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Hammer Head Sharkが魅せる感情の渦と美しい音の融合「音楽をやっている間だけは正しく愛せる」ゲストにHedigan’sを迎えた渋谷WWWをレポート

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Hammer Head Shark presents 『After 27℃』 Photo:藤咲千明

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Text:石井恵梨子 Photo:藤咲千明

スタートから数曲後、Hedigan’sの河西“YONCE”洋介は「今俺は『27℃』どころじゃない、80℃くらい」と笑っていた。このライブ企画の名前は『After 27℃』。Hammer Head Sharkが結成から7年の月日をかけて作り上げた初のアルバムが『27℃』であり、そのツアーファイナルとなったのが昨年8月の渋谷O-crest公演。そこから半年足らずで、バンド史上最大キャパとなる渋谷WWWはほぼ満員になっていた。もちろん対バンのおかげでもある。ヨンス率いるHedigan’s目当ての客もかなりいたはずだ。

SEもなくふらっと登場したHedigan’sは、しかし「ヨンス率いる」と書いていいバンドなんだろうか。もちろん彼には特別な華がある。特にギターを置いてピンボーカルになった時は、歌い上げる時の体の角度、手や足の動かし方にまで、自分の魅せ方をよくわかっているスターの趣を感じる。ただ、彼を赤レンジャーとする統制はない。いい意味でメンバーがバラバラなのだ。

わかりやすく見た目の話をすれば、ドラム大内岳はざんばら髪の落武者風、ベース本村拓磨はサングラスとレザーのマッドマックス風。同じサングラスでもギターの栗田将治はもじゃもじゃ頭のボブ・ディランみたいで、彼と兄弟であるキーボード栗田祐輔はニットキャップにジャケットを合わせた古着屋店員のよう。そこにすらっとした優男のヨンスが加わったところで、これが何かひとつの目的で集まっているチームだとは思えないのである。

音楽性も然り。柔らかい歌もの、艶っぽいソウルナンバー、どこか浮世離れしたサイケデリックなどに統一感は見当たらない。全曲がびっくりするほどナイスなグルーヴ、ヨンスのMCによれば「ロックンロールしようぜ」のひと言になるのだが、その解釈や定義を曖昧にしたまま、ただ自然発生した心地よい空気に身を委ねている状態なのだろう。

とにかく多面的。技術的には手慣れたオッサンのような巧さ。しかし表情は陽気な少年のよう。そして商業的なフックを作らない曲の展開は理由もなく輪になって踊り続ける謎の部族みたいでもある。どこまでもトランシーなスペースロックで昇天させたあと、やけくそ気味のパンクになだれ込んだラストには笑ってしまったが、なるほど、どこまでも「形」や「様式」に縛られないことをロックンロールと呼ぶのなら、Hedigan’sはかなり理想的なそれである。そして何より、ひとりではできないもの、バラバラなものを素敵に束ねるものという意味で、非常に「バンド」を感じさせる存在でもあるのだった。

続いてHammer Head Shark。SEもなくメンバーが現れるところはHedigan’sと同じだが、会場が静寂に支配されるのが大きな違い。そして、ながいひゆ(vo/g)がノイジーなリフをまず鳴らし、そこに福間晴彦(ds)がパワフルなビートを合わせていくところが、このバンドの成り立ちを物語っている。まずながいの中に無数のノイズが渦巻いていて、同級生だった福間が彼女をバンドに誘うことで、それが一気に溢れ出したのだ。

もちろんHammer Head Sharkは激情のノイズという言葉が似合うバンドではない。シューゲイザーと分類されることが多いのは、続いて演奏に加わる後藤旭(b)が柔らかなルートで奥行きを作り、藤本栄太(g)が美しいクリーントーンを重ねていくからだ。ふたりともトリッキーな展開を好まず、丁寧にリフレインを重ねていくタイプなので、結果的には静的な印象画ふうの世界が生まれていく。淡くて、儚くて、夢の中のような世界。

ただ、ほわほわとした夢心地に亀裂を生じさせるのがながいの歌声だ。生で響くそれは音源よりもはるかに生々しい。ちゃんと歌っているのに不安定。叫びに近い涙声は今にも崩れそうで、かと思えば美しい裏声で完璧なピッチを披露する。一番近いのは「もしかして、酔ってる?」みたいな状態だろうか。コントロールしながら突然アンコントロールになってしまう人。彼女の揺らぎに引き込まれていくうちに、どんどん心が揺さぶられていく。これはメンヘラ的に承認欲求を振り回すタイプよりも厄介だ。おそらくだが、ながいは「メンヘラ」と「普通」の境界にあるもの、「痛い」と「快い」の間にある感情など、はっきり定義できないものばかりを歌にしている。

