演出・松崎史也×主演・橋本祥平 生き抜くことへの尊厳を描くミュージカル『MURDERER』への“思いと覚悟”
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インタビュー
(左から)橋本祥平、松崎史也
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すべて見る本多劇場で3月7日から15日まで上演される韓国発のミュージカル『MURDERER』。ドイツの劇作家ゲオルク・カイザーの『メデューズ号の筏』(1945年)をベースに2019年、韓国にて初演された同作が日本上陸を果たす。
演出はMANKAI STAGE『A3!』シリーズなど、2.5次元作品に定評のある演出家・松崎史也。今回、翻訳ミュージカルに初めて挑み、舞台『機動戦士ガンダム00 -破壊による覚醒-Re:(in)novation』の主演・橋本祥平との再タッグが実現する。作品への並々ならぬ思いと覚悟を二人が語ってくれた。

優しさを持った史也さんなら、きっと届けられるものがあると思えた(橋本)
――まず、演出の松崎さんにうかがいますが、俳優・橋本祥平とはどんな存在でしょうか?
松崎 以前、一緒にやった『ガンダム~』だけじゃなく、祥平が出演している作品を観ていると、多くの役柄において魂に近い何かを常に震わせたり削ったりしながら演じている印象で、それ自体が演じるという行為にとって大事なことなのか、それとも当然すべきこととして為しているのかと興味深くみています。ともすれば生きづらくないのかと心配になるくらいですが、やはりその表現は魅力的ですし、背負う気概というのも常に感じています。
――橋本さんにとって、松崎さんはどんな演出家ですか?
橋本 松崎さん、覚えていますか? 『ガンダム~』の千秋楽に、僕の楽屋に来てくださったのを。安心して、いろんな気持ちを吐露しちゃったんですけど、すごく嬉しくて。こんなに寄り添ってくれる演出家さんは、そういないし、その優しさを持った史也さんが演出する『MURDERER』なら、きっと届けられるものがあると思えたんです。
――橋本さんが演じるアレンは、どんな人物でしょうか?
橋本 「信じたい」と願う子供ですね。信じることで、自分を保っている部分もあるので、決して強い性格ではないと思うんです。大人や戦争の暴力性に無意識のうちに影響を受ける姿には、胸が締め付けられますし。
子供たちの年齢はだいたい12~13歳。大人ではないけれど、子供過ぎない年齢なので、無理して子供っぽく演じる必要はないと思っています。自分の中にある純粋さを探し出して、それを表現できれば。いっぱい悩むと思いますが、何でも話せる、何でも言ってくださる史也さんなので、安心しています。
松崎 そうだね。アレンは正しく生きたがっている。純粋な子供というよりは、彼なりの理想があって「そうであるべき、そうでありたい」と思っている。それは祥平が言う弱さであるし、賢さとも言える。自分で考えて生き抜こうとするキャラクター、まさに祥平にぴったりだね。祥平は自分の魂に悲劇性と光を共存させている稀有な俳優ですから。
台本の1ページ目を読んで演出をお引き受けしました(松崎)
――これまでの演出作品のテイストから考えると、松崎さんが韓国発のミュージカル『MURDERER』を手がけると聞いたときは、少しイメージが結びつかない部分もあったんです。
松崎 同感です(笑)。実際台本を読むまでは、戦争……特に具体的にある時代のある出来事を題材にした内容だという先入観で「自分の演出嗜好には合わない」と思っていたんですが、1ページ目に記された「子供たちは大人たちのようになるだろう。私たちが既に大人のようなのだから」という一文でグッと掴まれ、その勢いで一気に読み終えた時にはもうこのメッセージを届けたい、届けるべきだと手をあげました。
――翻訳ミュージカルの演出を初めて手掛ける点で、何か意識することはありますか?
