LiLiCo×よしひろまさみち が語る 「TBSドキュメンタリー映画祭2026」特集
開局以来、ドキュメンタリーに力を注いできたTBSが“テレビで伝えきれない事実や想い”を発信すべく立ち上げ、今年で第6回目の開催となる「TBSドキュメンタリー映画祭2026」が3月13日(金)より6都市にて順次開催される。
今年は、表現者たちを通して新たな感性に出会う「カルチャー・セレクション」、多様な生き方や新たな価値観を見つめる「ライフ・セレクション」、現代を取り巻く重要な社会問題に迫る「ソーシャル・セレクション」という3つのテーマのもと、全16作品がラインナップ。本特集では同映画祭のアンバサダーを務めるLiLiCoさんと映画ライターのよしひろまさみちさんとの対談が実現! 上映作品をコンプリートしているふたりに本映画祭の魅力をたっぷり語って頂きました。
ドキュメンタリー初心者向けから重量級作品まで
TBSが放つ衝撃作の数々をLiLiCo×よしひろまさみちが語り尽くす!
よしひろ TBSドキュメンタリー映画祭のアンバサダー、またまたご就任おめでとうございます。
LiLiCo ありがとうー! 先日記者発表のイベントがあったんだけど、監督がみんなガッチガチに緊張してて。みんなTBSのやり手ディレクターなのに、ちょっと言葉に詰まったりしてて(笑)。人前で時間内で必要なことを過不足なく伝えるって、やっぱり難しいんだなってあらためて思いました。
よしひろ 姐さん含めて、タレントさんたちが普段やっていることを、逆に監督たちがやる立場ですからね(笑)。でもあのプレゼンを聞いてるだけでもすごく興味が湧きました。ちなみにこのアンバサダー、何度目でしたっけ?
LiLiCo 5回目かな。第2回からやらせていただいているので。
よしひろ 毎回監督も作風も違う映画祭なので、映画祭で一番のベテランになりますね。
LiLiCo そうなるのかな(笑)。ヨッシーは元々このシリーズが好きで観てるのよね?
よしひろ そうなんですよ。多くのタイトルはTBSで深夜帯に放映しているドキュメンタリー『解放区』で放映されてまして。その番組自体ずっと拝見していて好きなんですが、この映画祭が始まってからは映画祭用の拡大版も観られるので2度おいしいんですよね。
LiLiCo 今回は16作品あるけど、ほんとどれも素晴らしいよね。毎年ベストだって思っているけど、今年はそのベストをまた更新してる。私が知らない分野がテーマでも、観ているうちにものすごく興味を抱くようになっていくんだよね。
よしひろ 今回は「CULTURE」、「LIFE」、「SOCIAL」の3つのテーマに区切って、各テーマ4〜7作の構成です。たとえばどの作品が心に残ってますか?
LiLiCo 一番泣いた作品は『バース・デイ劇場版「余命1年のシングルマザー~天才相撲少年への遺言~」』。
【ライフ・セレクション】
『バース・デイ劇場版「余命1年のシングルマザー~天才相撲少年への遺言~」』
よしひろ 強烈でしたね。元々はアスリートを取り上げるスポーツ・ドキュメンタリー枠の『バース・デイ』から派生した密着映像。
LiLiCo タイトルのとおり、1年の余命宣告をされたシングルマザーが、少年相撲のチャンピオンから角界を目指す息子を支え続けるっていうストーリーなんだけど、まずよくぞ密着してくれた、と思いました。お母さん、ものすごく弱っていく中、無事に相撲部屋に入った息子にも会いに行ってるシーンも収めているんです。カメラをよく許してくださったし、命の儚さ、母の強さ、親子の絆を見事に捉えた映像になっていると思います。
よしひろ 弱っていくことは分かっていたのに、全部を収めさせた彼女の強さですよね。だって、冒頭、医師から余命宣告されたときに「どれくらい生きたいですか?」と聞かれたときの答えが「いやー、いつごろはお祝いごとが多いから……」ってお祝いのことを考えてるじゃないですか。本当に強い。
LiLiCo そうなのよ。ずっと具合が悪いのに、たったひとりの親だからこそ、可能な限りずっとそばにいて応援しているお母さん。一瞬、この方死なないんじゃないかな、って思ったくらいだもん。それだけのお母さんを持った息子だからこそ、絶対に強くなって横綱になってほしいし、道を踏み外したらタダじゃ置かないよ! って陰ながら応援したくなりました。むしろここから先のストーリーもカメラで追っかけてるんじゃないかな……。もうひとつできると思う。
よしひろ たしかに。彼が昇進するタイミングまでカメラが追っかけてほしいですよね。できれば横綱。
LiLiCo ほんっとそう。
監督と話していてすごく面白いと思ったのは、彼らはタレントじゃないけど、カメラが回るとみんな役者になるっていうこと。カメラを意識してるわけではないんだけど、フレームに入ると役者になるんだって。
芝居を超えた“役者のような輝き”を放つ衝撃作
よしひろ そう考えると、『ラヴィット!』でおなじみの田村真子アナウンサーが能登にうかがう『田村真子 のと鉄道 明日へ向かう旅』は、普段撮られ慣れている田村さんはもちろんですが、輪島で再会する被災者の方々とか、みなさんご自身の言葉で説得力を持たせていて。芝居はしていないけど、役者のような輝きを放つんですよね。
【カルチャー・セレクション】
『田村真子 のと鉄道 明日へ向かう旅』
LiLiCo セリフじゃないんだよね。ご自身の言葉。その点で言うと、『やまない衝動―死ねない難病に挑むテレビマンの記録―』も、テレビの中の人である増山賢ディレクターが自身に対してカメラを回すことで、どんどん変わっていってるの。
【ライフ・セレクション】
『やまない衝動―死ねない難病に挑むテレビマンの記録―』
よしひろ 増山さん、『王様のブランチ』のディレクターをされてたんですよね?
