午後に鳴り響く硬派なクラシック、『俺クラ・マチネ』始動
クラシック
ニュース
『俺クラ・マチネ』
続きを読むフォトギャラリー(2件)
すべて見る今年1月、「俺クラ(俺のクラシック)」が、新たに午後の公演「俺クラ・マチネ」のシリーズをスタート。3月末までに各地で5公演が行われる。1月30日(金)、調布市グリーンホールでの公演を聴いた。午後2時開演。
「俺クラ──変な名前ですよね。出演オファーをいただいたとき、最初名前だけ聞いて、断ろうかと思いました」
と客席を笑わせたのは、今回のツアーが俺クラ初出演の注目の若手ピアニスト、京増修史。
2024年に旗揚げした「俺クラ」は、人気ヴァイオリニストの“組長”石田泰尚と、世界的バンドネオン奏者・三浦一馬の二人を中心に、気鋭のピアニストを迎えて編成されるユニット。男性演奏家のみの編成で、「力強さ」「芯の強さ」を特徴に掲げている。
そんな「俺クラ」流の硬派なイメージはこの日のプログラムにもはっきり表れていた。肩肘張らずに楽しめる、おなじみの小品を中心にした名曲コンサートでありながら、クラシック音楽の本格的レパートリーががっちりと軸を形作っている。そして、午後のお楽しみコンサートではあっても、主役はあくまで音楽。トークも挟まず演奏に集中し続けるノンストップの全10曲、90分間のプログラムだ(休憩含む)。「男は黙って……」といった趣。先の京増の発言も、実際にはアンコールを1曲終えてようやく飛び出したひとことだった。
コンサート第1部は、ソロとデュオによるプログラム。京増のソロによるショパン《アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ》で幕を開けた。演奏時間15分ほどの、午後のコンサートの1曲目としてはなかなかの大曲だ。京増は内省的な前半と華やいだ後半の性格の違いを自然に対置し、作品の二面性を穏やかに示した。
ここで石田泰尚が登場。京増とのデュオで3曲を続けて聴かせる。
J.S.バッハの鍵盤曲を伴奏にして、グノーがメロディを乗せた《アヴェ・マリア》。京増の端正なピアノの上で、石田が繊細に歌う。
《テンポ・ディ・メヌエット》は、20世紀の名ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラーがバロック時代の宮廷舞曲の様式を模して作った曲。優雅で気品のある作品を、堂々たる佇まいで聴かせる。愛らしい中間部との対比も鮮やか。
ファリャの《火祭りの踊り》はもともと、バレエの中に出てくる悪魔払いの音楽。ピアノの不気味な前奏に乗って、石田のヴァイオリンが快速テンポで激しく踊り狂う。
石田と三浦一馬がバトンタッチ。コンサート前半の締めはガーシュイン《ラプソディ・イン・ブルー》だ。バンドネオンが曲冒頭の有名なクラリネット・ソロを弾き始める。ピアノ協奏曲のような作品を、ピアノ独奏を京増が、合奏パートを三浦が担当していく。音楽のスケール感は十分で、オーケストラ作品であることを忘れさせるほどだ。バンドネオンの多彩さをあらためて思い知らされた。全曲で17〜18分の原曲を約7分に凝縮しているので、聴きどころが次々に連続して登場。客席の熱量が上がった。
ここで15分間の休憩。この日の客席は圧倒的に女性率が高く、それゆえ開演前も休憩中も、そして終演後まで、女性用化粧室には長蛇の列ができていた。早めに済ませて準備したほうがよさそうだ。
第2部は石田泰尚と三浦一馬のデュオによるヘンデル《私を泣かせてください》で再開した。途切れがちに歌うような切々としたメロディ。繰り返し部分で装飾音をふんだんに盛り込むのは、バロック時代のダ・カーポ・アリアの特徴をきちんと押さえているからだろう。このあたりにも、音楽の親しみやすさだけに流されない「俺クラ」流の硬派さが感じられる。
続いて石田&三浦のデュオで《シンドラーのリスト》。この日のプログラムの中で唯一の映画音楽だが、違和感はない。もともとイツァーク・パールマンの独奏を前提に書かれた曲だけに、ヴァイオリンの呼吸や間合いが音楽そのものを形づくっている。ヴァイオリン独奏曲として自然に聴くことができる一曲だ。石田はテンポをほんの少し速めに取る。悲しみが、過去に重く沈むのではなく、いま私たちが生きている時間の中を静かに流れていく、そんな感触を残した。
ここからは3人が揃い、トリオ編成での演奏。まずはドビュッシー《月の光》とサン=サーンス《白鳥》。
原曲がピアノ曲の《月の光》だが、冒頭がピアノではなくバンドネオンで始まったのはちょっと意表を突かれた。そしてそれが実にいい雰囲気。やがて加わる石田の丁寧な主旋律も、曲に深くマッチしている。