松崎 根っこの部分では意識することはないですね。純粋に戯曲が面白いですし、素晴らしいキャストと信頼できるスタッフが集まってくれているので、あとはセッションしながら、我々としての表現を探し続けることが重要だと考えています。
ただ、韓国でいくつかミュージカルを観て日本と演劇的なアプローチの違いを感じる部分があったことも事実です。「この物語をミュージカルで?」「日本人的な価値観から見ると、不謹慎かなと躊躇してしまうかも」みたいな、スタート地点の違いと言いますか。この物語、この作品の構造は恐らく普段の我々の作劇からは出てきづらい、そしてそこがとても素晴らしい、と思っているので、今回はその違いを創作として味わいながら楽しむことができれば、きっと強いチームになれるんじゃないかと期待しています。
思わず感情が揺さぶられる、悲惨な部分もある物語ですが、そこに確かに存在する光を見つめることができるのも劇の懐の深さだと思います。この強く悲劇的に見える可能性のある作品において自分なりの“武器”をあえて出すことも、封じることもせず、見つめてもらうために正しく結果を出す必要があると思っていますね。
――橋本さんは歌唱パートについて、期待や不安はあったりしますか?
橋本 歌は得意じゃないので、不安もありますが、この作品は、歌唱パートは美しければ美しいほど残酷に見える面もあるのかなと。なので、変に構えずに、緊張感の中に、表現する楽しみを強く持って挑みたいと思っています。
松崎 祥平の声はとても素敵で、魅力的だと思います。魂に対して責任をもって、この声で放ってくれる。それは大きな意義があるんじゃないかな。
橋本 ありがとうございます。
物語の魅力、その先にある平和への思いを劇場で共有するために
――先ほど、おっしゃった“演劇の懐の深さ”があるからこそ、私たち観客も、戦争の悲惨さや狂気といったものを追体験することができる。そんなエンターテインメントの意義は“いま”という時代に、より力強いものになっていると思います。
松崎 ものづくりのスタート地点って、自己実現や承認欲求だったりもしたと思うんです。でも、ある地点から、大義、あるいは自分たちなりの意義というものを探し始めるんですね。悲劇を表現したり、共有することで、いつか自分に起こるかもしれない不幸に対する備えになると思いますし、結局はフィクション……かもしれませんが、演劇を通して、戦争をなくしたいという祈りはどこかで常に感じています。
『ガンダム~』で祥平が演じた主人公も元少年兵で、戦争を止めるためにガンダムに乗り込むでしょ? 表向きはまったく違う作品だけど、僕らにとっては『MURDERER』にも共通するものがある。そのあたり、祥平はどう思う?
橋本 自分の周りは、ありがたいことに平和ですけど、世界に目を向ければ、あちこちで戦争が起きている。だから、決して綺麗事だけで括りたくないし、「大切な人のことを忘れないでいよう」という思いは、お客様に届けたいですね。
松崎 この作品は今、広く届いた方がいいと思います。劇場という現在性を持つ共有空間でこそ伝えられることがある。重く捉えられがちな題材ですけど、この作品もしくは我々の創作の何かのピースに少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ“信じて”劇場にお越しください。
橋本 稽古を重ねるうち、それに本番が始まってからも、アレンを生きることで、思考も変わってくると思いますし、その変化を大切にしたいですね。俳優として、知らない世界に一歩踏み出せる嬉しさもあります。お客様にはいろんな気持ちを持ち帰ってもらえればと思っています。

取材・文/内田 涼
撮影/荒川 潤
<公演情報>
ミュージカル『MURDERER』
日程:3月7日(土)~15日(日)
会場:本多劇場
[原作] ゲオルク・カイザー『メデューズ号の筏』
[脚本・歌詞] チョン・チャンス
[作曲] ハン・ヘシン
[オリジナル・プロデュサー] ハン・ソヨン
[演出] 松崎史也
[翻訳] みょんふぁ
[出演] 橋本祥平 / 山本咲希・黒川桃花(Wキャスト) / 工藤広夢 / 新里宏太 / 小西成弥 / 原 周石・田仲ゆら(Wキャスト) / 今 拓哉( 戯曲掲載順)
『MURDERER』あらすじ
爆撃の音が鳴りやんだとき、収容所には6人の子供たちが閉じ込められていた。彼らを発見した大人は「必ず助けにくる」と言い残し、わずかのビスケットと水を放り込み去っていく。それぞれの家族や未来を思いながら、わずかな食糧を分け合い、極限状態を生き抜こうとする7日間。子供たちを待つ運命とは?
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/murderer/
公演オフィシャルサイト:
https://ae-on.co.jp/murderer2026/
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