LiLiCo そうなのよ。会見のときに聞いたんだけど、私がブランチにキャスティングされるタイミングでディレクターをしていたんですって。で「僕はあのときにLiLiCoさんをキャスティングすべきだ、と手を上げました。今はもう(病気の症状のため)手を上げられない人になったけど」っておっしゃってね……。
彼がこの作品を撮り始めた冒頭は独白のスタイルだったけど、次第にスタッフの助けを得て撮影を進めてるじゃない? そこからは彼も役者になってるんだよね。セリフではないけど、言葉に力が宿り始めるの。
よしひろ パーキンソン病がどういう病気なのか、という、当事者の言葉で分かりやすく紹介してるのが素晴らしかった。実際のところ、からだの自由がきかなくなる、ってことくらいしか分からない人が多いと思うけど、これを観ると「あぁ、そういうことか」って思いましたもの。
LiLiCo マイケル・J・フォックスをはじめ、有名な方々も苦しまれている病気だけど、手の震えや歩けなくなるっていう代表的な症状くらいしか分からなかった。けど、増山さん自身の言葉と、当事者たちのインタビューですごく分かりやすくなってますよね。
よしひろ 構成台本を書けなくなる、とか、編集を自分でできなくなる、とか。テレビマンにとっては自信を失いそうな症状が出るけど、とにかく前向きなんですよね。
LiLiCo 死なない難病じゃなくて死ねない難病っておっしゃるのがよく分かりましたし、すごく考えさせられますよね。お子さんがまだ小さいから、子どもたちに見せる笑顔を失いたくない、っていうのもすごく共感しますし。それに、増山さんは記者会見のときもずっとカメラ回してたんだよね。次の段階も映像に残すつもりなんだと思う。それがまた、この映画祭らしいなと思ってます。
LiLiCo 自分の思い出とリンクしてしまったのが『鈴木順子「私は生きる」脱線事故20年、記憶の軌跡』。福知山線の脱線事故のニュースははっきり覚えていたこともあって、考えさせられました。あの脱線した列車の映像、ありえない角度だったじゃない。事故の数カ月後に『バットマン ビギンズ』が公開になったとき、電車が脱線するシーンがあるからって注意喚起がされたのよ。それも含めてうわーっと思い出しちゃって。
【ライフ・セレクション】
『鈴木順子「私は生きる」脱線事故20年、記憶の軌跡』
よしひろ ラストの方にありましたね。災害や事故で映画の鑑賞に注意喚起が入ったのは異例のことでした。
LiLiCo しかも、鈴木順子さん、よくぞあの状況から回復なさった。お医者さんですら諦めるような状態から、陶芸の展覧会を開くことができるようになるって、こんな奇跡はない。よくぞ映像で残してくれたと思います。ヨッシーが気になった作品はどれ?
