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スコア尊重の高水準上演 新国立劇場《リゴレット》初日レポート

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撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

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新国立劇場のヴェルディ《リゴレット》が、2月18日に初日を迎えた。

ミラノ・コルティナ五輪の熱戦が連日伝えられるなか、祝祭とは異なるイタリアが舞台に現れる。短い前奏曲。トランペットとトロンボーンが静かにC音(ド)を刻み始める。オペラ全体を貫く「呪い」の象徴。父と娘の宿命を暗く照らし出す。

上演されたプロダクションは、スペインのエミリオ・サージが演出し、2023年に新制作上演された舞台。

「原作のドラマを忠実に再現する構成」「伝統的設定を保ちつつ視覚的に整理された舞台」「人物の心情や行動を理解しやすい」など、伝統を踏まえながら“わかりやすさ”を備えた点が好評を得た。ルネサンス風の衣裳で人物像をはっきり示しつつ、現代的でシンプルな舞台美術と効果的な照明がドラマの主題を浮かび上がらせる、具体性と抽象性のコントラストが際立つ。

プログラムに掲載されているサージの言葉は、彼の姿勢を示しているだろう。

「《リゴレット》の最低条件は素晴らしい歌と優れたオーケストラ。その上で、私がスペクタクルとして加えた“ドレッシング”を気に入っていただけると幸いです」

今回の上演は、その音楽面がきわめて高水準だった。

撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

題名役リゴレットのウラディーミル・ストヤノフ(バリトン)は驚愕。声にも表現にも大満足。いわば、技術点、演技構成点ともにすこぶる高い。けっして大袈裟でない自然な感情表現で、きわめて人間的なリゴレットを演じてみせた。

ジルダ役の中村恵理(ソプラノ)も圧巻の出来栄えだった。近年は中声域の充実した劇的な役にレパートリーを拡げていると思うのだけれど、この日は彼女の原点とも言える、可憐なレッジェーロを、高いテクニックで披露。声の重心が下がったのではなく、守備範囲が拡がったということなのだと納得。

マントヴァ公爵役のローレンス・ブラウンリー(テノール)がきわめて新鮮だ。ロッシーニやドニゼッティをはじめとするベルカント・オペラで世界的評価を確立してきた、円熟期のスター・テノール。今回が同役のロール・デビューであるだけでなく、公開されている上演記録を見る限り、少なくともこれまでにヴェルディの大役を歌ったことはないはず。軽やかさに確かな芯を備えた声が、軽薄な色男マントヴァ公爵に刹那の本気もにじませた。

そしてミラノ出身の指揮者ダニエレ・カッレガーリがヴェルディの音楽を的確に牽引する。「ヴェルディ原理主義者」を自認するだけあって、ヴェルディの楽譜に忠実な解釈。慣習的に行われがちな、歌い手の声をひけらかすような随所の変更--たとえばマントヴァ公爵の有名なアリア(カンツォーネ)〈女心の歌〉の最後を高いH音(シ)にしたり--は採用せず、ヴェルディの楽譜どおり。もちろん歌手の合意のうえだろうけれど、作品の真の姿があらためて示されるようで、とても好ましく聴き入った。ちなみに終わり近くに出てくる舞台裏からの〈女心の歌〉のほうは、ヴェルディの楽譜どおり、Hでたっぷりフェルマータ。ブラウンリーの美しい高音。しかも歌いながら奥へ下がっているのだろう、「遠ざかりながら」という楽譜の指示どおりの絶妙なフェイドアウトが、じつに劇的な効果を上げていた。楽譜を見ながら聴いたわけではないので断言はできないけれど、おそらくノーカットでの上演だったはずだ。

撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

一方で、声もオーケストラも、弱声の使い方が絶妙で、音楽が繊細に運ばれる。こときれる寸前のジルダの高いA(ラ)の「Addio!(さようなら)」が、オーケストラなしで裸で残る瞬間。張り上げるのではなく抑制した表現が、まるで周囲を浄化するようで、鳥肌が立った。

声とオーケストラのバランスの作り込みも丁寧。たとえば第2幕でリゴレットが歌うアリア〈悪魔め、鬼め〉でも、16分音符で刻む弦の激しい伴奏を、歌の出に合わせて巧みに抑えるメリハリ。楽譜にはない指示だが、当然、声が際立って聴こえてくる。

上演機会の多い名作だが、これまでに体験できなかった新鮮な作品像に出会えた。その核心には、ヴェルディの真の姿がある。

新国立劇場の《リゴレット》は、このあと、2月21日(土)、23日(月・祝)、26日(木)、3月1日(日)の4公演。いずれも14時開演、東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。上演時間は約2時間40分(休憩含む)。

取材・文:宮本明

■チケット情報
http://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2563110

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