《白鳥》では原曲のチェロ独奏のパートをバンドネオンが情熱的に歌い、そこに石田がオブリガートで応答する。
プログラムの最後はJ.S.バッハの《2つのヴァイオリンのための協奏曲》BWV1043。全3楽章、約15分をカットなしで全曲演奏というのも、クラシック・コンサートとして芯の通った選択だ。石田はもちろん、三浦もバッハに集中的に取り組んだ実績がある。2つのヴァイオリン独奏パートは、そのままヴァイオリンとバンドネオンに置き換えられ、第1ヴァイオリンを石田、第2ヴァイオリンを三浦が弾いた。タンゴの楽器というイメージが強いバンドネオンだが、もともとはドイツ生まれで、教会でパイプオルガンの代用として使われることもあったとされる。バッハとバンドネオンの距離は、実はそれほど遠くないのだ。その意味でも、この置き換えは驚くほど相性がよく、きわめて自然に響いた。石田と三浦が掛け合い、一体となる。弦楽合奏+通奏低音の役割を担う京増のピアノが全体をしっかりと支え、聴きごたえたっぷりのバッハとなった。
熱心な拍手に応えてアンコール。バッハから一転、キレキレのピアノとバンドネオンに、ヴァイオリンのポルタメント。会場の空気が一変した。ピアソラの《ビオレンタンゴ》。三浦率いる「五重奏団」や「東京グランド・ソロイスツ」で、長く活動をともにしてきた三浦と石田にとって、ピアソラはいわば本丸のレパートリーだ。「Violento 激しい」と「Tango タンゴ」を組み合わせたタイトル(Violentango)どおり、荒々しいエネルギーがほとばしる。爽快。
そしてここでようやく、三浦がマイクを手に一人で登場。メンバー紹介のために、まず京増を呼び込んでやりとり。続いて石田を呼ぶ。マイクを向けられた石田は、短く「もう1曲、やります」とだけ言い放つと、チューニングも終わるか終わらないかのうちに弾き始めた。おなじみの《リベルタンゴ》。引き続きのピアソラ攻めに客席はいっそう沸き、大きな拍手に包まれて公演は幕を閉じた。
終演後、ロビーではCD購入者対象のサイン会も開催された。いち早く姿を現した三浦一馬を見て、帰り支度をしていたご婦人が、「かっこいい!」と声を上げ、慌ててCDの列に並び直す場面も。これも早めの準備がおすすめだ。

取材・文:宮本明
調布公演後の余韻とともに。舞台裏の3人から届いたメッセージをお届け!
石田泰尚より
頑張ります。待ってます。
三浦一馬より
こうして沢山の皆様へ“俺クラ・サウンド”をお届けできますこと、大変嬉しく光栄に思っております。「ツアー」というものの良いところは、回を重ねるごとに、どんどんアイディアが足され、内容がブラッシュアップされて行くところ。実はそれは我々演奏家だけの力ではなく、何を隠そう聴いてくださる皆様方のお力添えがあってこそ…!ぜひ、同じ時間・空間を共有しましょう。皆様のお越しを、会場にてお待ち申し上げております!!
京増修史より
俺クラ初参加、そして石田さんとは初共演というダブルの緊張感がありましたが、なんとか乗り切ることができました。多彩なプログラム、ここでしか聴けないアレンジ、そして三者三様の個性が重なり合うことで生まれる化学反応こそが、何よりの魅力だと思います。それぞれの会場で生まれる音楽を、ぜひ全身で浴びていただければ嬉しいです!
<公演情報>
俺クラ・マチネ
【出演】
石田泰尚(ヴァイオリン)、三浦一馬(バンドネオン)、京増修史(ピアノ)
【プログラム】
J.S.バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調
G.F.ヘンデル:「リナルド」より~私を泣かせてください
J.ウィリアムズ:シンドラーのリスト テーマ
C.ドビュッシー:月の光
C.サン=サーンス:白鳥
G.ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
F.ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op. 22
ほか
【静岡公演】
2026年2月24日(火)
会場:三島市民文化会館 大ホール
【栃木公演】
2026年2月26日(木)
会場:栃木県総合文化センター メインホール
【福岡公演】
2026年3月30日(月)
会場:FFGホール
関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/oreclamatinee/
フォトギャラリー(2件)
すべて見る