よしひろ テレビ放映版も拝見してガツンとやられちゃってたのが、『War Bride2 奈緒と4人の戦争花嫁』。あらためて観てすごかった。前作の桂子ハーンさんも登場されますが、彼女をモデルにした舞台で主演された奈緒さんが、全体のナビゲーター役を務めている分かりやすさ、それにあと3人、戦後アメリカに渡った女性たちの取材ができたことで、“戦争花嫁”といっても人によって全くいきさつが違うことが描かれているのは素晴らしい追加取材だと思いました。
【ライフ・セレクション】
『War Bride2 奈緒と4人の戦争花嫁』
LiLiCo 戦争花嫁っていう呼び方のイメージも、お話を伺う4人それぞれに違ってて、ひとつの言葉ではくくることができないんですよね。すごく印象深いのは、恵子・ジョンソンさん。ものすごく苦労されて帰国した方が楽になると思いつつも、褐色の肌の子どもたちを当時の日本に連れて行ったらいったいどんな差別をされるかってことで悩まれて、孤軍奮闘されていた。私もスウェーデンと日本のハーフだし、日本に移住した当初は、祖母ですら差別用語バリバリに言ってたくらいだから、恵子さんの気持ちは痛いほどよく分かるの。
よしひろ しかもその理由が、夫がゲイで結婚生活から勝手に逃げ出したってこと。もうほんっとひどい話だし、何年も文通で温めてきた時間はなんだったんだ、って思うじゃないですか。ただ、あの当時のアメリカの同性愛者だったらあるわー、とも思ったり。
LiLiCo あれはマジで許せなかった。あんなのアリ?
よしひろ 当時、そういう人、アメリカ人に限らず世界中に多かったはずですよ。カミングアウトして契約的な結婚で世間体を保つ人もいたし、恵子さんの夫のように「結婚したらもしかしたら治るかも」なんて間違った考えで人の人生振り回す人もいましたし。でもすごいな、って思ったのは、恵子さんが彼のことを恨むでもなく「(同性愛を)変えることはできないんだから」って理解してること。いやー、御年90の方からその言葉をいただけるとは思わなかった。
LiLiCo しかもさ。みなさん90代だけど、すっごい元気じゃない。記憶もしゃべりもはっきりしていて、おまけにマリコ・スパックさんにいたっては3回目の結婚をしたって。
よしひろ それを「神様の思し召しだから」ってさらって言えちゃう強さ。あの方々を観ていると、「若さこそ宝」みたいな価値観でいる人たちが本当に安っぽく見えてくるもの。日本でもアメリカでもとてつもない苦労をされてきてるのに、めちゃくちゃ前向き。
LiLiCo マリコさんおっしゃってたじゃない。どうしてもつらくて帰国したいって思ってたときに、お母様から「辛抱した木には花が咲く」って言われて考えを変えたって。それをサラッと言えちゃうのもすごいですし、子どもたちが母親をリスペクトしているのも納得なのよね。
ドキュメンタリー初心者おススメ作品も! どれを観るか迷ったら「どこか身近なところから入ってもらいたい」
よしひろ そういえばですが、今回のラインナップは芸能界が舞台のものが少ないですよね。『THE LAST PIECE -Glow of Stars-』と『野島伸司 いぬ派だけどねこを飼う』くらい?
【カルチャー・セレクション】
『THE LAST PIECE -Glow of Stars-』
【カルチャー・セレクション】
『野島伸司 いぬ派だけどねこを飼う』
LiLiCo そうなのよね。これがまた不思議でさ。私がこの仕事を引き受けた当時は、芸能界が舞台になっているものの方が刺さったし見やすいと思っていたのね。でも、次第に自分が全く知らない世界を見せてくれるのがドキュメンタリーの良さだって気づくようになってからは、変わってったのよ。今回のラインナップだと、芸能界を舞台にしたこの2作はドキュメンタリー慣れしていない方への入口として観てもらいたいな、って思ってます。
よしひろ 分かる! しかも野島伸司さん、よくこのカメラの密着にOKしましたよね。
LiLiCo そうなの。全然メディアには出てこない人だからすごく貴重だし、異次元レベルで若々しくてびっくり。
よしひろ 若い頃からかっこいい硬派だったって、同級生が暴露してましたよね。
LiLiCo 若い頃のお写真もすごかった。けど、なんせあの人が現役の第一線に居続ける理由が分かったのが、妙なフェロモン。人を引き付ける魅力があるのよね。あとね、インタビューが全部居酒屋さんだったのも、リラックスしていてよかった。彼の考えに共感したのは、トラウマのところね。物語を作るときにみんなトラウマを入れたがるけど、そもそも大人になってからそれを考える時間がもったいないし、別のことを描く、っておっしゃるじゃない。あれはすごくよく分かる。
よしひろ そうそう。彼が脚本を担当したものを振り返ると全部そうなんですよね。過去のトラウマじゃなくて、そのときどきの刹那を生きている人たちの物語ばかりなんですよ。
LiLiCo あと、STARGLOWは文句なくよかった。だって、SKY-HIのすごさが分かるし、今の芸能の仕事のやり方まで描かれちゃってるから。それこそ私にとって一番身近な世界の作品だったし、5年前だったらこの作品を真っ先に観てたと思う。
よしひろ 私が身近だったのは『共に、世界一へ デフサッカー日本代表への軌跡』。デフサッカー日本代表キャプテンの松元選手の奥様とお会いしたことがありまして。
【ライフ・セレクション】
『共に、世界一へ デフサッカー日本代表への軌跡』
LiLiCo 私もこの作品はすごく身近なのよ。東京デフリンピックを昨年観に行っていたんだけど、デフサッカーの人気ってすごいじゃない。観客の多さにびっくりしたのよね。
よしひろ あれ、姐さん、手話できるんですか?
