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マレーシアが生んだピアニスト、ヴィンセント・オン 音楽そのものを雄弁に語らせる

クラシック

インタビュー

チケットぴあ

©K. Szlęzak/NIFC

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ショパン国際ピアノコンクールは、1927年に第1回が開催されて以来、100年近くにわたり優れたピアニストを輩出してきた音楽コンクールである。5年に一度開催され、ショパンの音楽に込められた永遠のメッセージを次世代へと受け継ぐこの催しは、若手ピアニストにとって最大の登竜門として知られている。これまでにポリーニ、アルゲリッチ、ツィメルマン、ブレハッチ、チョ・ソンジンなど名だたるスターを生み出してきたステージであり、世界中のピアニストたちの憧れの舞台である。

2025年の秋、第19回のこのコンクールで、またひとり新たな才能が注目された。マレーシア人史上初の入賞(第5位)に輝いたヴィンセント・オンである。このコンクールは第1次予選から第3次予選、そしてファイナル・ステージまで、およそ3週間の長期にわたって行われるが、オンはその間に、心境の変化があったと振り返る。

「第1次予選は極度に緊張しました。そして演奏後にはネット上の厳しい意見が目に入り、思いのほか心にダメージを負ってしまった。でもそこで気づいたのは、自分の中に肥大化したエゴがあるということでした。自分は素晴らしいピアニストだ、それを見せてやる、というプライドがあるから、批判に傷ついてしまう。ですから、第2次予選のステージに上がる前、私はその“エゴ”をバックステージに置いていこうと決めました。英雄ポロネーズと前奏曲全曲を弾いている間、“音楽そのものに語らせている”感覚がありました。自分が誰であるかは関係ない。ただ、この素晴らしい音楽を聴いてほしい、という感覚です。それがストレスやプレッシャーを乗り越える助けになりました」

ワルシャワのコンクール会場「フィルハーモニー・コンサートホール」で、オンはシゲル・カワイのピアノから深く温かみのある響きを引き出し、光と影のコントラスト豊かにショパン作品を奏でた。あの豊潤で美しい音色、おおらかな表現力を、オンはどのように獲得したのだろうか。

「意図的に追い求めることもありますが、自然さを保つようにしています。作品の構造を理解し、大きな流れのプランは立てますが、細やかな表現については、その場で即興的に判断します。計画性と即興性とが混ざり合い、その境界が溶け合うことが理想です。練習室でやったことをただ再現するだけでは不十分で、その瞬間、その会場、その聴衆、その時の自分の思い、全てとコミュニケーションを図りながら、その時限りの音楽を生み出すことを大切にしています」

©W. Grzędziński/NIFC

オンは、マレー・中国・インドの文化が交差する多民族都市ペナン出身。4歳の時に、兄の影響で家にあったキーボードに触れ、音楽の楽しさに目覚めたという。1〜2ヶ月に1度、名教師ン・チョンリム氏の住むクアラルンプールまで通い、レッスンを受けた。東京〜名古屋間ほどの距離を通い続けることができたのは、オンにとって「音楽は唯一没頭できるもの」であり、恩師への尊敬があったからだ。

「一度のレッスンは長く、『次はこれと、これと、この曲を勉強してきて』とたくさんの宿題を出されました。そのおかげで、短時間でレパートリーを習得する能力が身につきました。経験豊富な先生からは演奏技術だけでなく、コンサートホールでの音の鳴らし方など、実践的なスキルを多く学びました。そして何より、先生の純粋な心と、社会福祉活動にも携わる献身的な姿勢には、人間として大きな影響を受けています」

今はまだ「キャリアの大きな転換期にあり、学びのプロセスにいる」と、自身の現在地を捉えているオン。

「数年後の自分さえ想像がつかないのが正直なところです。古典派のレパートリーのほか、ラフマニノフやプロコフィエフ、バルトークにも探求したい作品が数多くあります」

そう静かに、しかし熱意のある声で語ってくれた。

7月のリサイタルでは、ショパン・コンクールで「音楽そのものに語らせる」ことに成功したという「24のプレリュード」、そしてこのインタビューでも言及したプロコフィエフやバルトークの作品がさっそくプログラミングされている。歌心に富むオンの演奏で聴くメンデルスゾーンの「無言歌集」や、古典派のハイドンの音楽作りにも注目だ。変わりゆくヴィンセント・オンの音楽を、これからも追い続けたい。

取材・文:飯田 有抄

ヴィンセント・オン ピアノ・リサイタル

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2665104

7月13日(月) 19:00開演
7月14日(火) 19:00開演
東京オペラシティ コンサートホール (東京都)

7月16日(木) 19:00開演
ザ・シンフォニーホール (大阪府)

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