疲れちゃったので(笑)、ひと月やり通せるのかどうかはちょっと……。やる役がだんだん減っていくかもしれないので、早く観に来ていただいたほうがいいかもしれません」とジョークを重ねる。「でも、お客さまに楽しんでいただくという一心で骨身を削るのは、役者業、歌舞伎のいいところだなと思っています。自分自身も、歌舞伎の持ち味、魅力を体感しながら、身を捧げるつもりでしっかりとお届けしたいと思います。早替りは、僕自身というより手伝ってくれるお弟子さんや床山さん、衣裳さんなどそれぞれのポジションの人たちが集中力をもってやってくれることにかかっています。僕は何しろ、走ります。歌舞伎座を縦横無尽に駆け回れるというのは、歌舞伎俳優としてすごく幸せなことですし、毎日こんなに真剣に汗かいて走り回って疲れ果てる、ということを人前でやる仕事は、他にあまりない。すごく体力のある種族ですので(笑)、その種族を代表して、楽しみたいと思います」。

「役名まで勝手に自分でつけて」と言われて

『蜘蛛絲梓弦』での8役は、古典の大役や憧れの作品など、さまざまな経験を重ねつつあるいまの右近だからこそのチャレンジでもあるようだ。「青年世代で若手と言われながらも、だいぶ大人なことをやらせてもらうようになったいまだからこそ、分別臭さとはかけ離れた、馬鹿馬鹿しくど派手にやりたい放題。おもちゃ箱をひっくり返したような、賑やかな、衝動的なエネルギーみたいなもの、それもまた歌舞伎だと僕は思います。“大人になっていくかと思いきや、子どもになっちゃう右近くん”が、今回のテーマです」と笑顔の右近。

©松竹

「押し戻し以外は全員、人間の姿を借りた蜘蛛ですから、一貫して不気味さ、妖しさがある。それが軸だと思いますが、その上で、歌舞伎の役柄紹介みたいな作品。役柄を楽しむのと同時に、その役者を見てその役者の変化、早替りを楽しんでいただくものなので、自分が地に足が着いてないとやれません」との分析も。

また、女童扇弥、薬売り研作、番頭新造四つ輪、太鼓持栄寿、座頭音市、傾城薄雲、女郎蜘蛛の精と、平井保昌以外の役にはあらためて自ら役名をつけたそう。8役をひとりでやりたいと伝えたとき、「石川耕士先生に、『いい加減にしなさい。役名まで勝手に自分でつけて!』と言われました(笑)」と打ち明けるが、「“自作自演”って面白いじゃないですか。歌舞伎座の正月公演で、このチラシに自分が作った名前が載っている。もう、いたずらしている気分です」とにんまり。その“自作自演”には、坂田金時役の坂東巳之助、碓井貞光役の中村隼人という同世代の俳優たちが参加する。「これは本当に嬉しいこと。皆で作ることの楽しさ、重要性は強く感じてきました。歌舞伎という皆の城を、今回僕は本丸で、来月は外堀、というふうに皆でやりくりしながら守っていく感覚を持つ仲間だと思っています。おふたりが何かをするとき、僕を必要としてくれたら嬉しい」。

©松竹

2025年はどんな年だったかと問われると、「仕事、人との縁、出会いに恵まれた1年だったと思います。『春興鏡獅子』(4月)は、やるまでの日々のことをずっとイメージしてきて、やった後のことを考えていなかった。どういう心持ちで過ごしたらいいのだろうと戸惑った時期もありましたが、また自分の歩むべき道、挑戦するもの、ワクワクするものを見つける気持ちに進み始め、これがその第一発目かもしれません。これであんまり楽しくないって思われてしまったら、僕が歌舞伎を辞めるか、お客さまに歌舞伎を観るのをやめてもらうしかない、というくらい面白いと思っています(笑)。観に来ていただきたいですし、あなたの心を蜘蛛の糸で絡めとります!」と彼ならではの極上のユーモアで締め括った。

取材・文:加藤智子

<公演情報>
「壽 初春大歌舞伎」

【昼の部】
石川耕士 補綴
『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』尾上右近八変化相勤め申し候

女童扇弥、薬売り研作、番頭新造四つ輪、太鼓持栄寿、座頭音市、傾城薄雲実は女郎蜘蛛の精、平井保昌:尾上右近

坂田金時:坂東巳之助
碓井貞光:中村隼人
渡辺綱:中村吉之丞
卜部季武:澤村精四郎
金時女房八重菊:市川笑三郎
貞光女房桐の谷:市川笑也
源頼光:市川門之助

2026年1月2日(金)~25日(日)
会場:東京・歌舞伎座

関連リンク

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2544249

公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/962

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