LiLiCo 手作り手話よ(笑)。自己紹介程度は覚えたんだけど、あとは見様見真似。口の動きも見てくださるから伝わるのよね。むしろ、伝えようという気持ちでしゃべることが大事。
よしひろ 分かる~。私も自己紹介程度しかできないけど、これを観てもうちょっと勉強しようと思った。
LiLiCo 呆れてものが言えなくなったのがひとつ。『劇場版 盗るな撮れ~罪と少年とケーブルTV~』。
【ライフ・セレクション】
『劇場版 盗るな撮れ~罪と少年とケーブルTV~』
よしひろ あれはもう……すごいものを見せられました。よくできているし、素材そのままなんですよね。
LiLiCo 悪いことをしている自覚はあるみたいだけど、これはもう……。救いがたい。でもこういう人もいるってことは知らないといけないし、救いの手を差し伸べた人たちの苦労や傷も知るべき。
よしひろ クレプトマニア(窃盗症)とかありますけど、盗癖というよりも依存症や病気だということもありうるので、適切な治療などをすることで変わることはできるかもしれないんですけどね。いきなり職場のOJTに入れてしまったのがまずかった。
LiLiCo ちょっとそこの撮り方が演出に見えてしまうのも、狙いなのかたまたまなのか。私がディレクターであのような画が撮れたとしてもカットしちゃうと思う。
よしひろ ただ、分かりやすいんですよね。
LiLiCo そう。その点でいえば、芸能界ものと似た分かりやすさ、それでいて社会問題をきっちり出してきているから、ドキュメンタリー初心者には入口になるよね。
こういうふうに考えると、20年前の私だったらスルーしちゃっていた作品に、めちゃくちゃ目が行くようになったんだよね。たとえば『死刑宣告の女性弁護士 アフガンからの脱出』や『強制沈黙~殺される記者たち~』、『ある日、家族が死刑囚になってー』あたり。すごく重量級の作品だから、観る人は選ぶかもしれないけど、絶対に響く。しかもこの3作は死が隣り合わせという背景を、全然違う国・角度から捉えているから、表裏一体の作品だなって感じてます。
【ソーシャル・セレクション】
『死刑宣告の女性弁護士 アフガンからの脱出』
【ソーシャル・セレクション】
『強制沈黙~殺される記者たち~』
【ソーシャル・セレクション】
『ある日、家族が死刑囚になってー』
よしひろ 表裏一体でいえば『受忍の国 報道1930劇場版』と『特攻の海 ~3Dが語る80年目の真実~』、『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』と『やまない症動 ー死ねない難病に挑むテレビマンの記録ー』の組み合わせもそうかな。セットで観てもらいたい。ほんと、こういう硬派な作品はTBSならではだなーって思っちゃう。長いことTBSドキュメンタリーを追っかけてるもので、『報道特集』のいちコーナーが『解放区』で長尺版になったり、と掘り下げる術をめちゃ持っているって分かるから。
【ソーシャル・セレクション】
『受忍の国 報道1930劇場版』
【ソーシャル・セレクション】
『特攻の海 ~3Dが語る80年目の真実~』
【ライフ・セレクション】
『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』
LiLiCo 『ある日、家族が死刑囚になって』なんて、加害者側だけでなく、被害者側までインタビュー撮れてますもんね。どうやって交渉したんだ、って思うくらい。あ、あと『ブルーインパルスの空へ』は、すごく注目されている作品なんですって。
【カルチャー・セレクション】
『ブルーインパルスの空へ』
よしひろ あ、それも納得。
LiLiCo え、そう? 私は意外だった。というか、ブルーインパルスがそこまで人気あるって知らなかった(笑)。
よしひろ 空自の顔ですし、自衛隊の平和事業の顔でもありますから。
LiLiCo だからなのか。五輪のとき、仕事中に友だちからめちゃくちゃ写真が送られてきたの(笑)。
よしひろ 分かる分かる(笑)。日本人は子どもの頃からブルーインパルス=かっこいいって刷り込まれてますから。しかも、空自のエリートしかなれないんですよ、あれ。
LiLiCo でもさ、このドキュメンタリーの中ではめちゃくちゃ普通の人としての側面が描かれてるじゃない。そういう人間臭いところは好きだったな~。
よしひろ いずれにしても、どこか身近なところから入ってもらいたいですよね。コンプしないでもいい……けど、コンプしたくなるはずなので。

