ジャンルを超えて世界を惹きつける、新時代のカウンターテナー
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(C)Jiyang Chen
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オペラの舞台からブレイキングダンスやモデルとしても存在感を示すオルリンスキ。多彩な表現を武器に国際的な評価を高める彼が、日本で初めてその声を披露します。音楽ライターの後藤菜穂子さんより、オルリンスキの魅力をご紹介いただきました。
ポーランド出身のカウンターテナー、ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキの名前を知らなくても、実は彼の歌声を聴いたことがあるという方は意外に多いのではないでしょうか。
2022/23年のフィギュアスケートのシーズンに、日本の宇野昌磨選手がフリープログラムの演技で、ほかならぬオルリンスキの歌うハッセのオラトリオのアリア「わたしの苦しみよ、さあ早く!」(「Mea tormenta, properate!」)を用いていたからです。オルリンスキのどこか翳りのある甘美な歌声に、いったいだれが歌っているのだろうと思ったのは、筆者だけではないでしょう。ちなみに、この曲は、彼のエラート・レーベルへのデビュー盤「Anima Sacra」に収録されています。
本ディスクがリリースされた2018年は、オルリンスキが欧米の音楽界にブレイクした年でもありました。英国の主要紙『テレグラフ』では「もっともホットなオペラ・スター10人」のひとりとして、ヨナス・カウフマンやエリーナ・ガランチャらと並んで抜擢され、新世代のカウンターテナーとして注目を浴びました。
オルリンスキは「はじめてZ世代に認められたカウンターテナー」と評されるなど、クラシックにとどまらない幅広い聴衆層にアピールする歌手として知られますが、その理由のひとつが、彼が卓越した歌手であると同時に、なんとブレイクダンスの達人であることが挙げられるでしょう。過去には大会に入賞したこともあり、パリで開催された世界的なスポーツ大会の開会式では〈ブレイキングからバロック〉というシーンで、ラモーのオペラのアリアを歌うと共に、ブレイクダンスの技も披露し、話題を呼びました。
オペラの舞台でも抜きん出た活躍を見せており、カヴァッリやヘンデルなどバロックのオペラはもちろんのこと、2021年にはニューヨークのメトロポリタン・オペラで現代作曲家マシュー・オーコインの「エウリディーチェ」に登場し、メト・デビューを飾りました。また、2022年のロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでの「テオドーラ」やサンフランシスコ歌劇場でのグルックの「オルフェオとエウリディーチェ」、2025年のチューリヒ歌劇場での「アグリッピーナ」など、その歌唱とすぐれた演技は各地で称賛されてきました。
筆者が2023年夏にドイツ・バイエルン国立歌劇場で観たヘンデル「セメレ」のプロダクションでも、セメレにふられる不運な恋人アタマスの役をチャーミングに演じ、アルト音域の伸びやかな美声とヴィルトゥオーゾ的な技巧をたっぷりと聞かせ、さらには演出に組み込まれたブレイクダンスでも技を披露し、観客を大いに沸かせました。
東京および兵庫でのリサイタルの前半では、こうした欧米の歌劇場で歌い込んできたヘンデルの華麗で技巧的なオペラ・アリアと、パーセルのしっとりした抒情的な歌曲という曲目で、バロックの「動と静」をたっぷり味わえるでしょう。
このように国際的な舞台で華々しい活動を続けるオルリンスキですが、初のポーランド出身のカウンターテナーのスター歌手として、母国の音楽を聴衆に届けることも大切な使命としており、リサイタルの後半では、日頃あまり聴く機会のないポーランドの芸術歌曲をお楽しみいただけます。
2022年にリリースされた歌曲のアルバム「Farewells」では、これまで国際的にはあまり光があてられてこなかった19〜20世紀のポーランドの作曲家――モニュシュコ、カルウォヴィチ、シマノフスキ、バイルトら――のしばしばメランコリックで郷愁に満ちた歌曲を取り上げ、新境地を開きました。ピアノのミハウ・ビエルは、オルリンスキがジュリアード音楽院で学んでいた時代からの盟友。筆者も2022年にロンドンの名門ホール、ウィグモア・ホールでふたりのリサイタルを聴きましたが、オルリンスキのよく通る憂いを帯びた声とビエルの表情豊かで包容力のあるピアノが心に深く響きました。
おそらくコロナ禍がなければもっと早くに来日を果たしてブレイクしていたであろうカウンターテナー界の逸材の待望のリサイタル。その稀有な歌声でみなさんをうっとりさせる一夜になるでしょう。(音楽ライター・後藤菜穂子)
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2563340
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