反田恭平withベルリン・ソロイスツが紡ぐ伝統あるヨーロッパ室内楽のアンサンブル
モーツァルトからブラームスまで満場の喝采が鳴り響く
Text:山田治生 Photo:(c)2/FaithCompany
『反田恭平withベルリン・ソロイスツ』は、反田のピアノ独奏と室内楽のハイブリッド公演。「ベルリン・ソロイスツ」として来日したのは、ベルリン・フィルハーモニー・ホールの設計者の名前を冠した「シャルーン・アンサンブル・ベルリン」からの4人。ヴァイオリンのヴォルフラム・ブランドルは、元ベルリン・フィル奏者であり、現在はベルリン・シュターツカペレのコンサートマスターを務め、ヴィオラのミカ・アフカムはベルリン・フィルのメンバー、チェロのクラウディオ・ボルケスは、1995年のジュネーヴ国際コンクールで優勝し、ソリストとして活躍、コントラバスのピーター・リーゲルバウワーは元・ベルリン・フィルのメンバー、という名手揃い。
演奏会の始めは反田のソロでモーツァルトの「きらきら星変奏曲」。反田が弾き始めてしばらくしたとき、地震が起きた。静かな音楽のところだったので、ホールがガタガタ音を立てているのが聞こえた。場内に緊張の空気が漂ったが、しばらくすると揺れは止んだ。反田は、気づいていたに違いないが、音楽は止まることなく続いた。反田は、モーツァルトにふさわしいピュアな音色で、音楽の強弱や右手と左手のバランスなどを変化させながら、変奏曲を描き上げた。
ブラームスのピアノ四重奏曲第1番は、反田の丁寧なピアノ・ソロで始まる。そして弦楽器のアンサンブルも力まず丁寧である。全員が相当な腕利きであるが、ソリスト的な誇示はない。奏者間のコミュニケーションが密。反田は落ち着いた音で、ブラームスの重みや深みを表現した。第2楽章のヴァイオリンの表情はさり気なく、ピアノも突出することなく弦楽器と溶け合う。第3楽章冒頭ではチェロが朗々と歌い、ヴァイオリンがそれに乗る。中間部ではピアノが洗練された音色。4つの楽器が織りなす豊かな音楽が、美しい余韻を残した。第4楽章は、一転して、ノリの良い、ロマ風のダンス。速めのテンポが取られ、ピアノが妙技を披露。そして哀愁の旋律は味わい深く奏でられる。最後は勢いよく締め括られた。
演奏会後半の最初は、反田のソロで、ブラームス晩年の「間奏曲」イ長調Op118-2。反田はじっくりと自分の音を確かめるように、味わうように、奏でる。温かみと深みを増したように感じられた。
そして、最後は、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」。第1楽章のヴァイオリンは、自然で、歌い過ぎたりしない。反田のピアノは、弦楽器とコミュニケーションを図るが、ソロ的な箇所では華やかさが際立つ。第2楽章はとても親密なアンサンブル。ハッとするような弱音表現も聴けた。第4楽章は、歌曲「ます」の旋律が主題となった、有名な変奏曲。冒頭、ごく自然に弦楽器で主題が奏でられ、ピアノが入ると華やかさを増す。そして第5楽章で楽しく結ばれた。全体を通して、さすがに伝統あるヨーロッパの室内楽アンサンブルだという印象を受けた。ヴァイオリンは渋めで、ヴィオラはかなりの名手、チェロは温かな音を持ち、味わいのある表現。コントラバスは抜群のセンスでアンサンブルを支える。反田のピアノは作品にふさわしい流麗さがあり、ときにキラキラとした音を聴かせてくれた。5人の音を通しての語らい、まさに室内の音楽(=室内楽)を満喫した。
アンコールでは、ブラームスのピアノ四重奏曲第3番第3楽章を5人で演奏。コントラバス独自の動きもあり、めずらしいものを聴くことできた。そして最後の最後に5人で岡野貞一の「ふるさと」が演奏された。
11月9日バンクーバーでのリサイタルで始まった2025年のツアー。満場の喝采のなか、17公演(ソロ・リサイタル12公演、室内楽5公演)を終えた反田に安堵の表情がうかがえた。
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