“60代の女殺し屋”演じる花總まり、その飽くなきチャレンジ精神 『破果(パグァ)』ゲネプロレポート
ステージ
ニュース
花總まり
続きを読むフォトギャラリー(8件)
すべて見るク・ビョンモによる同名小説をミュージカル化した『破果(パグァ)』が3月7日から、東京・新国立劇場で上演中だ。本稿では開幕に先がけ、公開されたゲネプロの模様をお届け。主演を務める花總まりが、全身全霊で“60代の女殺し屋”を演じるその飽くなきチャンレジ精神が心に響き続ける上演時間135分だった。
超一流の暗殺者として人生を歩んできた爪角(読み:チョガク)は、身体の衰えから引退を決意。そんな彼女の前に、同業者である青年トウが立ちはだかる。トウは幼い頃に、自分の家族を殺した爪角に復讐を果たそうとしていたのだ。命あるものの温もりに目覚めたとき、彼女の“人生最後の死闘”が幕を開ける。

物語の幕開けは、幼少期のトウが家族を暗殺した爪角に復讐を誓うと同時に、死の香りを漂わせる爪角の美しさに惹かれていくモノローグだ。去り際に「忘れて」と言い残す爪角だが、その存在感は決して忘れられるものではなく、トウの脳裏に刻まれとともに、観客の心を鷲づかみにする。成長したトウを演じる浦井健治の豊かな感情表現も見応えたっぷりだ。

プロの殺し屋が“防疫業者”として暗躍しビジネスが成立するという世界観は、ともすれば荒唐無稽に思えてしまうが、力強いミュージカルシーンで畳みかけることでグイグイと客席を巻き込み、そこにダイナミックな舞台転換、緻密な映像演出が絡み合い、確かなリアリティを感じさせるのも本作の大きな魅力。近年、次々と話題作を輩出している韓国発ミュージカルの挑戦的なクリエイティビティを堪能してほしい。
また、老いた爪角と血気盛んなトウが攻防戦を繰り広げる【現代】、若き日の爪角と彼女を殺し屋の世界に引き寄せる“師匠”にして初恋相手のリュウの物語を描く【過去】が、ひとつの舞台上で見事に交差する演出は映像的でもあり、入り組んだ時系列もすんなり理解できるはずだ。
映像的といえば、劇中で繰り広げられるガンアクションも大きな見せ場。スピード感と重厚感は、キアヌ・リーヴス主演のアクション映画『ジョン・ウィック』も顔負けだ。そして、その中心で躍動するのが爪角を演じる花總。本作で本格的なアクションに初挑戦している花總は、華麗な身のこなしに加えて、観客にも痛みが伝わる生々しい芝居で、冷酷な殺し屋の世界を表現してみせている。

何より挑戦的なのは、60代を迎えた老殺し屋という異色のキャラクターに他ならないが、花總は、喜怒哀楽とは無縁の孤独な人生と決別し、他人の痛みを感じ、誰かの温もりを求める爪角の成熟を客席に届けている。過去には『エリザベート』で少女時代から晩年までを見事に演じ抜いた花總だが、ここではさらに一歩先を行く圧巻の演技を披露。俳優として“挑み続ける”決意表明にも受け取れ、心が震えた。
先述したトウ役の浦井をはじめ、共演陣も素晴らしいパフォーマンスを発揮。“防疫業者”の元締の組織、エージェンシーゼロの要職・ユンを演じる中山優馬は、物語のガイド役として観客を誘う。数々のミュージカル出演で、頭角を現す熊谷彩春は、若き爪角を演じ、善悪や正邪の境目で揺れ動きながら、生きる道を模索する姿を好演。花總とのコントラストを際立たせ、爪角をより立体的にしている。


そして、爪角を殺し屋の世界に導き、プロに育て上げるリュウ、そして現代で爪角の心をほぐす医師のカン博士という二役を武田真治が勤めている。正反対だが、どちらも爪角に強い影響を与えるキャラクター。その演じ分けも見どころだ。

タイトルの『破果(パグァ)』とは、朽ちていく果実を指すのだという。罪と歳月を重ね、引退を決意する殺し屋の悲哀を描く本作だが、トウの挑戦を止めたい花總の姿勢が主軸となり、斬新な設定や、それを具現化するさまざまな仕掛けもとてもフレッシュに感じられる仕上がりだった。国内のミュージカル業界にも、鮮烈な印象を与えることは必至なだけに、ぜひその目、その耳で『破果(パグァ)』を直接体験してほしい。

取材・文:内田涼
<公演情報>
ミュージカル『破果(パグァ)』
翻訳・訳詞:高橋亜子
演出:一色隆司
音楽:甲斐正人
出演:花總まり 浦井健治 中山優馬 熊谷彩春 武田真治 ほか
【東京公演】
2026年3月7日(土)〜22日(日)
会場:新国立劇場 中劇場
【大阪公演】
2026年3月27日(金)〜29日(日)
会場:梅田芸術劇場 メインホール
【福岡公演】
2026年4月4日(土)・5日(日)
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/musical-pagwa/
公式サイト:
https://musical-pagwa.jp/
フォトギャラリー(8件)
すべて見る
