筧利夫が放浪の国語学者を熱演! 井上ひさし版“ドン・キホーテ”が現代に。こまつ座『国語事件殺人辞典』開幕
ステージ
ニュース
こまつ座第 157 回公演 『国語事件殺人辞典』より、右から)筧利夫、諏訪珠理 (撮影:宮川舞子)
続きを読むフォトギャラリー(9件)
すべて見るこまつ座第 157 回公演 『国語事件殺人辞典』が、2026年3月7日、東京・紀伊國屋紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて開幕した。国語学者・花見万太郎が美しい「日本語」を守る旅に出る、井上ひさし版『ドン・キホーテ』とも言われる作品で、1982年、井上の盟友・小沢昭一のひとり劇団「しゃぼん玉座」の旗揚げ公演で上演された。今回演出を担うのは、こまつ座初登場の大河内直子。初演から40年以上を経てのこまつ座初上演、その初日前日に実施されたゲネプロを取材した。
『国語事件殺人辞典』の主人公・花見万太郎を演じるのは、こまつ座初登場の筧利夫。冒頭の公園の場面では、万太郎の弟子の山田青年が、37年間にわたって辞書の編纂に力を注ぎ、6万語の言葉それぞれを独特の表現で定義した万太郎の偉業を、声高らかに称え上げる。そんな山田を務めるのは、諏訪珠理。通りがかりの人々を唖然とさせる、渾身の力を込めた熱い演説に、しばし目を奪われる。

筧が演じる万太郎は、国語辞典の編著者ではあるが、出版の目処は立っていない。完璧主義だが、外来語の氾濫に嫌悪し、原稿へのこだわりの強さは編集者も辟易。財産を使い果たし、妻にも逃げられた風変わりな男を、飄々と、自然体で表現して魅力的だ。彼が言葉への思いを歌い上げる “主題歌”は、切なくてじんとくる。

放浪の旅に出て、行く先々でさまざまな人と出会う万太郎の姿は、井上ひさしそのものでもあるし、遍歴の騎士ドン・キホーテに重なる。ただし、彼が守ろうとしたのは美しいドゥルシネア姫でなく、正しく美しい日本語。付き従うのは、サンチョ・パンサのイメージよりぐっと若くて爽やかな山田青年だ。出版社をクビになっても、6万語のカードが入った革のトランクを抱えどこまでも万太郎に付き従う実直な山田を、諏訪が清々しく表現。
野球中継の音声がかすかに響く町の食堂、ドサ回りの劇団の楽屋、駅長の楽しいアナウンスが響き渡る羽前小松駅、昭和レトロな喫茶店と、どこに行っても万太郎は論破される。時代の流れによる言葉の変化や、面白おかしく言葉を使うことの大切さにあらためて気付かされるうち、万太郎と山田の“冒険”の世界へとどんどん引き込まれてゆく。

登場人物は皆、一筋縄ではいかない曲者ばかり。日本語の単語の数を極端に絞り、複雑な活用を排した「簡易日本語」を標榜する沢村花代もその一人だ。登場するやいなや、大上段に振りかぶって持論を展開する花代を、加藤忍が怪演。活用なしの簡易日本語で「起きるませ」「食べるませ」と素っ頓狂な言い回しを自在に操る様は禍々しくも美しく、目が離せない。その娘の絹代を演じるのは、清水緑。美しい日本語を発するその姿に、万太郎も観客もすっかり心を奪われるが──。

そうして花代と万太郎の過去の関係が明らかとなり、万太郎と山田の旅は思わぬ展開へ。井上ひさしの言葉へのこだわりがそこここに散りばめられた物語、ドキドキとワクワクが満載の舞台が誕生した。
取材・文:加藤智子 撮影:宮川舞子
ゲネプロ直後のキャスト&スタッフからコメントが到着!
■演出:大河内直子
44年という年月を経て2026年版「国語事件殺人辞典」が誕生いたしました。
ことばのドン・キホーテ花見と山田の
巡礼の旅をカンパニー総力をあげてお届けします。
「ことばとたましいとを人間に返せ」という
井上さんのことばを、命の力を
劇場から持ち帰っていただけますように。
劇場でお待ちしています。
■出演:筧利夫
今日、ゲネプロを終えました。長い稽古の時間を重ねてきましたが、舞台というものは最後まで完成するものではなく、常に途中にあるものだと改めて感じています。今日この作品がどこへ向かおうとしているのか、その輪郭がようやく見えてきた気がしました。まだ細かな課題はありますが、俳優、スタッフ、それぞれが積み重ねてきたものが確実に一つの形になりつつあります。ここから先は、お客様と出会うことで、さらに変化し、深まっていくはずです。その瞬間を、私自身もとても楽しみにしています。
■こまつ座代表 井上麻矢
井上ひさしがこまつ座を作るきっかけにもなった本作を、是非観にいらしてください。
言葉へのこだわり、言葉への愛、ありし日の井上ひさしにきっと会えると思います。
誠実に、真摯に、向き合うことを忘れていないかと、問いかけているよう。
自分が考えて、本当にYESだと思えばYESを、 NOだと思えばNOを、伝えられなくなった世界に生きる全ての人に捧げます。
<公演情報>
こまつ座第157回公演『国語事件殺人辞典』
作:井上ひさし
演出:大河内直子
出演:
筧利夫 諏訪珠理 佐藤正宏 青山達三 池岡亮介 景山仁美
浦野真介 北原日菜乃 飯田邦博 西川瑞 西村聡 加藤忍 清水緑(並びは台本順)
【東京公演】
2026年3月7日(土)〜29 日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
スペシャルトークショー
3月12日(木) 13:00公演終了後 大河内直子(演出家)
3月15日(日) 13:00公演終了後 大河内直子(演出家)、筧 利夫
3月21日(土) 13:00公演終了後 諏訪珠理、佐藤正宏、青山達三、加藤忍
3月25日(水) 13:00公演終了後 筧利夫、諏訪珠理
司会:こまつ座 井上麻矢
※開催日以外の『国語事件殺人辞典』チケットでも入場可能。
※満席の場合は入場不可の場合あり。
【大阪公演】
2026年4月4日(土)・5日(日)
会場:新歌舞伎座
【群馬公演】
2026年4月11日(土)・12日(日)
会場:高崎芸術劇場スタジオシアター
関連リンク
フォトギャラリー(9件)
すべて見る
