映画『安楽死特区』高橋伴明監督のインタビューが到着 撮影を経て変化した「安楽死」へのリアルな心情
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高橋伴明監督 (C)「安楽死特区」製作委員会
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在宅医として2,500人以上の看取りを経験してきた医師で作家の長尾和宏による同名小説を原作とした映画『安楽死特区』。近未来の日本で「安楽死法案」が可決され、国家主導で導入された制度のもと、人間の尊厳、生と死、そして愛を問う衝撃の社会派ドラマだ。
主人公のカップルは、回復の見込みがない難病を患い、余命半年と宣告されたラッパー・酒匂章太郎(毎熊克哉)と、彼のパートナーでジャーナリストの藤岡歩(大西礼 芳)。安楽死法に反対のふたりは、特区の実態を内部から告発することを目的に、国家戦略特区「安楽死特区」への入居を決意する。そこでふたりが見たものは、安楽死を決意した人間たちの愛と苦悩。医師たちとの対話を通じ、ふたりの心に微細な変化が訪れるが……。
監督を務めるのは、『痛くない死に方』『夜明けまでバス停で』などの高橋伴明。7月に公開された『「桐島です」』は、メイン館の新宿武蔵野館で13週のロングランヒットを記録し、第80回毎日映画コンクールで4部門にノミネートされた。この度、最新作となる『安楽死特区』が2026年1月23日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国順次公開されるのを前に、高橋監督のオフィシャルインタビューが到着した。
――『安楽死特区』の企画の成り立ちを教えてください。
高橋 本作の製作総指揮でもある長尾和宏さんの原作の映画化は『痛くない死に方』(2020年)で手がけていますが、2023年夏頃に長尾さんから「小説を読んでほしい」と言われました。最初はほかの監督で進める構想だったようで、それはそれで「いいんじゃない」と思っていました(笑)。
ただ、撮影を経て周囲の人の思いを考えるようになり、真剣に考えるようになりました。こういう深いテーマにはベテランの脚本家が適任だと感じ、丸山昇一さんに連絡すると「ぜひやりたい」と言ってくれ、脚本は比較的早く仕上がってきました。
――『「桐島です」』に続く毎熊克哉さんとのタッグになりました。
高橋 毎熊さんはもともと監督志望だったこともあり、映画をよく理解している俳優です。細かく説明しなくても意図をすぐに察してくれる。『「桐島です」』の現場でも演出意図を深く理解してくれていたので、彼以外には考えられませんでした。当初は両作品とも彼のスケジュールが合わず諦めかけましたが、運よく予定が合ったので、すぐにお願いしました。


――安楽死は国論を二分する大きなテーマです。監督自身はどう感じていたんですか。そして撮影後に変化はありましたか?
高橋 最初は無条件に賛成の立場でした。自由になるなら自分で死を選べるほうが良いと思っていたからです。フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールも2022年にスイスで安楽死を選びましたが、その選択はまさに私も同じ状況なら選んでいたと思います。
ただ、撮影を経て周囲の人の思いを考えるようになり、その気持ちを尊重しながら進めるべきだと感じるようになりました。
――原作ではアルツハイマー型認知症と診断された作家、安楽死特区の主治医、末期がんで特区第1号を宣言する東京都知事らの選択が交錯しますが、映画では大きく設定を変えています。回復の見込みがない難病を患っている章太郎をラッパーにした理由は?
高橋 安楽死という大きなテーマに対抗するには、自分の言葉を持っている人物でないと説得力がないと考えました。特命医との面接のシーンは死の厳粛さと同時に祭事的な要素も感じられるため、ラップバトルという形を取り入れました。難しい役どころでしたが、毎熊さんは頭が良く、見事に演じきってくれました。

――本作には伴明組の常連も多く出演しています。『赤い玉、』『痛くない死に方』の奥田瑛二さんが医師役を演じていますが、関西弁を話す設定は長尾さんをモデルにしたのでしょうか。
高橋 奥田さんの役は長尾さんをモデルにし、『痛くない死に方』からの流れをつなげました。同作からは余貴美子さんにも出演いただきました。余さんが三味線をやっていることは知っていたので、友近さんとの共演は面白くなると考えました。



――劇中には、晩年に自ら命を絶つ選択を公にし議論を呼んだ評論家・西部邁さんの話も登場します。
高橋 入水自殺をした(※)西部さんの壮絶さは、安楽死問題を描くうえで欠かせないと考えました。一度は外すことも考えましたが、意思を行動に移した生き様を残しておきたかったのです。
※手が不自由な西部邁の自殺幇助をしたふたりは懲役2年、執行猶予3年の有罪判決となった。
――観客にはどう受け止めてほしいですか?
高橋 安楽死は人間の尊厳の問題だと思います。その部分が明確にならないと答えは出せません。本人が勝手に決められることではなく、しかし、家族の意思を優先すべきものでもない。日本でも、もっと議論する場所を設けるべきだと思います。

映画『安楽死特区』予告編
<作品情報>
『安楽死特区』
2026年1月23日(金)公開

公式サイト:
https://anrakushitokku.com/
(C)「安楽死特区」製作委員会
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