悩める男、森田剛の新たなるハマり役。舞台『砂の女』が開幕
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舞台『砂の女』ゲネプロより (撮影:加藤孝)
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すべて見る安部公房の代表作のひとつで、勅使河原宏監督の映画によって世界的にも人気の高い『砂の女』。この傑作を劇団「ピンク・リバティ」の山西竜矢の脚本・演出で舞台化、森田剛が主人公の男・仁木順平を演じる。そこで3月19日の開幕前に行われた、マスコミ向けの公開ゲネプロの模様をレポートする。
趣味である昆虫採集のため、休暇を取り、海際の砂丘へとやって来た教師の男・仁木順平。そこには今にも砂に埋もれてしまいそうな、一風変わった村があった。帰りのバスがすでにないと知らされた男は、村に住む老人のすすめで、ひと晩だけ村の世話になることに。そして老人に連れられて来たのは、砂の穴の中にある貧しい一軒家。そこにはひとりの女がいて……。


まず舞台上に登場するのは、4人の“人影たち”。彼らによってこれから登場する男がどんな人物なのか、そして彼が踏み入れた村がどんな場所なのかが語られていく。そこに漂うのは、なんとも不穏な空気。彼の身にこれからふりかかる惨事を、まるで予感させるようだ。そして男が客席から現れる。人影たちとは全く異なり、その足取りは軽く、生命力に溢れている。だがしばらくすると、人影たちもいつの間にか男のいる客席へ。二者の空間が混ざり合ったことで、男がこれまでとは違う場所に、知らぬ間に迷い込んでしまったことを示唆する。

帰路の足を失い、村で一泊することになった男だが、彼の中でちょっとした違和感が少しずつ蓄積されていくことになる。妙に親切な村人たち。砂の中でひとり暮らしをする女。傘をさしながらの食事。そしてものを腐らせていく砂……。砂に詳しい男にとって、砂は“清潔の代名詞”であり、決してなにかを腐らせるようなものではない。しかしこの村では確かに砂がものを腐らせ、さらに生きる上での脅威として存在する。男にとっての常識が、ここでは全く通用しなくなっているのだ。


そしてそれを決定づけるのが、男が砂の穴の中に閉じ込められたと気づいた時。大の大人が、理不尽に監禁される。この状況がいかに異常であるかを訴えたところで、それはあくまで村の外の世界、自分がこれまで生きてきた世界での常識であると男は思い知らされる。多少悪びれてはいるものの、女の態度には「しょうがないじゃない」といった想いが見え隠れし、村人たちもこの状況をニヤニヤと遠目に眺めるだけ。そうして男はどんどん追い詰められていく。

森田剛というのは、そんなヒリヒリとした状況に置かれることでより輝きを増す稀有な俳優だ。『砂の女』の男が、『金閣寺』の溝口や前作『ヴォイツェック』以上にハマり役ではないかと予想していたが、やはりその期待が裏切られることはなかった。時に笑いを誘うような軽やかさを見せる一方、抑圧された逃げ場のない状況に怒りを爆発させる。そこに森田自身の不器用さのようなものが加わることで、男という役に一気に血が通い始めるのだ。


だが今回は森田ひとりが役を形作っているわけではない、というのがまた面白い。大石将弘、東野良平、永島敬三、福田転球という小劇場出身の個性派にして技巧派が、人影たちとして、男の内なる声を次々と代弁していく。
すると男はより立体的なものに。演出の山西のアイデアが光る、まさに演劇ならではのアプローチであった。

そしてやはり、最も強い印象を残すのは女だろう。というのも映画版で女を演じた、岸田今日子がとにかくすごかったのだ。妖しく、なまめかしく、怖い。映画『砂の女』について語る際、ファンの多くがまずは岸田の名前を挙げるのも納得である。それだけに今回女を演じた、藤間爽子のプレッシャーは相当なものだったはず。だが藤間が見せる女は、いい意味でこちらの期待を裏切ってきた。いたずらっぽい、かわいらしい一面もあるが、どこか達観しても見える。彼女から滲み出るこの生活に対する諦めが、そんなふうに思わせるのかもしれない。

男と女、それぞれ違う“絶望”を抱えながら、砂の家での暮らしは続いていく。だがそんな中でふたりが見出したのは、またもそれぞれ違う“希望”。その結果は――。ぜひ劇場でご確認いただきたい。

取材・文:野上瑠美子 撮影:加藤孝
<公演情報>
『砂の女』

脚本・演出:山西竜矢
原作:『砂の女』安部公房
Abe Kobo Official through Japan UNI Agency, INC
(C)1962 安部公房
出演:
森田剛 藤間爽子 大石将弘 東野良平 永島敬三 福田転球
【東京公演】
2026年3月19日(木)~4月5日(日)
会場:紀伊國屋ホール
【仙台公演】
2026年4月8日(水)
会場:電カホール
【青森公演】
2026年4月11日(土)
会場:SG GROUP ホールはちのへ(八戸市公会堂)
【大阪公演】
2026年4月18日(土)~20日(月)
会場:森ノ宮ピロティホール
関連リンク
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/sunanoonna/
公式サイト:
https://stageoffical.com/sunanoonna/
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