まもなく開幕「三月大歌舞伎」 松緑、時蔵、巳之助、隼人が語る黙阿弥の傑作を「通し」で浴びる贅沢。
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左から)中村隼人、中村時蔵、尾上松緑、坂東巳之助 (c)松竹
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すべて見る2026年3月5日(木) に東京・歌舞伎座で開幕する「三月大歌舞伎」では、ふたつの通し狂言が上演される。昼の部は、江戸時代の加賀藩の御家騒動を題材にした『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』の後日譚である『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』、また夜の部は舞踊『壽春鳳凰祭』ののちに『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』が登場。2月13日に都内で実施された取材会では、出演者の尾上松緑、中村時蔵、坂東巳之助、中村隼人が、舞台への思い、作品の魅力を語った。
Wキャストを含む新鮮な配役に注目
取材会の冒頭で挨拶したのは、昼の部『加賀見山再岩藤』で岩藤の霊と鳥井又助を、また夜の部の『三人吉三巴白浪』の和尚吉三を、それぞれ巳之助とのWキャストで演じる松緑。「いろんなところを巳之助さんからも盗んで、いい芝居にしたいなというふうに思っております」と意気込む。
時蔵は、『加賀見山再岩藤』で二代目尾上を、『三人吉三』ではお嬢吉三を勤めるが、「1月は(国立劇場公演『鏡山旧錦絵』で)初代尾上を勤めさせていただきましたのでそれを活かしつつ、また夜の部のお嬢吉三は通しでは2度目、『大川端の場』だけですと4度目。年下の人たちとの『三人吉三』は初めてですので、新鮮な気持ちで、お客さまに楽しんでいただけるように作ることができたらと思っております」。


昼夜ともに松緑とのWキャストでのぞむ巳之助は、「普段ですと、教えていただいたことを真摯に、精一杯に、の一点に尽きるのですが、松緑のお兄さんと私のほうと、お客さまから同じお値段を頂戴いたしますので、それだけではない何かというものを、きちんと舞台の上に残せたらいいなと思っております」と意欲的だ。
隼人が勤めるのは『三人吉三』のお坊吉三。比較的頻繁に上演される『大川端の場』は3回ほど経験しているが、通しは初めてだ。「松緑のお兄さんは何度もなさっていますので、甘えながら、いろいろと伺って勤めたいと思います」。


『加賀見山再岩藤』への取り組みについて質問が寄せられると、松緑は、「普段私は女形をしませんが、最初に出てくる岩藤は、亡霊のみすぼらしい格好で、その後の『花の山の場』はとてもきれいに、そして最後に鳥井又助──と、三場面に出てきて、それぞれにキャラクター、趣が違う。そういうところは大事にしたい。殊に『花の山の場』は、お客さまに喜んでもらうための場面。華やかなところを大事にして作っていけたらいいなというふうに思っております」。巳之助は2021年に、2週間ほどだが岩藤の霊を代役で勤めている。「そのときの本役は鳥井又助でしたが、コロナ禍のため上演時間を短縮するために書き換えられた台本で、全くの別物。又助は今回が初役といっていいのかなと思います。やることの多い役なので、松緑のお兄さんにしっかりと教えていただき、勤めさせていただきたいと思います」という。ひとりの俳優が岩藤と又助の両方を演じることについては、「男と女という違いがあるのはまず大前提、また幽霊であるということを一旦置いておくとすると、身分の高い悪人と身分の低い善人という、対極のふたり。小手先のような演じ分けは全く必要ない二役です。それぞれの役に向き合えば、似通ってしまうことはないと思っています」。
二代目尾上を演じる時蔵は、1月に演じた初代尾上を振り返り、「手応えは、全くなかったです」と厳しめの発言。「本当に繊細な役で、綱渡りをしているような気分に。一挙手一投足、ちょっとでも間違えると全く違うふうに見えてしまう。非常にやり甲斐があり、勉強になったお役でございました」。今回の二代目尾上は、父の中村萬壽とのWキャストでのぞむ。「なるべく、父と同じふうにならないように勤めたいなとは思いつつも、ただ、尾上としての格というものは確実に必要になってくる──」と慎重だが、「絶対に負けぬ!という強い気持ちです」と笑顔。「1月に初代尾上を勤めたことが、いい方向に働いてくれたらいいなと思っております」。
「物語が縦に繋がる面白さ」――通し上演で紐解く、黙阿弥が描いた因果と様式美
今回の公演は、昼夜続けて、河竹黙阿弥の作品を通しで堪能できるまたとない機会に。それぞれに黙阿弥作品の魅力を尋ねると、まずは松緑が「『加賀見山再岩藤』と『三人吉三』は同じ年(1860年)に作られた作品ということらしいのですが、同じ年にこれだけ毛色の違う作品ふたつを書き上げる黙阿弥さんという方は、底知れぬ才能がある。『三人吉三』は、真ん中にいる三人だけではなく、すべての人たちがどんどん転がり落ちていくという、その悲劇がひとつの見どころ。好きなお芝居でございます。『加賀見山再岩藤』に関しては、『鏡山旧錦絵』の続編という形でありながら、そのパロディの要素もあり、もうちょっと肩の力を抜いて華やかに観られるような作品。昼夜で全く毛色の違う狂言が並び、お客さまにも喜んでいただけるのではないかなというふうに思っております」と分析。時蔵は、「因果が巡っていくということ、七五調、また白浪ものというのが、黙阿弥作品の何となくのイメージでしょうか。他の作品と比べても、『三人吉三』はかなり複雑に糸が絡み合い、ストーリーも非常に重苦しい悲劇ですが、あまり暗くなりすぎずに幕が締められるというのが、ある種、歌舞伎と親和性の高い作品なのかなと思います」。