ライブ3曲目となる「しんだことになりたい」が好例だろう。不穏なタイトルではあるが、内容は決して自滅を願うものではない。〈ただふと速いものに飛び込みたくなって〉とイライラするように歌い、無意識に上がっていた右足でガツンとステージを踏みつける様子に、はっきりと怒りを感じてしまった。どこにぶつけていいかわからない不安、自分でも手のつけようがない自己否定の思考回路。それに飲み込まれたくなくて戦っている切実な反骨心のようなもの。だからHammer Head Sharkは、シューゲイザー風の曲が多数あっても、決して顔の見えないバンドではない。シンガーながいひゆの生々しい心模様、アグレッシヴとも言ってもいい感情がまずあるのだ。

そして、彼女の内面で暴れていた感情は、バンドという肉体を手にすることでようやくバランスが取れたのだと思う。5曲目「綺麗な骨」の開始前にはフロント3人がドラムの前に集まり福間としばらく目を合わせるシーンがあったが、このメンバーとやっているから安心して自分を解放できる、という感じでそれぞれの表情が緩んでいたのが印象的。暴れまくるパフォーマンスをする者はいないが、出るところは出る、譲るところは譲るチームプレイがきちんと見える。轟音がフロアを揺らした「Daisy」や、アルバム『27℃』のオープニング曲「名前をよんで」などが続く中盤になると、音に合わせて体や首を揺らし続ける人が続出。バンドもファンもじっと立ち尽くすライブなのかと思っていたから、かくもフィジカルな反応が自然と起きることに感動してしまう。何度でも書くが、「俯きがちで透明なシューゲイザー」のイメージから激しく逸脱する瞬間が、このバンドの一番の面白さではないか。

ながいがアコギを手にし、新曲、と紹介していたのは昨年秋のシングル「チューリップ」。レコーディングではHedigan’sの大内がドラムテックを務めており、そこからの縁で今回の共演に発展。ちなみに、今年7回目を迎える3月の自主企画『魚座の痣』ではtricotの共演も決まっているそうで、今のHammer Head Sharkは「ようやく1stアルバムを出した新人」から「憧れの先輩を次々巻き込んでいく若手」に進化している最中である。とはいえ、以上のエピソードを知らなくても、この新曲が持っている華やいだムードには素敵な未来を感じることができた。結成から7年をかけて思いを固め、決して軽くないものを吐き出していったのが『27℃』だとすれば、それ以降はまさに『After 27℃』。もう少し軽やかに開かれていく予感がある。重いものを作品にしたから、というより、それが多くの人に届いた実感があるから変わっていけるのだろう。

「みんなは私が作ったものを……たぶん愛してくれているからここにいるんだと思ったりする。あなたたちが愛してくれるように、私もあなたたちを愛します。音楽をやっている間だけは正しく愛せる気がする。そこにいて、生きていてくれて、ありがとうございます」

いつになく饒舌なMCでながいが語りかける。そこからの本編ラストはまっさらな新曲。歌詞や歌いっぷりで惹きつけるだけでなく、同じリフレインを重ねに重ねてうねりを作り上げていく、長尺なアウトロが素晴らしいものだった。歌ありきではあるが、それ以上にアンサンブルありき。まさにロックバンドの醍醐味を見せつけたラストシーンに、ここからさらに変わっていくHammer Head Sharkを見た思いだ。

<公演概要>
Hammer Head Shark presents 『After 27℃』
2026年1月9日 東京・Shibuya WWW

【Hedigan's / Set list】

01.Fune
02.マンション
03.その後...
04.説教くさいおっさんのルンバ
05.But It Goes On
06.再生
07.DAO
08.敗北の作法
09.BtbB
10.O'share

【Hammer Head Shark / Set list】

01. imp~アトゥダラル僻地
02. echo
03. しんだことになりたい
04. 声
05. 綺麗な骨
06. Daisy
07. 名前をよんで
08. チューリップ
09. Dummy Flower
10. うた
11. 園
12. 魚座の痣
13. レイクサイドグッバイ
14. 新曲
EN.たからもの

<公演情報>
Hammer Head Shark presents "魚座の痣 vol.7"

3月20日(金・祝)新代田FEVER
開場18:15 / 開演19:00
出演:Hammer Head Shark / tricot

【チケット情報】
前売:3,800円 (ドリンク代別)
オフィシャル最速先行(抽選):1月25日(日)23:59まで
https://w.pia.jp/t/uozanoaza/

関連サイト

Hedigan's オフィシャルサイト https://www.sonymusic.co.jp/artist/Hedigans/

Hammer Head Shark オフィシャルサイト https://hammerheadshark.studio.site/

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