黙阿弥作品の魅力が次々と挙げられる中、「どんどん言うことがなくなってきた(笑)」と慌てる巳之助だが、「通しで観ると、縦のお話の絡み合い方、面白さが見えてくる。物語の面白さを十二分に楽しんでいただける作品ふたつかと思います」とアピール。
いよいよ何を語るべきかと困惑の隼人には、「好きな台詞があれば」との助け舟が。「『三人吉三』に関しては、“月も朧に白魚の──”の名台詞。昔は子どもまで口ずさんでいたそうですが、ストレートプレイ、現代劇でも取り上げられる、余白のある作品。退廃的な世界観で織りなす人間ドラマで、どんどん転落していく、その散り際の美しさみたいなものが魅力かなと思います」と澱みのないコメント。「子どもの頃、吉右衛門のおじさまがお坊吉三をなさっているのを拝見したとき、アウトローな魅力のある格好いい役だなと思いました。何年か前の歌舞伎座で、尾上右近くんと巳之助さんという平成世代の三人で『大川端』を上演しましたが、いつか通しでできたらいいねという話もしていました。このように叶ったことを嬉しく思います」。さらには、「『大川端』だけ上演されるのには理由があると思います。同じ名前を持つ三人の吉三の出会いの場は、ひとつの大きな魅力。お坊に関しては、お嬢との、男同士だけれども、いわゆる色模様の空気感を自分なりに出せたら。そこがうまく伝わると、作品の厚みが出るのではないかなと感じます」。


また、Wキャストを勤める巳之助に対する思いを尋ねられた松緑は、「非常に頼もしい後輩。役柄が近いながらも、彼には彼のとても素敵な魅力がある。見比べて楽しんでもらえるのではないかと思います。平成世代の中にバリバリの昭和がひとり入って平均年齢を上げて、申し訳ないなと思いながらも、後輩と言うのもおこがましいくらい、皆さんはいま第一線で活躍している。僕らが先輩から教わったことを、きっと、その下の後輩たちに繋げていってくれるのではないか。その点で心配することは一切ないです」と述べる一方で、「私の世代で現役で活躍している人はいっぱいいますが、私はできるだけ、“労少なくして益多い余生”を過ごせればいいなと」と、にやり。巳之助も、「ぜひ見習いたい」とジョークを重ねる。

松緑は、『三人吉三』のおとせを演じる長男・尾上左近との共演も注目される。左近は5月に三代目尾上辰之助を襲名、この『三人吉三』が左近としての最後の舞台に。おとせは松緑と巳之助が演じる和尚の手にかかり命を落とす役でもある。松緑は、「私と巳之助さんが殺す役。ここでちょうど左近としての人生が終焉を迎え、5月に生まれ変わってくれるのではないかなと思います」と語る。さらに、「ついこの間まで子役だった息子が、物語のキーポイントになるカップルを、同世代の(市川)染五郎さんとやる──。あの殺し場は、僕としては何か、新たな気持ちになるのではないかなと思います」と胸の内を明かした。
取材・文:加藤智子
<公演情報>
「三月大歌舞伎」
【昼の部】11:00〜
通し狂言『加賀見山再岩藤 骨寄せの岩藤』
【夜の部】16:30〜
一、『壽春鳳凰祭』
二、通し狂言『三人吉三巴白浪』
2026年3月5日(木)〜26日(木)
※休演:11日(水)、19日(木)
会場:東京・歌舞伎座
関連リンク
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2604454
公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/970/
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